第30話 闇夜に忍び寄る者②
ヒロト視点
カン!キキン!パパシィン!
「エイミーだ!」
「戦ってるのか⁉︎」
無声音で言葉を交わしながら廊下の角に近づく。
グライムズとアイリーンは後方を警戒しながらついてくる。
そっと角から確認。
エイミーがケインに斬りかかられ、減音器サウンド・サプレッサーを切断されていた。
「エイミー…!」
エリスは角を飛び出そうとするが、肩を掴んで止める。
「待て、今出て行ったらエイミーに当たる」
「でも……⁉︎」
「俺に考えがある、待ってくれ」
エリスを宥め、無線を入れる。
「エイミー、聴こえてるな。ケインの背後の曲がり角に1-1が居る。3カウントでケインを撃つから柱の角に隠れろ、あとはお前の判断で撃て」
喉に着けている咽頭マイクは声帯の振動を伝える為、声が小さくてもクリアに聞こえる。
エイミーはケインと相対しているから返答は出来ないが、無線は聴こえているはずだ。
聴こえてさえいればいい。
「合図で撃つ、フルオートだ。グライムズとアイリーンは待機」
3人は静かに頷き、エリスと俺はセレクターをフルオートに合わせる。
「3……2……1……」
「Go!」
廊下の角を飛び出し、ダットサイトで狙いを定める。
ケインが振り向いたとほぼ同時に、俺とエリスは引き金を引く。
スタタタタタタタタ!
パカカカカカカカカ!
フルオートの9×19mmパラベラム拳銃弾と.45ACP弾がケインに吸い込まれていく。
ケインは即座にシールド魔術を展開し、銃弾を防ぐ。
弾丸を防ぐシールドを瞬間的に展開させるあたり、ケインの魔術師としてのレベルの高さが伺える。
9×19mmパラベラム拳銃弾はともかく、.45ACP弾は貫通力よりストッピング・パワー_____人体内で止まりダメージを与える弾丸なので、シールドで容易く止められてしまう。
しかし、ここまでは想定内だ。
俺とエリスは唐突に射撃を止め、元いた廊下の陰に隠れる。
するとケインはシールドを解き、止まっていた弾丸がカラカラと音を立てて落ちていく。
バシッバシッバシッ!
「ぎぁぁぁあぁあああぁあ⁉︎」
その瞬間、減音器の効果も薄くなった銃声とケインの悲鳴が向こう側から聞こえた。
射撃を止めた瞬間、エイミーがケインを撃った。
その間に俺とエリスは弾が切れた為、再装填。
俺のMP5SD6はコッキングレバーを引いて上へ回転、ボルトを固定し空の弾倉を外す。
外したマガジンはダンプポーチに入れ、腹部のポーチから新たなマガジンを取り出して差し込み、固定されたらコッキングレバーを弾いてボルトを前進させる。
エリスのKRISS Vectorは空の弾倉を抜いて新たなマガジンを装填、ボルトストップを押すだけだ。
文字に起こすと俺の方が手間な様に見えるが、実際そこまで時間の差は無い。
1-1は角を曲がり、ケインを拘束する。
ケインは右脇腹を撃ち抜かれており、弾丸は体内で止まっている。
5.7×28mm小口径高速弾は、NIJ規格レベルA3+のボディーアーマーを貫通出来る癖に体内で弾丸が止まるという、9×19mmパラベラム拳銃弾や.45ACP弾よりも強力なものだ。
弾頭の重心が尾部にあり、体内に入ると先端を中心に180度回転し、肉や臓器を抉りながら止まる。
それでも止まらない場合はもう180度回転する。
聞いているだけで痛くなる様な気狂いじみたスペックの弾丸なのだ。
「く、ぐぞっ!ご、ごろじでやる!ごろじてやるぅ!」
涙と鼻水で顔面をぐちゃぐちゃにしたケインが恨み言を吐く。
「銃創くらい治癒魔術師の治癒で治る、大人しくしてろクソ野郎」
「ぐぞっ!ぐぞっ!ぐぞぉぉぉぁぁああ!」
ハンドカフで拘束し、両肩にセミオートで続けて2発撃つ。
「ぎゃぁあっ!」
ケインは悲鳴を上げて痛みに耐えられなくなり、気を失った。
「中庭へ離脱するぞ!続け!」
俺が先頭、全員が後ろへ続く。
その時、廊下の向こうからケインの私兵が現れた。
ドスッ!
「がっ!」
「グライムズ!」
その私兵の1人がクロスボウの引き金を引き、矢がグライムズの背中の真ん中に刺さる。
が、
「痛えなコンチクショウ!」
振り向いてMP7を発砲、弾丸はクロスボウを撃った兵士の足を捉えてその兵士は崩れ落ちる。
矢が貫通しなかったのは、JPCの背中側に超高分子量ポリエチレン繊維の複合アーマーを入れているからだ。
このアーマーは防弾チョッキとほぼ同じ効果があり、矢程度では貫通出来ない。
「グライムズ大丈夫⁉︎」
「ああ、大丈夫だ。貫通してない」
グライムズは矢を引っこ抜きながらアイリーンの問いに答える。
「よし、行くぞ!」
==================================
1-2と1-3が突入したドアから外に出る。
外は中庭で、衝突防止灯を灯らせた特殊作戦用ヘリコプターMH-60Mブラックホーク_____スーパー62とスーパー64が着陸していた。
展開した第2分隊は、2階や3階からクロスボウを射撃してくる敵兵士へ牽制射撃し、頭を出させない。
第2分隊 分隊長、ガレント・シュライクへ駆け寄る。
「あとどれ位かかる⁉︎」
「3分です!」
ヘリのローター音が激しく、上手く聞き取れない。
「何⁉︎」
「3分です!」
「3分もか!よし急げ!」
上空から、凄まじい音と共に薬莢が雨のように降り注ぐ。
スーパー63とスーパー65がミニガンで機銃掃射し、航空支援を開始した。
スーパー65はミニガン以外に、キャビンドアから更に長い火器を搭載しているが、まだ使用して居ないようだ。
因みに、今回狙撃支援として、スーパー63にはバレットM82A3を装備したカーンズ、スーパー65にはMk12 SPRを装備したバズがそれぞれ搭乗している。
俺たちも自らの武器で射撃を開始した。
ベランダから顔を出し、クロスボウを構えるのを抑えるための射撃だ。
そのうち、1階のドアや窓からも敵が顔を出すが、そこへ銃撃を加えて引っ込める。
『こちらスーパー62、全員搭乗。離陸する』
『了解』
『スーパー64、全員搭乗。離脱する』
ヘッドセットから無線が聞こえると、背後のローター音が更に大きくなり、吹き下ろしも強くなる。
ヘリがゆっくりと地面から離れ、旋回し、基地のある方へ向かって飛び立っていく。
続いて2機目のブラックホークも離陸、救出作戦は完了だ。
地上に残されたのは第1分隊のみ。
チャンスと見たのか敵兵士が挙って顔を出して矢を放とうとしたり、少しでも近づこうと遮蔽物を飛び出してくるが、上空からミニガンの掃射が敵の足元を凪ぐ。
舞い上がった土埃が煙幕になり、更に敵は今までの戦闘で銃の威力を知っているため、たたらを踏んでまた引っ込む。
『こちらスーパー61、東から侵入する。オーバー』
「了解ウォルコット、気をつけて侵入せよ」
『了解』
ローター音が少しずつ近づいてくる。
猛烈な航空支援の中、スーパー61が着陸、両方開いているキャビンドアから隊員が即座に乗り込む。
「全員居るか⁉︎欠けた者は居ないな⁉︎」
「「「はい!」」」
俺は素早く全隊員のチェックをし、全員が搭乗しているか確認する。
「よし、ウォルコット良いぞ!離陸しろ!」
「了解」
ウォルコットはピッチレバーを引き、機体を上昇させる。
床の下から支えられている感覚が無くなり、新たに浮遊感を感じる。
俺は開きっぱなしのキャビンドアから残った弾薬をフルオートで射撃、撃ち尽くしてからキャビンドアを閉めた。
『スーパー61、離陸完了!帰投する!』
『了解、スーパー63、援護する』
『スーパー65、援護する』
離陸後、機体が旋回し、基地を目指して飛び始めた。
「作戦成功!バッチリだ!」
「ああ、そのようだな!」
このまま帰投で作戦終了だ……が、そうは問屋が卸さない。
突如、スーパー61と65の間を炎が突き抜けたからだ。
『アンノウン接近!ブレイクブレイク!』
機体を大きくバンクさせて旋回する。
「あれは……!」
キャビンドアの窓から、炎の発生源が見える。
「翼竜!竜騎兵だ!」
「また随分と大掛かりなヤツを……!」
ケインがヘリを追尾する為、竜騎兵を出してきた。
翼竜は小型のドラゴンで、偵察や物資輸送、この様に戦闘に使われたりする様だ。流石は異世界。
「翼竜⁉︎あれに乗ってるのはケインか⁉︎」
俺はエリスに聞く。
「いや、違う。ケインの翼竜は色違いだ。あれはケインじゃない!」
「そうか、わかった。ウォルコット、振り切れるか⁉︎」
「無理です!向こうの方が速い!」
人が剥き身で乗っているとはいえ、かなり速い。
よく見ると、高速飛行する際にはガラス製の風防を立ち上げて風の抵抗を抑えているらしい。
突然、両隣を飛行していたスーパー63と65が回頭し、翼竜へと向かっていく。
「63、65!どこへ行く⁉︎」
『あいつを足止めして撤退を援護します!このままだと61どころか基地に居る仲間も危険です!』
「……了解、だが落ちるなよ!」
『了解!』
異世界上空250m、翼竜と汎用ヘリの空中戦が幕を開ける。