第37話 話し合い・対面
とりあえず、ヘリの着陸地点まで戻って来た。
統治者は展開した兵士の撤収指示を出していた為、すぐに見つかったと言う。
俺達が飯喰い達を連れて帰った時、村人はかなり驚き、武器を取って殺しに来ようとした者も居たが、何とか納めてもらった。
取り押える際、槍が掠ってヒューバートがこめかみを少し切ったが……
女の子は無事、両親の元に帰った。
両親からはめちゃくちゃ感謝されてこそばゆい。
俺達は女の子を帰した後、伯爵の待つ臨時着陸地点に戻った。
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臨時着陸地点に着くと、既に統治者が到着していた。
飯喰い襲撃騒動と同じ位の騒ぎになっていたらしい。
設営されていた本部タープのパイプ椅子に統治者と思われる人が座っている。
「エリス」
「あ、ヒロト大丈夫だったか?」
「あぁ、ヒューバートが怪我をしている。衛生兵を頼む」
「わかった、こちら街を統治しておられるレムラス伯爵」
パイプ椅子に座っている人物が立ち上がり、手を差し出す。
「クリッツ=ベルム=レムラス伯爵だ」
「高岡ヒロトです。姓は高岡、名はヒロトです」
俺も手を出し、握手する。
レムラス伯爵は体型のガッチリした如何にも軍人らしい見た目の男だ。
俺も向かいのテーブルの椅子に座る。
「魔物を連れて帰ってきたそうな、なぜその様な事をなされたか?」
「女の子を攫った飯喰い達を追っていて、偶然その長に出会いました。そこで長が人間に謝罪したいと申し出たので、連れてきた次第です」
伯爵は驚いて声を上げる。
「何と!人と対話出来る個体がいたとは……昔から言われていた事だが、実際に見るのは初めてだ……」
「飯喰い達に敵意は無いそうです。どうか1度、彼らと対話してみてはいかがでしょうか?」
「ふむ……わかった、話せるだけ話してみよう、連れて来てくれぬか?」
「はい」
椅子から立ち上がり、ヘリの影に隠れている飯喰いの長を連れて来た。
体長が体長なので、タープに入るとギリギリだ。
こうして異世界初・人間と魔物の対話が成立した。
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話し合いは3時間程続き、落ち着いた。
結果として和解し、「飯喰い達に農業等を教える」見返りとして「飯喰い達は鉱山や農業等、力仕事に従事する」事が決定。
もし飯喰い達がヒトを襲おうとした場合、我々"ガーディアン"が責任を持って対処するとも言った。
双方の条件に双方が納得し、話し合いは終了した。
大きな騒ぎにもならず対話が終了したのは、伯爵が理解ある人だったというのが大きい。
伯爵は明日、「飯喰い達が協力関係になった」と発表する様だ。
反発する人は必ず出るが、街を統治する伯爵だ、何か考えはあるだろう。
……丸投げみたいになっちゃったけど、問題無いよね?
_____そして、今度はこちらの問題である。
「ヘリに近づいて拘束されたってのはお前か?」
報告にあった、無断でヘリに近づいて拘束された者への対応だ。
拘束された人物の正面に座る。
「はい……エイジ・ヒグチと申します……」
エイジ・ヒグチ……樋口瑛士……
「お前、日本人か⁉︎」
机の下でホルスターから拳銃を抜き、撃鉄を起こす。
「え⁉︎ど、どうして?」
「俺は転生者だ、高岡ヒロト。日本人だ」
「本当ですか⁉︎うわぁ……こっちに来てから転生者見るのは初めてだ……」
衝撃を受けた。
このエイジという人も転生者の様だ。
という事は、他にも俺以外に転生者が居るって事か?
「で、何でヘリに近づいたんだ?」
「こっちに来てから、ヘリを見るのは初めてだったんで……テンション上がっちゃって……ブラックホークとリトルバード、チヌークですよね?あれ」
どうやらエイジはミリタリー系の知識があるらしい。
ブラックホークとチヌークはまだしも、リトルバードを知っているとは……
「あぁ、軍事とか好きか?」
「好きですよ、特に陸の兵器が……もともと戦闘ヘリのパイロットになりたくて防衛大を目指したんですが……」
「俺はただの軍事マニアだけどな、それで防衛大目指したってのは素直に凄いな」
「落ちましたけどね。この世界では新聞記者をしてます」
2人で笑いあう。
どうやら悪気は無いようだ。
俺は拳銃をデコックし、ホルスターに仕舞う。
その日の内に、エイジは厳重注意で釈放された。
ここに来て初めて転生者と遭遇したが、それはあまりにあっさりとした遭遇だった。
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「つかれた……」
「お疲れ様、ヒロト」
「ありがとう、エリス」
エリスがコーヒーを持ってくる。
もちろんグライムズが淹れたコーヒーだ。
今日は上陸初日に色々ありすぎた。
魔物の襲撃に介入し、2kmを全力疾走、魔物と伯爵の仲介、初めての転生者との対話。
初めて転生者に会うのがこんなにあっさりしてるとは思わなかった……
「この後の"ガーディアン"の方針はどうするんだ?」
「あー……とりあえず、落ち着いたら基地が欲しいな、これは建物も出せるから」
と言って、ポケットからスマホを取り出す。
召喚には武器弾薬だけではなく、燃料や食糧、被服、建物もある。
建物は土地さえあれば可能だし、塩や砂糖、香辛料等も"軍需品・糧食その他"の扱いで召喚出来る事が判った。
もし必要ならば出そう、塩や砂糖、香辛料はこの世界では貴重品だ。
コーヒーを飲み干し、テーブルに置く。
俺は転生者だと宣言したお陰でスマホを出しても不審がられることは無くなった。
ヒューバート始め俺が召喚した隊員達も、エリス派を集めた隊員と問題無く交流している。
それに今の編成に不満がある訳では無いが、戦力を整えたい。
現在4個分隊だから、1つを小隊本部にして1個小隊に纏め上げる事も可能だ。
「ひーろと」
俺が思考を巡らせていると、後ろからエリスが抱きついて来た。
「ヒロトは色々考え過ぎなところがある。ちょっとは休め」
「ありがとうな、エリス」
俺は一旦考えるのを止め、エリスと向き合って抱き締めた。