第53話 アーケロン"殲滅"戦
今回のお話は、前に上げた活動報告『戦闘BGM、その2』で挙げさせて頂いた①の曲を聴きながら読んで頂きますと、大変臨場感に浸る事が出来ます。Y○utubeだと、検索すればオリジナルがトップに出て来ると思います。
是非お試し下さいませ。
エリス視点
飛び降りたクレイと私は脚に魔力を集め、強化する。
30mの高さから対地速度60km/hで着地しても何て事はない。
むしろ昔やった「高度60m、時速80kmで飛ぶ翼竜から飛び降りる訓練」の方が怖いくらいだ。
ガリガリ……と靴底が地面を捉えて削る。
膝もクッションにして着地すると、ダメージも少ない。
その上今回はコンバットシャツ・パンツとブーツを除けば、拳銃の入ったホルスターをベルトに下げ、腰の後ろには鞘に入ったナイフを入れただけという軽装だ、ダメージは更に少なくなる。
「うわっ!」
「空から女が!」
建物前に居た警備兵の顎を右ストレートで砕き、もう1人はクレイが首の骨をへし折る。
建物に入る為には、まずはこの頑丈そうな木で出来た扉を開けなければならない。
しかしこの壁も、ガーディアンに言わせれば"薄い"。
持ってきた設置型C4をドアに仕掛け、爆破。
爆風はシールド魔術で防いだ。
もうもうと立ち昇る煙と炎の中、私達は突入する。
ここからはスピードが大切だ。
襲い掛かる兵士の刃を躱し、鳩尾を1発殴る。
そして腰の後ろからナイフを取り出し_____耳へと突き立てる。
ぐしゅっ、という鈍い音と共にナイフの刃は耳から脳を掻き回す。
クレイは自分の特異魔術で次々と兵士を斬り刻んで行った。
私が1人殺る間に、クレイは5人殺っている。
また別の兵士が私に剣を振り下ろすが、その手を掴んで膝で腕を叩き折る。
うつ伏せに倒れた兵士の首をブーツで踏み砕き、ホルスターからP226を抜いて頭にトドメの1発。
入り口からの敵兵は一掃、後は内部の兵士とボスをボコって撤退すれば任務完了だ。
「奴等だ!」
「扉を閉めろ!」
鋼鉄の扉を閉めようと兵が動き、後少しで扉が閉まる。
その寸前、私はクレイに目配せ。
クレイはマフラーを駆使して背負っていたAT-4CSの内2本を肩に担ぎ、もう2本は腰だめで構える。
バックブラストに注意しつつ両手は手ぶらなまま、AT-4を発射した。
ズドン!
4門のAT-4の砲撃によって発射された砲弾は4発とも扉を捉え、爆発によって扉をこじ開ける。
扉の中からは悲鳴が聞こえていた。
クレイはAT-4を棄て、もうもうと煙が吹き出す扉にマフラーの先端を突っ込み、何かを探る。
煙の中から引きずり出されたのは、"アーケロン"のボス、ブレイム・アベルデイだった。
「あああ!やめろ!」
「そう言っていたノエルはお前に殺された!」
私は拳銃を抜き、肩に向かって一発発砲。
ブレイムの肩には1発の銃弾がめり込み、彼が悲鳴をあげる。
「痛いか⁉︎怖いか⁉︎ノエルはもっと痛かったし、怖かった!」
「わかった!すまない!頼む命だけは……!」
私は自分でも驚く程冷めた眼差しでこいつを見つめる。
更に爪先、耳、脇腹と連続で撃ち抜いていく。
もうこいつに用は無い。
「クレイ」
「はい」
クレイはそのまま地面にブレイムを下ろし、マフラーを変形させて槍のように突き出す。
ザシュッ!
クレイが創り出したマフラーの槍はブレイムの腹部を貫き、地面に叩きつけた。
ドクドクと流れ出る血は床に血だまりを作っていく。
「クレイ、そろそろ時間だ。行くぞ」
「そうですね、こんな場所にもう用は無いです。行きましょ」
クレイは聞こえよがしにそう言う。
私はクレイと共に外へと駆け出す。
途中兵士に遭遇したが、全員沈めた。
C4で吹き飛ばしたドアから外に出る。
外ではMH-6Mリトルバード_____スター41が着陸して待機していた。
私達の背後から敵兵士が追ってくるが、その前にリトルバードに乗り込めた。
「お疲れ様です!」
「ああ、帰りは頼む!」
クレイは私の反対側に座る。
ベルトを締めると合図と共に離陸した。
ヘルメットにGPNVG-18複眼型暗視装置を取り付けたパイロットのキースは操縦桿を左手で握り、右手でMP7を撃ちながら機体を上昇させる。
副パイロットのデリルは、ピッチレバーを右手で握り、左手でMP7を撃ちつつ、キースと息を合わせてリトルバードを操る。
ナイトストーカーズ、噂には聞いていたけど、本当に撃ちながら操縦するとは……
敵から十分に離れると、その攻撃を止め、本部に通信を入れる。
「C2、こちらスター41。エリスとクレイを回収した、繰り返す、エリスとクレイを回収した!」
『了解、攻撃開始。そこから全速で離脱せよ』
「了解、空域離脱まで、あと30秒」
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ブレイムは自らの血に沈みながら、今後、"アーケロン"がどうなるかを考えた。
しかし、考えれば考える程、負けしか見えなかった。
「く……そ……負けて……たまる……か……!」
治療専門のアーケロン隊員がブレイムに駆け寄り、治癒魔術をかけ始める。
「ぐ……わ、翼竜を出せ……あの空飛ぶ風車を追うんだ……!」
「り、了解!」
隠れ家にある数少ない翼竜を出し、ヘリを追わせようと指示する。
「はっ……これで奴らも終わりだな……」
そう、終わりだった。彼らが。
彼らを閃光と爆炎が包む。
隠れ家を凄まじい轟音が突き抜けた。
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『こちらポーラスター、弾着観測、初弾命中、同一諸元、効力射始め!』
「了解!観測機からの指示が入った!撃ち方始め!」
ストルッカ達の部隊、M1129ストライカーMCの120mm重迫撃砲6門が、次々と砲弾を吐き出していく。
120mm重迫撃砲の射程は10km以上にも上り、命中すれば戦車すら破壊する。
だが、それより強力な火力を発揮する部隊が居た。
ガーディアン砲兵部隊である。
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ローディング!ローディング!ローディング!
ステンバーーーイ!Fire!
開けた場所に展開した砲兵の間で、号令が響き渡る。
ドゴォン!ドゴォン!
6門のM777A2 155mm榴弾砲が次々と火を噴いていく。
ナポレオンの時代から戦争の勝敗のカギを握り、スターリンが戦場の神とさえ称した存在が咆哮する。
ヒュルヒュルと空を裂いて砲弾が飛び、6発の155mm榴弾は屋敷に着弾した。
炎と爆風、砲弾の金属殻が隠れ家を蹂躙する。
彼らの虎の子の翼竜も粉々に弾け飛んだ。
迫撃砲が、これに比べればまるでオモチャの様だ。
陣地の防衛に務めていたスティール以下第4分隊は、砲が火を噴き炎が地面を照らす度に、驚きの声を漏らす。
砲兵達はありったけの砲弾を、火力をアーケロンに叩き込む。
砲撃はまだまだ始まったばかりだ。
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第1分隊の各員も、合図と共に迫撃砲の砲撃が始まる。
迫撃砲の射程内から攻撃する為、第1分隊は着弾点から最も近い。
その為山で遮られてよく見えないが、着弾の際の爆炎が夜空を灯す。
今撃ち出しているM224の60mm迫撃砲弾とストライカーMCの120mm迫撃砲弾、M777から発射される155mm榴弾がOH-1観測ヘリの弾着観測の下、雨のように降り注ぎ徹底的に隠れ家を破壊していく。
「第1分隊、撃ち方やめ!撃ち方やめ!後は砲兵隊に任せるぞ!迫撃砲の撤収急げ!」
「「「了解」」」
俺は手早く迫撃砲を台座から取り外し、砲身と二脚を畳んでブラックバーンに持たせる。
台座は俺が持ち、ヘリの迎えを待つ。
「前回のレベルアップでこれが出てよかったな……」
待ちの間、ポケットからスマホを取り出す。
【レベルが上がりました!】
Level34
【砲:M777A2 155mm榴弾砲がアンロックされました】
【回転翼機:OH-1がアンロックされました】
【工兵:M104ウルヴァリン重突撃橋がアンロックされました】
突入戦の後、スマホをチェックしたら、レベルが上がっていた。
そこからOH-1を1機、M777A2を6門を召喚したのだ。
M777は軽量な為、CH-47FやCH-53等の大型輸送ヘリを用意せずとも、UH-60やMV-22等の中型ヘリでも輸送出来る。
俺はここに目をつけた。
現在ガーディアンの保有する航空戦力は、CH-47F 3機とMH-60M 5機、そして4機のMH-6Mと2機のAH-64D。ブラックホークで輸送可能であれば、1個砲兵中隊6門を一斉に輸送することが出来る。
『こちらブラストバーン、最終弾発射、撃ち方止め』
ブラストバーンのコールサインを持つ砲兵部隊が撃ち込んだ砲弾は、100発以上にも上った。
『C2、こちらタロン21、到着まで1分』
指揮統制ヘリとしてナツと孝道が乗るスーパー63が、最後の仕上げに入る為各部隊に指示を出す。
暫くして、着弾音が止む。
代わりに聴こえて来たのはヘリの音だが、生存していたアーケロンの奴らにとっては死の音だった。
タロン隊はロケット弾とヘルファイア対戦車ミサイル、M230 30mmチェーンガンで建物を徹底的に破壊、蹂躙していく。
辛うじて生き残り、逃げる敵は、赤外線暗視装置で捕まり、M230 30mmチェーンガンで"爆砕"される。
報復戦は、タロン隊の弾薬が全て尽きるまで続いた。
完全なるオーバーキルであった。