第72話 新しい仕事
ワーギュランス公領、公都バルランス
公爵宮殿内議会室
公領貴族定例会議
ワーギュランス公爵閣下の治めるワーギュランス公領で、定例会議が月に1度行われる。
他の公爵領や伯爵領でも、同じ様な事が行われており、内容としては公領の中に更に領地を持つ伯爵から公爵へ、何か変わった事があったか等の定期連絡会の様なものだ。
「それで、レムラス伯爵」
「はっ、ワーギュランス公爵閣下」
レムラス伯爵を呼んだのは、現ワーギュランス公爵のラウル・フォン・ワーギュランス公爵だ。
ラウルは30台前半とまだ若いが、先代の急死によって領主になった。
若いが様々な政策により、この公領を治めて来た。
「件の"ガーディアン"と言うギルドの件だが……」
「ええ、公爵閣下の新しい馬車も、そろそろ改造のお知らせが来ると思いますよ」
前回の定例会議は殆ど、レムラス伯爵が乗って来たガーディアンの新型馬車の試乗会の様な感じで終わってしまったので、各貴族への伝達が少なくなってしまった。
「ガーディアンと言うのは開明的だな。"あらゆる種族・出身・能力で差別をしない"、とは……私もその様な大きな器を持っていたいものだ……」
公領はそう言って紅茶を一口飲む。
「……ところでレムラス伯爵、貴殿の優秀な手腕は民や他の貴族からも聞いておる」
「光栄です、閣下」
「その優秀な貴殿に頼みたい事があるのだが……ガーディアンをここに連れて来てはくれぬか?」
レムラス伯爵はその言葉に若干驚く。
公爵が一ギルドの団長を呼びつけるのは、余程の事をやらかしたか、余程の武勲を上げた時くらいのものだ。
「……公爵閣下、彼らが何か致しましたでしょうか……?」
「いやいや、叱責しようと言うのではないよ、伯爵。ただ飯喰い被害を0にし、違法風俗店の摘発、人命を尊重するその意向、更に今回の馬車の件……ここまで優秀なギルドの団長は稀だ、それに彼らは見たこともない武器を使うそうだな?個人的に興味があるのと、頼みたい"仕事"がある」
「仕事……とは……」
次の言葉を聞いて、伯爵が驚愕するのは無理もないだろう。
「そ、それは……!」
「恐らく、彼らが最も成功率が高い、だから頼みたいのだ……ところで今彼らは何処にいるのだろうか」
「は、はっ、拠点は我がベルム街に構えております」
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ベルム街付近、とある平原にて。
2輌の車輌が森の切れ目に向かって走っていた。
1輌は8輪で重厚なボディ、ランフラットタイヤが地面を踏みしめ、優れたサスペンションは地面の凹凸など物ともしない。
もう1輌はそのボディに砲塔が載せられており、機関砲が日光を浴びて鈍く光っている。
前者はピラーニャⅢ8×8、後者はLAV-25A2と呼ばれる、装甲兵員輸送車と装輪歩兵戦闘車だ。
走るピラーニャⅢの中で、俺は装備の点検をしていた。
いつも通りのM4A1にはTorijicon ACOG TA31ECOS RMR、短距離スコープとオープンダットサイトが一緒になっているモデルが載せられている。
ハンドガードのアンダーレールにはTangoDown BGV-ITIバトルフォアグリップを装備し、取り回しの向上を図っている。
装填されているマガジンはMAGPUL製レンジャープレートを取り付けたP-MAGだ。
車内ではまだ安全の為、マガジンは手に持っている。
装備はいつも通り、上下はCRYE PRECISIONのG3コンバットシャツ・コンバットパンツ。
プレートキャリアはCRYE PRECISION JPC2.0。
P-MAGが3本入ったAVSデタッチャブル・フラップポーチを前面に取り付け、左側のカマーバンド・ベルトにP-MAGが2本入った5.56/7.62/MBITRポーチを取り付けてある。
背面はポーチジップオンパネルが装備され、背面ポーチにはMK3A2攻撃手榴弾が2発入っている。
CRYE PRECISIONのロープロファイルベルトの右側に取り付けられた、Safariland 6395ホルスターには、P226拳銃が収められている。
更にベルトの背面左寄りには空マガジンを入れておくダンプポーチが下げてあり、更にベルト左にはピストルマガジンポーチが2つ、MOLLEを介して取り付けられている。
これで基本となる"プライマリ・ウェポン弾倉×6+1、セカンダリ・ウェポン弾倉×2+1、手榴弾2〜4"の携行弾薬の条件は満たしている。
履いているブーツはいつも通りダーク・タンカラーのMERRELL MOAB-MID GTX。
頭にはマルチカムのヘルメットカバーをかけたOPS-CORE "FASTバリスティック・マリタイム"ヘルメットを被っている。
この"マリタイム"ヘルメットは、ヘルメットのサイドマウントレール後ろ側のスロットが、ほぼ同タイプの"ハイカット"ヘルメットよりも1つ多い4つになっているのが特徴だ。
グローブはOAKLEYのファクトリーパイロットグローブ、通気性に優れ、カーボンファイバーのナックルガードが付いているこのグローブは、CQCにも威力を発揮する。
銃器、プレートキャリア、ヘルメット、ブーツ、グローブ、フル装備でこのピラーニャⅢに乗っているのはガーディアン歩兵小隊第1分隊の8名。
ラジオポーチにAN/PRC-168無線機を入れているエリス。
M4のアンダーバレルにMk13 EGLMを取り付け、ポーチやスリングのインサートに40mmグレネードを携行しているグライムズとアイリーン。
ELCAN SPECTOR DR倍率切替スコープを乗せたM249MINIMI PIPを抱え、プレートキャリアのポーチも弾薬ベルトの入ったケースを収められる様に換装されているヒューバートとエイミー。
そして分隊の機動力の要、単体のM4A1を扱い易さに特化したカスタムを施しており、パンツァーファウストⅢを背負っているブラックバーンとAT-4CSを背負っているクレイ。
いつもの分隊員と共にこの新しい装甲兵員輸送車に乗り込んでいるのだ。
「前方に敵多数発見!距離1000!」
銃座に座っているのは、ピラーニャⅢを召喚した際に一緒に召喚したネイト・マッケイ伍長だ。
森と平原の切れ目には、かなりの数の魔物の群れ。
俺は無線をつけて全部隊へ通達する。
「各員、発砲を許可する」
「発砲許可ァー!」
マッケイはそう叫ぶと、銃架に装備されているMk.19 mod3自動擲弾銃の八の字の押金を押す。
ドッドッドッドッドッドッ!
M4A1やブローニングM2よりも連射速度の遅い、篭った様な銃声。
40×53mm多目的榴弾、中速高低圧弾のM430が数発、発射される。
毎秒240mの初速で射出された40mm弾は1000mの距離を詰め______爆発。
炸薬の38グラムのコンポジションA5が炸裂し、半径15mを金属片と爆風と熱で圧倒する。
ゴブリンやオーク、コボルトなどの魔物は金属片に身体を切り刻まれ、爆風に押しつぶされ、炎に焼かれていく。
マッケイは調子よくMk.19 mod3自動擲弾銃を撃ちまくり、魔物の群れを撃破していく。
今回の仕事は"森に住み着いたある魔物の駆除"である。
それ以外はあくまでオマケだ。
「全員、初弾装填!」
チャージングハンドルやコッキングレバーを引いて、初弾を薬室に装填する。
歩兵の小銃の射程距離______300m程まで接近すると、ピラーニャⅢの後部ハッチが開く。
ハッチに1番近い所のシートに座っているブラックバーンとクレイが日光が入ってくるハッチに向かって油断なく安全装置を解除したM4を構え、ハッチが完全に開くとその2人から順に外へと飛び出して行く。
「全員降車!降車!射撃開始!射撃開始!」
俺がそう叫ぶと同時に、分隊の各員がピラーニャⅢの左右に展開して射撃を開始する。
射線に味方が入らない様に注意しつつM4の安全装置を解除し、セレクターをセミオートに。
銃床をしっかりと肩付けし、頬を乗せて狙う。
ACOGのレティクルを魔物に重ね、引き金を絞る。
1発撃った、エジェクション・ポートから飛び出す空薬莢、放たれた弾丸はゴブリンの頭に見事命中し、その場で屍となる。
次のターゲットはその近くのオーク、再びレティクルを重ね、引き金を引く。
オークは生命力が強く、5.56mm弾を数発撃ち込まなければならない。
3発、4発と頭部に射撃を集中させて倒し、何度も相手をしたオークのタフネスを再び実感する。
ブラックバーンとクレイもM4を構え、今までの訓練の成果を存分に発揮するように射撃しているし、グライムズとアイリーンも同様に射撃し、時折Mk13 EGLMの引き金を中指で引いて40mm高性能榴弾を撃ち込んで行く。
ヒューバートとエイミーはELCAN SPECTOR DRで狙いを定めてM249MINIMIをフルオート射撃、断続的な制圧射撃でゴブリンもオークもコボルトもまとめて屠っていく。
LAV-25A2も同軸機銃を撃ち、7.62mmの弾丸で魔物の群れを掃射する。
「装填!」
「カバー!」
ブラックバーンはそう言って再装填の作業に入り、俺がブラックバーンが再装填で抜けた穴を埋める。
俺もそろそろ弾薬が無くなってきた、ブラックバーンの再装填が終わったら俺も再装填に入ろう。
「OK!」
「装填!」
「カバー!」
俺とブラックバーンの装填と援護が交代、俺は丁度空になり、ボルトストップがかかったM4の再装填にかかる。
マガジンキャッチを押して空になった弾倉をダンプポーチに放り込む。
カマーバンド横の5.56/7.62/MBITRポーチから1本のP-MAGのレンジャープレートに指を引っ掛けて引き抜き、マグウェルに挿し込み、ボルトストップを押せばボルトが前進し、薬室に初弾が送り込まれて再装填完了だ。
「OK!」
俺はそう叫び、射撃を再開する。
粗方の魔物を片付け、地面に空薬莢が大量に転がり、そろそろ森から出てくる魔物も減って来た頃、森の奥が少し騒がしくなってくる。
「……来たな」
俺はM4の銃口を森の切れ目に向けたまま静かにそう呟く。
そして葉擦れの音が聞こえ、それが段々と木の幹をへし折る様な音に変わっていき、森から巨大な影が飛び出して来た。
飛び出した影は3つ、土煙が収まると、姿を現したのは全長5mもあろうかと言う大きさのサソリだ。
今回の討伐対象、"森に住み着いた大サソリの駆除"。
「撃て!」
号令と共に全員が一斉に射撃を集中させる。
5.56mm、7.62mm、40mmと様々な口径の弾丸が3頭の大サソリに向けてまるで嵐の様に降り注ぐが、大サソリは効いている素振りを見せない。
「外殻が硬すぎるんだ……」
「硬えぞアイツ!」
グライムズとブラックバーンがM4を射撃しながらそう呟く。
「後退開始!プランBとCを実行する!」
俺は無線をオープンにしてそう叫び、それと同時にプラン実行の為に各員が動き出す。
LAV-25A2は車長の命令により、左翼へと展開、1頭に向かってM240C車載機銃を大サソリに撃ちまくって気を引く。
大サソリはそれに反応し、怒ってLAV-25A2の方向へ向かって来る。
多分奴は獲物か何かと勘違いしているのか、LAV-25A2に向かって尻尾の毒針を飛ばすが、装甲が毒針をいとも簡単に跳ね返す。
「サソリ風情が!俺達を舐めるな!」
LAV-25A2と共に、操縦担当として"召喚"されたウォーレン・ノールズがそう叫ぶと、操縦手のエグバード・タヴァナーは左に回り込むようにLAV-25A2を走らせる。
このLAV-25A2の武装は、M240C 7.62mm機関銃だけでは無い。
砲塔の"それ"こそ、LAV-25A2の最も強力な武装だ。
「撃て!」
ウォーレンはそう命令し、砲手のデューク・レクトンが発砲。
砲塔のメイン・ウェポンである、M242 25mmチェーンガンが毎分約225発の勢いで火を噴いた。
25mmのAPDS弾は発射された後に装弾筒を空中で分離させ、音速の4倍に届こうかという速度で大サソリの外殻に突き刺さる。
幾ら7.62×51mmNATO弾を防げた外殻とは言え、25×137mmという大口径機関砲弾に耐えられるはずも無い。
APDS弾の弾芯は一瞬で外殻を食い破り、中の肉を引き裂いても尚有り余る運動エネルギーを持って反対側の外殻まで突き破った。
ギギギィ!と大サソリが苦しげな悲鳴を上げるが、サソリにとっては残念ながら、相手は無機物である。
25mmチェーンガンの砲声が唸る度に、大サソリの1頭が変な汁を吹き出しながら外殻に貫通痕をつけられ、遂に大地に横たわった。
一方で歩兵部隊の俺達も、LAVにすべて任せきりという訳では無い。
「グライムズ!アイリーン!ヒューバート!エイミー!援護しろ!」
「了解!」
「はい!」
「Yes sir!」
ヒューバートとエイミーは2脚を展開して伏せ撃ちの姿勢をとり、グライムズとアイリーンはその横で膝撃ちの姿勢をとる。
俺とエリスはブラックバーンとクレイの直接援護に着く、ブラックバーンとクレイこそプランC成功の要だ。
Mk.19 mod3も味方を巻き込む為撃ち方止め、4人で突撃する。
「ブラックバーン!」
俺がそう叫ぶと、ブラックバーンは走りながら背中に背負ったパンツァーファウストのグリップもストックを展開させる。
俺とブラックバーン、エリスとクレイの2つのペアが射撃位置に着く。
ブラックバーンは先端のプローブを伸ばし、対戦車榴弾モードに、ライフルのようなセレクターを"S"から"F"へと持ってくる。
クレイもAT-4CSの後部ピンを抜いてコッキングレバーをコック、フロントサイトとリアサイトを展開させて安全装置に指を掛けている。
「「後方の安全良し!撃て!」」
俺とエリスがほぼ同時に命令を下すと、ブラックバーンとクレイもほぼ同時にパンツァーファウストⅢとAT-4CSを発射した。
大サソリとの距離は200m、110mmのロケット弾の弾頭と84mmの無反動砲弾は、命中するとモンロー・ノイマン効果を発生させ、TNTの爆発の圧力によって流体化したメタルジェットが発生、メタルジェットは音速の4倍で外殻を突き破り、生命の維持が困難になるレベルで大サソリの肉体を抉り取った。
弾頭の爆発と共に体液がそこかしこに飛び散り、1頭が力尽きるがもう1頭はまだ動いていた。
恐らく脚に当ってスラット・アーマーの代わりにでもなったのだろう、しかし文字通り虫の息だ。
トドメを刺すべく飛び出したのはクレイだ。
クレイはその辺にAT-4CSの砲身を捨て、まだ息がある方の大サソリに肉薄、特異魔術である蛇の様に蠢くマフラーの魔術を使って防御の薄い外殻の隙間を狙い、マフラーの先端を突き刺して頭部を切断。
だが、昆虫特有の"神経節"か、頭を切り落としても只では死なない。
頭の無い状態で尻尾の毒針をクレイに突き立てようとしたが、クレイはそれより早く反応、外殻の隙間を再びマフラーで切断し、尻尾を斬り落とした。
それを機に、大サソリの動きがピタリと止まる。
「またつまらぬものを……」
「どこで覚えた?その台詞」
「タカミチさんのお話から……」
孝道、異世界に現代のサブカルを持ち込んだか……
ともあれ、全員無事に目標は達成した。
全員M4やM249に安全装置を掛け、俺とヒューバートは魔物から換金できる部位を切り取り、魔術の使えるメンバーは大サソリの死体から戦利品となる巨大なハサミを切り取り、残りを魔術の炎で焼き払う。
サソリの外殻は防具に使える程硬いが、何をしても生臭い匂いは消えない上、死ぬと外殻の強度は著しく低下するらしく、冒険者や傭兵で使う奴は皆無らしい。
ただハサミの方は死んでも強度は落ちず、比較的簡単に匂いも抜ける為、こちらは槍の先端や短剣などの武器に使われるらしい。
魔術による防腐処理と臭い抜きの済んだメンバーは、大サソリのハサミ計6本をを幅広の布で巻く。
タイミングを計ったかの様にCH-47Fが平原にやって来る、エリスが無線で呼んでいたのだ。
CH-47Fは着陸すると後部ハッチを開き、ロードマスターと呼ばれる物資の積載担当者が降りて来る。
機首に小さく黄色で縁取られた字で"Yellow 3-1"と描かれている、降りて来たのは小柄な少女、アンネ・アルセリアだ。
アンネはイエロー3-1を操縦する"アルセリア3兄妹"の末の妹で、パイロットは1番上のヘンリー・アルセリアが、副パイロットは長女だが2番目のアニータ・アルセリアが担当している。
「詰んだらパレットに固定して!飛行中に動かない様にね!」
「了解!」
「おいそっち持て」
「これでラストだ」
小柄なアンネの声が飛ぶと、他の積載担当隊員がその通りに動き、エリス達から受け取ったハサミを貨物用パレットにバンドで固定していく。
遠目でそれを眺めていた俺とヒューバートも、換金出来る箇所を切り取って麻袋の数倍の強度はあるナイロン製の袋に詰め込む。
とは言っても、先程の戦闘ではMk.19を撃ちまくった為原型を留めているものは多くは無く、切り取った部位も2袋分にしかならなかった。
俺とヒューバートはその袋をLAV-25A2の兵員室に放り込む。
LAV-25A2の兵員室は現在誰も乗っておらず、25mm機関砲の予備弾や翼竜に遭遇した際の91式携行地対空誘導弾"SAM-2B ハンドアロー"やFGM-148ジャベリンが搭載されている。
LAV-25A2の兵員室の扉を閉めた後、無線を入れて指示を出した。
「作戦終了、全員良くやった、撤収する!」
そう言うと分隊は全員再びピラーニャⅢに乗り込み、CH-47Fと共にその場を後にした。
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基地に帰ると装備を解き、残弾確認して残りを地下の武器弾薬保管室に返納する。
そして俺はギルド組合に提出する戦闘レポート制作の為に執務室に暫く篭る。
ところで、ガーディアンもタイヤ事業が軌道に乗り、安定の兆しが見えたので部隊の規模を無理のない程度に拡張した。
後方支援隊の充実化と、戦力の増強だ。
後方支援隊の充実化は、具体的に言えば航空機及び車輌の整備士、事務会計、武器弾薬の管理、航空管制、給食等の為の人員の大幅な増員。
これにより今まで俺がやっていた事務会計は大幅に軽減され、飯を作るのも任せられる様になった為に歩兵が戦闘に集中出来る。
そして戦力の増強は、具体的にはレベルが上がった事により召喚可能になった兵器の増強と兵員の増強。
先程の戦闘で用いたLAV-25A2やピラーニャⅢ、それに操縦と運用に必要な人員も、その一環として召喚したものだ。
そして新たに召喚した装備も、出来るだけ部品の互換性を持たせる為にシリーズで統一した。
4輌のピラーニャⅢ
4輌のLAV-25A2
1輌のLAV-C2
6輌のLAV-EFFS
以上が新たに召喚した車輌である。
重迫撃砲小隊のM1129ストライカーMCはLAV-EFFSに更新、車体は廃棄せずに保管となった。
そして1個小隊40人の基地警備隊の召喚。
これでガーディアンの全ての戦闘部隊が気兼ねなく戦闘を行う事が出来る。
そうこうしている内にレポートが書き上がった。
誤字や抜けた箇所が無いか入念にチェックし、封筒に入れておく。
と、そのタイミングで執務室がノックされた。
「どうぞー」
「失礼します」
執務室に入って来たのは、先程考えを巡らせていた"新設・基地警備隊"のフート・クライゼルだ。
敬礼共に入って来た彼は、俺が召喚した所謂"召喚者"で、元アメリカ海兵隊員だと言う。
「ヒロトさん宛にギルド組合から手紙が届いています」
「手紙?」
フートからそれを受け取り、何かやらかしたかな……と思って恐る恐る封を切る。
「……何でしたか?」
「……何て事は無い、ギルド組合から仕事の指名が入ったって事だ、ちょっくら行ってこよう」
俺は戦闘部隊の隊長となっている健吾、それから丁度予定の空いていたグライムズとアイリーンを呼び、車輌格納庫のランドローバーSOVを1台借りてギルド組合へと向かう。
その直後、守衛所にもう1通の手紙が届いた。
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ギルド組合に到着、俺と健吾が車から降りる。
「じゃあグライムズ、アイリーン、車を頼む」
「了解です」
グライムズとアイリーンは、車が盗まれたり、破壊されないように守る為に車に残る。
もちろん、MP5A5とP226で武装して、だ。
俺と健吾も、一応ベルトに通したSafariland6395ホルスターにP226が入っており、左腰には予備のマガジンポーチが2本ほど取り付けられている。
手紙を持って受付担当者の元へ行くと、応接室的なスペースに通された。
個人がギルド組合を通じて傭兵や冒険者などへ仕事を依頼する時のスペースで、皆は"仲介室"と呼んでいる。
部屋の中に居たのは、茶髪で青い目をして、年齢や身長は俺と同じくらいの青年。
一瞬、ブラックバーンと雰囲気は似ていると思った。
「……ガーディアンってのは、あんた達か?」
青年は落ち着いた口調でそう言う。
「あぁ、ガーディアンの代表、高岡ヒロトだ」
「俺はクロウ・ラッツェル……仕事を、頼みたい……」
そのタイミングで、受付嬢さんが紅茶を運んで来て、仲介者の席に座る。
クロウ、と名乗った少し目つきの悪い青年はそう切り出す。
「仕事?内容は何だ?」
「……ここから南へ5日ほど歩いたところに出没した、ドラゴンの討伐だ」
ドラゴン
転生前は想像上の生き物でしかなかった。
鋭い牙や爪、硬い鱗を持ち、空を飛び、口から高温の炎を吐き出す爬虫類。
この異世界に来てから、エリスにも魔物について色々聞いた。
この異世界で間違いなく最強クラスの魔物、これを倒した者は勇者や英雄、ドラゴンスレイヤーとして名を馳せる事になる程強大な魔物だ。
俺達は今まで翼竜と戦ったことはあるが、ドラゴンと戦った事は無い。
「……ドラゴンは災害と同じだ……町の兵士も、かなりやられた……親しい間柄の奴も……喰われてった……あんた達にしか頼めないんだ!やってくれるなら何でもする!ドラゴンを斃してくれ!」
クロウはテーブルに手を付き、額が付く程深々と頭を下げる。
俺達の目の前に2つの選択肢が発生する。
"受ける"か"受けない"か。
俺は当然の如く、答えた。
「ええ、引き受けましょう」
「本当か⁉︎……ありがたい……!」
クロウは俺の手を握ってブンブンと降ってくる、その目には涙が浮かんでいた。
余程苦労したのだろう。
「報酬の方は如何致しますか?」
受付嬢がそう切り出すと、クロウは涙を浮かべた顔を上げる。
「少ないが俺の全財産、それでも足りなければ身を売ってでもお金を作ろう!約束する!」
「いや、そこまでは良いです。受付嬢さん、ギルド組合から補助金が出ますよね?」
「えぇ、救済措置として返還不要の補助金が出ます」
「それでお願いします」
「ありがとう!あんた達は命の恩人だ……!」
その後、受付嬢の契約書に俺とクロウ、双方がサインして、契約成立となった。