第55話 ちょっとした日常
今日ではありませんが……9/12は「ミリヲタ」1周年です、応援して頂いている皆様、本当にありがとうございます!
これからも益々パワーアップ(物理)する「ミリヲタ」を楽しんで頂けたら幸いです!
俺は今日も執務室の机で頭を悩ませていた。
原因はホルスターだ。
現在使用しているホルスターはBLACKHAWKのCQCホルスターだが、この間、問題が起きた。
〜〜〜〜〜回想〜〜〜〜〜
俺がエリスとエイミー、ヒューバートを連れて射撃訓練に向かう。
地下の射撃場に到着すると、グライムズとアイリーン、そしてセレナが訓練をしていた。
その他にも、第4分隊長のスティール・ラインや第3分隊のレーム・ファルマンがレーンに並び、M4やP226を撃っていて、射撃場に轟音が響く。
「スティール!調子はどうだ⁉︎」
「何です⁉︎」
「調子どうだ⁉︎良い感じか⁉︎」
「ええ!自分で言うのも何ですが、結構上達して来ましたよ!」
地下の射撃場だと銃声が反響して会話が聞こえにくい。
流石に雑談の為だけに隣のレーンで射撃しているレームの練習を止める訳にもいかない。
「そうか!頑張れよ!」
「ありがとうございます!」
そう言うとスティールは射撃練習に戻る。
俺やエリス達もヘッドセットを装着し、練習を始める。
M4のチャージングハンドルを引いて離し、初弾装填。
ストックを伸ばして肩にしっかり当てて少しだけ前傾姿勢で脇を締める。
左手はフォアグリップを握るが、あまり力入れない。
ACOGで狙うのは350m先の目標の頭だ。
引金を絞っていくと、撃鉄が落ちるタイミングが判る。
力を入れて引かず、ゆっくり絞る。
銃声。
銃口から905m/sで5.56mmNATO弾が飛び出し、肩にガツンとした衝撃がかかる。
エジェクションポートから先端が焼鉄色の真鍮の空薬莢を排出する。
標的の頭の中心には小さな穴が空く。
俺は次々と引金を引き、マガジンの中に入っている30発を撃ち切る。
素早くリロード、新しいマガジンを再装填する。
同じ要領で射撃を再開しようとしたその時。
パァン!
「ぐぁっ!」
隣のレーンに居たグライムズが悲鳴を上げ、崩れ落ちる。
「どうした⁉︎」
「大丈夫か⁉︎」
「み、右脚……!」
グライムズの言う通り右脚を見ると、太ももから血を流している。
どうやら、拳銃を抜いた時に自分の脚を誤射したらしい。
たまたまセレナがそこにいた為、治癒魔術で何とかなった。
〜〜〜〜〜回想終了〜〜〜〜〜
今回の誤射事故を調べたら、問題点が見えた。
原因は、ホルスター内部で拳銃をロックする機構にあった。
BLACKHAWKのCQCホルスターは、ホルスター外側のスイッチを"人差し指で"押しながら拳銃を抜く。
その際、誤ってその指がトリガーにかかり、誤射してしまったという。
脚は大腿動脈始め、身体の循環に重要な血管が通っている為、今回の事故は幸いな事に無事に済んだが今後起こると大事故に繋がる可能性がある。
今回の事故を受け、早急に支給するホルスターの変更を検討しなければならなくなったが、なかなか良いものが見つからない。
自衛隊でも使われているSafariLand社製の6004SLSホルスターが現在の最有力候補だが、自動で銃がロックされるホルスターが望ましい。
さて、どうするか……と背もたれに体重を預けると、椅子が抗議するようにギシ、と鳴った。
ふと時計を見ると、そろそろ昼飯を食べる時間だ。
食堂行くか……今日の昼飯当番はエリスだな。
席を立とうとすると、ドアがノックされる。
「どうぞー」
「おう」
部屋に入ってきたのは健吾だった。
沢村健吾、俺の後に山口孝道と細野夏光と共に転生して来た転生者だ。
前世の高校で友達になり、卒業後もサバゲーに行ったり、食事に行ったりしていた親友だ。
現在はガーディアン歩兵小隊の小隊長をやっている。
つまり、今は俺の直属の上官だ。
俺は上に立って指揮をするより直接戦闘の方が能力が高いらしく、何より指揮を執る様な柄じゃない。
だがガーディアンの運営もそのまま丸投げする訳にもいかず、上官は健吾だがガーディアンのリーダーは俺、という奇妙な事になっている。
「高ちゃん昼飯は?」
「あー、これから」
「じゃあ一緒に行こうぜ」
「おお」
昼飯のお誘い、エリスは昼飯当番で居らず1人飯は少し寂しい為、誘いは嬉しい。
「そういえば、健吾はホルスターどんなのが良いと思う?」
「あー、グライムズの一件でか」
「そそ、6004で決まりかなぁ……」
それを聞くと、健吾はしばらく考え込む。
「ん〜……ALSは?」
「ALS?」
「俺が使ってるのがそれだ」
健吾は現在、作戦で無い限りは個人所有のグロック19を使用している。
その健吾が使用しているホルスターが、SafariLand 6354DOというタイプのホルスターだ。
これはALSと言い、BLACKHAWKのCQCホルスターの様に内部で拳銃を自動でロックする機構が付いている。
違う点は、このホルスターはレッグホルスターでは無くベルトに直接吊るすタイプだという事と、ロック解除のレバーがベルト側にあり、親指でロックを解除する事だ。
「あれか……あれが良いなぁ……」
「P226なら6395だな、でも6004SLSも悪くないと思うぞ」
「ん、取り敢えず両方とも支給してみて、隊員達に選ばせるか……」
食堂に到着、すると、誰かが言い争う声が聞こえて来た。
「対物ライフルの方が射程長い、そして破壊力もある。狙撃銃は対物ライフルにすべきなんだ」
「内部でパーツが動くから命中精度が下がる、狙撃に破壊力は必要無い、ただ如何に対象に死を乗せた弾丸を届けられるか、だ」
「私もそれには賛成ですが、ボルトアクションの欠点は連射性なんですよね、だからこそヒロトさんはスナイパーとマークスマンをペアにさせてるんじゃ無いですか?」
「そうだよ兄さん、互いに欠点をカバーし合えるんだから」
「弾倉の互換性が無いのも問題だけどねぇ……」
「だからぁ!7.62のマークスマンライフルはもう古いんだって!携行性もあるMk262弾が1番なんだよ!」
食事をする隊員の中に、狙撃小隊のメンバーの姿があった。
内容を立ち聞きすると、各々の使っている狙撃銃のどれが最も優れているかという話になっているらしい。
「何してんだ……」
「あっ!ヒロトさんも言って下さいよ!Mk262弾を使うMk12SPRが1番だって!」
「いや、ヒロトさんなら、射程もパワーもある対物ライフルの素晴らしさを分かってますよね?」
「バカ言え、ボルトアクションが至高だ。狙撃には精確性が求められる」
順にバズ、カーンズ、ランディの発言だ。
狙撃小隊の男子……そんな事で争うなよ……女性陣が困ってるぞ……
「……完璧で万能なライフルなど存在しない」
「え?」
「良いか皆、教練で教えた通り、狙撃に重要な事は3つ、精確さと速射性、そして射程距離だ。どのライフルもどれかに特化し、またどれかに欠けている。ランディが装備するM24やアンナが装備するMSRは精確性、バズやエルが装備するMk12やローレルの装備するM14SE、クリスタの装備するRSASSは速射性、カーンズのM82A3は射程距離だ。クリスタとシェリーの言う通り、ペアを組ませる事でそれぞれの欠点を補い合っている。お前達が優秀な狙撃手なのは皆が分かっているが、その前にチームプレーを学べ」
男性陣は納得のいかない表情をしつつも、何も言う事が出来ずに押し黙る。
女性陣はそれぞれの欠点を理解し、その上で補い合えるペアを組んでいるので良いが……
「ま、確かにローレルの言った通り、2人の班の弾倉の互換性はちょっと問題だな、後で考えておくよ。でも憶えておいてくれ、個人の成績は確かに大事だが、それに頼り切ってしまうのもダメなんだ。特に男性陣、良いな?」
「は、はい……」
俺はそう言って健吾に並ぶ。
「言うようになったねぇ、すっかり先輩じゃねーか」
「やめろよ、俺でも似合わないと思ってるんだから」
健吾の揶揄いを交わしながらトレーを持って並ぶ、今日はカレーライスらしい。
そう言えば……と思い返すと今日は日本では金曜日に当たる日だ。
海上自衛隊では、長い航海によって曜日感覚が狂うのを防ぐ為、毎週金曜の昼にカレーを出すという。
俺達で曜日感覚が狂うと言う事はあまり無いが、メニューを決めるのが楽な為これに倣っている。
「あぁ、ヒロト!」
「お疲れエリス、大丈夫か?」
エリスは今日は昼食当番の為、厨房内でいわゆる"給食の白衣"姿だ。
なんか無茶苦茶似合ってる。
手際よくカレーとサラダを盛り付けながら話す。
「ああ大丈夫、何人か手伝って貰ってるから」
「ごめんな、こっちも忙しくて手伝えなくて」
「良いんだ、好きでやってる側面もあるしな。はい」
俺のトレーにカレーライスとサラダを置き、そのまま次の人の盛り付けをする。
健吾もエリスからカレーライスを受け取り、席に着く。
700人以上は入る食堂も今は4分の1も使っていない。
「そろそろ給食隊も欲しいな……戦闘部隊に給食も任せるのは負担が大きい……」
「まぁ確かにな、給食隊が居れば、俺達も戦闘に投入出来る戦力が増えるし、集中出来る」
いただきます、と両手を合わせて食べ始める。
うん、美味い。スパイスがよく効いているし米の柔らかさも良い。俺の好みのカレーだ。
「美味い」
「美味いな」
美味さの余りあっという間に食べ終わり、仕事に戻る為に食器を返却する。
カレーの様な一皿料理の方が皿洗いも楽だろう。
ここの食堂では定食も偶に出すが、食器洗いが大変だから定食を出す際は人手が足りる時だ。
帰り際、狙撃手論争がまだ続いていたので程々にする様に言って戻りながら考える。
今日のこの後の予定は……特に無いな……明日は1日全体訓練を入れよう、次の日はこの街を統治しているレムラス伯爵に呼ばれている。
共通連絡版となっているホワイトボードに明日の予定を書き込み、執務室に戻る。
健吾は既に本部を率いて訓練に向かっていた。
書類整理、俺のサインが必要な書類が幾つかあったはず。
机の上に置かれている書類に手をつけ、チェックを開始する。
航空部隊から予備部品調達の要請、歩兵部隊からメンテナンス用消耗品のパーツや破損や交換の為の部品調達要請に訓練用の弾薬の使用申請、砲兵部隊から射撃演習の許可申請……
「出来たとしても距離が短いからなぁ……制限付きで許可……と」
M777A2 155mm榴弾砲の射程距離は24kmにもなる。
現状ガーディアンが保有している土地は3.5km四方で砲撃訓練のスペースは取れない。
3km以下の制限付きなら……まぁ何とかなるか。
富士総合火力演習の榴弾砲の砲撃距離が大体3000mだって言うし。
それに動かない施設で観測があったとはいえ、初弾から命中させる程の腕を持つガーディアンの砲兵部隊なら外すまい。
一通り書類整理が終わり溜息を吐くと、既に2時間が経過している。
悩みの種だったホルスターの件も、健吾のお陰で片付いた。
許可しないといけない書類は終わったので、一応仕事は終わりだ。
ドアの在室表示を不在にし、俺もトレーニングや訓練をしようと執務室を後にする。
ホワイトボードの前を通りかかると、クリスタがじっとボードを見ていた。
クリスタは俺とすれ違いざまにウインク、俺も手を挙げて応える。
どうやら目的はクリスタは解っている様だった。
大翔、健吾、夏光、孝道(以下転生者とします)の呼び方は、転生者が転生者を呼ぶ場合は漢字に、異世界人が転生者を呼ぶ場合はカタカナとする事にしました。
夏光をあだ名で呼ぶ場合は「ナツ」のままです。