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第79話 ドラゴンを討て

基地にオスプレイとチヌークが着陸する、俺はそれを出迎えた。


エンジンを止めたチヌークからはクロウを含めた町人が沢山降りてきて、基地に残っていた第1分隊と第3分隊、基地警備隊が誘導を開始した。


宿舎の向こう側には芝地があり、底にテントを設営してある。

そのテント群が、避難してきた町人の仮住まいとなる。


そしてチヌークからは、負傷したセレナを抱えた健吾とリハルトに肩を貸しているカレンが降りてきた。


「大丈夫か?」


そう言いながら駆け寄ると、健吾がこちらに気付く。


「あぁ大翔か、2人とも骨折と擦過傷と打ち身だ。医務室に運ぶ」


「分かった」


俺はそう言うと航空機格納庫から司令部庁舎へと続く道にあるドアを先導しながら全部開けた。


「負傷者だ!道を開けろ!」


廊下をそう叫びながら進む、食堂の廊下を挟んで向かい側にある医務室に入ると、健吾はセレナを寝かせ、カレンもリハルトをベッドに横たえさせた。


既にオスプレイの中で適切な処置と治癒能力による治療は行っていたらしく、骨折と言ったものの内出血の後も治っており、打ち身によるアザと擦り傷があるくらいになっていた。


もっともこれくらいの傷なら、腕を吹っ飛ばされても治せる健吾の治癒能力の前には一瞬で治す事も可能だが、傷は治しても痛みがすぐ引く訳ではない。


健吾が手をかざし、治癒能力を発動させると、セレナの擦り傷やアザはみるみるうちに引いていく。


続いてリハルトも同じ様に治癒魔術を掛け、怪我を治療していく。


「健吾、後でブリーフィングだ。第2分隊と狙撃分隊からの報告を聞く」


「分かった」


俺達や保護した町人の心情を写すかの様に、空は暗く曇り、外からは雨の匂いがし始めた。



===========================



それから2時間後、LAV-25A2とピラーニャⅢ、それに乗っていた第2狙撃分隊と第2分隊も帰投した。


LAV-25A2の装甲には所々に焦げた跡があり、ドラゴンとの激闘を物語っている。


俺はそんな彼らを出迎えた、幸いにも第2分隊と第2狙撃分隊に負傷者は居なかった。


「お疲れのところ悪い、車輌を戻したら報告を纏めたいからブリーフィングルームに来てくれ」


「了解です」


LAV-25A2から降車したアンナ曹長に声を掛ける、俺的にドラゴンと追いかけっこをした直後に集合するのは少し申し訳ないと思うが、今はドラゴンに対抗する為に少しでも情報が欲しい。


兵員を下ろし、車輌格納庫へと向かっていくLAV-25A2とピラーニャⅢ。

第2分隊と第2狙撃分隊は外階段から2階ロッカールームに登っていく。


彼らが装備を解除している間に、俺もブリーフィングの準備を進めていく。

パソコンを準備し、隊の情報を共有出来る所にアクセス。


その間にも各部隊の部隊長が集まって来る。


各歩兵分隊と小隊長の健吾、そして作戦の総指揮を取る孝道と、情報部の隊長のナツ。


そして初登場の砲兵隊の隊長スカー・アンダーソン大尉。


基地警備隊隊長のルート・バッキンガム大尉。


タイヤ販売の会計科から独立させた事務科科長のジーナ・カロライナ准尉。


それから今回の主力監視部隊となった第2狙撃分隊、ニコル・スヴェンソン准尉の面々が集まった。


「さて、集まったな。今回ドラゴンに対する威力偵察を実施した結果を聞かせてほしい」


俺がそう言うと、主としてドラゴンと正面から戦ったメンバーから手が上がる。


まずはニコル・スヴェンソン准尉を指名した。

ニコルは立ち上がって、ドラゴンに対して戦った事を思い出しながら述べた。


「奴の鱗は硬く、7.62mmや12.7mmではまず間違いなく貫通しません。文字通り豆鉄砲以下です。25mmのAPDSですら弾かれる硬さでした」


M242 25mmチェーンガンのAPDSでも貫通出来ないのか……本当にMBT並みの(装甲)を持ってるんだな……


「その観点から一ついいでしょうか?」


手を挙げたのはアンナ、第2狙撃分隊の分隊長兼狙撃兵の彼女は、今回の偵察作戦では監視役を務めていた。


「ドラゴンの鱗は硬いですが、弾丸を弾くだけで、爆圧や衝撃は内部にまで届くのでは?と考えます」


「それは私もです」


そう言って手を挙げたのはガレント・シュライク、第2分隊の分隊長である。


「今回での交戦では、対戦車兵器を多数使用しました。そこで、結構な速度で命中したパンツァーファウストやAT-4CSなどに対しては、顔を背けるような仕草が見て取れました」


「なるほど……要は運動エネルギーをぶつければいいのか。……でも何でHEAT弾頭が貫通しないんだろう」


「その点に関してですが……あのドラゴンは"レッドドラゴン"という、ドラゴンとしては標準的な個体で、鱗は炎系攻撃に対する魔術耐性を持ちます、魔術系炎だけで無く、現代兵器にも対応している様です。」


詳しく聞いてみると、詳細が判明した。


要するに、レッドドラゴンは炎系の攻撃には強い。

レッドドラゴンの鱗で作った鎧は"炎の鎧"と呼ばれて高額で取引されており、炎系魔術の一切を無力化してしまう。


おそらく、3000〜4000度のメタルジェットも、鱗に触れて無力化されてしまう、という事か……正直驚いた。


ただ、メタルジェットは打ち消してしまうらしいが、爆圧によるダメージは入ると言う。


「なるほど……となるとやはりちょっと必要になる機材が変わってくるな。現状だと、とてもじゃないが無理だ」


俺がそう呟く、今のままでは完全に手詰まりだ。


「……あ」


「何だ?孝道」


何か思い付いた様な声を上げたのは孝道だった。


「いや……俺もこう言う組織にいる手前、やっぱり軍事とかに精通しなきゃかなと思って、ナツと一緒に調べてるんだよね……最近は何となく会話に出てくる弾薬の種類が分かるようになって来たけど……」


そう前置きをし、孝道は話し出す。


「調べてた弾薬の中で、HESH(ヘッシュ)ってのが気になったんだよね、粘着榴弾とも言うのか?」


HESH(粘着榴弾)


プラスチック製の外殻を持ち、中にたっぷりの高性能炸薬が詰まっている砲弾だ。


装甲板に命中した瞬間に表面に潰れるように拡がって爆発、その衝撃波によって装甲板の内側を剥離飛散させ、装甲車や戦車の中の乗員を殺傷すると言う砲弾である。


74式戦車やチャレンジャー2などのライフル砲を持った戦車からの発射に適しているらしく、自衛隊も装備していたとか。


なるほど……HESHか……


「それを使えば、良いんじゃないかな?あ、いやでもHESHを発射するプラットホームが無いか……」


孝道は自分で言った案を自分で否定したが、俺はそれを更に否定した。


「いや、孝道、そんな事は無いぞ。孝道の案を採用させてもらおう」


皆が一様に驚いた表情を浮かべる、そう、先程孝道が述べたように、ガーディアンの保有戦力にHESHを撃ち出せる兵器は無い。


「え、だからHESHが撃てないって……」


「撃てないなら、撃てるようにすれば良いんだ」


ブリーフィングルームが少しざわつく。


つまり……


「"召喚"を使う……軍拡だ」


事務科のジーナ准尉がポトリとボールペンを取り落す。

すまない、裏方には迷惑をかける、今度纏まった休暇を出すから許してくれ……


===========================


2日後。


避難してきた住人達も、たどたどしいながら生活の仕方を覚えて来た頃。

演習場では、新たな車輌が大地を踏みしめ、土煙を上げながら走り回っていた。


砲塔を持ち、その砲塔から雄々しく伸びる105mmライフル砲。

重量感のあるボディ、その割には機動力の高い足回り。





























その車輌の名前は"16式機動戦闘車"。日本製の105mmライフル砲を備えた、大型の最新装甲車である。


その16式機動戦闘車が4輌、1個小隊である。


それに加え、LAV-25A2のファミリーで、BGM-71 TOW対戦車ミサイルの発射機を搭載したLAV-ATが4輌、1個小隊分。


なぜHEATが効果が無いと分かっていても対戦車ミサイルを投入するか?


理由は運動エネルギーだ、ミサイルは当然だが高速で飛翔する。もちろんその速度は砲弾には及ばないものの、かなりの早さになる。


想像し難ければ、大体30kgくらいの米の袋が音速近い速度ですっ飛んでくる様なものだ。


しかも米の様な柔らかいものではなく、炸薬の詰まった金属筒となれば、例え外殻を貫通せずとも、命中した時の威力だけでもかなりの物になるだろう。


今回ダメージを与える主役では無いが、こちらも重要だ。


召喚してから今日まで2日という短い期間ではあったが、想定訓練はして来た。

相手は魔物という生物、我々の想像を超える事を平気でしでかすかも知れない。


それでもこの2日間で練度は上げるだけ上げた。不足は無い。


出撃前最後の調整を終えた4輌の16式機動戦闘車とLAV-ATが基地へと戻って補給作業を行う。


「大崎!」


「はい!」


俺は新しく召喚した兵士を呼ぶ。

16式機動戦闘車1号車の車長の大崎 誠、ガーディアンで使用しているマルチカム迷彩を身に纏っているが、彼は自衛官だ。


自衛隊が運用している兵器を召喚すると、その操作に必要な人間も自衛官となるらしい。


「ドラゴンとの戦闘だが……大丈夫か?」


「正直、不安な所もあります。我々はドラゴンと戦った事はありませんから。ただ、ヒロトさんから受けた命令ですので、上手くやってみせます」


……頼もしいな。


「信じるぞ、必ず生きて帰れ。ドラゴンを討つのも大事だが、それ以上にお前達の命の方が重い。無理だと思ったら必ず知らせ」


「ありがたいお言葉、感謝致します。それでは、補給の最終確認がありますので」


そう言うと踵を揃えた綺麗な敬礼を決め、自分の車輌へと戻って行く誠。


俺も敬礼で返し、自らの装備を整えに向かう。

俺達が今回使用する武器はプライマリ・ウェポンにP90、セカンダリにP226を。

効果が無いと知りながらも銃器を装備するのは、ドラゴン以外の魔物と遭遇した時に対処出来るようにだ。


「ドラゴンの対処に力を入れ過ぎてゴブリンに食い殺されました」では話にならない。


もちろんJPC2.0のポーチはP90の弾倉が入るように換装されているし、ドラゴンを攻撃する様に全員がカールグスタフM3を持っている。


クレイなど、特異魔術を利用して4本を同時に担いでいる。

ねぇそれ何てフ○ーダム?

ペアを組むブラックバーンはブラックバーンで予備の砲弾を大量に持っているし……


出撃するのは俺達第1分隊だけでは無い。

第3分隊も同じ装備で出撃する。


そして、16式機動戦闘車とLAV-AT、それにもう2種、出撃する新たに召喚した車輌がある。


それが俺達の背後からキュルキュルと地面を踏み締めながら向かって来た。


砲塔と装甲車より強力な装甲を持ち、履帯で地面を踏み締める鉄の塊。



























89式装甲戦闘車と、M2A3ブラッドレーである。


戦車だと思った?残念!IFVでした!


とは言え、IFVも機関砲と対戦車ミサイルを装備した、とても強力な車輌である。

このIFVは少し改造を施している。

89式装甲戦闘車の方は、銃眼(ガンポート)を複合装甲で塞いで埋めた。

そしてシートの全長を少し長くし、歩兵8人が乗れる様にした。


M2A3ブラッドレーも、同様の改修を施している。

座席を少々変則的に座る座席を少し詰め、1席分増やしたのだ。


ガーディアンは8人が1分隊の為、ガーディアンの装備するIFVは今後、この様な改修を行っていくつもりだ。


「さて、行くか……ん?」


IFVに乗り込もうとした時、少女が駆け寄ってきた。

クレイよりも幼いように見える少女である。


「お願い!私も連れて行って!」


駆け寄ってくるなり、少女はそう言った。


「バカな事を言うな、危険過ぎる、連れては行けない」


縋るように言う少女、その目には復讐の炎が宿って居た。


「私はドラゴンに両親を食い殺された!父と母は私を逃がすために……!仇を討ちたいの!お願い!」


両親への復讐……か。

だが、それでもダメだ。


「ダメだ、連れては行けない。基地で待っていてくれ」


何度もそう言うと、ようやく少女が折れた様で、諦めた様に言う。


「……分かった……でも、ドラゴンの首を取って、絶対帰って来てください……」


「……分かった、約束しよう」


少女はそう言うと、仮住まいとなっているテントの方に歩って行った。

俺達第1分隊は、M2A3ブラッドレーの方に乗り込む事になっている。


後部ハッチが開き、乗った者から奥へと詰め、少々複雑な座り方をする為順番に座っていく。

邪魔にならない様に、カールグスタフM3は脚の間に立てておくか、武装を乗せるラックに搭載する。


『こちら16(ヒトロク)MCV 1号車、出発準備良し!』


『こちらAT、準備良し』


『こちらブラッドレー、準備良し』


『こちら89(ハチキュー)FV、準備良し!』


『こちら管制塔、タロン2-1、離陸準備良し』


各部隊がそう準備を整え、車輌格納庫前の大通路に集合する。

飛行場の方も、準備は整った様だ。

俺は無線のチャンネルをオープンにし、作戦共通無線へと切り替える。


「これより"ドラゴン・ダウン"作戦を開始する、全部隊、状況開始!」


そう言うと、M2A3ブラッドレーのディーゼルエンジンは唸りを上げ、履帯でコンクリートを踏み締めて走り出した。


今回作戦に参加するのは、M2A3ブラッドレーと89式装甲戦闘車が1輌ずつ、16式機動戦闘車とLAV-ATが4輌ずつ、そしてAH-64Dが2機だ。


出発した車列は正門を出て、町へと向かって行った。


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