第35話 島へ
※今回は長いです。
「……ヒロト、起きてくれ。もうすぐ着く」
「……ん、あぁ、悪い。ありがとう」
暫くしてエリスに起こされた。
相変わらずキャビンは騒音が凄い。
予定の島に近付き、到着するらしい。
『スター各機、車輛を降ろすために先に着陸しろ』
『了解、スター各機、着陸する』
『スーパー61、62。車輛を降下させる間の援護の為着陸しろ』
『了解、スーパー61降下する』
ヒロト達の乗るスーパー61は吊り下げているものが何も無く、着陸の為に高度を下げる。
島は無人島の様で人の気配は無く、砂浜が見えた。
砂浜に着陸すると砂を巻き上げて視界不良の上、エンジンに砂を吸い込んで墜落する恐れもある。
しかも駐機中に機体が砂浜にめり込んで行く可能性もある為、砂浜の奥、芝生が生えている場所に機を着陸させる。
芝生広場はかなり広く、余裕でヘリを全機降ろす事の出来るスペースもある。
先に着陸したMH-6Mに乗っていた整備士が吊り下げている車輛のフックを外す為、ヘリの下へ駆け寄る。
ハンドサインでゆっくりと降下させ、吊り下げていた車輛が接地。
直ぐにワイヤーを外し、ヘリは離れる。
スーパー62の隣に、車輛を下ろしたスーパー63が着陸した。
整備士は手際よくフックを外し、ヘリを次々と着陸させる。
全てのヘリが着陸するまで、そう時間はかからなかった。
全ての隊員が降下し、砂浜へ荷物を降ろす。
「整備士はヘリをよく整備しておけ、海上を飛んだから機体の洗浄も忘れるなよ。パイロットはよく休め、明日また出発する」
「「「了解」」」
「「「イエス・サー」」」
「全分隊集合ー!」
俺は第1〜第4と、戦闘支援部の全部隊を集める。
う〜ん、高校の新入生歓迎会で部活紹介したり、会社でのプレゼンの時みたいだ。
震える声を抑え、話し出す。
「……もう、勘のいい人は気付いているかもしれないが、この世界にこんな武器は存在しない。これらは全て俺の世界の武器……俺は異なる世界からやって来た者だ」
その瞬間、一瞬だけだが皆がざわつく。
ヒューバート、レイ、バーナード、マシューズは俺が召喚した兵士なので、特に驚く事はない。
やはり察しの良い者は、知っていた様な表情で俺の話を聞く。
「俺は皆の事を、今まで共にやって来た頼れる大切な仲間だと思っているし、これからも皆とやっていきたいと思っている。しかし、ここで俺から離れたいと思う者は、俺に申し出てくれ。明日のこの時間にまた話す、もし離れたい人が居たら、安全な場所にヘリで送っていこう。以上だ」
解散!と言うと、またザワザワとざわつき出す。
俺は皆に判断を任せ、決まるまでは砂浜を歩く事にした。
夕焼けが海を紅く染める。
そういえば元いた世界でも、砂浜をこうしてゆっくり歩いた事は無い。
暫く歩き、砂浜に仰向けに寝転がる。
皆は俺について来てくれるだろうか、どれくらい皆が離れていってしまうのだろうか、幻滅しただろうか、エリスはどう思ってるだろうか……不安ばかりが俺の頭をよぎる。
ヘリの中では軽く話してしまったが、今更になって不安が押し寄せてきた。
情けない……
はっ、と思い出し、スマホをポケットから取り出す。
【レベルが上がりました】
Lv26
【回転翼機:MH-53Eがアンロックされました】
【回転翼機:AH-1Sがアンロックされました】
【回転翼機:MV-22がアンロックされました】
【回転翼機:AH-64Dがアンロックされました】
【歩兵:小隊規模歩兵がアンロックされました】
【装甲車:ストライカー装甲車がアンロックされました】
【工兵:コマツ・パワーショベルがアンロックされました】
【工兵:07式機動支援橋がアンロックされました】
レベルが上がり、アンロックされた兵器も多数あったが、気分は晴れなかった。
と、そこへ
「なーにしてーんの?」
「……エリス……」
寝転がる俺を頭側から覗き込んでいるため、俺の視界に逆さまのエリスが現れた。
俺は起き上がり、肩の砂を落とす。
「どうしたんだ?こんな所で」
聞くのが怖い、だがこの時は答えを知りたい好奇心が勝った。
「……エリスは……どう思った?……その……俺が異世界人だって聞いた時」
エリスは、あぁ、と納得した表情を浮かべ、答えた。
「ヘリの中で聞いた時は、驚きもしたさ。でも、ヒロトは異世界人っていっても、私達と何が違うんだ?異世界から来た、武器を召喚する魔法が使える。違う点はそこだけじゃないか。それに私や派閥の皆を救ってくれたんだ、私達はヒロトに感謝してるよ」
エリスの言葉を聞いて、心の蟠りが溶けていく。
「ヒロトが異世界人だって関係無い。私はヒロトを愛してるし、皆もヒロトを大切な仲間だと思ってるよ」
横からぎゅっと抱き締められた時、堰が切れた。
「……ぅ……ぁ……っ……」
俺はエリスの胸に顔を埋め、不安から解き放たれた安堵から、こちらの世界に来てから初めての涙を流した。
声を抑えて泣く間、エリスは俺を抱き締め、ずっと頭を撫でてくれた。
「落ち着いたか?」
暫く泣くと、エリスは俺に問いかける。
「……ズっ、ごめん、ありがとう。俺もエリスを愛してる。ずっと一緒に居たい」
「ああ、もうずっと一緒だ……」
もう1度エリスはぎゅっと俺を抱き締め、最後に軽くキスをした。
涙を拭って、立ち上がる。
「さて、俺はこの世界については何も知らくて、不安だ。だからエリス、俺に教えてくれるか?この世界の事を」
「あぁ、勿論さ!」
エリスに手を差し出し、エリスは俺の手をとって立ち上がる。
夕焼けが砂浜に2人の影を作った。
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夕食は皆に申し訳ないが、UGR-E_____化学ヒーターを使ったレーションだ。
箱を開けて必要な物を取り出し、タブを引き抜き45分待つ。
これで今夜の夕食、暖かいビーフシチューが出来る。
分隊に1つUGR-Eを出し、パイロットと整備士にも勿論出す。
焚いた火の周りに座り食べる隊員も居れば、ヘリのキャビンに座って食べる隊員も居る。
用意した長テーブルで食べる隊員も居れば、簡易ベッドを持ち出してベンチとして使い、座って食べる隊員も居た。
「ふぅ〜……ご馳走様」
「戦闘糧食だけど、美味しいな、これ」
「俺の故郷の国の軍が食べてる戦闘糧食Ⅰ型や戦闘糧食Ⅱ型はもっと美味いぞ」
「戦闘糧食Ⅱ型は食べた事あるけど、戦闘糧食Ⅰ型は食べた事無いな……今度食べてみたいな」
「お安い御用だ」
俺は食べ終わった紙製の食器を、焚き火の中に放り込む。
「さて、今日は第2分隊に歩哨を頼もう」
第2分隊までは既に基本的な戦闘教練を終えている為、練度向上の意味も兼ねて歩哨を任せる。
拠点が落ち着いた後、全体的な戦闘能力を高める為にもう一度訓練し直すつもりだ。
勿論、皆が着いてきてくれたらの話だが……
夕飯を終えた者から交代で設営した野外入浴セットで風呂に入ってもらう。
浄水セットのお陰で、問題なく真水を使うことが出来る。文明の利器万歳だ。
俺がこうした大規模な移動に当たって重視したのは、戦闘装備では無くインフラ系だ。
水が無くては生きていけない為、浄水セットで海水を真水に変える。
電気は必要な為簡易発電機を使う。
野外入浴セットのお陰で身体を清潔に保つことが出来るし、簡易トイレを設営して衛生面も気を使っている。
汚物は下のタンクに溜めて、ベースから最も離れた場所に穴を掘り、灯油を撒いて焼き処理する。
風呂は自衛隊の使っていた野外入浴セットを召喚した。
異世界に来たとはいえ俺は日本人、肩までゆっくり湯に浸かりたいし、ここは妥協出来ない。
身体と頭を良く洗い、流して湯船に浸かる。
同時に入ってきたブラックバーンやガレントが「貴族様みたいだ……」と少し感動していた。
この世界には毎日風呂に入る風習は余りなく、公衆浴場があり、週に1度そこへ風呂に入りに行く。
それ以外は水で身体を流すという。
この様に大きな風呂に浸かれるのは貴族だけらしい。
ブラックバーンが聞いてくる。
「ヒロトさんの世界ではこの様な浴場が一般的なのですか?」
「う〜ん……公衆浴場はあるが、基本的に個人でこれより小さい"風呂"っていう浴槽を持ってるんだ。俺の故郷の国は特殊な部類らしいくて、他の国ではシャワーと浴槽が一緒になっているのが一般的なんだ」
「……ヒロトさん達の国の話には驚かされてばかりです」
「おう、あんまり長く浸かっていると上気せるから気をつけろよ。あと出た後はしっかり身体を拭け、風邪を引かれても困るから」
俺は脚を軽く揉みほぐしながら風呂に入っている皆に呼び掛けた。
出る時に入れ違いで入ったユーレクが40℃のお湯に「熱っ!」と驚いていた。
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11月に入り、気温もぐっと低くなってきた、早くテントに入らないと風邪を引いてしまう。
俺はテントに入り、スマホを取り出す。
そういえば、歩兵が召喚可能になったな……小隊規模だから40人か?
今の所、ヒューバート、レイ、バーナード、マシューズの4人を召喚しているが、今後、事と次第によってはもっと歩兵が必要になるかもしれない。
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「ヒロトさん」
「何だ?……どうした勢揃いで」
一夜明け、出発の準備を整えているところに、第1分隊の面子が勢揃いした。
「俺達はヒロトさんについていきます」
「エリス様も一緒ですし、今までだって一緒に戦ってきたじゃないですか」
「今更、後戻り出来ませんよ!ヒロトさんと一緒に戦いたいです!」
「無一文だった私達を救ってくれて、その恩、返させて下さい」
ブラックバーン、クレイ、グライムズ、アイリーンの順に口を開く。
「……お前ら……」
第1分隊、全員が俺に着いてきてくれるらしい。
「……本当に来るのか?俺に着いてきたら、いつか死ぬかもしれないんだぞ?」
「ここまで来たら皆一緒です、覚悟は出来ています」
ブラックバーンが代表して言う、皆の目には迷いは無かった。
……本当に、良い仲間を得たな……俺には勿体無い位良い仲間だ。
俺は私物をザックに仕舞い終え、皆に向き直る。
改めて、と手を差し出す。
「よろしく、皆」
「「「よろしくお願いします!ヒロトさん!」」」
ヒュィィィィィイイイイ_____________
ヘリのエンジン音が徐々に大きくなり始める。
第1分隊始め、第2、第3、第4の全分隊に聞いたところ、第1分隊と同じ様な返答が返ってきた。
皆、俺と共に行きたいと言ってくれた。
その事にまた嬉しくて泣きそうになり、堪えるのに一苦労だった。
「な……なぁ、ヒロト」
「何だ?エリス」
出発直前、エリスがこんな提案をして来た。
「やっぱり……あのウエディングドレスは棄てようと思う」
ケインの結婚式に着ていたドレスの事だ。
一応、私物として持って来た物で、CH-47に積み込んである。
「良いのか?高かったんだろ?」
「良い、ヒロトとの結婚式には、ケインのでは無く、新しいのを着たいから……」
「……わかった、そうしようか」
俺は整備士と私物を積んであるCH-47のパイロット_____イエロー32のエリック・バルクルスとビクトル・クロスロード、ロードマスターのアロア・イスパニアに話をし、エリスの手で空中投棄する事が決まった。
第1分隊は俺とエリスがCH-47に乗る為、指揮をエイミーに任せた。
そして20分後、全ヘリコプターは車輛の吊り下げ作業を終え、島を後にした。
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1時間程、海の上を飛行する。
どうやらこの辺りは"クルグス列島"と言い、幾つもの中位の島が1200kmに渡り一直線に並んでいるらしい。
俺達は出来る限り前進し、途中の島に着陸しながら列島の向こう側にある"グライディア王国"を目指す事がブリーフィングで決まった。
飛行中、CH-47Fのキャビンの中で、俺とエリスは作業をしていた。
「よっ……し、こんなもんか?」
「あぁ、それで良い」
エリスのリクエストで、ドレスの入ったキャリーケースに"仕掛け"をしていた。
「ほい、これ」
「ありがとう」
エリスにデカいホチキスの様なガジェットを渡す。
ガジェットは長い長いコードを経てキャリーケースに繋がっていた。
「じゃ、良いぞ」
「うん」
エリスはキャリーケースに手を掛け、開きっぱなしのハッチへと押し出した。
「それっ!」
ゴロロロ……
キャリーケースが編隊の最後尾を飛行中のイエロー32のハッチから投げ出された。
同時に、纏めておいたコードがスルスルと繰り出される。
キャリーケースは海面に着水し、ケースの浮力で浮かぶ。
エリスは渡されたガジェットを見て頷き、ヘリとキャリーケースの距離が充分開いたところで、2回連続でグリップを握った。
ドンッ!
後方の海面が突然爆発し、機雷の爆破処理の様に海水が宙を舞った。
エリスに渡したガジェットは起爆装置で、キャリーケースにはC4が仕掛けてあったのだ。
エリスの顔を見ると、爽やかな表情を浮かべていた。
ウィィィ……と、ロードマスターのアロアがハッチを閉める。
俺もエリスも、新たな1歩を踏み出した瞬間だった。