第40話 施設の召喚と基地の案内
今回は長めです。
あれから3日
俺達は飯喰い達から貰った土地へ引っ越す準備に追われていた。
「ヒロト、それは?」
「んー、ベースの見取り図。これを元に建物を召喚する……よし、出来た」
特殊なA4用紙5枚分、全景と内部構造、各部屋の見取り図が完成した。
これで到着次第、基地の建物を召喚する事が出来る。
ようやく、安心して生活する場所が出来るのだ。
約3ヶ月に渡ったテント生活ともオサラバである。
皆よく我慢してくれたと思う。
俺は完成した見取り図をバッグに入れ、車に乗る。
「航空部隊、準備は良いか?」
『いつでも行けます』
「よし、出発する」
既に土地の場所は飯喰いに案内された為知っている。
期待に胸を膨らませ、俺は車を走らせた。
丘へと到着、取り敢えず車を停める。
今気付いたが、俺達が貰った土地の近くには飯喰い達が新たに開拓した畑があり、数人の飯喰い達が作業している。
俺達が手を振ると、気付いた飯喰い達が友好的な笑顔を浮かべて手を振りかえす。平和な景色だ。
「航空部隊へ、上空で待機、指示があるまで着陸を待て」
『了解』
俺はカバンから用紙とスマホを取り出し、スマホの"召喚"を起動。
建物を召喚するアイコンからカメラへ飛ぶ。
用紙の角についている記号をカメラ画面の角に合わせ、読み取り。
これを5枚分繰り返すと、現在位置の周辺地図が表示される。
四角い枠を自分の現在位置の目の前にセットする。
「じゃ、行くぞー」
皆は車の中からワクワクした表情を浮かべて頷く。
では、"召喚"っと……
召喚をタップし、確認アイコンもタップする。
すると、地鳴りと共に地面が揺れ始める。
ゴゴゴゴゴ……
皆は車に掴まり、揺れが収まるのを待つ。
そしてスマホで確かに指定した場所に巨大な光の塊が現れる。
その光の塊は形を変え、地面を掘り下げて食い込む。
5分程で揺れは収まり、光は消える。
すると、目の前に立派な建物が現れた。
現在俺達が居るのは正門前、向かって右には3階建ての司令部庁舎、左は地面を掘り下げてあり、掘り下げた地面から数えると5階建ての宿舎がある。
司令部庁舎1階と奥へ伸びる通路を挟んで宿舎2階の正面玄関に繋がっている感じだ。
司令部庁舎の右奥には回転翼機の格納庫と駐機場がコンパクトにまとまっており、司令部庁舎の屋上には航空管制室がある。
「「「おおぉー……」」」
俺含め皆は声を上げて新たな基地を眺める。
「良し、正門から入るぞ。今日からここが俺達の拠点だ」
車を正門から入れ、司令部庁舎前で停止、エリス達に車を格納庫に入れる様に指示し、俺は1人、司令部庁舎屋上の管制室に向かって階段を上る。
管制室は見晴らしが良く、飛行場が一望出来る。
俺は制御パネルから無線機のマイクを取り、航空部隊へ着陸指示をだす。
「航空部隊全機、着陸を許可する。風向きは……」
パネルの風向計に目をやる。
「270度から1ノット、気をつけて侵入せよ」
『了解、スター41、着陸する』
指示の通り、航空部隊のヘリコプター全機が駐機場上空へ旋回、着陸進入する。
「格納庫に航空機を収容後、全員食堂に集合せよ」
『了解』
俺は管制室を出て、車両格納庫に戻った。
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「よし、皆荷物持って、食堂に移動しよう。部屋の鍵を渡す」
そう言って、皆でぞろぞろと移動を開始する。
食堂は司令部庁舎1階にある。
自分が設計したとはいえ、まぁとんでもなく広い。
現在"ガーディアン"は航空部隊の整備士まで含めると150人程だが、余裕で収容できる。
5倍以上の人が入りそうだ。
航空部隊員全員が集合するのを待つ。
やがて、航空機の駐機を終えたウォルコットやキース達が食堂に入ってきた。
「いやぁ、ここ広いですね。ちょっと迷いましたよ」
「後で自由行動の時間があるから、その時に施設を見てくるといいぞ」
航空隊員全員が席に着く。
俺は皆に向き直り、話し出す。
「皆今までのテント生活に協力してくれてありがとう。ここが俺達がこれから生活する家、そして基地だ。これから部屋の鍵を渡す、鍵に書かれた番号の部屋が自分の個室になるから、鍵は失くさないようにな」
俺は用意されていたケースから鍵を一つ取り、隊員を順番に呼んで鍵を渡す。
「受け取った人から個室に向かって良いぞ、久しぶりの休暇だからゆっくりしてくれ」
「了解しました」
受け取った隊員は鍵を持ち、鍵に付けられた部屋を探しに司令部庁舎を出て宿舎へ向かっていく。
全員に渡し終え、鍵の入っていたケースを事務室に戻す。
事務室は食堂を出て右手、廊下の向かい側にある。
そして俺も自分の荷物と鍵を手に取り、自分の部屋へと向かう。
俺の部屋は"A 2 10"号室、宿舎の正面玄関に最も近い位置にある部屋である。
司令部庁舎の正面入り口を出て、通路を挟んで正面に宿舎2階玄関が見える。
玄関を入って左手の通路を進む。通路右側には男性用トイレが、左側には階段がある。
因みに女性用トイレは玄関入って右手の通路側にある。
俺の部屋は階段のすぐ横だ。
鍵を開け、部屋に入る。
一応、玄関では靴を脱ぐ仕様にしてある。
この世界ではリビングでは土足だが、自室では靴を脱ぐ習慣があるので、日本人の俺は少し戸惑ったが、これならアパートやワンルームマンションとほぼ同じだ。
他の部屋から聞こえてくる声にも、その混乱は見られない。
玄関で靴を脱いで下駄箱に仕舞い、正面の襖を開ける。
部屋は8畳のワンルーム、フローリングにカーペット仕様だ。
日本人の俺は畳が良かったし、畳の柔らかさやい草の香りは好きだが、張り替えや湿気でカビが生えたりすると面倒だ。
後々畳に変えるのもありか……とは思っている。
自室を見て回る。
玄関を入って左手の襖はキッチン台と冷蔵庫、風呂がある。
キッチン・風呂付きのワンルームだ。
そういえば家具とかは作れるんだろうか?と思って部屋に戻ってベッドに腰掛け、スマホを開く。
ベッドは最初から設計に含んでいたので、問題なく召喚されている。
【飯喰いを大量に倒した為レベルが上がりました】
Level32
【回転翼機:CH-53Kがアンロックされました】
【装甲車:LAV-25A2がアンロックされました】
【装甲車:M113A3がアンロックされました】
【装甲車:AAV7A1がアンロックされました】
【ボート:SOC-R高速河川ボートがアンロックされました】
【ボート:CB-90戦闘ボートがアンロックされました】
【工兵:92式浮橋がアンロックされました】
【歩兵:中隊規模歩兵がアンロックされました】
……1200体も魔物を狩ったら上がるとは予想していたが、結構上がったな。
召喚のところに家具はあるかな?と思い召喚をタップ。
野戦生活具の欄を見たが、簡易ベッドやキャンプ用のベンチなど、サバイバルセットだけしか無い。
家具は街へ行って買ってくるしか無いようだ。
「とりあえず、ようやく一息つけるな……」
テンションの上がった隊員がバタバタと廊下を走っていく音が響く。
ちょっと施設を見て回ろうと思い、席を立つ。
ドアは内開きなので、ドアノブを捻って引く。
「ひ、ヒロト」
「エリス?どうした?」
ドアを開けると、エリスがドアの前に立っていた。
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「皆はどうしてるんだ?」
「皆は荷物を置けた人から施設の探検に行ったよ」
エリスは俺と施設を見て回りたいと言ったので、俺が案内する事になった。
宿舎の中心はミニロビーとなっており、ソファーと自動販売機が置いてある。
自動販売機は俺が施設と一緒に召喚したものだから、問題なく使える。
1本銅貨1枚だから、大体100円位だと思う。
一応生活に必要な物は一通り揃っている。
水は裏山の水源と近くを流れる川からとって浄水して使えるようになっているし、電気は屋上や屋根の太陽光発電システムや基地の隅にある小さな風力発電、水をここまで引いてくるパイプ内や近くを流れる川での水力発電で賄っている。
階段を降り、司令部庁舎から見ると地下1階、宿舎の1階部分にも部屋がある。
一段地面を掘り下げているが、窓からはしっかりと陽光が入る設計だ。
現在1階は20号室までを隊員達が使用している。
宿舎A棟は600人を収容出来、現在は空き部屋だらけだが、将来"ガーディアン"が大きな部隊になった時を想定している。
因みに宿舎の地下1階は、隊員達の私物が置けるロッカーになっている。
宿舎1階には通路があり、司令部庁舎地下1階と繋がっている。
地下にあるのは銃器保管室や弾薬庫、燃料庫だ。
地下の廊下を右に進むと、奥行き380mの地下射撃室がある。
突き当たりには柔らかな砂が積まれ、跳弾を防ぐ構造になっている。
「おおぉ……」
「ここなら照準器の調整も出来るだろ?」
「凄いな……」
「スマホ様様だ」
エリスと言葉を交わしながら更に施設を探検する。
階段で司令部庁舎1階に上がる。
正面には鍵を渡した時の食堂、階段左の通路を挟んで外には医務室がある。
外と接しているのは、車輌から下ろした負傷者を直接医務室へ運べる為だ。
「ヒロト!ここは?」
「PXの予定地、まぁ売店だな」
階段右の部屋は、駅のコンビニ位小さなところだが、購買がある。
その隣の部屋が事務室になる。
階段左の通路を真っ直ぐ奥へ行くと、訓練や戦闘後に汗や汚れを洗い流すシャワー室が、その隣にはランドリールームがある。
洗濯機がズラリと並ぶ姿は壮観である。
「凄……この機械は幾つあるんだ?」
「一応全部で100台、全員分が一度で……は無理かもしれんが、多少は余裕が出来るかもな」
「……今まで洗濯は手洗いだったからな……これは便利だ」
司令部庁舎の2階へ上がる。
階段の左右には扉があり、男女のロッカー室になっている。
戦闘装備はここで整え、奥のドアから直接外へと出られる構造だ。
横70×奥行き70×高さ190(各cm)のロッカーが180個も並んでいる。
男女のロッカーは今の所合計380個だ。
ほぼ1個中隊規模である。
2階へ階段を上って左正面には、パイロットが飛行装備を整える為のパイロットロッカーがある。
ここも大量のロッカーが並べられ、パイロットロッカーから即座に裏手の格納庫及び飛行場に行けるドアが内部にはある。
正面奥へと続く廊下の左手には奥から講義室、ブリーフィングルームがある。
講義室は、今後の訓練についてや、使用する銃器などの授業を行う為だ。
ここで一息ついた後、本格的に戦闘力をつける為の訓練を予定している。
そしてブリーフィングルームは、戦闘計画や飛行計画などを立てる為の部屋で、会議室みたいなものだ。
ブリーフィングルームの隣には倉庫があり、ブリーフィングに必要なプロジェクターやホワイトボードなどはここに仕舞う予定だ。
そして倉庫隣の窓に面した部屋が、執務室だ。
実質的には、俺が事務仕事をする部屋である。
まだ執務机と椅子、ソファー位しか無い。
階段を上って3階へ、正面には身体を鍛えるトレーニングルームがある。
「こ、これは……」
「俺の世界のトレーニング用の機材。これは腹筋を鍛える物、これは腕力を鍛える物、室内で走る事の出来るランニングマシンもあるぞ」
「室内でこれだけ本格的な鍛錬が出来るとは……私の騎士団では、こんな贅沢な器具も無かったぞ……」
「これも訓練になったら使うかもしれないし、自主的にも使えるぞ」
階段は更に上にもあるが、この上は屋上と管制塔だ。
階段を降りて今度は飛行場を案内する。
降りる途中、グリッドとブラックバーン、ユーレクとすれ違った。
「おっ、どこ行くんだ?」
「俺らは探検です、ヒロトさんもですか?」
「あぁ、俺達は飛行場を見に行くんだ」
「グリッド、この上はトレーニングルームあるから見てくると言いぞ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
エリスからトレーニングルームがあると聞いたグリッドは喜んで階段を駆け上がっていく。
俺はその背中に「転ぶなよ!」と声をかけた。
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1階まで下り、廊下左側突き当たりのドアを開けると屋根付き渡り廊下になっており、雨が降っても格納庫まで濡れずに行ける。
「ここが航空機の格納庫、もう整備士達が作業しているかもな」
「ここも広いな……」
格納庫の扉を開けると、既にMH-60Mブラックホークが鎮座している。
整備士がエンジンの点検整備をしていたり、パイロットが副パイロットと協力してシステムのチェックを行っている。
「ゴフィーナ」
「あぁ、ヒロトさん。お疲れ様です」
スーパー62のパイロット、ゴフィーナ・ヴェントレスに話し掛ける。
「どんな様子だ?」
「ええ、機体の方は問題はありません。消耗した部品の交換などが出来るかどうかですが、部品さえあれば問題無いでしょう」
ここの設備整ってますし、工具も一通り揃ってますからね、と付け加える。
「わかった、地下倉庫に部品の備蓄をしておくよ」
「感謝の極みです」
エリスは広々とした格納庫を自由に歩き回り、向こうに駐機してあるCH-47Fのパイロットと話している様に見える。
あれは……イエロー33か。
パイロットはスラヴィア・グリーンランドだったな。
俺はスラヴィアとエリスに近づく。
と、エリスはパッとこちらを振り向き、笑いながらイーッとして飛行場に走り出す。
それを見て笑うスラヴィア。
なるほど、追いかけろって事ね!
俺も整備の邪魔をしない様に走ってエリスを追いかける。
スラヴィアは手を振って見送っていた。
飛行場……と言うより駐機場だが、横400m×縦200mとかなり広い。
それにエリスも足が速い、これは追いつくのが少し大変そうだ。
「追いつけるか〜?」
「待てぇーっ!」
飛行場の端まで追いかけ、左に行けば車輌格納庫、その近くの芝生で俺はエリスにやっと追いついた。
エリスの腰を捕まえ、2人で芝生に転がる。
「はぁ……はぁ……ははは、速いなヒロト」
「はぁ……はぁ…エリスも…速いな」
「ふふふっ、だって私は騎士団だった人間だぞ?……体力には自信があるんだ」
「俺も身体は鍛えていた方だが……やはり本職には敵わないかなぁ……」
「何言ってるんだ、今までだって充分な体力で戦ってたし、私にも追いつけたじゃないか。敵わない事なんて無いぞ」
「そうだな」
芝生の上に仰向けに横たわる。
青い空に散らばった雲、鳥が飛んでいる。
と、エリスが俺の手に指を絡めてきた。
絡めて少しだけギュッと握りしめ、応える。
俺とエリスは暫くそこで息を整えた。
「……さて、近くまで来たから車輌格納庫も見て行こう」
「あぁ、わかった」
俺とエリスは立ち上がり、手を繋いだまま車輌格納庫へと歩き出した。
車輌格納庫は見事にガラガラだ。
便宜上呼び分けた通常車輌の格納庫には、SOVが3台、M1044 HMMWVが1台、M998 HMMWVが1台しか入っていない。
支援車輌の方には、綺麗に洗ってある野外炊具2号と燃料タンク車(牽引型)があるだけだ。
まぁ、1個小隊ならあまり増やしても意味は無いが……
「航空機格納庫は1/3程埋まっていたが、ここはガラガラだな……」
「何しろ引っ越してきたばかりだしな、もう少ししたら装甲車出すよ」
「装甲車って……HMMWVの様な?」
「いや、もっと大きいやつ」
「楽しみだなぁ……」
車輌格納庫の司令部庁舎近くには、2階のロッカー室から伸びる階段があり、この階段で直接格納庫に来る事が出来る。右側には宿舎があり、宿舎A棟の隣にももう一つ宿舎が建てられるスペースがある。
人が増えた場合を考慮して、宿舎が3棟並べられるスペースは確保してあるのだ。
一通り案内が終わり、宿舎2階部分から宿舎へと入る。
「ん、エリスどうした?」
俺の部屋の前まで来たが、エリスは自室へと戻ろうとはしない。
「え……と、その……」
どうした?とは聞いたが大体何が言いたいかは予想はついている。
「おいで、エリス」
俺はエリスに手を差し出し、エリスは俺の手を取る。
俺はエリスと一緒に、部屋に入った。