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第60話 移送開始

「皆さんにはこの後、避難していただきます。誘導に従って下さい」


女性の集団が頷く。

無線をつけて誘導係を呼ぼうとしたが、地下なだけあって電波状況は良くはない。

何とか通信出来るもののノイズが酷い。

1階を全て制圧したと第2分隊からの報告があったので、先に上を避難・拘束させる。


俺は未だ殺処分を続けているブラックバーンとクレイに一声かける。

そして拘束されていた女性に向き直り、犯されていた女性達も檻から救出し、外へと連れて行く。


「うぉっ!ヒロト!どうしたんだ?」


上で監視していたエリスに声をかけられる。

疚しい事は全く無いので普通に答えた。


「地下で保護したんだ」


と言って俺はエリスに近寄る。

女性達に聞こえると不味いかな……と思い、エリスの耳元で抑えた声でいう。


「……地下でインキュバスの苗床になっていた人達だ、救出後保護して連れて行く」


エリスはあからさまに顔を顰める、同じ女性だ、不快感を感じない訳が無い。


「……わかった。だけど外は寒いぞ、彼女達は半裸だ」


「ああ、新聞紙はあるか?」


「?あぁ、あるにはあるぞ。裏口に積まれてる」


「さんきゅ」


俺は新聞紙を探しに1度裏口へ向かう。

これだけあれば足りるか……と目算で積まれていた新聞紙の束を手にとって店内に戻る。


店内の客は既に第2分隊が取り締まりの上で解放、従業員及び経営陣は軒並み逮捕され外に連れ出されている。


俺は束を解き、1人あたり2枚ほど新聞紙を渡す。

前世でキャンプ・サバイバル知識がここで役に立つのだ。


新聞紙は意外と万能で、丸めて棒状にすればまき1本分の火力を得ることが出来るし、広げて羽織れば毛布1枚分の暖かさを得る事が出来るお手軽な保温道具と化す。


靴は……申し訳ないが諦めて貰った。

スマホを持って来ていない為召喚は出来ないし、今は用意している時間は無い。

代わりにトラックの床に新聞紙を敷いておこう。


新聞紙の材質は日本のものと違い、紙質は悪い。

でも大きさは日本の物とあまり変わらないので助かった。


「エリス、彼女らをトラック2号車に連れて行ってくれ。エイミー、新聞紙の余りをトラックの床に頼む」


「了解」


俺は店を一回りし、隠れている奴が居ないか確認する。

荷物の隙間やカーテンの裏、棚の後ろなど隈なく捜索、人影は見当たらない。

こう言った仕事の決まりだ、店にある売り上げを全て没収し、金銀銅に大小様々な貨幣を麻袋に入れていく。

この金はギルド組合に提出するもので、組合を通して税金になりインフラ整備や公共事業に使われたり、余剰分はギルド組合員の給与になったりする。

金貨だけで約200枚、その他を合わせて麻袋に4つになった。


店内で証拠集めをしていたグライムズとアイリーン、ヒューバートも不正金銭取引の証拠となるものが見つかった様でサムズアップで合図。

俺は外へ運び出す様に指示を出した、この人数だと流石に早い。


地下からの銃声は聞こえなくなり、それが殺処分が終了した事を知らせている。


暫くして、地下からクレイとブラックバーンが上がってきた。

2人は手提げ鞄程の袋にインキュバスの角を一杯に入れていた。

魔物を狩った際、換金できる素材があれば切り取ってギルド組合に持って行く事になっている。

例えばこのインキュバスの角だと、魔術薬品になったりする様だ。


「終わったか?」


「ええ、終わりました推定20歳以上のインキュバス10人、生まれたばかりの子供6人、全員射殺です」


「よし、よくやった。行くぞ」


俺は2人を連れ、店の外へ出る。

半地下の階段を上がると、ガレント始め第2分隊員が10人程の店員を拘束していた。


エリスとエイミーは既に車輌を守っていた部隊に捕らえられていた女性達を預けていた。

ガレントに声をかける。


「ガレント、拘束を第1分隊が引き継ぐ、第2分隊を率いて店内の没収金を回収してくれ」


「了解、ヒロトさん。第2分隊集合!回収に向かうぞ!」


「「「了解!」」」


彼らから監視を引き継ぎ、第2分隊は店内へ。

俺は持って来たものから麻袋を取り出し、逮捕した捕虜の頭に被せて視界を奪う。

俺が被せた奴はここの店長兼経営者だ。袋を被せて立たせ、頭を建物の壁に叩き付ける。


「ぐっ……」


「おっと、済まねえ」


「き、貴様……」


そのままトラック1号車に乗せ、奥に詰めさせる。


店内からガレント達が没収金の入った袋を手に出てきた。

トラックに分けて積み、作業は完了。

救出した女性達も、トラック2号車に乗せ終わった。


「第1分隊よりHQ(小隊本部)、作業完了」


『第2分隊よりHQ(小隊本部)、作業完了』


『了解、狙撃手撤収準備、手筈通り合流地点にて狙撃手を回収する』


「了解、出発するぞ!」


車輌を守っていた第3、第4分隊と小隊本部は車輌を運転するために各車に乗り込み、第1、第2分隊も元々乗っていた73式大型トラックに乗り込む。

俺達第1分隊は、トラック2号車に。


『第2分隊、準備完了』


「第1分隊準備完了」


『了解、C2、車輌部隊出発!』


ブルル……と車体を小刻みに揺らしながら、73式大型トラックが動き出した。


===========================


ランディ視点


『狙撃手、撤収準備』


「了解、合流地点A(アルファ)に向かう」


建物の屋上で監視及び援護に就いていた各狙撃班にも撤収命令が下る。


それを聞いた俺は構えていたレミントンM24SWSカスタムのバイポッドをたたみ、スコープのレンズが破損しない様にカバーを閉める。

スリングでスナイパーライフルを担ぎ、銃をボルトアクションの射手が装備しているPDW___MP7A1に持ち替える。


Sightmark Sure Shotオープンダットサイトのバッテリーを入れ、クリスタと共に移動を開始する。


クリスタの手に握られているレミントンR11 RSASSはセミオートマチックライフルである為、俺の様にもう1丁持つ必要は無いが、精密さには欠ける。


精密だが連射のきかないボルトアクション射手を、精密さに欠けるが2発3発と撃てるマークスマンがカバーする。

これが現在のガーディアン狙撃班の構成だ。


そしてマークスマンは、観測手(スポッター)の役目を負う事がある。


今、俺の相棒は妹のクリスタだ。

レミントンRSASSで俺の援護についてくれる頼もしい妹だ。


建物の屋上から屋上へ飛ぶ。クリスタも同じ様に飛ぶ。

無線で他の狙撃班との連携を取る。


「こちら狙撃01(スナイプ・ワン)00(ゼロゼロ)、聞こえるか?」


00(ゼロゼロ)は小隊本部___カーンズの班だ。

彼奴は威力と射程ばかりで精度を気にしない狙撃手だが、連携は必要だ。

こう言っちゃ何だが、余り良い印象は無い。

クリスタにもちょっかい出してるしな……クリスタに何かあったら殺す。


『こちら00(ゼロゼロ)、聞こえてる。そちらの位置は?』


「現在西へ移動中、合流地点A(アルファ)に向かっている」


『こちらもだ、到着するまでにコケるなよ』


「どっちが」


俺はそれだけ言うと、無線を切った。


===========================


ヒロト視点


「このまま離脱すれば成功だ、上手くいったな」


「そうだな、だがまだだ。狙撃班を拾って街を出るまでは気を抜けない」


グライムズがそう言い、ブラックバーンが答える。

俺達はまだトラックに揺られていた。


原因は野次馬だ、野次馬がバリケードになっているせいで、当初のルートの変更を余儀無くされ、迂回しているのだ。

しかし、今の所戦闘にはなっていない。


車輌部隊の編成は、装甲付きのHMMWV(ハンヴィー) M1044が6輌、73式大型トラックが2輌だ。

先頭からHMMWV(ハンヴィー)1号車、2号車と来て6号車まである。


第1分隊と第2分隊はトラックに乗っており、第1分隊の乗るトラックは最後尾を走っている。

小隊長の健吾率いる小隊本部は5号車に、第3分隊長ストルッカは3号車、第4分隊長スティールは4号車に乗っている。


先頭を走るHMMWV(ハンヴィー)は右へ曲がり、町の中心部へ。

左へは人垣が出来ている為曲がれなかった。


「……おかしい、誘導されているみたいだ」


俺はそう呟くと、エリスがその呟きを拾う。


「あぁ……どうも不自然だな……それに攻撃が無いのも不気味だ」


「だな。全員、いつ攻撃されても良い様に準備しておけ」


「「「了解」」」


車輌部隊が俄かに慌しくなり始めた。


しかし、前を走る第2分隊が乗るトラックの中、麻袋を被せられた経営者が薄ら笑いを浮かべているのには、誰も気付かなかった。

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