第43話 蜂
「ほんと、良くこんなあっさり合流出来たよ……」
基地に帰り、装備をロッカーに入れてから執務室で3人からいろんな話を聞く。
ケンゴをサバゲーに送って行く途中で、タンクローリーの爆発事故に巻き込まれてこちらに飛ばされたらしい。
そして、やはり神の部屋を経由して、ここへと来た様だ。
3人共特殊な能力を持っている。
タカミチは音響・空間把握
ナツは情報収集・教導能力
ケンゴは完全治癒・技術能力
そして共通して持っているのが、高い指揮能力だ。
まるで指揮官は彼らに任せろと言われている様だ……
しかもケンゴに至っては銃_____SCAR-Lとグロック19を持っている。
だがやはり俺の能力より汎用性が低い。
何で俺だけこんな良い能力を……
「ところで高岡は何であんな所に居たんだ?」
「ギルド組合から依頼を受けてたんだ、あの"森に住む巨大蜂"の討伐の仕事」
「へー、じゃあ今はそういう仕事を受けて生活してんだ?ところで何でこの世界に車や銃があるんだ?」
ケンゴが"剣と魔法のファンタジー"の世界に何故現代兵器があるのかを聞く。
3人は同じ境遇の転生者だ、隠す事は無いだろう。
「俺の能力、"現代兵器を召喚する能力"で召喚した物なんだ、これ全部な」
「うわ……俺、実銃なんて初めて見たわ」
「何でも出せるのか?戦車とか?」
「いや、まだ戦車を出すレベルには達していないから、レベル毎に解除されるみたいだな」
ひとしきり話をし、今後どうするか決める。
タカミチ、ナツ、ケンゴは、"部屋"でヒロトと合流しろと言われたから、"ガーディアン"に加わる事になりそうだ。
俺としても元いた世界で仲の良かった奴らなので、上手くやっていけそうだと思う。
問題は、あの巨大蜂である。
ギルド組合から、「山に入った人を襲う巨大蜂を討伐してくれ」との依頼を受けたのだ。
「装甲車使えば?針はしのげるだろ」
「車内から攻撃出来ないぞ、プロテクターRWSでも動きが素早くて当てられるとは思えん」
「散弾銃は当てられたんだから、攻撃は通用するんだよな」
「本体は矢でも貫通出来るから、本体を狙って当てれば良いんだろうけど、多分子蜂が死なない限りダメだろうな……」
その話し合いが行き詰まった時、ナツがふと気付く。
「そういえば……孝道は奴らの針避けてたよな?」
「確かに……」
全員の視線がタカミチに注がれる。
作戦が決まった瞬間だった。
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次の日、森へと入っていくのはM1044 HMMWV 1台だけだ。
それも、HMMWVにはM2重機関銃等の武装も積んでいない。
後部座席のドアを開けて降りたのは、完全武装のタカミチだ。
腰にロープロファイルベルトを装備し、右側にフラッグポーチが2つ、左の腰には日本刀を下げて新たな銃器を背負っている。
「んじゃ、頼むわ」
「おう、まかせろ」
運転していた俺はそれだけ言うと、車を走らせて合流地点へと向かった。
「ヒロト」
助手席のエリスが俺に話しかける。
「ん?」
「彼に任せて大丈夫なのか?」
元々のメンバーには既に3人紹介してある。
皆驚いていたが、特に混乱は無く早くも馴染み始めている様だ。
「大丈夫だ、言ったろ?元いた世界の友達だって。安心しろ」
そう言うと、無線を繋ぐ。
上空にはMH-60Mブラックホーク、スーパー63が飛び、上空からナツがモニターを見ながら指揮を執る。
「こちらヒロト、スーパー63のナツ、聴こえるか?オーバー」
『聴こえてる、んじゃ、合流地点まで誘導する、オーバー』
ナツの誘導に従い、俺は合流地点へと車を走らせた。
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タカミチ視点
渡されたのは銃と日本刀、手榴弾2つ。パーカーの左右のポケットにもう1つずつ。
ベルトに下げているが、サスペンダーで肩から吊っている為落っこちる心配は無い。
巨大蜂の討伐、ヒロトの作ったギルド"ガーディアン"の依頼だが、皆が俺の能力を信じて任せてくれたんだ、期待に応えなくちゃ。
多分、元いた世界なら依頼を受けなかっただろう。
俺が依頼を受けようと思ったのは転生した時に得た能力と、ヒロトから預かった武器の頼もしさがあったからだ。
それに、ずっとやって来たサッカーのお陰で体力には自信がある。
昨日巨大蜂と遭遇した場所に到着。
未だ死体はそこにある。
心なしか、昨日見た死体よりも欠損が激しいように見える。
能力を使う、ソナーの様に使って敵の位置を把握。
前方100m、茂みに遮られて見えないが、こちらに近づいて来る1つの反応。
そのうち、羽音も聴こえてくる。
「来い……!」
ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ヴヴヴヴヴヴヴヴ!
激しく重い羽音を鳴らし、巨大蜂が現れた。
体長2mの蜂は腹部が蜂の巣の様になっている。
なるほど、あそこから子蜂を出すのか。
どうやら俺には魔力があるらしく、扱い方も練習した。
俺の魔力の少しを足に回し、身体能力を上げる。
俺は蜂に背を向け、走り出した。
蜂は一瞬驚いたのか、呆然と立ち止まるが、すぐに我に帰ると追いかけてくる。
蜂の右手(?)には針が付いており、それからも針を飛ばしてくる。
空間把握能力を使い、着弾位置を予測、そこから飛んで避ける。
蜂はイラついたのか、連続で針を飛ばして来るが、同じ様に避ける。
ついに巨大蜂は腹部から子蜂を大量に出した。
昨日よりも多い、約50匹。
それぞれが独立した意思を持って攻撃してくる。
まるでどこまでも付いてくるミサイルが弾丸を放ってくる様な物だ。
しかし突っ込んだら終わりのミサイルとは訳が違う。
空間把握能力をフル活用し、全子蜂を掌握、前や横に回りこんでくる子蜂からの毒針の弾幕を避け続ける。
そこで、妙な事に気が付いた。
子蜂は尻尾から針を飛ばす時、横移動はせずに停止する。
停止した瞬間を狙えば、と思ったが、ほんの一瞬だけだ。
その一瞬の隙を突いて攻撃する余裕は無い。
何せ下手をすると50匹から同時に攻撃されるのだ、それも全方位からだ。
しかも時間差を付けて来る事もあるので、攻撃しようと振り向き1発目を避け、2発目を避けられたとしても3発目が当たってしまったら元も子もない。
それなら避ける事に集中した方が良い、攻撃のチャンスはこの後必ずある。
避けて避けて避けまくる。
ポケットから手榴弾を1つ取り出し、ピンを抜いて投げる。
前方へ思い切り投げた手榴弾は地面へと落下、バウンドすると白い煙を上げ出す。
ヒロトはM18スモークグレネードとか言っていたが、武器の名前は良く分からない。
その煙幕の手前で急激に曲がる、子蜂は曲がり切れずに煙幕へと突っ込み、パニックになる。
しかしすぐに立ち直り、また俺を追ってくる。
ついでにもう1つポケットから取り出し、また投げる。
煙を発しながら転がる手榴弾、俺はその煙を突っ切って曲がると、そこでまた蜂の速度が落ちる。
音響能力発動、もう少しだ。
背後から、左右から、上空から、同時に、時間差をつけて、一斉に俺を狙う蜂。
俺は発射される針を全て避け、走り続ける。
「……あった!」
俺は事前に能力で見つけた洞窟へと走って逃げ込んだ。
洞窟へと入り、更に奥に逃げ込む。
当然ながら蜂も俺を追ってくる、数は70匹と減っていないどころか増えている。
まるで逃げ場は無いと言っているようだ。
しかし、逃げ場が無いのは蜂共の方だ。
俺は洞窟の最奥まで辿り着き、立ち止まって振り向く。
子蜂共は針を発射しようとしたが、突然止まった俺に距離感を見失い、混乱してその場に空中停止する。
全ターゲット、掌握。
俺は背負っていた銃を手に取り、構える。
直線的でのっぺりとしたシルエット、大量の弾丸を装填出来るドラム型マガジン、ライフリングの着いていない大きな銃口。
MPS AA-12。
この銃を預かった時、そう聞いた。
武器に疎い俺にはさっぱりわからない。
教わった構えをし、引き金を引く。
バムバムバムバムバムバム!
12ゲージ、1発に200粒の入った弾丸が連射で放たれる。
適度に拡散した散弾は蜂共に命中、1発につき2〜3匹を同時に屠る。
"点"では無く、"面"で攻撃出来るのはショットガンの強みだ。
そのまま銃口をスライドさせ、次々と子蜂を"破壊"していく。
ショットガンと聞いて強烈な反動を想像していたが、試射の時に片手でも撃てる凄まじく軽い反動に驚いた。
天井や壁に散弾が当たる事もあるが、洞窟内部は砂っぽい為、跳弾は無い。
エジェクションポートから太いプラ製の薬莢が連続で排出される。
巨大蜂のその脅威は、大量の子蜂による全方位からの同時攻撃だ。
しかし洞窟内部では、攻撃は前方からの1方向に限定される。
ずっと攻撃しなかったのは、確実にここに誘い込む為だ。
それに、針を避け続けられたのは能力のお陰だ。
いくらサッカーで鍛えていた体力があるからといって、全ては避けきれない。
隠しスキル"ニトロ"
"ニトロ"とは、もともと車などの瞬間的加速装置で、排気に燃料を吹き付け、一時的に高加速を得る事が出来る。
戦闘機についているアフターバーナーのような物だ。
勿論、持続して使う事は出来ない。あくまで一時的な加速を得るだけだ。
ドラムマガジンに装填されていた32発全ての弾薬を撃ち尽くし、AA-12を前方に投げ捨てる。
子蜂は数匹が残り、本体の親蜂は洞窟の外へと逃げ出していく。
俺は止めに右のポーチから2発の手榴弾を取り出し、指に引っ掛けて同時にピンを抜く。
投擲、即座に音響能力でシールドを展開し身体に纏う。
ドドンッ!
投げたのは用途の違う2種類の手榴弾だ。
だ、と言い切っているが、武器に疎い俺には分からない。
3000℃の高温で全てを焼き尽くすTH3焼夷手榴弾と、爆風と衝撃波で攻撃するMK3A2攻撃手榴弾、と聞いた。
爆炎で染まる視界の端で、AA-12が完全に破壊されるのが見える。
これで少しは身軽になった。
"ニトロ"を使い、洞窟を脱出。
同時に手榴弾攻撃で、子蜂が全滅。
親蜂は爆発ギリギリのところで洞窟を脱出出来たようだ。
しかし、逃すつもりは毛頭無い。
俺も洞窟を出る、今度はこっちが追いかける番だ。
脱出した親蜂は4枚の羽の内2枚を損傷しており、地上スレスレを飛ぶのがやっとの状態、しかも速度もかなり遅い。
振り向いてこちらに毒針を飛ばして来るが、余裕で躱す。
今更1発の針など脅威でも無い。
「でやぁぁぁ!」
ザンッ!
日本刀を抜き、居合の要領で針のある右手を斬り飛ばす。
そのまま頭部と胸部___人間で言えば首の部分に日本刀を寝かせて突き刺し、振った。
切断された頭部はクルクルと回転しながら宙を舞い、地上に落ちる。
同時に、胴体がドシャッと地面に崩れ落ちた。
「よっし……!」
ハァ……ハァ……と息を切らし、日本刀を鞘に納めて無線をつける。
「C2こちらタカミチ、蜂を殺害、作戦は成功した」
『お疲れタカミチ、こちらナツ、ヒロトの車がそちらに向かってる。もうすぐ着く筈だ』
「了解、到着を待つ。終わり!」
丁度HMMWVのエンジン音が聞こえてきた。
討伐作戦は、タカミチの活躍で成功に終わった。
「お疲れ」
「手筈通り、銃は完全に破壊されたぜ」
「ナイスだタカミチ、んじゃ、帰るぞ」
「おう」