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第68話 ガーディアンの資金源となるモノ

2階、第1ブリーフィングルーム。


地下射撃場でマークスマンライフルの選定を終え、次の仕事は会議だ。


円形に設置された長テーブルに座っているメンバーは、俺、エリス、健吾、孝道、ナツ、ガレント、ストルッカ、スティールの8人だ。


エイミーは何故かその場の皆に紅茶を淹れて配っている。

俺は思い返せば初めて開くこう言った会議に緊張感を覚えながら、話を切り出す。


「さて、早速だけど本題に入る。我々ガーディアンは慢性的な資金不足に陥っている。1週間に数回、3度の飯が戦闘糧食になる程には深刻だ。隊員達への給与も中々多くは払えていなくて、組織のトップとして大変申し訳無く思う。そこで、ガーディアンの活動資金を調達する為に、ギルドからクエストを更に積極的に受ける以外に何か良い案を持っている者は居ないか?俺としては"何かを売って利益を上げる"ってのがいいと思ってるが……」


もちろん武器の輸出と言うのは論外だ。

ガーディアンの保有する各種の現代兵器はこの異世界においてイレギュラー過ぎる存在だ。

魔術師でない子供でも、魔術師よりも強くなれる現代兵器がこの世界に解き放たれたら、どれほど大規模な戦争になる事か。

ガーディアンの抑止力としての効力も無くなるし、大量虐殺の危険性もある。


「でもどうすんの?いくら工作機械を出せるからと言っても何かを作るのには資源がいるし、コストはかかるぜ」


そう答えたのは孝道だ。

何を作るにもコストはかかる、人件費や材料費等で持って行かれては元も子もない。


となると"召喚出来るモノ"で何かを売るとなるが、俺が召喚出来る物は"兵器と兵士、それに関連するもの"ばかりだ。


「俺達の能力を生かすのはどうだ?町の学校で教師やったり、健吾が医者やったり」


「それこそタダでさえ貴重なガーディアンの戦力を割く事になるからなぁ……」


ナツの意見を聞いて、全体の指揮を執る孝道が反対する。


と、ここまでずっと考えていた健吾が挙手した。


「……馬車の足回りとして、車軸とタイヤ売るってのはどうだ?これなら兵器転用されても大した問題にはならない気がするんだけど……」


「確かに……」


健吾の意見に全員が考え込む。

車軸とタイヤ、サスペンションなどの足回りをセットで販売すれば、馬車の足回りとして売れるかもしれない。

それにこれが兵器転用されても、動力であるエンジンが無ければ暫くはさほど問題にもならなそうだ。


「よし、それにしよう。各員意見は?」


「無し」

「なーし」

「ありません」

「無いです」

「大丈夫だ」


全会一致、ガーディアンが商売をする、と言うのは決定した。


===========================


そうと決まれば早速準備に取り掛かる。

土地の外れに"工房"と倉庫を召喚し、倉庫にはタイヤと車軸など足回り一式を保管。


人を6人程召喚し、ある程度の数の足回りを組み立てさせる。


6人の内4人は車輛整備兵、2人は軍の会計科だ。

工房と直結の販売店で、タイヤの販売を行う事にしたのだ。


そしてもう一つは、販売する物のブランド化である。

"ガーディアン"という名前だけでは、売れるかどうか不安が残る、そこで俺はレムラス伯爵と掛け合った。

伯爵と協力すれば、売れるかもしれないと考えたからだ。

それに伯爵の公印を頂ければ、偽物が出回る心配も無くなる。


数日後のレムラス伯爵邸にて……


===========================


「伯爵、少し見て頂きたい物が」


「何かな?」


俺は伯爵の馬車の足回りとして、先に足回りを取り付けた馬車を持って行った。

ここまで牽引してきたのはランドローバーSOVだが、伯爵邸で馬に馬車を繋ぐ。


中は普通の馬車なのだが、足回りは違う。

サスペンション、車軸、タイヤなどの足回り、そして御者が馬車を制御するブレーキも取り付けたものだ。


「ガーディアンが新しく発売する馬車の車輪です、従来の馬車より乗心地が良くなっています」


「ふむ……乗ってみても良いか?」


「ええ、どうぞ」


馬車のドアを開け、伯爵と共に中に入る。

御者を務めるのは、エリス派で最も馬車の操縦が上手かったストルッカだ。


馬車の内装は伯爵の馬車程豪華では無い、椅子もベンチにクッションを敷いた程度だし、大きさも大きくは無いので寝転がれる様なスペースは無い。


俺と伯爵が馬車のシートに座ると、俺はストルッカに合図する。

少しの間を置いて、馬車は走り出した。


===30分後===


馬車は伯爵の屋敷の前に戻って来た。

伯爵から感想を貰うと……


「これは良いなヒロト殿!こうも揺れない馬車なら、快適な移動が出来そうだ。どうだろう、売ってはくれないか?」


伯爵にはとても好評だった。

サスペンションのお陰で揺れは少なく、今までの木の車輪を使った馬車より間違いなく良かったと言える。


今回は日本でも良く出回り、燃費が良い、走行抵抗の少ないと言われていた軽自動車のタイヤを使った。


無論、他にも普通自動車のタイヤや、もっと走行抵抗の少ない自転車のタイヤなども用意している。


「伯爵にはこちらを無償で提供させて頂きます。その代わりと言っては何ですが、お願いしたい事がありまして……」


「ほぉ!無償で!そうか、何だろう?」


「伯爵の方でも、この足回りを宣伝して欲しいのです。売上アップにも繋がりますから」


「お安い御用だ!そんな事で良ければ是非協力させてくれ、何なら1組で宣伝(それ)を、屋敷の中の馬車の足回りも全部変えてしまおう、もう4セット程売ってはくれないか?」


何と伯爵は宣伝に協力して貰えるだけ出なく、屋敷の馬車全てに足回りを取り付けるべく、別途購入してくれるという、とてもありがたい申し出だ。


「ありがとうございます、では伯爵、後ほど馬車を預からせて頂きますね」


「あぁ、頼む」


俺はそう言うと、屋敷に共にやって来たエイミーとストルッカと一緒に基地へと戻った。


===========================


基地に帰ると、俺は早速準備にかかった。


「ジョン、早速発注だ」


工房の責任者であるジョン・アンク、俺が工房での作業の為に"召喚"した1人だ。


「早いですね、幾つですか?」


「5セットだ、大変だが、出来るか?」


「大丈夫です、4人で作業すれば早いですよ。ロン!勝間!ヘンリー!倉庫から資材を出してこい!5セット分だ!」


「了解です!」


工房の奥で待機していた他の隊員にそう指示を出すジョン。

指示を受けた隊員達は奥の倉庫の扉を開けて、タイヤや車軸、サスペンションなどの足回りを出していく。


「すまねぇな、こんな事で召喚して」


俺はジョンにそう言う。

車輌整備兵だから、戦闘車両の整備を仕事にしたかったのだろうけど、俺達の資金集めに協力してくれている。

本来の任務から外れてしまっているので申し訳なく感じるが、ジョンはそれを否定する。


「いえ、ガーディアンのためなのでしょう?ならこれも苦ではありませんよ。それに普通の整備と違ってこれもまた楽しいですし、それに自分の与えられた仕事をキッチリこなすのが俺達ですから」


「そうか……ありがとうな、皆」


「いえ、ではヒロトさん、俺は作業に戻りますので」


失礼します!と綺麗な陸軍式の敬礼をし、作業に戻るジョン。

俺も自分の仕事をするべく、執務室へと戻った。


残りの仕事と言えば、会計科と値段の相談だ。

あまり高くすれば売れないし、安いと安いで今度は利益が出なくなる。


「じゃあ軽自動車用のタイヤは金貨2枚くらいか……輸送に適したトラック用のタイヤは金貨4枚くらいか?」


「いえ、トラック用のタイヤは金貨3枚くらいかと。一応、この2種類で考えております」


執務室で新たに編成した会計科のジーナ・カロライナ准尉は書類を手にそう言う。

会計科はガーディアンの中では、主に売り上げの管理を担当する科という位置付けだ。

その内ガーディアン全体の資金運用なども任せたいと思っているが、今の所会計科は2人しか居ないので追々だ。


「よし、じゃあそれで頼む。良いか?」


「お任せ下さい、ではヒロトさん。私は残りの仕事を片付けて参りますので」


失礼しました、と言ってジーナは執務室を後にする。


「ヒロト、資金源確保は良いが、その為に人員を増やすと人件費も掛かって本末顛倒じゃないか?」


「ううん、でも仕方ないよ。戦力を販売の方に割く訳にもいかないし、バランス的にも難しいからな……」


「まぁ、ヒロトに考えがあるなら良いが、其処までの利益が見込めるかなぁ……」


エリスも半信半疑だ。

一応、ガーディアンの全員は足回りを改良した馬車の試乗は済んでいる。

結果、ほぼ全員から好評を貰ったが、売れるかどうかはやはり心配である。


斯くして、"ガーディアンのタイヤ販売"は始まった。


===========================


伯爵から預かった馬車に取り付けて調整を行い、納車(?)した日。

伯爵は納車(?)した馬車でワーギュランス公領の公都、バルランスに赴き、定例議会に出席すると言う。

ワーギュランス公爵を始め、公領の各地を治める貴族が出席する会議だ。


「残りの馬車は任せたよ、1週間くらいしたら戻って来る。他の貴族達にも宣伝したいからね」


そう言って伯爵は馬車に乗り込む。

金属の車軸となったので積載重量(ペイロード)も増え、サスペンションとタイヤのお陰で揺れも少なくなった馬車。


代償として慣性での停車が難しくなったが、御者の制御するブレーキもあるから問題は無い。


それを貴族達が居る前で紹介すれば、宣伝効果は抜群だろう。


「ええ、ではお気を付けて」


「ありがとう、では行ってくるよ」


そう言うと、伯爵は俺達が販売した足回りを取り付けた馬車に乗り込み、公都バルランスに向かっていった。


そしてこれが、思わぬ反響を生む。

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