第34話 ヘリでの撤退と秘密の暴露
1話にすると長すぎた為、2話分割にしました。
なので、若干短いとは思いますが、よろしくお願いします。
ようやく駐機場の方からヘリコプターのローター音が聞こえてきた。
『こちらイエロー31、全貨物の積み込みが完了した。車輛の吊り下げ作業に入る』
「了解!現時点を以って第1防衛線を放棄!狙撃手と第2分隊員は撤退!MH-60Mに乗り込め!」
「「「了解」」」
隊員がぞろぞろと塹壕から飛び出し、狙撃チームも茂みから出てくる。
「これでも喰らえ!」
「こいつはオマケだ!」
「こっち来んな!」
「帰れ!」
隊員が口々に叫びながら、MK3A2攻撃手榴弾を投げ、40mmグレネードを撃ち込む。
第1分隊が殿を務め、第2分隊を撤退させる。
俺はM4A1のセレクターレバーをフルオートに入れ、掃射。
フルオートだとすぐ弾切れになり、すかさずMGL-140に持ち替えて射撃する。
後の事は考えず、とにかく撃ちまくる。
第3分隊はスーパー63に、第4分隊はスーパー64、戦闘支援部はスーパー65に乗り、既にSOVの吊り下げ作業に入っているはずだ。
吊り下げ作業には"玉掛け技能"という、ワイヤーをクレーンなどのフックに引っ掛ける資格が必要な為、整備士が行う。
そして
『こちらイエロー31、車輛の吊り下げ完了』
「了解、吊り下げに携わった整備士はすぐにスター4に搭乗、離陸しろ!」
『了解』
「ヒロト!上!」
通信に夢中で気付かなかったが、敵の群れの中から何かが飛び出してきた。
剣を下向きに構え、落下エネルギーを使って俺を刺そうとしている。
俺はバックステップでそれを躱す、ギリギリだった。
「……あの時のマッチョか」
「ヒヒヒヒ……よう、誰かさん」
グライムズの故郷の村を襲撃した盗賊の長のゴリマッチョだ。
「道理で魔物の数が多い訳だ」
「ヒヒヒヒ……お前と剣を交えるの……楽しみにしてたんだぜ」
ゴリマッチョは剣を構える。
刃は緋く熱を持っており、どうやら剣に火の魔術を込めているらしい。
「冗談じゃねぇ、俺はお前と対等に剣を交わすパワーは無え……よっと!」
俺は手にしていたダネルMGL-140を投げつける。
ゴリマッチョは剣を振るい、ダネルMGL-140を真っ二つに斬り裂く。
が、斬った場所が悪かった。
シリンダーを斬ったゴリマッチョは、中にまだ入っていた高性能炸薬弾まで斬ってしまい、爆発。
ゴリマッチョも俺も、その爆風に吹き飛ばされて転がる。
「ぐっ……クッソ……」
幸い破片の直撃を受ける事は無かったが、貴重なダネルを1挺無駄にしてしまった。
まだ居るかもしれないので、素早く起き上がり、M4の弾倉に弾薬が入ったままだが、弾薬が満タンの弾倉とリロード。
これはタクティカルリロードと言い、弾薬が少なくなったきた場合に、弾薬が切れる前に装填するテクニックだ。
そして居るだろうと思う場所に指切りバーストで10数発を叩き込み、不安要素を潰しておく。
「ヒロト!大丈夫か⁉︎」
「ああ、大丈夫だ!」
俺はエリスの手を引き、敵にたまに銃撃を浴びせて牽制し、ヘリに走った。
既に荷物の積み込みが完了したCH-47F3機とMH-60M4機、MH-6M3機が離陸し、ホバリングしている。
地上に残っているのは第1分隊回収の為のスーパー61だけだ。
「早く!」
ガナードアからガナーのパトリック・ヴィーネが手招きする。
走ってようやくたどり着いたスーパー61には、既に俺とエリス以外の第1分隊全員と狙撃兄妹が載っていた。どうやら俺達が最後らしい。
「ウォルコット!良いぞ!」
『了解!スーパー61、離陸する!』
パイロットのウォルコットがピッチレバーを引くと、MH-60Mが浮き上がる。
ガナーのパトリックとジョシュは地上に向かってM134Dミニガンを撃ちまくった。
「でやぁぁぁ!」
ガスッ!と、開けっ放しのキャビンドアに誰かが捕まった。
「ヒヒヒヒ……逃がさん、逃がさんぞぉ……」
おいマッチョ、笑い方が気色悪いから止めろ。
俺とエリスは無言でホルスターからP226を抜き、撃鉄を起こす。
スーパー61は既に高度20mまで上昇していた。
「お前は地上に戻れ、その方がお似合いだ」
P226の狙いを手の甲につけ、2発ずつ発砲。
ゴリマッチョは手を離し、再び地面へと戻って行った。
「離脱全速!」
『了解!』
俺はキャビンドアを閉め、コックピットに叫んだ。
ヘリが加速する。
『こちらスター41、航空隊全機、我に続け』
『了解』
ヘリコプター部隊の間で盛んに通信が交わされる中、俺はユーティリティーポーチから渡されたボックスを取り出す。
即席の装置で何処まで効果があるかは分からない。
俺はランディを呼んで確かめさせた。
「ランディ、どの位離れた?」
「…………今丁度1800m位ですね」
「よし」
俺はそのボックスのトグルスイッチをONにし、ダイヤルスイッチを入れ、ボタンを押した。
既に遠く離れた基地では、本部タープに残されたAN/PRC-117Fのパイロットランプが赤く光る。
その瞬間、本部タープの下に仕掛けてあった大量のC4爆薬が爆発した。
C4だけでは無い、レベルが20まで上がりようやく召喚できるようになったブービートラップ用の航空爆弾_____2000ポンドのMk84も爆発した。
1つだけでは無い、それも大量に埋めてある。
ドカドカと地面が爆裂し、パニックに陥る敵や魔物は、悉く埋まっている爆弾の餌食になっていく。
そして駄目押しとして、ロープ訓練用のタワー内部に仕掛けてあったGBU-43/B MOAB大規模爆風爆弾が爆発。
敵は爆風に飲み込まれ、ベースとなっていた丘は炎に包まれた。
その爆音は数秒遅れて、ヘリ部隊へと届いた。
ドドドドドォォォオーーーーン‼︎
ベースの方を見ると、ベースのあった場所が噴火したかのように炎と土砂が吹き上がる。
「よっし!」
「やったぞ!」
無線からも歓喜の声が聞こえてくる。
彼処にいた魔物やケインの兵士達も、まとめて吹っ飛ばした。
あのゴリマッチョも、あの爆発では生きてはいないだろう。
ケインが彼処に居るかどうか……もし居た場合、爆発に巻き込まれて死亡するだろう。
「ふ〜〜……取り敢えず、ひと段落かな?」
「ヒロトさん、これからどこへ行くんです?」
後ろに座っているブラックバーンが俺に聞く。
「取り敢えず……隣の国か……おっ?」
地図を見ようとスマホを取り出すと、レベルアップの表示が出た。
「なんだそれ?」
隣に座るエリスが覗き込んでくる。
「……そろそろ話してもいいか、これは俺の世界の……携帯式通信機だ」
…………………………
ヘリのキャビンは、ローター音を除き静まり返る。
皆驚いた表情で俺を見つめるが、エイミーは何か察していた様な表情を浮かべている。
ヒューバートやドアガナーのパトリック、ジョシュは俺が召喚した地球の兵士なので、不思議がる事は無い。
秘密にしておくべきか悩んだが、いつか話さなければならない事だ。この反応をされるのが早いか遅いかだけだろう。
俺は全てを話す。
「俺はこの世界じゃ無い、異なる世界から来たんだ。向こうの世界では俺はタダの平民、買い物に出掛けて、家に帰る途中に殺された。そしたら神様に会ってな、色々話してたらこの世界に来てたんだ」
「ヒロトは……異世界から来たのか……?」
「そうだ、因みに今皆が持っている武器も、俺の世界では一般的な武器だし、このヘリコプターという乗り物も、軍隊が普通に使っている物だ」
皆が自分のライフルに目を落とす。
と、その時、先頭を行くヘリから通信が入った。
『ザッ、こちらスター41、皆様進行方向左手をご覧下さい』
『海が見えて参りました』
左側のキャビンドアからは、確かに海が見えた。
俺はスーパー61の副パイロットのエイル・コロイドに問いかける。
「海の向こうに島影はあるか?」
「待って下さい……レーダーに反応あり、120km先に島を確認、広さはオアフ島程」
「了解、そこへ向かってくれ」
「了解」
ヘリの編隊は、ゆっくりと海へ旋回し、島への進路を取った。
「ヒロト……」
エリスの声に振り向く、エリスは不安げな表情で俺を見つめていた。
「ヒロトにとって……私達はどんな存在だ?」
「俺にとって……エリス始め皆は、この世界に来てから俺を支えてくれた、大切な仲間だと思ってる。今後とも、この縁を大事にしたい」
ふっと、急に睡魔が襲って来た。
何とか持ちこたえようとしたが、敵いそうに無い。
「ごめん、ちょっとだけ寝させてくれ」
「あ……あぁ……」
俺は、ちょっとこのタイミングは失敗だったかな……?と反省しつつ、眠りに落ちた。