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第51話 クレイの苦悩

『イエロー31、着陸進入する』


『イエロー33、着陸進入する、皆さんお疲れ様でした』


展開した隊員達は、CH-47Fが迎えに来た。

ロードマスターのエイベル・ヘクターが後部ランプを開ける。


「足元に気をつけて降りて下さい!」


「ありがとう、このままヘリを駐機場に戻してくれ。よく整備しておくようにな!」


「了解!」


基地に戻ると、衛生兵始め、皆で精神的なケアを始める。

人質にされ、1人は殺されたのだ。

その精神的ストレスは計り知れないだろう。


3人と仲の良かったセレナやスニッド等女性隊員を中心に出来る事をやっていた。

俺に出来る事は多くは無く、ケアに参加出来ない自らの情けなさに苛立ちを覚える。


食堂の隅で、俺はその様子を眺めながらエリスに語りかけた。


「エリスはクレイの事を知っていたのか?」


「あぁ、知ってた。クレイから直接聞かされたんだ、私も実際に見たのはこれで2回目」


「なるほど……特異魔術って言ってたな。火器のお陰で魔術に頼る事が少なくなっていたが、流石は異世界だ」


「私達にとってみれば、ヒロトの世界の武器の方が魔法みたいだよ。それに特異魔術を使うクレイも、ただの女の子と変わり無いじゃないか」


本当にそうだ。

クレイは今、焦点の定まらない光の無い目で虚空を見つめている。


「……そういえば、ノエルの遺体は?」


「地下の遺体安置室だよ」


===========================


コツコツと廊下に足音が響く。

司令部庁舎地下2階、遺体安置室。

追加で作った急造の部屋に、ノエルの遺体は安置されている。


部屋のドアを開ける。

暗く静かで、部屋の雰囲気と精神的な意味からか、鉄製のドアは実際よりも重く感じられた。


木製の棺には、沢山の花に埋もれたノエル・ブレンジーの遺体が安置されていた。

汚れは既に仲間によって落とされ、今にも目を覚まして起き上がりそうなほど綺麗な遺体だ。

しかし、切断された首を隠すように置かれている沢山の花が痛々しさを強調する。


「ノエル……ごめんな……」


ノエルを助けられなかったのが悔やまれる。

助けられなくて申し訳ない気持ちになる。

ノエルに対しても、エリスに対しても、皆に対しても。

エリスがノエルの頬に触れる。

いつもの暖かく柔らかそうな頬の印象とはまるで違い。

冷たく、硬いままだった。


「ノエルっ……」


エリスが静かに涙を流す。


「……エリス、ごめんな……大事な仲間を……」


エリスは首を横に降る。


「ヒロトのせいじゃない……私も人質事件の時は、交渉で何とか出来ると思っていた」


「……でも、俺がガーディアンに引き入れた結果、こうなってしまったんだ……罪悪感は拭えないよ」


「でも、もしガーディアンに入っていなかったら、ケインの下でずっと虐げられていたかもしれないんだ、そこでヒロトが悔やむのは違うぞ」


エリスが慰めてくれる、一番泣きたいのはエリスな筈なのに。


「それに、私も騎士団で、こうして戦死していく仲間を見てきた……私も皆も、いつ死ぬか分からない事を覚悟しているだろう……」


と言っても、実際にこう目の当たりにすると悲しいし、辛いがな。とエリスが呟く様に言う。


エリスの肩に手を置いたところで、背後のドアがキィ……と音を立てて開く。

振り返ると、クレイだった。


「クレイ……」


クレイはノエルの棺の横に跪く。

日本で言う"合掌"だ。


「ヒロトさん、ありがとうございました。私、ガーディアンを抜けます」


「え……?」


突然の事で言葉が出ない、しかしクレイは準備していた様にすらすらと理由を述べていく。


「私が昔から決めていた事です。私は昔からこの力のせいで忌子、魔女として扱われて来たんです。力を見せた人には不幸な事が起こってしまうから、私が不幸を呼ぶその前にここを去らないと、皆が不幸になっちゃう……死んじゃうから」


クレイが忌子?魔女?そんな訳無い、変わらない女の子じゃないか。

特異魔術だって、ただそれだけだ。

それに、死んじゃうって何だ?


「……お世話になりました、さよなら!」


「ぁあっ!クレイ!」


呼び止めたが、走って部屋を出てしまう。


「……ヒロト、クレイは大切な……っ、ノエルに続いてクレイまでも失ってしまうっ!」


エリスは俺の胸に飛び込み、クレイを呼び止める様に縋ってくる。


「あぁ、分かってる。何が忌子だ、魔女だ。ガーディアンには、クレイが必要なんだ」


エリスを離し、大丈夫だと言い聞かせる。


「エリス、各隊隊長を執務室に集合させる、皆を食堂に待機させててくれ。奴らを叩きのめす作戦を立てよう、その為には、クレイが必要だ」


エリスは涙を拭い、力強く頷く。

ノエルの仇をとる作戦が始まった。


その頃、食堂では、クレイの雰囲気を察したブラックバーンが席を立った。



===========================


私、クレイ・パルディアがこの能力に気付いたのは8歳の時でした。

誕生日、冬の寒い日に、その当時好きだった男の子からマフラーを貰いました。

暖かそうな、真っ赤なマフラーでした。

そのマフラーを受け取ったその時、そのマフラーの端が鞭のように動き、男の子の両腕を切断してしまいました。

真っ赤なマフラーが、男の子の鮮血で更に赤く染まります。


「いや……!」


私はその場に泣き崩れ、ショックのあまり気を失ってしまいました。


次に目が覚めたのは、冷たい牢獄の中でした。


どうやら村の奴隷商人の屋敷の地下牢の様です。


私の首には、誰かが巻いてくれたのか、自分で無意識にやったのか、マフラーが巻いてありました。


でも、足には足枷が付いていて、動きが取りにくくなっていました。


「気が付いたか」


近くでおじさんの声がしましたが、薄暗くて姿が見えません。

でも、声は牢屋の外から聞こえてきました。


そのおじさんからいろいろな事を聞きました。

私が、古い書物に出てくる「魔女」「忌子」だという事、両親が私を捨てた事、そして、男の子が死んだ事。


それから2年間、私はその牢獄で生活しました、様々な罵詈雑言を浴びせられ、水を掛けられた事もありました。

そんなある時、私の両親が訪ねてきました。


「お前が魔女だとは思わなかった、もし魔女だと分かっていたら、途中で捨てるか殺すかして()()出来たのに……お前の所為で私達は皆に迷惑を掛けているのだぞ、その罪を一生背負って生きろ、魔女めが」


多分、両親のこの言葉がきっかけになったのでしょう。

私は強い憤りを覚え、両親がいる方を睨みました。


「おい、何だ?目が赤く……⁉︎」


次の瞬間、私のマフラーが動きました。

マフラーの先端は、あの時の様にうねって足枷の鎖を壊し、牢屋の鉄棒を両断しました。

その時、両親が一緒に斬られて胴体が真っ二つになっていましたが、もはや気になりませんでした。

私は決断しました。

「この村を出よう、どこかで一人で暮らそう」


私は牢獄を脱出、身体は意のままに動きます。


立ちはだかる鎧の兵士を斬り捨て、放たれる矢を叩き落としました。

訪れた町の兵士50人に囲まれたりしましたが、私が力を使うと、皆が血の海に沈みました。


それからどれほど走ったか、分からないほど走って、小さな修道院を見つけました。

空腹も限界に来て、修道院でご飯だけ貰おう、と思い、扉に手をかけたところで意識を失いました。


「大丈夫?」

その声で目が覚めました。

私の顔を、修道女さんが覗き込んでいます。

「大丈夫?あなた院の前で倒れていたのよ?」

「だ、大丈……」


ぐくぅ〜〜〜……


修道女さんがクスッと笑います。

「あらあら、お腹空いてたのね。いらっしゃい?」

私はその修道女さんに食堂へ案内されました。

温かいご飯、約2年振りです。

「いただきます」

私はスープのお皿に口をつけ、飲みました。

温かい……身体に沁み渡る。

私はポロポロと涙を流しながら、ご飯を食べました。


それからしばらく、事情を説明してその修道院で生活する様になりました。

ここの人達はとても優しく、魔女の私にも暖かく接してくれました。

そこで、私は身を守る為、マフラーの力を制御、操作する練習を積み重ね、マフラーを完璧に操れる様になりました。

そこで気付いたのは、このマフラーの力は私だけの力ではない事。

このマフラーを作った男の子は魔術師の子で、その子も強い魔力を持っていました。

あの男の子が作った事で、その魔力がマフラーに篭り、その魔力と私の魔力が反応して、このマフラーを操れるという事。

それに2年以上経っているのに、マフラーは全くほつれや毛玉が無く、今作られた様な新品状態でした。


修道院のお手伝いもする様になり、ここの家族の様に生活していました。

しかし_____この生活も長くは続きませんでした。


ある日、私を匿っていると知った誰かがこの修道院を襲いました。

修道院に火を放ち、乗り込んだのです。

相手は魔術師で、全く抵抗出来ないままほぼ全員が惨殺されてしまいました。

私に優しくしてくれたあの人まで……


私は約100人いた襲撃者達を約5分で片付けました。

しかし、襲撃者を全員殺したからと言って、ここの人達が帰ってくる訳ではありません。

私は燃え尽きた修道院があった場所に、修道院でお世話になった人達全員を埋葬し、修道院を後にしました。



「私に優しくしてくれた人は死んでしまう」

「私はやっぱり魔女なんだ」

「私のせいであの人達は死んでしまった」

と自責の念に取り憑かれました。

2ヶ月ほど歩き続け、イサイアの街にたどり着きました。

私は14歳になっていました。

そこで私はエリス様のご両親に拾われ、育てられました。

エリス様は忌子、魔女の私に、修道女さんの様に優しく接してくれました。

でも「私に関わった人は死んでしまう」という思いは拭えず、それをエリス様に伝えると。


「そんなのは関係ない、クレイはもう、私の家族だ」


と抱き締められ、また涙が出ました。

その時、もうあの力は使わない。使ったら姿を消そう。と固く誓いました。


それから約1年、エリス様の婚約相手が決まりました。


ケイン・ボックスカー。


イサイアの街を治める貴族の息子で、嫌味っぽい嫌な奴、と言うのが第一印象でした。


エリス様がケインの屋敷で生活する事が決まり、エリス様のお屋敷からも私を含めて40人程、使用人を出す事になりました。


エリス様は騎士団を設立、団長として活躍していました。

私も、高い身体能力を買われ、騎士団の団員としてエリス様を支えました。


そして、また約1年が経ち、正式にケインとエリス様の結婚が決まりました。

そこに現れたのがヒロトさん。

第一印象はケインとは大違い、明るくて良い人だな、と思いました。

こんな人がエリス様の婚約者であれば……とも。


ほぼ同時に、結婚に消極的だったエリス様に子供を身篭らせる事によって、結婚に反対していた所謂"エリス派"を黙らせようとしている事が判明。

これに怒ったヒロトさんはエリス様をケインから奪う事を決意、これはエイミーさんから聞きました。

しかし、一度失敗、原因はケインが降りるためのロープを切ったから。

2度目に結婚式場を襲撃するという大胆な作戦を成功させ、エリス様を奪還する事に成功しました。


それからヒロトさんは「ガーディアン」というギルドを立ち上げ、仲間と共に様々な作戦を成功させてきました。

ヒロトさんは私にも分け隔てなく接してくれて、「ガーディアン」はとても居心地が良かったです。


しかし、私達が拉致されたときにあの力を使ってしまい、私の正体がバレてしまったのです。


===========================


今はここから去る為に荷物を纏めています。

ヒロトさんから貰った武器や服も置いて行きます。

名前が私と同じ戦闘服、動きやすかったな。


でも、もうお別れ。


ここを去らなきゃ、皆死んじゃう。


まとめた荷物は、リュック1つ分にも満ちませんでした。


いつものマフラーをして部屋を出ました。


廊下を歩いていると、誰かが壁に寄りかかっています。


「ブラック……」


「どこ行くんだよ」


ブラックバーン・マーズ。私より1つ年上で、ガーディアンのライフルマンです。


「執務室に来い、隊長が呼んでる」


「私、もうここに居られないの」


「あの力、使ったからか?」


やっぱり見られてた。

ブラックには見られたく無かったな……


「見たならわかってるでしょ、私の力は異能なの、私は忌子なのよ。この力は使っちゃいけなかったの」


「自分の力のせいで周りが不幸になるから……か?」


私は言葉を失いました。

どうしてブラックがそれを知ってるんだろう。


「何で……っ!」


「全部聞いた、エリス様、エイミーにもな、それに誰も気にしてなんかないさ」


返す言葉がありませんでした。

必死に言葉を探しましたが、見つかりません。


「隊長にエリス様、エイミーにセレナ、ユーレク、ルイズ。ついでに俺も、ガーディアンの皆はお前の力を受け入れてる。拒絶してる奴なんかいないぜ?」


「もうほっといてよ‼︎私は!もう!ここには居られないの!」


私は俯いて大声を上げてしまいました。

涙が溢れてくるから。


「じゃあ何で、お前泣いてんだよ」


「ぇ……?」


私は自分の頬に手を当てます。

遅かった、もう涙は溢れていました。

ぐしぐしと涙を乱暴に拭います。


「……ガーディアンには、お前の力が必要だって、隊長が言ってた。皆お前を必要としてる」


「だって……私なんか……射撃もあんまり上手くないし、体力も無い。ノエルだって守れなかった……」


「んじゃ、もういっこ理由をやる」


ブラックバーンが私の目の前に立ち、後頭部を掴んで、強引に唇を奪いました。

私が逃げられない様に腰に手を回します。


突然の事に驚きましたが、徐々にブラックバーンの温もりに触れて落ち着いてきました。

暫くしてブラックバーンが唇を離します。


「……俺も、お前が必要だ。ガーディアンのライフルマンとしてのクレイと共に、1人の人間としてのクレイが必要なんだ」


ブラックバーンが顔を赤くして言いました。


「俺だってショックだったよ、ノエルが殺された時。でもヒロトさん達と誘拐作戦やって、立ち止まってる訳には行かないと思った」


そう言って肩を強く掴みます。


「……好きだ、クレイ。お前を離したくない」


「……私も、離れたくない!ブラックが好き!皆ともずっと一緒に居たい!」


ブラックバーンの告白で、更に涙が溢れてきます。

ブラックバーンがハンカチを差し出し、私はそれを受け取って涙を拭いました。


「隊長のところに行こう」


「うん」


私とブラックバーンは、手を繋ぎながら執務室へ向かいました。

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