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第57話 諜報偵察

次の日の午前中、俺達はレムラス伯爵に呼び出されていた。

ギルド組合を通じて要請があったのだ。


「風俗街⁉︎」


「あぁ、そうだ。こんな事を頼むのは心苦しいが……見てきては貰えぬだろうか?」


何でも、あまり大きな声で出来る話では無いが、ベルム街近郊の風俗街____前世でいえばキャバクラやホストクラブが林立する繁華街だ____で、法外な値段を請求する、いわゆるぼったくりが横行、伯爵の耳にも届き、被害が無視出来ないレベルまで来ているという。


「我々の兵士達が対応に当たっているが、我々では限界があるのだよ……」


「……わかりました、お任せを……」


前世でのニュースでもこういったニュースは良く特集を組まれていた。

俺はああいうのは大嫌いだ、街ごと吹っ飛ばしてやろうか……


「あ、あぁ、念の為言っておくけど、街ごと吹き飛ばすのは止めて欲しい。あそこが風俗街とはいえ、民間人も暮らしているし、こう言っては何だが、男性ギルドや兵の士気向上にも一役買っているんだ」


「……それは伯爵も、ですか?」


「まさか、私には妻も子供もいるのだ。たが男性ギルドや私の配下の兵達の士気があそこで養われているのは否定しきれないのでね……」


所謂"必要悪"って奴か……


「わかりました。ではその様に」


「すまない、頼む」


伯爵のその言葉で、会合は締めくくられた。

俺は素早く荷物を持って屋敷を出、車に乗り込む。


「市街地か……新しいヘリを出すか……」


そう呟き、車を基地へと走らせた。


===========================


基地へ戻り昼食を終えた俺は、作戦室に沢村、孝道、ナツを呼んだ。

そこで作戦を立て、全隊員を作戦室に召集する。

孝道が前へ出て作戦を発表する。


「伯爵からの要請があった、どうやら風俗街で悪質なぼったくりが相次いでいるらしい。今回は飽くまで"逮捕"が目的だ、敵を殺す事じゃない」


「周辺の4つの建物に狙撃分隊を配置して監視、狙撃分隊はリトルバードで屋上に降ろす。その後で車輌部隊を建物前に止め、突入。捕虜と証拠を回収したら狙撃隊に合図を出す。狙撃隊は合図があったら目標建物前へ集結、車輌に乗り込んで帰投する」


作戦概要の説明を終えると質疑応答に入る。

と、第2分隊のガレント・シュライクが挙手した。

孝道がガレントを指名すると、起立して質問を投げる。


「今回の作戦で航空支援はありますか?」


これにはC2に乗って上空からの指揮を執るナツが答える。


「今回はAH-64Dでの支援は望めない、市街地には民間人も暮らしている。30mm機関砲や対戦車ミサイルでは威力が大きすぎる為無駄に被害を増やす事になる。だからと言って航空支援が無いわけでは無い。新しいヘリからの支援がある」


入れ、とナツが入り口に声を投げると、数人のパイロットが入ってきた。

パイロットが敬礼して自己紹介に入る。


「アラン・サイズモアだ、今回の作戦で航空支援を務める。よろしく頼む」


「同じくカーティス・ハスラーです。所属はナイトストーカーズ、よろしく」


「彼らが航空支援についてくれる。心配は無い」


ナツがそう答えると、質問は以上ですと言ってガレントが着席する。


「それから、今から言うメンバーは俺と一緒に先行偵察に就く。ニコラ、ジャックの2名だ」


質問の為の挙手はそれ以上挙がらず、ブリーフィングは締めくくりに入る。


「結構は3日後だ、こんな仕事だが油断は禁物だ、しっかりやろう。以上だ」


===========================


午後7時20分、そろそろ風俗街が活気付いて来る頃。


「それでいくのか?」


「あぁ、調子も良いし、これで行くよ」


俺がナツにそう答えると、手に持っている得物を見せる。

ナツは今、一般の冒険者の様な格好をしている。

帽子を被り、マントを羽織っている。

そして得物はクロスボウ……だが、クロスボウに見えるのは見た目だけだ。

中には減音器サウンド・サプレッサーの取り付けられたFN P90が仕込まれており、上部には偽装されているマイクロダットサイトが載っている。

よく見てみれば、グリップの部分はP90のそれだ。

マントの下の偽装されたショルダーホルスターには、FN Five-seveN(ファイブ・セブン)が入っている。

腰にはマグポーチがあり、その両脇には偽装の為のクロスボウの矢が覗く。


これは沢村が作った物で、この世界の冒険者に溶け込み、尚且つ自衛にもなる。

ナツの様に情報収集を行う時にピッタリだ。


「じゃ、ランドローバー1台借りるぜ」


「おう、気を付けてな」


ナツとニコラ、ジャックが車輌格納庫に向かい、ランドローバーのエンジンを掛ける。

車はメインゲートを潜り抜け、風俗街方面に向かって行った。


それを見送った俺は、ロッカー室に向かう。

階段を登り、右のドアが男性用ロッカー室だ。

自分用のロッカーの鍵を開け、自分のライフルであるM4A1カービンを取り出す。

今回の作戦では、M4A1のアウターバレルは狭い室内では取り回しが悪く邪魔になる。

その為、短いバレルに換装する必要がある。


ではどうするか?


アッパーレシーバーをCQBバレルの物と取り替えれば良いのだ。

ストック近くのテイクダウンピンを抜き、前方へスイング。


マガジンハウジング付近のテイクダウンピンを抜き、ボルトやピストンのユニットが組み込まれたアッパーレシーバーと、トリガーユニットやリコイルスプリングの組み込まれたロアレシーバーを分解する。


新たにロッカーから取り出したのは、CQB-Rのアッパーレシーバーだ。

同じM4A1である為、互換性も問題は無い。


まずは前方のピンを合わせて止め、アッパーレシーバー後部を下す要領で正常な位置へ戻して後部のピンも止める。

チャージングハンドルを数回引いてボルトが正常に動けば完了だ。


後は、ナツ達の偵察結果を待つだけだ。


===========================


ナツ視点


ランドローバーは茂みに隠して止め、そこからは歩いて風俗街へ向かう。

ニコラは車を運転してもらう為、ランドローバーに残って貰った。

街へと入るのは、俺とジャックだけだ。

クロスボウ型P90の具合を確かめる、改造を施されてはいるが、射撃には全く問題無い。

これで異世界人にも紛れられるし、攻撃された場合に反撃する事が出来る。


歩いて街道へ戻り、そこから風俗街へと向かう。

街は基地から約30分の場所だ。

メインストリートではネオンではなくランタンが看板を照らし、様々な客引きが目立っている。


「1杯どうですか?カワイイ子入ってますよ!」


「冒険者ですか?ご無沙汰でしょう?ウチで1発どうですか?」


「カッコイイ良い人居ますよー!ウチで1杯どうですかー!」


男性向けも女性向けも、様々な店の客引きが声をかけている。

俺達も声をかけられたが、全て断った。

しかし、異様にしつこい客引きが1人居た。


「お兄さん達、ウチで1杯如何ですか?ウチ男女混合なんですよ」


「いや、自分達は……」


「お兄さん達冒険者でしょ?ちょっとウチで疲れを癒していきなよ」


「いえ、お金無いので」


「大丈夫大丈夫!サービスするから!ほら!」


と言って、その客引きは手元からメニュー表を取り出す。


「……」


能力発動、コピー。

この能力は以外と便利で、コピーを使うと完全に対象をコピーし、鮮明に記録する事が出来る。


怪しいところは無い……ゴマより小さい字で書いてある注意書きも無い。

安いもので小金貨2枚か……はっきりそう書いてあるな……


能力発動、録音。


「……この飲み放題って言うのは……」


「あぁ、これね。これは時間内であれば金貨1枚で飲み放題だよ、時間内に何倍飲んだとしてもこの値段だよ。同じ数を飲もうとすると凄い金額になっちゃうけどね」


「本当にですか?」


「おうともさ!本当だ!」


「……では……2人、飲み放題で」


「はぁーい!飲み放題2名様ー!」


俺は20以下だが、ジャックは20なので飲酒喫煙はOK。


内部は、行った事は無いがキャバクラに似ている。

通路で能力発動、自動無人機(オート・ドローン)

この能力は、前使った能力、ドローンの自律タイプだ。周辺を巡回し、怪しい場所を自動スキャンして解析する。


席に着いて注文ししばらくすると、女の子が酒の入ったジョッキを持って来た。

見た目20代の女の子が2人。

店内を見回すと、男性客も女性客も居る。客同士で座っているテーブルも見受けられた。


「冒険者の方なんですかぁ?」


「あぁ、そうだよ。南の海岸近い街から来たんだ」


「へぇ〜!カッコイイですね!」


俺はこの世界では17で、酒が飲めない為果汁ジュースを飲んだ。


と、そこで、女の子が飲む度に何かを入れているのに気がついた。


「……それ何?」


「これ?テキーラボールっていうの!入れると美味しくなるんだよー」


「ふーん……幾ら?」


「これは1つ小金貨1枚位だけど、私達の分は会計には入らないから心配しなくても良いよ」


『私達の分は会計には入らないから心配しなくても良いよ』確実に録音した。

出来る限りの情報をそこで引き出し、1時間しない内に会計へ行った。


「会計をおねがいします」


「はい、お会計金貨10枚になりまーす!」


これは……予想には聞いていたが、物凄いぼったくりだ。


「説明を聞いた所によると、1時間で金貨1枚、2人だから金貨2枚かそこらが筋だと思いますが?」


「いやー、女の子の指名代だと別料金になっちゃうんですよねぇ〜それに彼女らの会計も入りますし」


「説明ではそんな事は聞いていなかったし、メニュー表にもそんな事は書いてなかった、彼女達もそんな事は言っていなかった筈ですが?」


「それはメニュー表に書いてないだけで、別のにも書いてありますよ、ホラ」


そう言って店員はカウンターから別の料金表を取り出す。


こんな料金表はどこにも貼ってなかったし、テーブルにも無かった。

どうやらすり替えたらしい。


「なるほど……」


「で?払ってくれるんでしょうね?払ってくれないとその額に達するまでここで働いて貰いますが」


「ありえないから、俺、12杯も飲んで無いし、女の子に15杯も飲ませて無い」


「いやいや、困りますよ払ってくれないと、こちらも商売なんでね」


話し合いは平行線だ。

時折「払えよ!」や「ビタ一文まけねーからな!」と大声で恫喝して来たり、胸倉を掴まれたりもしたが、結局「弁護士と街の兵を呼ぶ」というと引っ込んだ。


この世界にも弁護士という職業はあり、役割は前世と同じく裁判などで活躍する。

つまり、前世、歌舞伎町の悪質なぼったくりと、この街でのぼったくりでは、同じ手が通用するのだ。


「裁判を起こせ」と言う割に、ぼったくりで後ろめたさを感じているのか、本当に裁判を起こそうとすると「いやいや待て待て」と言ってくる。


「待ちません、俺らは落とし所を探していましたが、まけないと言うのなら金貨10枚払うか、0かのどちらかになるまで戦います」


「じゃあ、じゃあさ、暖かいところで話しましょうか」


そう言って店員は俺を近くの喫茶店まで誘導する(意外な様だがこの街にも普通の喫茶店が存在する)。


だが、やはり雰囲気がおかしかった。

向かっているのは裏路地だし、屈強な男たちが周りに増えている。


そして裏路地に入った瞬間。


ビュッ!


結構な速度で拳が飛んできた、しかしそれを喰らうほど柔な訓練はしていない。


ジャックも同じ様に殴られていたが、余裕を持って躱す。


「先制攻撃確認!これより正当防衛を行う!火器の使用は禁止!」


「了解!楽勝だぜ!」


俺は懐からメリケンサックを取り出して指にはめ、最初に殴ってきた奴の頬に右フックをお見舞いした。

男はうろたえ、そのうちにそいつを蹴飛ばして遠くへ。


背後からも襲いかかってくるが、背負い投げの要領で地面に叩きつけ、鳩尾に踵落とし。


出口を塞いでいる奴は顎を打ち抜いて意識を奪った。


ジャックも酒が入っている割にはしっかりとした足取りで確実に男を落としていく。


「RTB!」


「了解!」


俺とジャックは全力で走り出す。

我に帰り追ってくる店員と残っていた男だったが、海兵隊式の訓練と特殊部隊に匹敵する訓練を受けた俺達に、喫煙も飲酒もしているチンピラが敵うわけが無い。


街を出ると追い掛けて来なくなった。

そのままランドローバーのところまで向かう。

待機していたニコラがランドローバーの運転席に座っていた。

彼が問いかける。


「どうでした?」


「あぁ、ぼったくりは噂以上だった、撤退するぞ」


「了解、あっ!ジャック呑んでるな⁉︎」


「へへっ、まぁな」


ニコラは素早くランドローバーを切り返し、基地へと戻る。

風俗街の明かりは、夜の闇に溶けて消えていった。


===========================


ヒロト視点


諜報隊が行ってから約2時間程、基地へ車が入ってくる音が聞こえた。

ナツ達が帰って来たのだ。

俺は階段を降り、司令部正面口で車を出迎える。


「おかえりー、どうだったよ?」


「あぁ、シッカリぼったくられた。逃げ切れたけどな」


「OK、それだけ分かれば充分だ。後で録音と映像のデータをくれ、解析するから。車は戻しておいて」


「了解」


そう言うと3人を乗せたランドローバーSOVは走り出す。

さて、俺はもう一仕事。ギルド組合の中で急速に力をつけてるギルドがあの街にはあるらしいからその戦力の洗い出しをしないと……ん?


「……何か、酒くさ……」


それがジャックが呑んだ残り香だと気付くのは20分くらい後の事だった。

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