第52話 報復準備
執務室
ガチャ、とドアが開く。
ドアを開けたのは、ブラックバーンとクレイだった。
集まっている各隊の隊長を押しのけて、俺の机に迫る。
「ヒロトさん、次の作戦はもちろん、クレイも参加させますよね?」
「あぁ、もちろんだ。そのつもりで編成も組んだ、"アーケロン"を潰滅させよう」
そう言って悪戯っぽく笑うと、ブラックバーンも同じ様に笑う。
ガーディアンの反撃が始まる。
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高度500ft、スーパー61の機内で第1分隊は準備を行っていた。
ブラックホークは2機、並んで飛行しており、61のパイロット、ウォルコットは隣を飛行する64のデュラントと何やら言い争いをしている。
『リモは単語だデュラント、そんなのは聞きたかァない』
『単語じゃ無い!単語を略して縮めただけだ』
どうやら直前まで2人で"しりとり"をしていたらしく、それで言い争っている様だ。
無線を通している為、皆にも聞こえている。
『リモは普通に使われてる単語だ!ゲームでもキーワードに使われてる慣用語だ!』
『違う!そんな単語、辞書に載ってない!乗っているのは縮める前の"リムジン"だ!カウントしない!』
『別に辞書になんか載ってる必要は無い!』
ここで64が散開地点に到達、左に旋回していく。
旋回しながら最後の通信を61に送る。
『いいか⁉︎基地に帰ったら直ぐボードから消すんだからな!』
『俺のリモに勝手に触るな!ぶっ飛ばすぞナイトストーカー、いいな⁉︎』
『ああ、やってみな』
「全く……緊張感が無いのか彼らは」
ふざけた交信にエリスが苦笑いを浮かべるが、確かに緊張感は和らいでいた。
「まぁこれくらいなら良いだろ。彼らもいつ死ぬか分からない中で飛んでるんだ、ああでもしないとやっていけないよ。それから、俺達も人の事を言えないだろ?」
「ああ、そうだな。すまない」
61には第1分隊の隊員が乗っている。
全員で8人、もちろんクレイもだ。
クレイは例の特異魔術によってAT-4CSを4本背負っている。
クレイの魔術はこういった重量物を持ち上げる事にも使える。
重さは感じないらしい。
「良いか皆、ここから先は容赦はするな!ノエルの敵討ちだ!」
「「「Урааааа!」」」
それを合図に、古いロシアの民謡を歌い出す。
70年以上前の、戦地の恋人を想う唄をロシア語で歌う。
この歌は俺が暇なときに聴いていたら、皆が「良い曲だ」と言って練習していた。
特に"ガーディアン"の歌という風な事は無いが、この場に居る全員が知っていた。
何故ロシアの民謡を歌っているか?
それは教会で3人を救出した際の作戦で、旧ソビエト連邦の行った作戦と同じ手口を使ったからだ。
1985年9月、レバノンにてソ連外交官4人がヒズボラによって誘拐、拉致された。
ヒズボラはソ連に拘束されている捕虜の解放を人質解放の条件にし、ソ連は交渉を始めた。
しかし、交渉が膠着状態に陥った時、進展を求めたヒズボラが人質1名を殺害。
これを知ったソ連は進展させるどころか急激に態度を硬化、強硬手段に出る。
事件解決を任されたKGBは事件の首謀者を徹底的に洗ってリーダーを特定、その甥を誘拐した。
そして誘拐した甥の身体の器官の一部を切り落とし、リーダーに送りつけて外交官の即時解放を求めたのだ。
そして親戚の体の一部を送り付けられたヒズボラは、KGBの手口に恐怖し、直ぐに外交官を解放したという。
更にKGBはその甥を解放せずに、外交官が殺害されたのと同じ手口で殺害。
「こちらが1人殺されているのだから、こちらも1人殺さねばバランスが取れ無い」という理論に基づいてだ。
この事件以来30年、ソ連及びロシアでは誘拐事件が無くなったという。
まさにおそロシアである。
俺達がこの手口を使ったのは、もう2度と拉致誘拐等の卑劣な事件を起こさ無い為だ。
「ガーディアン関係者を不法に誘拐、殺害するとこうなるぞ」という見せしめだ。
もう2度とノエルのように卑劣な手口で殺される事の無いように願い、歌い続ける。
『降下3分前』
スーパー61の副パイロット、エイル・コロイドから合図が入ると、それぞれの装備のチェックを始める。
M4A1のチャージングハンドルを引いて離す、ボルトが連動して初弾装填、エジェクションポートのカバーが開く。
M224 60mm軽迫撃砲と砲弾を確認。
『降下用意……着陸!』
MH-60Mブラックホークは1度山の中に着陸、ここから"アーケロンの隠れ家まで直線で2.4kmの距離がある。
「じゃあエリス!クレイ!頼んだ!」
「任せろ!」
「はい!」
エリスとクレイ以外をその場に下ろすと、ブラックホークは再び上昇していく。
今回の作戦はある意味単純だ。
少数で敵の隠れ家へ侵入し、逃走したアーケロン代表以下をボコボコにする。
続いて迫撃砲他火力によって建物ごと粉砕、以上だ。
こちらにはAH-64Dがいるし、それを超えるくらいの"とっておき"も準備している。
突入隊員はクレイとエリスだけだ。
最初はクレイ1人で行くと言っていたが、流石にそれは危険すぎる為エリスをつける事にした。
「よしっ、行くぞブラックバーン」
「了解!」
少しだけ歩き、障害物の無い場所で迫撃砲を設置、距離から射角を割り出して仰角をつける。
細かく調整して砲弾を傍らに積み上げれば準備完了だ。
皆も準備が完了したようだ。
「3-1へ、こちら1-1。ストルッカ、準備はどうだ?」
俺は無線を入れ、別働隊を率いるストルッカへ問いかけた。
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「こちら3-1ストルッカ、後2分で全作業が終わります」
ストルッカは車輌の先頭で10輌の車輌を率いていた。
ストルッカの乗る車輌はM1044 HMMWVで、HMMWVは10輌中4輌だが、他の車輌は雰囲気が全く異なっていた。
重厚感のある如何にもな戦闘車両、8輪の装甲車。
M1129ストライカーMC、それがこの車輌の名前だ。
ストライカー装甲車シリーズの迫撃砲搭載型である。
ストライカー装甲車は、同一の車体をベースにする事によって部品の互換性を持たせる事で部品補給の不具合解消、運用コストダウンを狙っている。
そしてこのM1129ストライカーMCは、120mm重迫撃砲を搭載して遠距離への火力投射を行なうタイプだ。
『分かった、こちらは準備が完了した。急いでくれ。オーバー』
「了解、エリス様とクレイはもう行きましたか?オーバー」
『ああ、もう行った。オーバー』
「ではこちらも急ぎます。アウト」
ストルッカは無線を切る。
「報告、重迫小隊、弾薬の搬入を開始、あと1分で発射準備全てが整います」
副官のルイズ・バルスターが現状を報告する。
「了解、なるべく急げ。既にエリス様が突入準備に入っている」
「了解しました!」
そう言うとストルッカはルイズと共に作業を手伝いに入った。
そして1分後、全部隊の火力投射準備が完了する。
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『こちら第3分隊ストルッカ、火力投射準備完了』
『こちらブラストバーン、準備完了』
『こちらポーラスター、準備完了』
『了解、こちらスーパー61、エリスとクレイを降下させる』
「いいぞ!」
「ポーラスター」に「ブラストバーン」、今回の作戦で最も重要になるコールサインがヘッドセットから耳に届く。
ヘリが低空を飛行しつつ、アーケロンの隠れ家に接近。
速力は時速60km、高度は約30m。
速度は落ちる事は無い。
『行くぞ、3、2、1、Go!』
ウォルコットが合図する。
その瞬間、開けっ放しのキャビンドアからエリスとクレイが飛び降りた。
ガーディアン反撃の開始だ。
ヒロトやエリス達が歌ってた民謡……歌詞のロシア語に全部発音のルビ振って和訳して、歌詞を載せようと思ってたんですが……
民謡なのに著作権が切れて無かった……(泣)
泣く泣く元の歌詞と和訳を全て消しました。
先に調べておけば良かった……
分かる人、いるかなぁ……