第41話 新たな転生者
10月某日
「この道で会ってるか?」
山口孝道(25歳)が、助手席から後部座席に声を投げる
「会ってる、この先の橋を渡ったら近い」
後部座席から反応するのは、沢村健吾(25歳)だ。
「いいなぁサバゲー、俺もやってみたいよ」
ハンドルを握るのは細野夏光(25歳)。珍しい名前だが、ちゃんと男である。
字面とふりがなから、女と間違えられやすいらしく、本人も気にしている。
「いつか自分と同じ名前の人に逢ってみたい!」といつも言っている。
3人とも高校の同級生だが、現在の職業はバラバラだ。
山口孝道は声優
細野夏光は教員
沢村健吾は医大学生である。
ミリタリーマニアな沢村は、大学の勉強の合間にサバイバルゲームやハートロックに参加している。細野と山口はやってみたいとは言っているが、仕事も忙しくて手が出せていない様だ。
今日は沢村のサバイバルゲームの送迎である。
ついでに細野と山口は近所のショッピングモールで買い物をする予定だ。
「そういえば、いつサバゲー始めたんだ?」
「えっと、高校2〜3年の時かな……」
沢村は頭の中で記憶を探るが、たどり着けそうになった瞬間、ノイズの様な物が走る。
「あれ?……なんでだっけ……」
何度も思い返すが、やはりノイズの様な感覚に阻まれて思い出せない。
「絶対何かのきっかけがあった筈だ……何で……」
「良いじゃん。楽しんでんだろ?」
「まぁ、そうだけどさ……」
「……んっ!なんだあれ!」
細野が何かに気付き、車を止める。
急ブレーキでギリギリで止まった。
「あっぶね……」
「何……っ!」
目の前で、大きなタンクローリーが横転している。
車線を塞ぎ、これ以上前には進めない。
既にガソリン漏れを引き起こし、今にも引火しそうな状態だ。
「ヤバいヤバい……!」
どうにかしないと、と思い、細野は車をバックさせようとした時。
細野の車を追い越そうとした車がタンクローリーに激突、それがきっかけでガソリンに引火し______
ドォン!
3人は車ごと炎に包まれる。
その瞬間、彼らは思った。
衝突した軽自動車、絶対に許さない、と。
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その日の夕方のニュースで、爆発事故は大きく報じられた。
『今日午前7時半頃、埼玉県川越市の県道で、タンクローリーが横転、大規模な爆発がありました』
近くの監視カメラで捉えられた爆発時の映像が繰り返し流される。
『原因は運転手の運転ミスと見られておりーーー』
『尚、幸いな事に、運転手は脱出に成功。死傷者は出ていません』
その映像には、車は写っていなかった。
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目が覚めた。
知らない天井に来てしまった。
「う〜ん、この表現在り来たりだよなぁ」
「知らない天井なぁ……」
「いやでもぶっちゃけその通りだろ」
「気付いたかい?」
バッ!と3人は振り向く。
そこには見知らぬ男が居た。
3人はほぼ同時に思った。
誰だこのおっさん!
「だから何で皆おっさんって言うんだよっ!」
「お、おおぉ……う」
「さーせん」
「どちらさまですか?」
夏光が聞く、突然ここに居たのだから当然の質問だ。
「君達をここに連れて来た者だよ、突然の事で申し訳無い。察している通り、君達はもう死んだ身だ」
"死んだ"の言葉にショックを受ける3人。
「って事はここは死後の世界?」
「死後の世界が1LDKかよ……」
「俺達は元の世界には戻れるんですか?」
「残念ながらそれは出来ない、私は君達を必要としているからだ」
どうやらこの3人はこのおっさんの元で働くらしい、と半ば諦めかける。
「……ところで、君達の記憶の片隅に、所々抜け落ちている箇所が無いかい?」
「……あ、そういえば……」
「高岡大翔、と言う名前に聞き覚えは?」
その瞬間、3人の頭に電気が走ったような軽い頭痛が起こる。
それと共に、少しずつ記憶の蘇る。
「ひ、大翔……」
「大翔……高校の時に……!」
「俺がサバゲーを始めるきっかけになった……」
3人はそれぞれの記憶が思い出され、頭を抱える。
「君達には是非彼と合流して欲しい、まぁ、勝手に生きても良いがね」
「合流⁉︎どういう事ですか!」
健吾が食い下がる。
「君達にはこれから魔物が跋扈する剣と魔法のファンタジーの異世界に行ってもらうんだ、ちょっと頼みたい事があってな」
と、そこで孝道が気付く。
「……こういう異世界に行くみたいな話って、大抵行く人能力持ってね?俺達の能力とかってあるんですか?」
「あぁ、ある。3人揃って持ってるのが高い指揮能力だ。それから固有能力だが、まずは山口孝道クン!」
「あっはい!」
孝道が名前を呼ばれ、姿勢を正す。
「君には音響能力と高度な空間把握能力を持つ事になる。音響能力は、無線を使わなくても特定の相手に言霊を送る事が出来たり、空間把握能力と合わせてソナーの用に使えたりする物だ。音波攻撃も同じく可能。」
「空間把握能力は、その空間の物体の動きや未来位置が予測出来る。物体の移動先に攻撃を仕掛けたり、攻撃を避けたりも出来る」
「なるほど……」
山口はもっと派手な能力を期待していたらしく、嬉しさ半分ガッカリ半分の様だ。
「次、細野夏光クン!」
「はいっ!」
「君は"人にモノを教える"能力が高い様だ。それを更に高めた高い教導能力、それから優れた情報収集能力を与えよう。君の教師・教官としての能力は、異世界ではとても重要な事になる。その能力を高め、世界に貢献して欲しい」
「情報収集能力は、情報の拡散や収集がし難い異世界でも大活躍する事になる。これらの扱い方を間違えないで、正しく能力を使う様に」
「はい!ありがとうございます!」
夏光は自分の職業である"教師"としてのスキルが高まった事に少し嬉しそうだ。
「最後!沢村健吾クン!」
「サー!イエス・サー!」
海兵隊風の返事と共に勢いよく立ち上がる。
「君は完全治癒能力と、技術工学の能力を与える。冶金技術の低い異世界では、君の技術能力は高く評価されるだろう。勿論何かを作るには材料と道具が必要だがね」
「完全治癒能力は、自分にも使用出来る。効果は能力を使った相手の怪我や病気を完全に治癒する事が出来る。医者を目指して勉強していた君にはぴったりだろう」
「ありがとうございます!サー!」
3人に能力を伝えた神と思われる見知らぬ男はその場から2歩下がる。
「では!この荷物の中から自分に必要なモノを持って行きなさい!40秒で支度する事だ!」
男の足元にはゴチャッと様々な道具が現れる。
靴や服、カバン等の基本的な初期装備の様な物と、少しだけの武器だ。
「お、おいこれ!この靴は絶対にあった方が良いぞ!」
健吾は1つのトレッキングシューズを手に取る。
夏光と孝道にそれを渡す、サイズは驚く程ピッタリだった。
それから3人とも武器を装備する。
コンバットナイフや多目的ツールナイフなどを手に取り、服等と共にカバンに放り込んでいく。
健吾はその中からある銃を手に取る、サバゲーでの相棒でずっと使っていた銃だ。
コッキングレバーを引いてみると_____鈍く輝く弾丸が見える。
実弾か……?
でもそれを今は確かめている時間は無い。
それに、もしこれが本物なら頼もしい武器だ。
死ぬ前にも使っていたプレートキャリアにマガジンを幾つも入れていき、ベルトにホルスターを取り付け、拳銃を入れる。
健吾がミリヲタだという事を知っていたのだろうか……
「では、死なない様に気を付けてね!3……2……1……0!」
3人の足元がバンッ!と開く。
3人の異世界転生は、細かすぎて伝わらないモノマネ選手権の様な落とし穴から始まった。