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第74話 公領定例会議

翌朝


余裕を持って起床した俺はブラックバーンを起こして顔を洗い、ガーディアンの制服に着替えて髪型を整える。


制服は紺を基調に、ズボンの外側部分には黒いラインが入っている。

ベルトの色は白とし、右腰の白く塗装したホルスターにP226を、同じく白いピストルマグポーチが左腰に2つ取り付けてある。


別室のエリス達はもう起きただろうか、そう思ってエリス達の部屋へ。

ドアをノックするとすぐに応答があった。


「エリス、起きてるか?」


『起きてるー』


「食堂で待ってるから、支度が終わったら来てくれ」


扉の向こうから「わかったー」と返答するエリスの声を聞き、自室に戻って必要なものを取り、ブラックバーンを連れて食堂へ向かった。


程なくしてエリス達3人も食堂へやって来る。


「おはよう、ヒロト」


「おはよう、よく眠れた?」


「あぁ、でも昨日は皆と話しててな、少し寝るのが遅くなってしまったから、まだ少し眠い……」


エリスはそう言って欠伸をする、欠伸をするエリスも可愛い。

朝食はチキンとレタス、トマトが挟んであるサンドウィッチだったが、結構美味かった。


食べ終わると部屋に戻り、荷物をまとめて時間になるまで待つ。

その間に俺はもう1つ持って来た荷物を取り出す。


AN/PRC-117G、バックパック式無線機だ。

これは長距離通信が可能な機種なので、司令部とも繋がる事が出来る。


折り畳み式の受話器を取り、周波数を合わせる。


「こちら大翔、司令部応答願う」


返答はすぐにあった。


『こちら司令部の孝道、おはよう大翔』


「おはよう、こっちは何事も無く公都に入って宿で1泊、時間になったら定例会議に出席する、オーバー」


『了解、滞り無く進んでる訳だな、そっちは頼んだ。オーバー』


「了解、アウト」


短く業務連絡を終えると、無線を切る。

腕時計を見ると、そろそろ宿を出る時間だ。


再び無線の回線を開き、今度は公都派遣の全員への回線を開く。


「大翔から各員へ、そろそろ出るぞ」


『了解』

『第1狙撃分隊、了解』

『第3狙撃分隊了解』


エリス達とランディ達の分隊、ハンス達の分隊がそれぞれ返事をすると無線を切り、移動を始める。


「ブラックバーン、行くぞ」


「了解です」


そう言って俺達は荷物を全て持ち、部屋を出る。

別室のエリスとも合流し、宿の代金を支払って宿を後にした。


===========================


宮殿に到着すると、まずは無線で狙撃分隊に確認を取る。


S(シエラ)各員、配置はどうだ?」


『S1、配置よし』

『S3、配置よし』


狙撃分隊の全員からは援護位置についた旨の連絡が入る、これで良し。


公爵の宮殿に近づくと、昨日の兵士が兵士が声を掛けてきた。


「またお前か!定例会議期間中だと言っただろう!」


「こちらはガーディアンだ、公爵の兵なら聞いた事あるな?定例会議に呼ばれている、これが招待状だ」


昨日の兵に招待状を見せると、青ざめて狼狽える。


「も、申し訳ありませんでした!す、すぐにお通し致しますので!」


何と無くこの狼狽え方を見ると、昨日のうちに身バラししておけば良かったかな……?と少し可哀想になって来る気もする。


ともあれ、俺達は難無く公爵の宮殿に入る事が出来た。


控え室の様な部屋に通されると、レムラス伯爵がすぐにやってきた。


「ヒロト殿、来てくれて本当に感謝するよ、早速で悪いんだが……」


「ええ、行きましょう」


俺は荷物をその部屋に置く、恐らく武器の持ち込みは出来ないだろうから、ベルトからホルスターも外した。


「私も行く!」


エリスはそう言うと自分もとホルスターを外し始めるが、俺が制した。


「大丈夫だ、俺1人で行ってくる。エリス達は、何かあった時の為に控えていてくれ」


「え、で、でも……!」


ヒロトの事が……心配だ……と小さな声で囁く様に言う。

エリスだけでなく、エイミーやブラックバーン、クレイも心配そうな目で俺を見つめていた。


俺はエリスの肩を掴み、目を見て言う。


「大丈夫だ、無条件で信じろってのも無理かもしれないけど、ずっと一緒にやって来ただろ?信じてくれ……それに、何かあったら無線で呼ぶから」


「……ん……分かった……気をつけて」


「あぁ、行ってくる」


俺はエリスが納得してくれた事に感謝し、控え室を出る。


「……愛されてるねぇ……」


「ええ、自分は幸せ者です」


レムラス伯爵にからかわれるが、否定する要素が全く無いので肯定すると、伯爵が肩をすくめる。


伯爵に案内され、会議室の様な部屋へ。

失礼します、と伯爵が一声掛けて入室すると、俺も後に続く。


テーブルには様々な貴族が様々な表情を浮かべて座っており、その奥には周りの貴族よりも若く、見るからに位の高い貴族が座っていた。


その貴族が口を開く。


「私はラウル・フォン・ワーギュランス、このワーギュランス公領を治める公爵だ。まぁ掛けたまえ」


「失礼します」


公爵……って事はこの人がワーギュランス公爵閣下って事か。

や、ヤバい、なんかめちゃくちゃ緊張してきた。心臓がバクバクしてる。


言われた通り座ると、品定めをする様に貴族達がまじまじと見て来る。

その内「これがギルド"ガーディアン"の隊長か……」「私の息子より若いぞ」「どんな手を使って……」などと言うヒソヒソ声が聞こえて来た。


それも、ワーギュランス公爵が咳払いをするとピタリと止む。

公爵は咳払いの後に、口を開いた。


「貴殿の優秀さは耳にしている、飯喰い(コーマ)被害の減少に尽力し、それどころか飯喰い(コーマ)との共存関係を築いた。それに違法風俗店の摘発、あのままあの店からインキュバスが吐き出され続けたら我々の軍事的優位も揺らいでいただろう、感謝するよ」


「い、いえいえ、こちらこそお褒め頂き光栄です」


「いや、武勲を挙げた者にはそれ相応の礼が必要だと言うのが私の考えでね、謙遜する事は無い」


ここまで話して何と無く分かった、この伯爵、真面目で誠実、良い人だ。


「それに、馬車の件もな。あの馬車のお陰で移動も迅速に行える様になった、貴殿の発想力も大変素晴らしいものがある。私のところにも馬車が届いたよ、素晴らしい乗り心地だった、ここにいる彼らも、貴殿の馬車を早速使っている様だ」


「お買い上げ頂き誠に有難うございます、皆様。お役に立てている様で大変嬉しく思います」


……なんかここまで手放しで褒められると、こそばゆい。

それに、喜んで良いのか、何か裏があるのでは無いかと勘繰ってしまう。


「それに、黒いクロスボウの様な見た目で、光の矢を放つ不思議な武器を使うらしいじゃないか、可能なら売って欲しいモノだ……」


「それは出来ません、我々の使用する武器は特殊な物、誰でも魔術師を殺せる様になれる凶悪な武器なのです。そんな物が世界に解き放たれれば……聡明な公爵に貴族の方々ならお分かりになるでしょう、戦争と言う言葉では済まされない、大量虐殺が其処彼処で行われかねません」


そう言うと、1人の貴族が口を挟んで来る。


「その大量虐殺を、ガーディアンが行うと言う可能性は無いのかね?」


「ノイマン伯爵」


ノイマン、と呼ばれた白髪の老人が公爵にそう制される。


「疑いたくなるのは分かります、何せ強力な武器を持っている訳ですから、しかしそう言った事含め、隊員達には倫理教育を徹底しています。彼ら、彼女らが私を信じてくれている様に、私も彼ら、彼女らが、虐殺に与する様な事は断じて無いと信じております」


「……どうだか……現にこの新聞には、貴殿達ガーディアンの悪行や、裏で何を企んでいるかが書かれているでは無いか」


ノイマン、と言うこの伯爵はそう言うと、懐から新聞を取り出す。

そう、ローナが辞め、樋口が勤務している新聞社の物で、ガーディアンネガティブキャンペーンを行っている記事の乗った新聞だ。


「その新聞に書いてある事の殆どは嘘偽り、捏造です。第一、私達ガーディアンがなぜ伯爵や公爵に対してクーデターを起こしたり、麻薬カルテルと繋がったりしなければならないのですか?」


「簡単だ、領地が欲しいからであろう?領地があれば金を稼ぐ為の土地を得られ、住民からの税で懐が潤い、何でも新しい"空飛ぶ風車"や"鉄の翼竜(ワイバーン)"なる乗り物も使えるのではないかね?」


このクソジジイはどうしても俺達を信じようとしないらしい。

そもそも今は部隊の規模を広げたところで、金がかかるだけ。

部隊の規模を拡張したいと言えばYesだが、それを運用する為の費用もない。


それに何だよ"鉄の翼竜(ワイバーン)って……戦闘機の事か?まだそんなレベルに達していないし。


「ノイマン伯爵、その辺にしないか」


「おっと、これは失礼した」


ノイマン伯爵は悪びれる様子もなくそんな事を言う。

テメェ顔と名前覚えたからな。


「……話が逸れた、すまないね、ヒロト殿」


「いえ」


公爵は流れを絶ってしまった事に謝罪をする、公爵が原因では無いのに。


「本題に入ろう、ここに呼んだのは、ある仕事を頼みたいからだ」


「仕事ですか?」


「ああ、ここから南西に10日程のところにある街で、ドラゴンが出没した。……このドラゴンの討伐を依頼したい」


ドラゴン討伐、この前にクロウ・ラッツェルから依頼されていた仕事だ。

今は諸事情により、クロウはガーディアンの宿舎で寝泊まりしている。


まさか公爵からも依頼が来るとは思っても見なかった。

因みに、複数人から同じ依頼を受ける事出来る様で、その際は組合を通じ報酬の調整が行われる。

不当に多量の報酬が支払われないように、ギルド組合という第3者の眼を入れる訳だ。


「公爵閣下、実は我々は既にその依頼を受けているのですが……」


「む?そうなのか?」


俺はそこで事の顛末を話した。

クロウの名前は伏せ、その街から逃げて来た住人からの依頼と言う事を話し、既に契約を成立させたとも。


「なるほど……ならばこれは私個人からの依頼と言う事で如何だろうか?証拠として鱗と爪か牙を持って来てくれれば、個人的に報酬を支払おう」


「待って下さい公爵閣下」


口を挟んで来たのはさっきのノイマン伯爵だ。


「私の兵なら、ドラゴン等倒す事は容易いです、彼らが本当にドラゴンを倒す実力があるかも分かりません、既に先の戦争で武勲を挙げた我が兵達にお任せを」


「伯爵、貴殿の兵が公領で質・量共に優れているのは分かっている。貴殿の兵がどれだけ我が公領の防衛に貢献しているかも。だがドラゴンとなれば災害と同じだ、兵の質や量でどうにかなる問題では無い……だから彼らに一縷の希望を賭けて頼みたいのだが……」


「私は彼の様なヒヨッコにドラゴンが倒せるとは思えない、倒せると言うのならば、彼らに証拠を見せて欲しいくらいですぞ」


……ノイマンの言っている事も分かる。

何せ公領で質・量共に優れた兵を率いているのだ、率いる兵には絶対的な自信があるのだろう。

ポッと出の新人ギルドに活躍の場を奪われてしまえば"公領最強"のメンツは丸潰れ、と言う訳か。


「……良いでしょう、ではドラゴンの討伐依頼を受けられる実力の証明の為、どの様な事をすれば良いでしょうか?」


ノイマンは、乗って来たとばかりにニヤつきながら答える。


「我が領地の辺境に、麻薬カルテルの拠点がある。我々も対処しているのだが、かなり勢力が強くて攻めあぐねている……その拠点を襲撃し、ボスをここに連れて来たら、私も認めよう」


「分かりました、ノイマン伯爵」


俺はノータイムで答える。

もちろん、それをやれるだけの自信が俺に、俺達ガーディアンにはあったからだ。


「……本当に良いのかい?」


ワーギュランス公爵が心配そうに聞くが、俺は心配無用とばかりに頷いた。


「ええ、我々ガーディアンにお任せを」


「……済まないね、頼んだ」


「ええ」


その場で俺はその依頼を受け、見あう報酬を提示してもらう。

麻薬カルテルの強襲作戦、流石は伯爵、金貨800枚=800万円を出すという。


俺は、その報酬で手を打った。


===========================


控え室に戻ると、皆が待っていた。

俺は会議中に起こった事を包み隠さず話すと、皆は何も言わずに頷いてくれた。


「そのノイマンとか言う伯爵に、ガーディアンの実力を見せ付けてやろうじゃ無いか」


そう言ったのはエリス、皆もそれに同調する。


会議が終わったので俺達は荷物を持って屋敷を出る、屋敷を出た後に狙撃部隊へと撤収の指示を出した。


既に基地からチヌークが向かっている筈だ。


「バルランス派遣隊よりHQへ、応答願う、オーバー」


『HQよりバルランス派遣隊、感よし』


応えたのは孝道だ。


「HQ、済まないがドラゴン討伐作戦の前に一仕事依頼された、基地に帰ったらすぐに作戦を立案するので、用意しておいてくれ、オーバー」


『了解、こっちは特に何も無かった。既に回収のチヌークがそちらに到着する筈だ、帰って来るまでが遠足だぜ、オーバー』


「分かってる、帰るまでそっちを頼む、オーバー」


『了解、アウト』


無線を切る、向こうは特に変わった様子は無いらしい。

街を出て、回収地点へと向かう。最初に降りた場所だ。


回収地点に辿り着くと、既に狙撃分隊が引き上げてそこにいた。


「お疲れ様です」


「おう、無線は聞いてたか?」


「ええ、新しい仕事ですね、何でも来いです」


ランディが気合いを入れるようにそう言う。

皆の表情と、仕事に向けて闘志を燃やしている表情だ。

タイミング良く、CH-47Fチヌークが飛来する。


皆がそちらを向き、ダウンウォッシュに片腕で顔を覆った。

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