第48話 交渉開始
クレイ視点。
目が覚めた時、私達は男達に何処かの部屋に放り込まれていました。
部屋の中に男達はいません。
私の他には、サーラちゃん、レーナちゃん、ノエルちゃんがいるだけでした。
「クレイちゃん、気が付いた?」
「ノエルちゃん……」
ノエルちゃんが私を気遣ってくれます。
私達はどうやら連れ去られたらしいです。
多分、部屋の外で見張っているのでしょう。
「ま、マフラー……」
何時もしている赤いマフラーが首元に巻かれているか確認。
良かった……ちゃんとある……
と、サーラちゃんとレーナちゃんも目が覚めました。
2人に状況を説明し、必ず皆が助けてくれると励まします。
「私達……このまま殺されちゃうのかな……」
レーナちゃんが弱音を吐きますが、サーラちゃんが励まします。
「大丈夫だよ!絶対にヒロトさん達が助けに来てくれる、それに……私ね、ガーディアンに入った事、後悔しないよ。例えここで死んでも」
「私も、ヒロトさんの下で戦えて良かったって思う。絶対後悔なんかしない」
ノエルちゃんもそれに合わせます。
私達はガーディアンの皆の助けが来る事を信じて、力を合わせて耐える事にしました。
その時、外からあの音が。
ヘリコプターのメインローターが空を裂く音が聞こえて来たのです。
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ヒロト視点
『目標に接近、降下まであと1分!』
持っているM4A1のチャージングハンドルに指を引っ掛けて引き、離す。
初弾装填完了、安全装置を掛ける。
『目標確認、ホバリングに入る』
俺達第1分隊の乗るスーパー61が、教会の正面100の地点でホバリングする。
高度10mで機体が安定、パイロットからゴーサインが出る。
「ロープ!」
機体の両側を指差しヘリボーン用のロープを下ろさせる。
「降下降下!行け行け行け!」
両側から、隊員達がロープを伝って降下、着地地点を確保する。
皆が降下、俺とエリスが最後だ。
ダストゴーグルを着け、ロープを掴んで降下。
ただロープを掴むだけでなく、足でもロープを挟み、握力をブレーキにして降下する。
着地、ヘリに着地を知らせると、ガナーがロープを外して落とす。
『スーパー61、分隊降下、警戒に入る』
『スーパー62、分隊降下、警戒に入る』
『スーパー64、分隊降下。上空から警戒する、アウト』
『了解、スーパー65、分隊降下、援護する』
ヘリがそれぞれ離脱し、上空の警戒に入る。
降下した分隊と狙撃手はそれぞれ配置に着く。
午後8時、人質解放の交渉が始まった。
"話し合いで解決"出来る事を信じて……
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「ガーディアンの代表者、タカオカヒロトを出せ!」
ベランダでは、クレイ達4人を拉致した奴らのボスらしき人物が喚いている。
耳元の無線からは、C2で情報の一切を担うナツからの通信が入る。
クレイ達4人を拉致したのは"アーケロン"と言うギルド。
この街ではNo.2の実力を持つギルドらしい。
ガーディアンが飯喰いを撃退した際にはNo.1のギルドと共に街の治安維持についていたが、「俺達も戦わせろ、あんな者達に頼れるか」と喚いていた。
ガーディアンの実力を目の当たりにして脅威を感じたのか、ガーディアンネガティヴキャンペーンの筆頭に立って俺達を排除しようとしている様だ。
俺は1人で建物の前に立ち、無線を入れっぱなしにしたままマイクと拡声器を取り出す。
尚、仲間には隠れた状態で監視しながら待機して貰っている。
交渉人の数は1人、人質解放交渉では鉄則だ。
『近隣住民の皆様、ご迷惑をおかけ致します。我々はガーディアン、そして自分はその代表の高岡ヒロトです』
「出たな諸悪の根源!貴様らの大事なメンバーは預かっているぞ!」
『解放の交渉に参りましたが……』
「素直に解放すると思うか⁉︎人質解放の条件があるだろうが!おっと、妙な動きがあれば4人共殺すぞ!」
鉄則、とは言っても、犯人を刺激しない様な交渉術など分からない。
「俺達が貴様らに求める条件は3つ!速やかに魔物との協定を破棄して駆逐する事!速やかにこのベルム街から出て行く事!そしてお前らの武装解除!お前らがが持つ武器を全て明け渡せ!この3つの要求が通らない限り、我々が貴様らのメンバーを解放する事は無い!」
……また随分頭がカラッポな奴が……
『……ひとまず、我々の仲間に食事と水を差し入れたいのですが』
「食事と水だァ⁉︎甘ったれんなクソが!テメェらは自分の立場がわかってねぇ様だな⁉︎」
これはダメだ……こっちの世界の国際法でも、捕虜や人質の権利は定められているというのに……
この交渉は4時間半続いた。
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4時間半後、とりあえずクレイ達4人に水と食事を差し入れる事には成功した。
だが怪しんだ奴らのボスは『盗聴魔術が仕掛けられているかもしれない!』と言って徹底的に検品した後、クレイ達に差し入れられる事になった為、最初の差し入れは大揉めに揉めて大幅に遅れた。
ナツの情報によれば、閉じ込められている4人は、精神的・性的暴行は受けておらず、ほぼ健康体であるという。
それを聞いた瞬間、皆が安堵した。
しかし、だからと言って油断は出来ない。
"今"受けていないだけで、今後も受けないとは限らないのだ。
「まだ要求は通せないのか⁉︎」
『そんな事を言われても……我々はこの街に拠点を置いて居ますし……』
交渉はどちらも譲らず、監視している隊員達にも疲労の色が見られる。
一応分隊を2つに分け、監視と休息を交互に取らせている。
ヘリはまた戻っては来るが、とっくに帰投している。
これは長期戦になりそうだ……。
「(今すぐ荷物を纏めて出て行けって言うのは無茶苦茶すぎる。多分、街を護るのに俺達が邪魔なんだろう。それか、強力な武力を持った俺達に脅威を感じているんだ)」
交渉は更に2日続き、3日目の朝に向こうが動いた。
それも最悪の形で。
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クレイ視点。
もう交渉が始まって3日経ちます。
幸い、皆から水と食料が差し入れられているお陰で飢えと渇きはしのげているし、トイレもあるから生活は出来ています。
でももう3日もお風呂に入っていないせいで、髪の毛も身体も汚れでベタベタです。
建物を奴らが隙間なく見張っているせいで、仲間が突入する事も出来ません。
せめて私達が戦えれば……
今は魔力抑止の首輪が着けられている為、魔術は使えません。
後は自分の体力と技術のみ……ですが、あんな筋肉質の男数十人も相手は出来ません。
後は……と自分のマフラーに目を落とします。
でもこれは、ダメ、と首を横に振りました。
その時、奴らのボスが入って来ました。
「おい!どういう事だ⁉︎何の条件も呑まねえってどうなってんだ⁉︎」
「人質を返して欲しくないのかも……しれませんね」
ボスに付き添っている側近が私達を一瞥してから言います。
そんな訳ないじゃない、皆は私達を助けてくれる、絶対に。
「ふん!このままじゃ埒が明かねぇ。思い知らせてやる。おい、そこの女、来い」
「えっ」
側近がノエルの腕をガッと掴み、何処かへ連れて行こうとします。
「ノエルちゃん!」
「このっ……離して……っ!」
私達は3人でノエルちゃんの腕を引き、止めようとします。
が、ボスや付き添いの傭兵に頭や腹を殴られ、ノエルちゃんの手を離してしまったのです。
「ノエルちゃ_____」
バタン!
ドアは無情にも閉まってしまいました。
私達が最期に見たのは、ノエルちゃんの絶望し切った表情でした。
それから直ぐでした、凄まじい悲鳴が聞こえて来たのは。
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『やめてッ!嫌だ!嫌だよぅ!やめてぇっ!嫌っ!いやぁぁぁ!助けて!ヒロトさん!エリス様!お願い誰か!助けてぇっ!あっ!ああぁ!痛い!痛い痛い痛い痛い痛い!痛い痛い!いやぁぁっ!いやぁぁぁあぁああぁぁあ!!ぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"!__ッ!ッッ!』