第38話 不穏な動き
ガーディアン警護の下、農業の指導が始まった。
街の人達も飯喰い達と和解してくれた様で、反対派は居るものの、今のところ何も起きていない。
我々ガーディアンが警護するのは、飯喰い達の中に「人間に屈するのは恥」と言う考え方の個体がおり、その一派が人間に襲い掛かるのと、人間側の「魔物となど共に生きられない」と言う考え方の一派が飯喰い達に襲い掛かるのを防ぐ為だ。
俺達が街に飯喰い達を連れて来た責任でもある。
「魔物」とは言うが、正確には"魔人種族・鬼族"に属している事が判明している。
伯爵がそれを発表すると「飯喰いは魔物だ!」と言っていた人々も半数ほどに減った。
こうしてぎこちないながらも少しずつ歩み寄り、手を取り合って生きていく一方で、飯喰い側に不穏な動きがあった。
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人間から農業を教わり始めてから数週間後、山へ帰った飯喰いの長の下へ訪れた数頭の飯喰いが居た。
流石に住処まで人間に世話になる訳にはいかないと、飯喰い達は自主的に山に住んでいる。
「ギギギギ……」
『何だ?お前達』
「ギギギ、ギギギギ、ギギギギ!」
『何?"我々魔人が人間ごときの下に着くべきではない"だと?生きる為だ、生きるのに邪魔なプライドは捨てればいい』
「ギギギ!ギギギ、ギギギ!」
『お前達がそんな差別意識を持っているから、人間は我々を敵視するのだ!それが何故分からん⁉︎限りある山の食糧を同族で奪いあうより、人間と共存した方が、我々は生きられるのだ!』
「ギギギ……ギギギ、ギギギギ」
『お、おい待てお前達!』
「ギッ!」
その数頭の飯喰い達は、それだけ言うと姿を消した。
『(人間と争う事になる……か……それによって我々講和派まで敵視される事だけは避けねば……)』
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それから暫くしてヒロト達は伯爵の屋敷へと呼び出された。
既にこの街のギルド組合にも登録し、本格的なギルドの運営がスタートするところだ。
ギルド組合からは向こうで吹っ飛ばした土地の修復代に金貨10枚を請求されたが……
屋敷へは俺とエリス、エイミー、ヒューバートの4人で向かった。
エイミーはもともとエリスの付き人だし、エリスもこういった時のマナーは心得ている。
俺はこの世界のマナーは知らない為、エリスに教わりながらだ。
応接室に4人が入る。
「突然呼び出してすまないね」
「いえ、お気になさらず。今回はどういったご用件でしょうか?」
「なに、"ガーディアン"と少し話をしたかったんだよ。農業の件の礼もしたいしね」
そう、農業について俺達もオブザーバーとして参加しており、前世で得た技術を少しだけ助言している。
掛けたまえと着席を促されたのでソファーに座る。
同じタイミングで、伯爵のメイドが紅茶を淹れて持ってきた。
「では、まず質問させて貰おう。君達"ガーディアン"はどう言った組織だね?"ガーディアン"の目的を教えて欲しい」
初っ端から飛ばすね伯爵。
「自分達は明確な目的と言うのはありませんが……我々の仲間、戦友を守る為に設立されました。我々の使う特殊な兵器の数々も、あの場でご覧になったと思います」
「そうだな、"光の矢"や"空飛ぶ風車"、"走る荷台"……初めて見る物ばかりだ」
ははは……と笑って流す。
今はまだ、俺が異世界から来たと知らせる必要は無い。
伯爵がベースを訪れた際に自分達の武器は紹介してある。
勿論、売る事は出来ないという釘は刺しておいた。
暫くいろいろ話して、いろいろな事が分かった。
今俺達が居るこの街は"ベルム街"という街で、"ワーギュランス公領"の中では大きい方では無いが、物流の要衝である。
飯喰い達の被害は10数年前から確認されていたらしい。
伯爵は数年前から飯喰いの生態を調査しており、魔物では無く魔人種族だという事は突き止めていた様だ。
「なるほど……それで住民達への説得も上手くいった訳ですね……」
「人心掌握というのは、人の上に立つ時に重要だからね」
「確かに」
笑いあい、紅茶で口と喉を潤す。
その時だった。
カーン!カーン!カーン!カーン!
鐘の音と同時に、屋敷内の兵士達が慌ただしく動き出す。
「なんだ?」
「伯爵、来客中に失礼します。飯喰いの一群が襲来中の様です。数は1200」
応接室に伝令が入ってくる。
俺達は装備を持ち、立ち上がる。
「そうか……」
「伯爵、美味しいお茶をありがとうございます。飯喰いの襲撃なら、我々ガーディアンの責任です。ですから我々にお任せを」
「……分かった、しかしやはり兵は出させてもらおう。ガーディアンが動くのに街の兵は動かないなど、民は納得しない」
「ありがとうございます。では、失礼します」
俺達4人は応接室を飛び出し、屋敷の外に出て乗ってきたSOVに乗ってベースを目指した。
「1200体だぞ?何か打つ手はあるのか?」
助手席からエリスが話しかける。
「大丈夫、戻ったら新しい兵器を出す。任せろ!」
俺はSOVを走らせた。
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ベースに到着、SOVをスペースに入れる。
「全分隊は戦闘装備を整えて本部タープに集合!」
「「「了解!」」」
個人テントでコンバットシャツを着て、JPCを被って調整する。
M4用のSTANAGマガジンに30発をクリップで留められた弾薬を装填、拳銃のマガジンにもローダーを使って15発の9×19mmパラベラム拳銃弾を装填する。
STANAGマガジンは8本、3本を前面のカンガルーポーチに入れ、4本を2本ずつサイドのポーチに入れる。
拳銃は胸部のポーチに2本入れる。
ロープロファイルベルトの4つのフラッグポーチにM67破片手榴弾とMK3A2攻撃手榴弾を2つずつ入れる。
背中のハイドレーション・バックには1.5L程水を入れる。
ヘッドセットを着けてヘルメットを被れば、戦闘準備が完了だ。
自分のライフルを持ち、本部タープに集合した。
暫くして、全員が集合する。
『あっ!ヒロト殿!』
飯喰いの親分がこちらに向かってくる。
「どうなっているんだ⁉︎」
『済まない、我々の中で人間との共存を望まない反乱分子が襲撃しようと進行している』
「……我々は人間です、こうなった以上、彼らと刃を交えなければなりません。すぐに彼らを殺さねばという事になるかもしれない」
『……いや、まずは私が交渉に出よう、彼らも分かって引いてくれるかもしれない』
「分かった、俺達が連れて来た飯喰いの反乱分子が襲撃して来ている。まずは親分が交渉する。決裂した場合は俺達が連れて来た責任だ!全力で当たれ!」
「「「了解!」」」
飯喰いの親分が反乱分子として射殺を許可した。どうやら覚悟は出来ているらしい。
俺は皆に向き直り、檄を飛ばす。
俺は1度本部を離れ、駐機場に向かう。
スマホを取り出して新たな兵器を出す。
それに伴って少しだけ人員も増えた。
「じゃあディーレイ、頼む」
「了解!」
「ウォルコット!飛べるか⁉︎哨戒に上がってくれ」
「大丈夫です!直ぐにでも!」
「第2分隊は街へ!街の兵と治安を担当してくれ!」
「了解!」
「ストルッカ!第3分隊も行く!迫撃砲を手伝ってくれ!」
「「「「了解!」」」」
第1分隊はM224 60mm軽迫撃砲と弾薬を大量にHMMWVに積み込む。
俺達はいつも通りSOVに乗り込み、第3分隊から借りた人員と狙撃手をSOV乗り込ませ、街の外側へと車を飛ばした。
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街の外側に到着した、丘の向こうから赤い波が押し寄せて来ているのが見える。
「来たぞ……飯喰い達だ、推定1200」
ぞろぞろと横並びに飯喰い達が押し寄せる。
よく見ると、手には槍や盾を持っている。
飯喰いの親分は護衛の飯喰いを連れ、交渉に向かう。
「第3分隊は迫撃砲を設置、発射命令を待て」
第3分隊各員は頷き、迫撃砲の設置に取り掛かる。
「よし、全員弾薬を装填しろ」
「了解」
ヂャキッ!バシャッ!とボルトが閉鎖する音が連続する。
「ランディ、クリスタ。この間と同じだ。迂回する敵を仕留めてくれ」
「はい」「了解です」
狙撃手は両翼に、分隊支援火器手とGPMGガナーは塹壕に、ライフルマンは各車両の銃座に着く。
「魔術師は魔術で塹壕を掘ってくれ!」
「了解、大地よ、我が声に応えて姿を変えろ!地形変動!」
エリスとクレイが魔術で全長35m程、深さ80cm程、幅2m程の塹壕を掘る。
分隊支援火器手のヒューバートとエイミー、GPMGガナーのグリッドは塹壕に入って射撃準備をする。
ブラックバーンやクレイはM2やミニガンの弾薬を装填、エリスはSOVの助手席にあるM240E6を掴む。
俺はSOVの銃座に着き、M2に弾薬を装填。
『こちら第3分隊、迫撃砲の設置完了』
「了解、発射命令を待て」
ACOGスコープを覗き、事の成り行きを見守る。
親分のお陰で進軍は少しだけ止まる。
必死に訴えかける飯喰いの親分、反発する飯喰い達。
それでも交渉する飯喰いの親分、人との協力路線を選び、未来への種の存続を主張する。
交渉は5分続き、護衛の飯喰いが襲撃飯喰い達に殺される事で交渉は終わった。
飯喰いの親分は護衛の死体をかかえ、走って戻る。
俺達が掘った塹壕まで親分は退却、詳細を話す。
『だ、ダメだ。彼らは本気でこの街を滅ぼそうとしている……!』
「分かった、良いな?」
『あぁ、私が種族を代表し、人間との共存を望んだのだ、やむを得ん』
「親分は街まで下がれ、俺達が街を守る」
『済まない、ヒロト殿。頼む』
親分は塹壕から出て街へ走る。
やはり断腸の思いだった様で、目には涙を浮かべていた。
俺は無線を入れる。
「第3分隊、迫撃砲発射」
『了解!撃てェ!』
ドンッ!ドンッ!ドンッ!と、後方で3門のM224 60mm軽迫撃砲が火を噴く。
砲弾は暫く空中を飛翔、山なりに飛んだ砲弾は飯喰いの群れの中へと突っ込んだ。
だんちゃーく……今!
ドドドォン!
群れの中心で爆煙を上げ、爆風で飯喰い達が宙を舞う。
『こちらスーパー61、援護する』
バルルルルルルッ!
今度は薬莢が空から降ってきた。
迫撃砲の射角に被らない位置からMH-60Mが空から機銃掃射で援護してくれているのだ。
M134Dミニガンで撃たれた飯喰い達は全身を穴だらけにし、集中的に弾丸を叩き込まれた飯喰いは原型を留めない。
「第1分隊、撃てェ!」
号令と同時に、ブローニングM2重機関銃、M134Dミニガン、M240E6汎用機関銃、M249軽機関銃が一斉に発射される。
両側から迂回し、包囲しようとしてくる敵にはランディの.338Lapuaとクリスタの7.62×51mmNATO弾、カーンズの12.7×99mmNATO弾、バズの5.56×45mmMk262弾が容赦無く襲いかかる。
弾丸を発射する破裂音と、薬莢の落ちる金属音が混ざって耳に届く。
俺もヘッドセット越しにそれを聴きながらM2のトリガーを押し続けた。
こう遮蔽物の無い開けた場所で、銃も無い世界で俺達と相手では相手は的だ。
しかし、相手は圧倒的な数で押してくる。実際かなりの数を撃ち殺したが、その数は変わったようには見えない。
エリスを呼んで無線で航空支援を要請する。
「エリス!航空支援を呼んでくれ!」
「了解!こちら第1分隊エリスだ、タロン21、22。航空支援を要請する、奴らを吹き飛ばしてくれ。オーバー」
『了解、タロン21、22、出撃する』
「了解、タロンが来るぞ!それまで持ち堪えろ!」
「「「了解!」」」
タロンがベースからここまで来るまではおよそ2分、それまでは持ち堪えなければならない。
俺達より後ろには兵は居ないため、俺達が突破されたらこの飯喰い達は街を襲うだろう。
故に、持ち堪えねばならない。
ヒューバートとエイミーが持つM249とグリッドが持つM240E6の近くの地面が薬莢で埋まり始めた頃、タロン21が到着する。
『こちらタロン21、ディーレイ。攻撃まで30秒』
『了解、こちら第3分隊、最終弾発射』
後方から迫撃砲の射撃音が止まり、暫くして着弾音も消える。
『こちらタロン21、頭下げてろ、ブチ込むぞ!』
「了解!皆伏せろ!」
第1分隊が一斉に射撃を止め、塹壕に飛び込む。
頭上を飛び越える擦過音。
次の瞬間、丘の魔物達が吹っ飛んだ。