第47話 拉致事件
ヒロト視点
俺が銃器や戦術について教えている様に、俺達転生者はエリス達からこの世界についていろいろと教わった。
種族の事
歴史の事
魔術の事
ギルド組合の詳しい事
一通り基礎を教わったところで、少し遅い時間になっていた。
俺はエリスと執務室に戻る。
「そういえば、クレイ達はどうしたんだ?」
「まだ帰って来ていないみたいだな……」
届けにあった時間は18:00だった筈だ。
既に18:28、真面目なクレイ達が時間をオーバーするとは考えられない。
事件に巻き込まれた……?
だとしたら……
その時、執務室のドアがノックされた。
「入れ」
「失礼します。隊長、守衛所に手紙が……」
この時間の歩哨に立っていたロベルトが入室し、俺に手紙を差し出す。
手紙を受け取りながらその時の状況を聞く。
「何時頃だ?」
「つい先程です」
「渡してきた奴は?」
「普通の商人でした」
ペーパーナイフで封を切る。
すると、中にはこんな手紙が入っていた。
『お前らガーディアンの大切なメンバーは預かった。返して欲しければこの街から出て行け。預かったメンバーの返還はこちらが指示する』
封筒には、クレイの着けていたマフラーの先端の切れ端が一緒に入っていた。
「……くそッ!」
バン!と机に手紙を叩きつける。
そして矢継ぎ早に指示を出した。
「エリス、全歩兵隊を食堂に集めろ」
「わかった」
エリスは走って執務室を出て行く。
もう4人が拉致監禁された事は手紙からも明白だ。何らかの手を打たなければならない。
程なくして全歩兵分隊と小隊本部、狙撃小隊と情報局のナツ、全体指揮の孝道が集まった。
「休暇中だったクレイ、ノエル、サーラ、レーナが拉致された、誘拐事件だ」
手紙の内容だけで判断したが、実際に街のどの建物に彼女らが拉致されているのかはわからない。
それに敵が何者かわからない以上、無闇に手の内を明かすのは危険だ。
「ナツ!ブラックバーンとグライムズとアイリーンを付ける!一般人に紛れて偵察に行ってくれ。武装を許可する」
「了解、グライムズ、アイリーン、ブラックバーン!手伝ってくれ」
「「「了解」」」
「他の者は全員、戦闘態勢を整えて待機!」
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ナツミ視点
ヒロトから言われた偵察。
今回は民間人に紛れ、どの建物に潜んでいるかを探る。
上着の下に隠せるMP7A1と数本の予備弾倉を持ち、基地から歩いて街へと下る。
情報収集能力、発動。
この能力は以外と万能で、透視や盗聴の他に、ドローンで空撮したかのようなイメージ映像が頭に浮かぶ。それもリアルタイムでだ。
それから自ら聞き出さずとも相手が勝手に喋り出す話術も、情報収集能力の応用だ。
尋問に対して、嘘発見器の様な使い方も出来る。
最終的にとても体力は使うが、何も聞かず、何と言わずとも、相手から情報を抜き取る事ができる。
薄く能力を使い透視をしつつ、3人と普通に言葉を交わしながら建物を探る。
街の中心部には……反応は無い……
能力発動・ドローン。
意識を集中させ、上空に持っていく。
感覚的には、実体の無いドローンを飛ばしている感じだ。
壁や地面も通り抜けることが出来る。
スキャン・サーマル。
脳内で流れる通常の映像が赤外線に切り替わる。
人々のいる位置が鮮明に映し出される。
街の上空、建物内部隅々まで探す。
倉庫がそれっぽいな……だが反応無し。
一般民家に紛れている可能性もある……けど、どの反応も違う。
店舗に立て籠もっている……訳でもなさそうだ。
教会は……待て、教会の反応がおかしい。
狭い部屋に押し込められた4つと、部屋の外でそれを見張る様な反応が幾つか。
壁を透過させ、通常映像に切り替え、音声をONにする。
『くははは、まさかガーディアンの4人がこんなに簡単に捕らえられるとはな』
『これであのヒロトとか言う代表と交渉して、ガーディアンを排除出来るぜ』
イメージとして耳に入ってくる会話と、既に見慣れた4人の顔。
……見つけた!
グライムズとアイリーン、ブラックバーンにハンドサインで発見を知らせる。
3人の表情は一瞬だけ、若干硬くなるが、すぐに取り繕う。
街人に溶け込み、じわじわと教会に接近する。
通り過ぎる5〜6秒の間で情報をあるだけ集める。
教会前に不自然な見張りの傭兵3人、ベランダにクロスボウを持った傭兵2人。
服装は一般人に紛れているが、雰囲気は完全には隠せていない。
全員が結構な筋肉質の男だ。
こいつらだ。
教会前を通り過ぎ、3ブロック程離れた人目につかない路地裏で無線をつける。
「4つの宝石を発見、繰り返す、4つの宝石を発見した」
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ヒロト視点
4人を発見した符丁が来た時から、基地では作戦を立て始める。
ナツが帰って来たら、スーパー63をC2バードとして運用、上空から指揮を執ってもらう。
それ以外の4機のブラックホークは1分隊を乗せて建物の東西南北を囲んで分断、外側からの増援と逃げる敵をシャットアウトする。
ケンゴ始め小隊本部は車輌に乗って合流し、第1分隊と共に正面の監視。
狙撃部隊は新たに1機を召喚して4機に増えたMH-6Mリトルバードに2人1組で乗り、目標建物の対角線を囲んで監視する。
各分隊と狙撃部隊によって目標建物を完全な正方形で囲む事によって、隙間ない監視が可能になる。
後はタイミングを見計らって突入、拉致された4人を奪還する計画だ。
そして新調した装備を身につける。
今までは機動力を重視したCRYE PRECISIONのJPCだったが、現在支給されているのはLBT-6094Aだ。
このプレートキャリアは、米海軍特殊部隊"NAVY SEALs"や陸軍特殊部隊"第75レンジャー連隊"も実際に使用しており、胴体腕の付け根部分が"スイマーカット"と言って斜めに切り取られている為、動きやすい。
それにJPCと違い、カマーバンドという胴体側面部分がしっかり使用できる。
JPCはその名の通り、空挺部隊が使用するモデルなので軽量に作られ、余分な場所は無い。
逆に言えば、取り付けられるポーチ類が少ないのだ。
側面はベルトのみで構成されている。
しかしLBT-6094Aは側面も使える為、携行できるポーチが増えるのだ。
前面のカンガルーポーチのベルクロ部分を跳ね上げて着用、カマーバンドを挟み込んで止める。
それぞれのポーチに弾薬を装填したマガジンと手榴弾を入れ、戦闘準備完了。
諜報偵察に向かった4人が帰ってくるのを待つ。
1時間程で帰ってきた4人に装備を整えさせながら追加の情報をもらう。
「奴らはやっぱり、お前ごとガーディアンを町から追い出したいらしいな、まだ情報は足りてないけど、どうやらこの町を守っているギルドらしい、強力な武力を持ったガーディアンにその守りの仕事を取られるのを危惧しているように見えるな、クレイ達4人を拉致したのも、お前との交渉材料としてみたいだ」
「なるほどね……今回は力づくで奪還するより、交渉して解放させるのが良さそうだ」
全員が準備を終え、各分隊長が隊員に作戦を説明する。
「卑劣漢によって捕らえられた我々の同胞を救出しよう!全員搭乗!」
「「「おう!」」」
各分隊はMH-60Mブラックホークに分乗、拉致されている隊員もいる為人数はまちまちだが、だいたい8人程だ。
ナツとタカミチは指揮官としてC2バードのスーパー63に乗り込み、上空から指揮を執る。
ケンゴ始め小隊本部は車両部隊を編成してそれぞれ乗り込み、現場へと向かう。
カーンズ以下狙撃小隊は2人1組のペアに分け、スター4各機に分乗させる。
ランディとクリスタ。
カーンズとバズ。
それから第3分隊の狙撃手、レミントンMSRを装備したアンナ・ドミニオンと、Mk12SPRを装備したエル・リークスの2人がスター43。
第4分隊の狙撃手、M14SEクレイジーホースを装備したローレル・ラフィルズと、MSG-90A2を装備したシェリー・ガブリエルの2人がスター44に乗り込んだ。
ヘリのローター音が次第に大きくなっていく。
整備士が離陸サインをすると、ヘリのパイロットはピッチレバーを引き、各機が空へと舞い上がっていった。