第36話 到着早々……
時折出現する魔物と戦闘しつつ、島を転々とする事2日後。
「皆、見えてきたぞ」
ようやくグライディア王国の海岸が見えてきた。
人気の無い山側から進入し、更に奥地を目指す。
内陸部へと150kmほど入り込むと1度山中に降りて給油、更に内陸を目指す。
距離的には、東京から日本海を渡り、ウラジオストクまで逃げてきた事になる。
現在居るのは、"ワーギュランス公領"上空だ。
そこで、先頭を飛ぶスター41が何かを見つけた。
『こちらスター41、前方に煙、距離3200』
『了解、ヒロトさんどうしますか?』
前を覗き込むと、確かに前方に煙が上がっている。
今までこんな事は無かった、どうも様子がおかしい。
「わかった、スーパー61、開けた場所を見つけたらホバリングしてくれ、ロープで降下する。後は上空で待機だ」
『了解』
スマホを取り出し、召喚から降下用のロープを召喚、ヘリのロープを掛ける場所に引っ掛けておく。
ヘリの中で戦闘装備を整え、もしもの場合に備えた。
程なくして、火の元へ到着。
大規模な街では無いが、そんなに小さくも無い街だ。
街はパニックに陥っている。原因は不明だが、俺達が飛んできたことでは無いのは確かだ。
広場を見つけ、スーパー61がホバリングする。
両舷からロープを繰り出し、次々と降下していく。
降下した俺達は、まず状況を把握するべく街人から説明を聞く。
「ちょっといいですか⁉︎」
「何だこんのクソ忙しい時に!」
「これは何の騒ぎですか⁉︎」
「あぁ、飯喰い共が来てんだ!アイツら俺達の食物を根こそぎ食っちまう!」
「飯喰いって何なんです⁉︎」
「あんたらこの辺の人達じゃねぇな⁉︎飯喰いってのは魔物だ!たまに山から下りてきて、俺達の飯を根こそぎ持っていく奴らだよ!」
「飯喰いが来たぞー!」
街人が魔物が来た事を知らせる。
街の兵士達はぞろぞろと街の外側へ向かって、街を守るべく出動していく。
上空のヘリには、飯喰いへの対処に夢中で意識が向いていない。
俺は何が出来るかを考え、取り敢えずやるべき事があるので街人に聞く。
「この辺りに広い場所はありますか⁉︎仲間を下ろしたいんです!」
「あー!あの空飛ぶうるさい風車はあんたの仲間か⁉︎外れに平原がある!向こうだ!」
「ありがとう!第1分隊、行くぞ!」
「「「了解!」」」
降下した第1分隊、エリス、グライムズ、アイリーン、ヒューバート、エイミー、ブラックバーン、クレイと、衛生兵のセレナ、GPMGガナーのグリッドを引き連れ、郊外へ向かう。
「エリス!無線でヘリ部隊に俺達を追うように伝えてくれ!」
「わかった!」
エリスはバックパック式の無線機AN/PRC-117Gの無線を付け、ヘリ部隊に上から俺達を追うように指示を出す。
ヘリは郊外へと進路を取り、上空から俺達を追った。
第1分隊10人は郊外へと走った。
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10分後、おそらく2km程走った場所に平原が広がっていた。
これなら余裕で全機を下ろせそうだ。
肩で息をし、ヘリを下させる。
「へ、ヘリ部隊全機へ……下りてくれ……目印は……ゼェゼェ……グリーンの、す、スモークだ。オーバー」
『了解』
ユーティリティーポーチからスモーク・グレネードを取り出し、ピンを抜いてその辺へ投げる。
数秒後、グリーンのスモークが舞い、目印となる。
流石に全力疾走で2kmはメチャクチャキツい。全員息が上がっている。
俺はまだ装備が軽い方だが、重い武器弾薬を持つヒューバートやエイミー、グリッドは地面に倒れこんでいる。
俺はハイドレーション・チューブを口に咥え、背中のハイドレーションバッグに入っている水を飲んだ。
その間にスター各機とスーパー61は着陸、整備士と共に車輛の吊り下げを解く。
スーパー61からは、ランディとクリスタも降りてきた。
「だ、大丈夫ですか?」
「あぁ……はぁ……平気だ……ありがとう」
ヘリの全機が着陸すると、分隊長を呼ぶ。
「状況を把握する為、第1分隊から何人か偵察に向かうからHMMWVを借りる。他の分隊はヘリの防御と陣地構築を頼む」
「「「了解」」」
「グライムズ、ヒューバート、ブラックバーン、ランディ、行くぞ。エリスは残りの指揮を執ってくれ」
「わかった」
CH-47Fが下ろしたM1044 HMMWVを借りる。
弾薬はみっちり、足りなくなったらスマホで召喚すれば良い。
「大丈夫ですか?ヘリを追跡で出した方が……」
HMMWVを吊り下げ輸送していたイエロー33のパイロット、スラヴィア・グリーンランドが心配して声をかけてくる。
「大丈夫だ、ヘリのパイロット達も断続的な飛行のせいで疲れているだろう?少し休んでてくれ」
「そう……ですか……ありがとうございます、ではお気を付けて」
「隊長、これ最後の弾薬です」
イエロー33のロードマスターであるエイベル・ヘクターがアモボックスをHMMWVの荷台に乗せる。
「サンキューエイベル、スラヴィア、行ってくるぜ」
ブラックバーンが運転席に座り、ヒューバートはM2の銃座に着く。
5人が偵察の為に出発した。
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「あ〜キッツい……」
「皆今日マッサージ忘れんなよ……マジで筋肉痛になるぞ」
「了解です」
車を走らせながら一言二言交わし、街の中心部を目指す。
「ん……?」
何か見つけた。
食料品店を漁る赤い物体が居る。
あいつが飯喰いか……
近づくと、その容姿がはっきり見える。
体長は1m前後、角が1本生えた一つ目の赤鬼だ。
ゴツくはなく、むしろのっぺりとした身体を持つ。
ミ○オンを赤くして、角を1本生やした様な感じだ。
「あっ!逃げるぞ!」
「ブラックバーン!追えるか⁉︎」
「追います!」
「撃って良いんですか⁉︎」
「今は撃つな!民間人に当たる!」
飯喰いは俺達に気づき、ダッシュで山へと逃げ帰る。
その時、1人の少女を攫っていったのだ。
「クソッ!」
ブラックバーンがアクセルを踏み込み、加速して飯喰い達を追いかける。
山道へと入ると、何故か道なりに進む飯喰い達。
「ヒューバート!威嚇射撃!」
「当てなくても良いんですか⁉︎」
「良い!人質に当たる!」
「了解!」
タタタッ!タタタッ!タタタッ!
M2は流石に威力が高すぎると判断したのか、M249MINIMIの指切りバースト射撃の音が聞こえてくる。
本物の軍人は制圧射撃以外でフルオート射撃は好まない、命中精度が落ちる上、弾薬の無駄遣いになるからだ。
だからこの様にフルオートでも数発の間隔で射撃する"指切りバースト"を行うのだ。
MINIMIから放たれた5.56×45mmNATO弾は、飯喰いには当たらず手前の地面を削る。
「止まれ!」
ヒューバートが時折叫ぶが、止まる様子は無い。
「ヒューバート下りろ、俺がやる」
後部座席のランディが交代を申し出る。
「人質には当てるなよ⁉︎」
「わかってます」
距離は100m無いが、車は道の凹凸を捉えて跳ね、更に目標の飯喰い達は不規則に飛び回っている。
ヒューバートが銃座から下り、ランディが銃座に着く。
M24カスタムのボルトハンドルを動かし、初弾装填。
「……スゥッ……」
息を吸い込んで止め、引き鉄を絞った。
ダァン!
銃口から発射された8.58×71mm
.338Lapua Mag弾は音速の4倍以上で、人質を取る飯喰いの前を走る1.5m位の飯喰いの膝に命中した。
「ギギギィィィイイィイ⁉︎」
その飯喰いが膝を抱えて倒れ込み、悲鳴を上げ、その飯喰いが抱えていた果物や食料が地面を転がった。
飯喰いの足取りが鈍る。
「ブレーキ!」
「ッ!」
ブラックバーンがブレーキを踏む。
ガリガリガリ……とタイヤが地面をグリップし、車体が停止した。
飯喰いとの距離は50m。
只の魔物なら射殺して構わないが、なにせ向こうには人質が居る。
「動くな!」
「ギッ……」
俺達は車を降り、開けたドアを盾にそれぞれのライフルを構える。
「両手を頭の上に……」
『人間がここに何の用だ……?』
その時、無線では無い音声が聞こえた。
ブラックバーンやグライムズに目配せ、2人にも聞こえたらしい。
確かに聞こえた。
「誰だ⁉︎」
と、飯喰い達が道を開ける。
奥から現れたのは、更に大きな飯喰いだった。
「撃ちますか?」
「待て、撃つな」
『人間が、我々に何の用だ?』
飯喰いの親玉だろうか?体長は2m位あり、角も1本では無く2本生えている。
グライムズの村の時の様な敵意は感じない。
「その飯喰いが攫ってきた人質を返して欲しい」
『お前!人を攫ってきたのか⁉︎馬鹿者!あれだけ人に危害を加えるなと言ったろうが!』
「ギッ⁉︎ギギギ……」
大飯喰いが小飯喰いの頭を引っ叩く。
『我が同胞が済まない事をした……人に危害を加えるつもりは無かったのだ。許してくれ』
「わかった、こちらがその子を回収する。ヒューバート、グライムズ、頼む。妙な動きをしたら撃つぞ」
『わ、わかった……』
ヒューバートとグライムズが銃を構え、女の子を回収。
泣いている女の子を後部座席に座らせる。
「で、なぜ街を襲う?」
『……仕方ないのだ、生きる為には食わねばならぬ……かと言って、全てを山では賄えない。食い尽くしてしまうし、同胞の数も多い。何より我々は元々大食いな種族なのだ……』
「……人間と共存する事は出来ないのか?」
この質問に、グライムズやブラックバーン、ランディが目を見開く。
人間と魔物が共存するなど、前代未聞だ。
『無理だ、我々は大食いの上に怪力だ。人間に食べさせてもらうなど、人間の採る食料も無くなってしまうではないか』
……ん?少し言葉尻が引っかかる。
採る?獲る?と言ったか?
「……まさか、食料の増やし方を知らない……?」
『増やし方……?これを増やす方法などあるのか⁉︎』
どうやら飯喰い達は"農業"を知らないらしい。
「人間は、作物を育てて自分で採る"農業"という事をやっている。働き手が無くならない限り、これは限りなく採れる」
『何という事だ……これでは我々は泥棒では無いか⁉︎人の育ててきたものを奪うなど……何とか許して貰うことは出来ないだろうか……?』
大飯喰いは頭を抱え悩み出す。
その間に俺は仲間と相談する。
「魔物が喋れるなんて聞いた事ありませんよ」
「魔術の一種じゃ無いか?」
「ここで皆殺しに……出来ない事は無いですけど、流石に抵抗が……」
「ヒロトさん、どうしましょう?」
俺は少し考え、提案した。
「俺としては、街へ連れて行って街の人達に農業のスキルを教えてもらって、飯喰い達と人間と共存出来ると良いと思うんだけど、どうかな?」
「街の人達は、納得するでしょうか?」
「街の統治者……に、仲を取り持ってもらうってのはどうだ?」
「……なるほど……それならアリかもしれないですね」
「よし、これで行こうと思う。良いか?」
「「「「了解」」」」
そして俺はHMMWVの無線を点け、エリスと連絡を取る。
「こちらヒロト、誰か応答せよ」
『ザー ザッ こちらエリス、どうした?』
「街の統治者を呼べるか?飯喰い達が和解したいと申し出ている。何人か連れて帰るから、統治者と街人達に伝えておいてくれ、"攻撃するな"って」
『本当か⁉︎……わかった、何とか話してみる。こちらはヘリに異常に近づいた不審人物を1人拘束した』
「わかった、戻ったら事情を聞く。置いておいてくれ」
『了解』
ザッ、と無線が切れる。
エリスも驚いていたが、統治者と何とか話しをしてくれるそうだ。
無線を切り、飯喰いに呼びかける。
「あなた含めて3人を連れて戻る事になった、敵意を示さない様に武器は持たないで頂きたい」
『わかった、和解を取り持ってくれるのだ、その位は譲歩しよう』
「よし、街に戻るぞ」
「「「「了解」」」」
全員がHMMWVに乗り、狭い山道を切り返す。
飯喰いは大飯喰いと小飯喰いが2人着いてきた。
飯喰い達は走ったり木を伝ったりして、20km/hで走るHMMWVに着いてくる。意外と速い。
「しっかし驚きましたね……まさか魔物を説得して味方につけるとは……」
「あそこで殺すのも後味悪過ぎるだろ?」
「確かに」
「にしてもまぁ、ランディは良く当てられたな。凄いぞ」
「……まぁ、あの位は」
ランディは少し照れた様に、M24カスタムを撫でる。
「おうちかえれるの?」
助けた女の子がヒューバートに話しかける。
「あぁ、もうすぐ帰れるぞ」
「ありがと!おじちゃん!」
「おじっ……」
「ハハハ、ヒューバートおじちゃんだってさ」
「勘弁してくれ……まだ20だぞ⁉︎」
ハハハ、と皆で笑いながら山道を下っていった。