第63話 クリスタ救出
ランディ視点
指揮統制ヘリから情報を得た。
クリスタはインキュバス含めた数人に連れられ、回収地点から2ブロック離れた建物の2階に連れ込まれたのを間違いなく確認した。
狙撃隊7人は直様その建物に向かった。
目標建物のドアの前には、歩哨が3人立っている。
暗視装置越しに見える緑色の世界、恐らく、暗闇に紛れていて奴らは見えていないだろう。
俺の横に居るアンナが、腰の後ろからナイフを抜くのを見て、俺もナイフを抜いた。
先頭のバズはライフルから手を離し、敵歩哨に向かっていく。
音も無く獲物へと狙いを定める、俺は1番奥、正面を向いている1人だ。
俺とバズ、アンナは3カウントを取って一斉に歩哨に襲い掛かった。
「んぐっ⁉︎」
暗闇から突然現れた俺に驚いたのか、敵は驚きの声を上げようとしたが正面から口を押さえてナイフで声帯を切る。
そして暴れない様に手足の筋肉を切断し、最後に首の動脈を切り裂くと、ビクビクと痙攣しながら息絶えていった。
アンナも敵の背後から首元へとナイフを突き立てサイレントキルし、バズは敵の首を絞める。
敵は声が出せずとも反撃しようとするが、バズはその姿勢のまま敵を背中から地面に叩きつけて首の骨を折った。
歩哨を始末した狙撃隊は、ドアの入り口で突入陣形を取る。
すると、カーンズが前へと出る。
膝撃ちの姿勢で構えていたバレットM82A3の銃口を、ピタリとドアノブに突き付けた。
俺は狙撃隊全員に目配せ、目があうと頷く7人。
そして、俺はそのドアを叩いた。
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ガーディアンの女を捕虜にした。
その事に舞い上がる民兵達。
その女を運ぶ間に8人ほど殺られてしまったが、それを差し引いても大きな収穫だ。
斑模様の服を着て、地味な兜を被り、服と同じ柄の奇妙な形の鎧を着て、光の鏃を高速で飛ばすクロスボウの様な武器を持っているのがガーディアンの兵士の特徴だ。
「1人で100人分の戦闘能力を持つ」と言われた奴らの1人を捕虜にしたのだ、気分が高揚しない訳がない。
しかし、民兵は怯え半分だった。
何しろ、前例がある。
ガーディアンの女を拉致し、1人を殺害したギルドは、ガーディアンにギルドごと皆殺しにされたからだ。
実際それをやったベルム街でナンバー2と言われたギルド・アーケロンはリストごと抹消されている。
そんな報復が自分の身に襲い掛かるのでは無いだろうかと言う不安があるのだ。
その一方で、やはり箍が外れて暴走気味な奴もいた。
「なぁ、こいつどうする?」
目の前には、手首を縛られたクリスタが転がっている。
「どうするっていつも通りだろ?こんな上玉逃す訳にもいかねぇし、インキュバスの苗床にするに決まってる」
「ガーディアンの噂は知ってるだろ?奴ら、拐われたメンバーに危害を加えたら徹底的に報復されるんだぞ⁉︎」
「関係あるか!こいつ1人にどれだけ苦労したと思ってやがる!いいから犯っちまえ!」
リーダー格の男はそう言うと、16歳のクリスタの身体に手を伸ばした。
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クリスタ視点
迂闊だった。
私が魔術に引っかかってしまった事で兄さんとはぐれ、直後にこの街の民兵に襲われた。
応戦したけど……弾数の少ないマークスマンライフルはすぐに弾切れ。
拳銃もほとんど撃ち尽くした。
ナイフでも戦おうとしたけど、多勢に無勢、すぐに捕まってしまった。
手首を頭の上で縛られ、脚は動く範囲が限定されている。
私の周囲では、10人ほどのインキュバスやヒトの男達が下卑た笑みを浮かべて私を見下ろしていた。
「なぁ嬢ちゃん、今どんな気持ちだい?殺してた奴らの仲間に、今から犯されるのはどんな気持ちだい?」
「……」
ギャハハハと下品に笑う奴らを無視して私は黙ってリーダー格を睨み付ける。
「おおぅ、ゾクゾクするねぇ、その反抗的な目!その反抗的な目を屈服させるの凄い好きなんだよなぁ……」
嗜虐心を刺激されたのか、ニヤニヤと笑いながら私の身体に手を伸ばす。
リーダー格は私の上に馬乗りになり、胸を掴んだ。
「ひはははは!その態度はいつまで続くかな⁉︎」
リーダー格はコンバットシャツの裾に手をかけて、腹の辺りまで捲る。
ふざけるな、お前の汚い手で私に触れるな。
私に触れられるのは、兄さんやガーディアンの仲間だけだ!
そう啖呵を切ろうとした時、不意にドアが叩かれた。
ドンドンドン、と、こいつらの仲間とはまた違う叩き方。
予想外の出来事に時間が止まりかけたが、何かを察した奴らがドアノブに手をかける。
それをカバーするように剣を構えた奴が横に並ぶ。
男がドアノブを捻った瞬間。
耳を劈く銃声。
同時にドアノブに手を掛けていた男の腕がドアノブごと肩までぶっ飛んだ。
右腕を丸ごと喪った男は驚いて状況が把握出来ておらず、凄まじい出血の中呆然としている。
続いて横に並んでいた男が壁ごと頭をブチ抜かれ、頭部が消え去った。
乱暴にドアが開けられると、私の目には真っ先に兄さんが映った。
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ランディ視点。
カーンズがドアノブと鍵をまとめて吹っ飛ばし、俺がドアを蹴破った。
それに合わせて7人全員が室内に雪崩れ込み、射撃した。
セレクターをフルオートに合わせていたMP7A1を構え、中にいる奴らに照準を合わせる。
トップレールに搭載されているSightmark Sure Shotオープンダットサイトのレティクルに敵を重ね、引金を絞る。
ダラララッ!ダラララッ!ダラララッ!
指切りバーストで3〜4発ずつ敵に対して4.6×30mm小口径高速弾を叩き込み、床に薬莢が落ちて澄んだ金属音を奏でる。
金属の鎧を身に纏い防護している者もいるが、ボディーアーマーに対しても高い貫通力を発揮するMP7A1と4.6×30mm小口径高速弾の敵では無い。
クリスタに覆い被さっていた奴に指切りバーストを叩き込み、全員を始末した。
4.6×30mm小口径高速弾はP90の弾薬の様に弾丸の重心が後方にある為、被弾した体内で弾丸が縦回転して止まるので貫通しない。
そのまま倒れてクリスタにのしかかりそうになったので襟首を掴んで壁まで投げ飛ばした。
「クリア!」
「クリア!」
「クリア!」
「ルームクリア!」
全員が全員に弾丸を叩き込み、血の匂いで部屋が溢れかえった。
「クリスタ!大丈夫か⁉︎」
「うん、大丈夫」
クリスタの様子を確かめる。
外傷は擦り傷が幾つかあるが、骨折等の大怪我は無い。
犯された形跡も無いし、大事には至らなかった様だ。
ヘルメットとプレートキャリアは脱がされているが、破壊はされていない。
RSASSも無事だ。
ベルトに取り付けられている鞘からナイフを取り出し、クリスタを縛っているロープを切断して拘束を解く。
クリスタはロープの外れた手首の具合を確かめる。
手首が少し赤く後が残ったが、特に問題は無さそうだ。
「うぅ……クソ……」
足下に転がってた男が呻き声を上げる。
まだ息があったか、タフな奴め……
そう思い、持っていたMP7A1のセレクターをフルオートに、照準を男に。
すると、長い銃身が視界に入った。
カーンズのM82A3だ。
M82A3の銃口は、男の頭にピタリとつけられている。
無言で目を合わせ、頷きあって引き金を引いた。
俺もカーンズも、弾倉が空になるまで引き金を引き続けた。
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ヒロト視点
『ユニット1、次の道を左折、その後直進しろ』
『了解』
ヘッドセットには、C2からの通信が逐一入る。
分断された前方は応急的に"ユニット1"のコールサインが与えられ、OH-1のC2の誘導に従っている。
後方の部隊______便宜上ユニット2とする______は、合流の為街を離脱、反対側から街に再突入する為に迂回している。
今の所、攻撃は一応は止んでいるが、街からは未だ銃声が聞こえてくる。分ユニット1が交戦しつつ街を離脱しているのだ。
そんな中、俺はエリスに目配せ。エリスも同じ事を考えていたらしく、頷く。
そして小隊本部への無線を入れた。
「HQへ、こちら1-1。狙撃小隊と合流して支援に向かいたい。オーバー」
現在はこのコンボイへの攻撃は無い、その為俺は、救出の支援か、救出後こ火力支援に向かえると判断した。
返事は少し待った。
『こちらHQ、コンボイの護りはどうするんだ?オーバー』
「分隊を2つに分ける、1つはコンボイの護衛、もう1つは徒歩で合流地点Bへ向かい狙撃小隊と合流、支援を行う」
『……分かった、C2、聞いていたな?狙撃小隊に合流地点Bへ向かう様に指示を』
『了解、通信をリレーする』
『大翔、良いぞ。気をつけろよ!』
「了解!エリス、コンボイの護衛を任せても良いか?」
「もちろんだ、任せてくれ」
10秒程後、コンボイが減速停車する。
1-1を2つに分け、1つの班が狙撃小隊と合流して支援する。小隊本部とユニット2は街を迂回して、分断されたユニット1と合流後に合流地点Bで狙撃小隊と合流地点する。
トラックから降りたのは、俺とグライムズ、ヒューバート、ブラックバーンの4人。
ヒューバートはM4をトラックに置き、分隊支援火器手としてM249MINIMI PIPを装備した。
グライムズはダネルMGL-140を持たない、市街地では重く取り回しも悪く、目立つからだ。
俺達はそのまま合図をして車輌部隊を離れる。
俺は暗視装置越しの緑色の世界では、車輌部隊を見送った。
「全周警戒!」
銃身を短く切り詰めたM4A1 CQB-RやM249MINIMIを構えながら、音を立てずに市街地に侵入していく。
時刻は21:30。部隊撤収の為、逸れた車輌部隊と狙撃小隊との合流が本格的に始まった。
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ランディ視点
血の匂いで溢れかえる一室。
原型を留めていない元々人だった血塗れの肉塊が1つ。
心臓や頭に5.56mmや7.62mm、4.6mmの弾丸を食らっている死体他多数。
俺は空になった弾倉を新しい物に変え、カーンズもバズの背負っているバックパックから新しい弾倉を受け取り装填していた。
クリスタはローレルやシェリーから弾薬の再配分を受け、ローレルのM14SEとシェリーのMSG-90A2の弾倉から抜き取った7.62×51mmNATO弾をR11 RSASSの弾倉に詰め込んでいく。
それを待っている間に、無線が届いた。
『S、こちらC2。今そちらに1-1のユニットが向かっている。君達は合流地点Bに向かえ、1-1のユニットが合流して支援を行う、オーバー』
「S了解、合流地点Bに向かう。それからクリスタ救出作戦は成功、クリスタは無事だ。オーバー」
『了解、成功した良かった。だが合流地点Bに到着するまでは気は抜くな、必ず全員生きて帰れ。アウト』
それだけ聞くと、無線を切る。
ふと視線を巡らせると、カーンズと目が合った。
「……サンキュ、助かったぜ」
「はっ、何言ってんだ。同じガーディアンの仲間だろ?貸しはチャラだな」
「そいつはありがたい、恩に着るよ」
俺はカーンズに礼を述べると、カーンズはそう言いながら、俺の肩をバシバシと叩くが、悪い気はしない。
いつの間にか、俺がカーンズに抱く負の感情は無く、仲間としての連帯感が生まれていた。
クリスタの方を見る。
どうやら弾薬の再配分は終わった様で、RSASSのコッキングハンドルを引いて初弾を装填していた。
俺も.338Lapua Magが10発詰まったマガジンをポーチから取り出して、M24に再装填する。
カーンズがその間に皆に声を掛ける。
「C2から合流地点Bに移動しろと命令だ、行くぞ」
「「「了解!」」」
俺達はそう返事をすると、血生臭い部屋から飛び出して合流地点Bに向かって移動を開始した。