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第61話 分断された車列

ハンドルを左に切る、バリケードは無い。

HMMWV(ハンヴィー)1号車に続いて、続々とコンボイが左折する。


狙撃班も、合流地点A(アルファ)に向かって移動をしているとの情報が、小隊本部に逐一届く。


今の所は順調、このまま街を抜け、狙撃班と合流して帰投出来ると思われた。


だが……


ズゴォン!


凄まじい音と共に空気が震え、次の瞬間車輌が停止する。


急ブレーキの慣性で前方へ飛ばされそうになるのをグッと堪える。

すると、無線が急激に慌しくなった。

耳を傾ける。


『くそッ!こちらHMMWV(ハンヴィー)3号車!前方の1号車2号車との間に土壁が出現!アース・ウォールだ!分断された!』


『屋上に敵兵士多数!狙われてるぞ!』


狙われてる、と通信が入った時、ガツンガツンと車体に何かが当たる音が響く。矢で攻撃されているのだ。


矢はトラックにも降り注ぎ、幌張りの荷台を難なく貫通する。


「いやぁっ!」


そのうちの1本が女性の肩に刺さり、悲鳴を挙げる。


「エリス!小隊本部より衛生兵を呼べ!」


「了解!」


エリスにそう言うと、エリスは背負っているバックパック式無線機、AN/PRC-117Gで小隊本部と連絡を取る。


「正当防衛射撃開始!」


「「「おう!」」」


トラックから降車、ターゲットは攻撃してくる"敵"だ。


EOTech553ホロサイトのスイッチが入っているのを確認、AN/PVS-31双眼型暗視装置を付け、敵の位置を特定。

セーフティを解除、セミオートで射撃する。


光学照準器と暗視装置は目と接眼レンズの間隔(アイリリーフ)の関係上、同時使用が出来ないと言われているが、アイリリーフを考慮して光学照準器を搭載すれば充分に可能だ。


グライムズやアイリーンはダネルMGL-140グレネードランチャーを、ヒューバートとエイミーはM249MINIMIをトラックから持ち出して射撃を開始する。


HMMWV(ハンヴィー)4号車からセレナ、5号車からスニッドが降車し、トラックへ移る。


「全員乗れ!」


ある程度牽制射撃を入れ、再びトラックへ乗り込んだ。


===========================


ガレント視点


突如としてコンボイが止まり、銃撃戦が始まった。

敵は弓矢やクロスボウで俺達を攻撃してくるし、車体に矢がガツンガツンと当たり、音を立てる。


「っ!くそ!正当防衛射撃!」


「「了解!」」


トラックを幌の隙間や後部から外へ銃を向け、射撃を開始。


薬室に初弾装填しようとしたその時、銃声の中、クスクスという音を聞いた。

音というより……声だ。

車内を見回すと、麻袋を被された経営者が笑っているかの様に肩を震わせている。


俺は麻袋を剥ぎ取る、案の定笑っていた経営者の胸倉を掴む。


「この攻撃は貴様がけしかけているのか⁉︎」


「くっははは……そうさ、俺の配下の奴らだ!インキュバスを売る見返りに俺に付けと言ったんだ、インキュバスは即戦力として投入出来るから需要があるんだ、これをビジネスにしてたのさ!」


くそ、このゴミ野郎め……


「言っておくがインキュバスの力は強いぞ、成人男性の2〜5倍だ、個体差によってまちまちだがな。でも確実にヒトより力はある、そんなインキュバスがこの町には1000人も居るんだ。1000の民兵にガーディアンはどう対処するかな?はっはははは!」


俺は舌打ちをして経営者の顔面を銃床で殴りつけた。

歯が何本か折れ、口からは血がぼたぼたと床に落ちる。


「クソ野郎め……下衆いビジネスの為に女性を誑かしやがって……」


丁度小隊本部から来たスニッド・キャスターに経営者の治療を頼み、改めてチャージングハンドルを引いて初弾装填。

屋根や窓に潜んでいる敵に向かって射撃していく。

その内、コンボイが走りだす。

俺はそのタイミングでヒロトさんに無線を繋いだ。



===========================


ヒロト視点


『ヒロトさん!この民兵はこの経営者の配下の奴らです!インキュバスが混ざってます!』


「了解、全員聞いたな⁉︎いつもより注意を払って対処しろ!」


「「「了解!」」」


俺は無線をオープンチャンネルにし、全員に呼びかける。

分断された前方の車車輌が気掛かりだ。


「分断された前の車輌に指揮官はいるか⁉︎」


『こちら第3分隊ストルッカ!副官のルイズが前に居ます!』


「前の指揮を取らせろ!健吾!このコンボイを向かわせよう!」


『あぁ!元からそのつもりだ!行くぞ!出発しろ!』


『了解!』


現状先頭になった3号車の運転手であり第3分隊長ストルッカがハンドルを切り、アクセルを踏んでコンボイを走らせる。


『誰か50口径につけ!』


誰かがそう言うと、前方の車輌部隊から銃声が響き始めた。

HMMWV(ハンヴィー)のターレットに搭載したブローニングM2重機関銃が火を噴き、敵を薙ぎ払う。


バリケードになっていた野次馬の大半は本物の野次馬らしく、銃声が響くと直ぐに退散していった。

退散せず、むしろ攻撃してくるのはこの街の戦闘ギルド達だ。


『ルイズ!お前が指揮を執れ!そこから離れろ!』


『えっ……!り、了解!』


『小隊本部よりC2、ポーラスターを要請!コンボイを誘導してくれ!』


『C2了解、ポーラスター、スクランブル!』


オープンチャンネルの無線からそう聞こえる。

ストルッカは分断された前方の車輌部隊に指示を出し、健吾は上空を飛ぶC2ヘリのナツに通信を入れ、基地へOH-1ヘリを要請、誘導を頼む。

殿を走る俺達は、後方から攻撃してくる敵に対処する。


「伏せてろ!」


セレナは射抜かれた女性の治療をし、俺達が後方へ射撃する。

追い立てる様に矢を放ちながら馬で走って襲って来る賊を撃ち倒し、路地から追い打ちをかける敵を掃射する。


『ダーター51(ファイブ・ワン)、前方にいる敵群を掃射してくれ』


『ダーター51(ファイブ・ワン)、了解』


後方からヘリの爆音が車輌を追い抜き、直ぐさま銃声に変わる。

2門のM134ミニガンが火を噴いて前方の群衆を掃射した。


出来た穴を通り抜けるコンボイ。

エイミーとヒューバートが後方へ弾幕を貼り、その援護にグライムズとアイリーンが着く。


俺とエリス、ブラックバーン、クレイはトラックの荷台の隙間から射撃し、敵を牽制する。


見え辛いが、幌の隙間から銃口を出し、ホロサイトで狙ってセミオートで射撃する。


ダン!ダダン!ダン!ダン!


反動が銃床(ストック)を伝わり肩に肩に食い込み、銃口からは5.56×45mmNATO弾が撃ち出される。

暗視装置越しに、胸や肩、時々頭に弾丸が当たって斃れる奴らが良く見える。


弓を引き矢を放つ兵や、クロスボウを撃ってくる兵も見える。

火球や氷柱の攻撃魔術を放ってくる魔術師も居るが、コンボイは常に走っている為速度は合わず、幸いにも当たらない。


その時だ。


「ヒロト!」


俺の副官と無線兵を兼ねていたエリスが俺を呼ぶ。

エリスの声色から、何かしらあったのは明白だ。

俺は恐る恐るといった感じで、無線機に耳を傾けた。


===========================


ランディ視点


幾つかの建物の屋上から屋上へ飛び移る。

ポイントに近くなってきた時、階下から何かを感じ取った。

ランディは血の気が引く、この世界の人間で魔術が使えれば感じ取る事が出来る______魔力の流れだ。


「っ!来るぞクリスタ!」


「⁉︎」


ばっ!と飛び越えた路地から風の矢が飛び出してきた。

俺はその路地へ、ポーチからMK3A2攻撃手榴弾を取り出し、ピンを抜いて落とす。離脱を再開。


5秒ほどの後、背後から爆発音と悲鳴が聞こえた、効果はあったようだ。


再び2つ、3つと路地を飛び越える。建物の隙間はまるで大きなクレバスだ。

また、前方のクレバスに魔力の流れを感じた。ポーチからM67手榴弾を取り出してピンを抜く。

先に手榴弾を投擲、路地を落下し_____


ズドン!


爆音、爆風、煙。

敵を倒したらしい、路地を飛び越えた。


次の瞬間、消えていた魔力の流れが復活する。


「クリス______!」


ビュゴゥ!


「きゃぁっ!」


俺の声を遮り、路地から暴風が吹き上げる。

飛び越えていた途中だったクリスタは、暴風に巻き込まれて飛ばされる。

飛ぶ、と言う表現は、間違っていない。

渦を巻く空気の流れに吹き飛ばされ、舞い上がる。


俺はすかさず路地へMP7A1を向け、下に向けてフルオート射撃を行う。


ダララッ!ダララララッ!


4.6×30mm小口径高速弾は下の路地にいた魔術師に吸い込まれ、目標は血を吹き出して絶命する。


邪魔は排除したが、クリスタが魔術発生した旋風に巻き込まれて飛ばされてしまった。

落ちるところは見た、3ブロック先だ。

クリスタとの無線を繋ぐ。


「クリスタ!おいクリスタ!大丈夫か⁉︎」


『いてて……うん、大丈夫、何とか落ちるまでに魔力を集中出来た』


まずクリスタが無事、それにホッとした。

気を取り直し、もう一度脱出プランを立てる。


カーンズ達も脱出中だ、こちらに来れるとも限らないし、何かアイツに借りを作る様で気が引ける。いやいや、そんな事を言っている場合ではない。


「……クリスタ、よく聞け。合流ポイントまで自走できるか?」


『……何とか行ける、銃も撃てるよ』


「よし分かった、俺は出来るだけお前を追うから、お前は自分で合流ポイントまで向かうんだ。良いな⁉︎」


『わかった……けど、敵さんは私に気付いた見たいっ⁉︎』


……ヤバいな、早く行かないと。

クリスタは今1発も撃っていないとは言え、マークスマンの為弾薬は普通のライフルマンより少ない。

4本+銃についてる1本の計5本、100発の7.62×51mm弾だ。


と、新たな銃声が響き始める。

さっきから響いている()とは違う、7.62mmの重い音、クリスタのRSASSだ。


急がないと……!


幾つか建物を超える、クリスタが撃ったと思われる銃声は、既に30を超えていた。

1度、再装填の様な間もあった。

俺はさっき撃ったMP7を思い出す。そう言えば弾切れまで撃ってボルトストップかかってたんだった。

走りながら再装填、空のマガジンを外して新しいマガジンと交換、ボルトリリース・レバーを押し下げてボルトを前進させる。


耳を澄ます、2度目の"間"だ。これでクリスタは多分、40発は撃った。

銃撃音は更に早く、激しくなる。

恐らく敵に囲まれているんだろう、弾切れになるのは時間の問題だ。


俺は低い屋根に飛び移り、地上へと降りる。

降りた瞬間に、敵が襲い掛かってきた。


MP7A1を構え、フルオートで発砲。


ダラララッ!ダラララッ!ダラララッ!


路地に置かれている木箱を遮蔽物に、指切りバーストで路地の角から弓、クロスボウ、魔術で攻撃してくる敵に対して射撃する。


40発撃った、リロードだ。

しかし、リロードしている時間は無い、好機と見た敵が角からわらわらと10人、剣を持ったりクロスボウを持ったりで俺に襲いかかろうとする。


俺は素早くMP7A1から手を離す、スリングのお陰で地面に落ちない。

背負っているM24SWSを手に取り、スコープカバーを外す。

人差し指と親指でボルトハンドルを掴み、中指を立てる。

そして掴んだボルトハンドルを動かし、ボルトを戻した時に中指で引き金を引く。


ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!


ボルトアクションとは思えない連射で.338Lapua Magが放たれ、敵を正確に射抜いていく。


人差し指と親指でボルトハンドルを操作し、中指で引き金を引く速射テクニック______名前は無い。

ラピッドファイアとでも名付けようか。


10人全員を撃ち倒した俺は、すぐにその路地を抜ける。

合流地点まで残り3ブロック、もう直ぐだ。


今度は7.62mmの重い音では無く、9mmの軽い音が聞こえてきた。

弾薬が尽きたのか……⁉︎


『兄さん、弾薬がもう______ザザッ』


「⁉︎クリスタ⁉︎おい!応答しろ!」


突然、クリスタとの交信が途切れる。

もう、何かあったのは確実だ。


前回の事件から、理不尽に捕らえられる事は無くなったとはいえ、POW……つまり、捕虜については、虐待や殺害が無い限り、どこまで効くかはわからないグレーゾーンだ、というのは、ヒロトさんから聞いていた。


通りへ出る。


丁度、クリスタが捕縛されて連れ去られるところだった。


素早くリロード、距離は500m。

狙いを定め、"ラピッドファイア"で発砲したが、後方の2〜3人に当たっただけだ。

銃声を聴かれたのか、クリスタを囲む男の歩みが早まる。


弾丸を逃れた弓やクロスボウを持つ兵士が一斉射をして来た。

俺は建物の陰に隠れ、矢の雨をやり過ごす。


再び顔を出した時は、既にクリスタを囲んで連れ去った後だった。

俺は直ぐに無線を繋ぎ、報告する。


狙撃01(スナイプ・ワン)よりHQ(小隊本部)へ、クリスタが捕虜になった!繰り返す、クリスタが捕虜になった!」


自分の妹が目の前で捕虜になった報告をする程、辛い事は無かった。

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