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第62話 捕虜と逸れたHMMWV

「何……だと……⁉︎クリスタが……」


無線はオープンチャンネル、小隊本部にも聞こえている筈だ。

脳裏にノエルの事件が蘇る。


「見せしめが効いていない……それ程奴らは捨て身なのか……?」


エリスがそう呟くが、俺は違うと思う。


「いや、そうじゃないかもしれん。多分、"捕虜"に関しては、適応しないと考えている筈だ……グレーゾーンだったな……」


『了解分かった、1-1、こちらHQ。応答しろ』


小隊本部から無線の呼びかけだ。

俺は無線のPTTスイッチを押し、咽頭マイクに声を伝える。


「こちら1-1だ、どうぞ」


『大翔、こちらは一杯一杯だ。狙撃小隊を単独で救出に向かわせたい』


どうやら健吾も同じ事を考えていた様だ。


「……分かった、ダーターを援護に向かわせてくれ」


『おう。狙撃01(スナイプ・ワン)、狙撃小隊本部と合流し、クリスタ救出に向かう事を許可する』


狙撃01(スナイプ・ワン)、了解、クリスタ救出に向かう!』


その後、俺はランディへ直接無線を繋ぐ。


狙撃01(スナイプ・ワン)、聞こえてるな。俺達は敵に足止めされていて手一杯だ……協力して救出に向かってくれ……そして全員生きて戻ってこい」


『……了解!』


ランディはそう答えると、無線を切った。

俺は声に出さず、済まない……と呟いた。俺は行けるのなら、今すぐにトラックを降りて救出に向かいたい。

しかし、分断された前方の車輌も気掛かりだし、この車輌部隊の護衛を放棄する事も出来ない。


俺はどちらかを選ぶ他になかった。


===========================


HQとヒロトさんから、救出作戦の許可が下りた。

しかし、AH-6M(キラーエッグ)の援護があるとはいえ、狙撃小隊だけで、だ。


狙撃小隊を集め、救出作戦に入る。


「ランディ!」


小隊の仲間と合流、現状を報告した。

大体の事情は、皆も無線で聞いていたらしい。

車輌部隊が分断され、その救出にも当たらなければならない為、本隊からの支援・援護は望めない。

しかしその代わり、本隊の支援からAH-6Mを送ってくれるという。


その証拠に、頭上にはAH-6Mキラーエッグの飛ぶ音が聞こえる。


「……皆の力を借りたい……頼む……!」


狙撃小隊は暫くの沈黙に包まれる。


「……しょーがねーな!」


その沈黙を破り、真っ先に声を上げたは、なんと最もランディと狙撃論争で対立していたカーンズだった。


「カーンズ……」


「その代わり、高くつくぜ?」


「返せるか分かんないけどな」


それを皮切りに、俺も私もと声が上がり全員が救出作戦に名乗りを上げた。


「カーンズ、お前の対物ライフルの破壊力が、鍵になる。頼めるか?」


「ああ、任せろ!」


こうして狙撃隊だけでの、クリスタ救出作戦が始まった。


===========================


バレットM82A3対物ライフルの射手を務める狙撃小隊隊長のカーンズ。


その助手・副官で、Mk12 SPRを装備するバズ。


レミントンMSRを手にし、ランディに次ぎ、精密射撃を好む、長い銀髪のアンナ。


その相棒としてMk12 SPRを構える、短い赤毛の小柄なエル。


H&K MSG-90A2を装備する、ヘルメットではなくブーニーハットを好むシェリー。


シェリーとペアを組み共にマークスマンを務め、スプリングフィールド M14SEクレイジーホースを持つローレル。


そして、.338Lapua(ラプア) Mag(マグナム)を発射できる様に改良したM24SWSを手にする俺。


7人の狙撃兵が、クリスタを探して街を奔走する。

そんな彼らの応急的なコールサインは、Sniper(スナイパー)から取られた"S(シエラ)"だ。


S(シエラ)へ、次の角に武装したインキュバスの集団がいる、ダーターが支援するから機銃掃射後に移動せよ』


ナツが乗る指揮統制ヘリ、C2(シーツー)(コマンドコプター)からの通信だ。先頭を行くシェリーが手鏡で角の向こうを一瞬確認。

夜も深くなり真っ暗だが、星の光すら増幅してしまうAN/PVS-31双眼型暗視装置のお陰で、確かにインキュバスの集団が向こうから大剣や弓矢を持ってゾロゾロと歩いてくるのが見える。


『こちらダーター52(ファイブ・ツー)、援護する』


バラララ……と羽音を響かせて飛来するAH-6Mキラーエッグ。

そのスタブ・ウィングに装備されているM260ランチャーが火を噴いた。

2発の70mm(2.75インチ)ロケット弾が撃ち出され、群衆の真ん中に着弾して炸裂する。


悲鳴と爆風が織り交ぜられ、続いて猛烈な銃声が空を裂いた。

M134ミニガンが7.62mmNATO弾の奔流を吐き出していく。

毎分4000発以上の速度で発射された7.62mm弾はインキュバスの集団を薙ぎ払った。


「GO!」


合図と共に一斉に走り出し、道を渡る。

あの銃弾と爆風の嵐で生き残りがいたのか、物凄い勢いの矢を放って来る。


何しろ直射ではベニヤ板など簡単に貫通するのだ、恐らく45ACPや9mm拳銃弾と同程度の威力はあるだろう、そんなパワーで弓を引けるのだ、インキュバスは。

喰らったらひとたまりも無い。


路地に入ると、C2のナツから通信が入る。


S(シエラ)へ、クリスタを発見、3ブロック先の左側の建物の2階だ。敵が数名いる』


「了解!」


その通信を受け、目標建物まで移動する。


待ってろよ、クリスタ……!


===========================


一方、分断された2台はと言うと……


衝撃が走ってから、軽いパニックに陥っていた。


「っ⁉︎クソ!何だ⁉︎」


「敵襲!」


1号車の助手席に座っていた第3分隊の副官、ルイズ・バルスターは、凄まじい揺れを感じた。

運転手のトミー・ストロングが異変を感じてブレーキを踏む。


「ルイズ!後方に壁が出現!分断されたぞ!」


銃座に付いていた第4分隊のGPMGガナー、マシューズ・デーモンがそう叫ぶ。

ルイズが窓から顔を出して後ろを振り返ると、2号車の背後に巨大な土壁が出現し車列を分断していた。


「おい!どうする!」


「指揮官クラスは全員向こうだ!マズいぞ!」


すると、ルイズは建物の屋上にモゾモゾと動く影を確認した。

その影は矢を番えた弓を引いており……


「ヤバい!敵だ!」


ルイズはそう叫んだ。

次の瞬間、装甲車の表面をガンガンと矢が叩く。


「くそッ!狙いやがって……!C2!こちら1号車2号車!攻撃を受けている!」


『了解、発砲を許可する』


「了解!発砲許可ァー!」


その声と同時に、頭を引っ込めていたマシューズが再び銃座から身を乗り出し、搭載していたブローニングM2重機関銃を持つ。


コッキングレバーを2度引き、八の字型の押金を押す。

他の銃器では出せない様な銃声が響き渡り、土壁に隠れた敵を壁ごと撃ち抜いて行く。


「敵がどんどん湧いて来る!ここから離れよう!」


「でも指示が……!」


パニックに陥りかけたその時、上空を飛ぶC2(コマンドコプター)から通信が入った。


『こちらC2、1号車2号車へ、本部からの無線をリレーする』


『こちら第3分隊ストルッカ!ルイズ!お前が指揮を執れ!そこから離れろ!』


「えっ?」


ルイズは第3分隊の副官だ、直接指揮を執った事はまだ無い。

しかし、彼は元騎士団、腹を括った。

騎士団でも、求められた事はやり遂げてきた。ガーディアンでも同じだろう……!


「……り、了解!」


それだけ言うと、無線を切った。

我らが第3分隊の隊長から頼まれたんだ、応えなきゃ仕方ないだろう!


「よし!お前ら行くぞ!トミー取り敢えず走れ!」


「わかりました!」


トミーはすぐに応答し、アクセルを踏みこむ。

運転手、ガナー以外は窓から銃口を出して射撃を開始する。


暗視装置越しに映る緑色の世界は、車輌が加速するにつれて後方に流れていった。

前方を見ると、バリケードが築かれており、その手前に左に曲がれる道がある。


「左に曲がれ!」


『左はダメだ、袋小路になっているぞ』


上空から地形を把握しているOH-1からの通信が入った。


「なっ⁉︎じゃあどうするんだ⁉︎」


『前方のバリケードを突破するしかない』


「ルイズ!どうするんだ⁉︎」


運転手のトミーからも急かされる。

左に曲がれば、袋叩き間違いなしのコースだ。


「ああっ!くそッ!目標前方のバリケード!撃て!レーム!パンツァーファウスト!」


ルイズは矢継ぎ早に指示を出し、指示通りに隊員が動く。

後部座席に居たレーム・ファルマンが後方で"準備"をし、マシューズは前方のバリケードをM2で射撃していく。


重い銃声に乗った12.7mm弾がバリケードに次々と穴を空け、脆くしていく。


「マシューズ!代われ!」


「あい!」


マシューズがM2のグリップから手を離し、銃座から引っ込む。

彼に代わって出て来たのはレームだ。

レームはパンツァーファウスト3を担ぎ、前方のバリケードに照準を合わせ、後方の車輌がバックブラストをモロに浴びない様に射線を少し斜めに取る。


搭載している照準器の向こう側にバリケードを合わせ、ガク引きにならない様に引き金を引いた。


ボン!


カウンター・マスを後方から噴き出し、弾頭を撃ち出すパンツァーファウスト3。

弾頭は人の少ないバリケード左側へと飛び、爆風によってバリケードを吹き飛ばした。


少しでもHMMWV(ハンヴィー)を食い止めようと、敵はHMMWV(ハンヴィー)に対して矢を放って来るが、こちとら装甲車だ。

前面ガラスもポリカーボネートの防弾仕様、いくら強化したところで、弓やクロスボウから放たれる矢で貫通される程ヤワでは無い。


時折、初級の炎魔術である"ファイア・ボール"や中級の"フレア・ジャベリン"がHMMWV(ハンヴィー)に向けて放たれるが、弾速が遅く、余裕を持って回避出来る。


"ファイア・ボール"が1号車後方に命中したが、装甲は貫通せず後輪を滑らせるだけに止まった。


「大丈夫か⁉︎」


「ええ!走行には支障なし!このまま突破します!」


「行けぇぇぇ!」


トミーが更にアクセルを踏み込む。

パンツァーファウスト3の攻撃により穴が開いたバリケードの端をHMMWV(ハンヴィー)は突破する。


軽装甲のHMMWV(ハンヴィー)は残っていたバリケードを弾き飛ばし、フロントグリルに跳ね飛ばされたバリケードは何処かへ飛んで行く。


とにかく、一刻も早く本隊と合流せねば……

そんな思いを抱え、1号車2号車の8人はOH-1の指示通りにHMMWV(ハンヴィー)を走らせた。

結構初期から装備品としてあったパンツァーファウストⅢがようやく登場、まさかこう使うとは思わなかった。

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