第80話 ドラゴンvsガーディアン
短めの仕上がりになってます、すみません。
IFVは、装輪式の装甲車と違い、速度は出せない。
なので必然的に、車列は俺達が乗るIFVに乗る速度に合わせて進軍する。
いくら戦車に随伴出来る速力を持ち、70km/h近く出す事が可能で、不整地走破性が高いとはいえ、長距離でそんな速度を出していたら燃費の悪いディーゼルエンジンの装軌式の車輌ではあっという間に燃料が無くなってしまう。
「……この辺り不便だな、装軌式の車輌ってのは……」
「まぁ仕方あるまい、現状この車輌が最も防御に優れているからな」
IFVの兵員室内でそんな事を話す俺とエリス。
揺れる車内に、第1分隊の8人が座っていた。もともとM2A3ブラッドレーは7人乗りだが、後部バスケットのすぐ後ろに1席増やしたのだ。
89式装甲戦闘車にも、同じ改修が施されている。
89式装甲戦闘車は本来、兵員室に搭乗出来る歩兵の数は6人だが、詰めれば完全武装の兵士でも8人は乗る事が出来るという。
なので、少し狭いがシートを8人掛けの物にし、兵員室自体も広めに再設計した。
装甲を削った訳でも車体を拡大させた訳でも無いので、大きさや装甲による防御力はそのまま、むしろ、銃眼を塞いで複合装甲を埋め込んだので防御力は高くなっているだろう。
俺達が乗っているM2A3ブラッドレーは、LAV-25A2と同じM242 25mmチェーンガンを搭載、BGM-71 TOW対戦車ミサイルの2連ランチャーを1基備えている。
そして兵員室に搭乗している全員が持っているのは、サーブ・ボフォース・ダイナミクス社のカールグスタフM3無反動砲だ。
自衛隊では、84mm無反動砲(B)と言う名前で採用されている上、自衛隊、米軍だけでなく各国で運用されている高性能な無反動砲だ。
全員HEAT751が装填されており、いざとなったら3.8kgの金属と炸薬の塊を340m/sで叩きつけるつもりだ。
だが、主力は俺達ではない。
主力を担うのは、前方を走るLAV-ATと16式機動戦闘車だ。
74式戦車と同じ砲弾を使う事が出来る16式機動戦闘車、74式戦車はHESHを使用可能なので、当然ながら16式機動戦闘車もHESHを使用出来る。
さて、何故今回の作戦でM1128ストライカーMGSやB1チェンタウロ、ERC-90など、諸外国の類似した車輌を装備せず、実戦経験のない自衛隊の車輛である16式機動戦闘車を選んだか?
理由は"砲"だ。
諸外国のそういった車輌では、"低圧砲"ないし"低反動砲"と呼ばれている砲を採用している事が多い。
105mmクラスの砲の反動は機関砲の比では無く、抑え込むのには40t程の重量が必要と言われているからだ。
そうして諸外国の装輪戦車では、コンパクトな車体に大口径の砲を搭載している。
ところが、16式機動戦闘車に搭載している砲は、なんとフル規格、ガチの"戦車砲"なのである。
違いは何と言っても砲の威力、初速だ。
低圧砲や低反動砲は、反動を抑えられる代わりに砲の威力、初速が低い傾向がある。
しかし16式機動戦闘車は、74式戦車の砲弾を流用する目的で、なんとフル規格の戦車砲を搭載してしまった。
強力な砲安定装置のおかげで、10式戦車の約半分、そして航空自衛隊の新型輸送機、C-2輸送機に2輌搭載可能と言う重量で105mm砲の反動を受け止める事が可能になった。
そして16式機動戦闘車は、何をトチ狂ったのか走りながらの射撃である"行進間射撃"、それも反動を受け止めるのが難しいと言われている横向きでの砲撃を可能にしてしまった。
また、新型の砲弾を採用し、第2世代のMBTまでであれば対等以上に戦う事が出来る……が、歩兵の支援が目的のこの車輌が、まさか正面切って堂々と対戦車戦闘に投入するつもりじゃないよな、陸自は……?
色々と日本の自慢の変態(褒め言葉)技術が盛り込まれているのが、この16式機動戦闘車なのである。
『こちら16MCV、1号車より全車へ、目標の町へはあと30分で到着する』
「やっとついたか……」
今回はM2A3ブラッドレーと89式装甲戦闘車の装軌式の車輌の速度に合わせて進軍している為、進軍速度が少し遅い。
前回3時間掛かった道のりは、休憩を増やして4時間半掛かった。またこの道のりを帰りに戻らなきゃいけないのか……とは思うが、仕方あるまい。
これはとっととトランスポーターの部隊を整備するべきだな……と言うかIFVを召喚した時点でやっておくべきだった……
『ハッチを開きます、到着しました』
M2A3ブラッドレーの車長、ランス・トンプソン中尉が車内からキャビンに通信を繋ぐ。
ハッチが開く、今日の天気は良い。
変則的に座るブラッドレーの兵員室から順番に第1分隊の歩兵が降車、もちろんカールグスタフM3を背負い、P90を持ってだ。
降車した後はIFVの左右に展開し、周囲を警戒。
「……クリア、か……」
周囲に魔物の姿は無い。
しかし、目の前に広がる光景は、些か信じ難いものだった。
威力偵察に行った部隊から報告があり、写真にも収められていた町______正確に言えば、町"だったもの"だ。
建物の様な形をしたまま燃え尽きた炭、雨の影響か、灰は色が濃くなり固まっていた。
ただ「町であった」痕跡が、そこにあるだけ。
「……酷えなこりゃ……」
ドラゴンはプライドが高いと聞く。
1度傷を付けた者の息の根を止めるまで絶対に許さないとも。
「……俺達が奴に傷を付けた代償……それがこれか……」
廃墟になった町を見回しながらそう呟く。
もしかしたら俺達が手を出すべき事では無かったのではとすら思ってしまうが、クロウから受けた依頼を放っぽり出し、人々が苦しむのをただ見ているガーディアンでは無い。
遠くから、ドラゴンの咆哮が聴こえる。どうやら暫くはこの辺りを狩場にして回っているらしい。
「航空隊、準備を」
『了解、タロン21、発進する』
「全員乗車!行くぞ!」
「了解!」
「了解!」
航空隊を呼び出し、俺達は再びIFVに乗り込む。
16式機動戦闘車は、ドラゴンの気を引いた別方向からの砲撃で仕留める算段なので、決戦場となる丘を大きく迂回する形となる。
さぁ、"決戦"だ、ドラゴン……!
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決戦場に選んだのは、この付近の丘だ。
市街地では遮蔽物が多いが、炎はミサイルや銃弾と違って流動的だ、炎に巻かれてやられる危険がある。
ドラゴンが現れる前に歩兵は降車し、窪地や段差になっているところにアンブッシュ、カールグスタフM3にHEAT751を装填して構える。
LAV-ATとM2A3ブラッドレー、89式装甲戦闘車はハルダウンしてドラゴンを待ち伏せる。
16式機動戦闘車はドラゴンが出て来たら一斉に攻撃を仕掛ける様に待機だ。
そして
『ドラゴンを確認、高度50mを飛行中』
ブラッドレーの車長、ランス・トンプソン中尉から通信だ。
ドラゴンは3000m程先を高度50m、対地速度100km程で飛行中の様で、よく見ると赤黒い鱗に包まれた巨体が悠々と飛んでいるのが見える。
「了解、射撃開始、撃ち落とせ」
『了解っ!』
交戦開始、IFVが機関砲を使ってまず地面に叩き落とす。
ダンダンダン!
M2A3ブラッドレーのM242 25mm機関砲がHEDP弾をバースト射撃する。
同様に、89式装甲戦闘車もエリコン35mm機関砲KDEが火を噴き、25mmを超える破壊力を持つ砲弾をバーストで吐き出していく。
炸薬弾が飛行中のドラゴンの鱗に命中し、ドラゴンが呻き声を上げた。
グルルォォォァァアアアア!!
砲撃を続けるIFVに気付き、高度を下げて着陸した。
ズシン、と大地を揺らして降り立つドラゴン、もう一度ドラゴンは咆哮する。
「全部隊、作戦開始!」
『了解!』
『了解!』
俺は作戦開始を無線に叫んだ、その直後。
バン!スバーーーーーーーーーーー!
LAV-ATの発射機から、BGM-71E TOW対戦車ミサイルが俺達歩兵の頭の上を通過して凄まじい速さでドラゴンに喰らいつく。
窪地にハルダウンしたLAV-ATからは、発射機しかほぼ見えない。
ドラゴン側からはほぼ確認出来ない状態で、まず2発が発射された。
命中、20kg以上はあるミサイルが200m/sという高速でドラゴンにぶち当たった。
ボディーブローのような物だ、あれだけの質量のものがあの速度で激突すれば、成形炸薬弾頭の効果が得られずともかなりの威力になる。
ドラゴンが再び呻く、ミサイルが飛んで来た方向を向いた、しかし、第2波は全く別の方向から来た。
別方向に展開していたLAV-ATがTOW2A対戦車ミサイルを発射、再びドラゴンに対戦車ミサイルを叩き込んだ。
第3射は一斉射撃だ、4輌のLAV-ATから一斉にTOW2A対戦車ミサイルが発射され、ドラゴンに殺到、1発も外す事なく命中した。
しかし、ドラゴンの鱗は貫通出来ない、報告通り、HEATのメタルジェットを鱗が拡散させてしまうようだ。
と、ここで、ドラゴンが動いた、羽を広げて飛び上がったのだ。
マズい、これでは上から、ハルダウンしたIFVとLAV-ATが丸見えだ。
全車が散開、全速力でドラゴンからの距離をとるが、所詮は地面を移動する車輌だ、空を飛ぶドラゴンの速度ではあっという間に追い付かれてしまうだろう。
そして、興奮したドラゴンが目をつけたのは______M2A3ブラッドレー。
「マズい……!逃げろ!」
無線に向かって叫ぶ、恐らく届いている筈だ。
ブラッドレーが全速力で走り、ドラゴンから離れるか、ドラゴンはあっという間に追い付いて、その鋭い爪のついた頑丈な前足で砲塔を掴んだ。
持ち上げようとしたが、30tを超える重量を持つM2A3ブラッドレーは持ち上がらない。
強く掴まれて機関砲が捻られ、妙な音を立てて曲がる。
そして、ドラゴンのブレスが、M2A3ブラッドレーに吹き掛けられる。
その炎の中から、ドンッ!という爆発音が聞こえた。