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第29話 闇夜に忍び寄る者①

明けて02:30

本部タープの中に集合した隊員とナイトストーカーズにもう一度作戦内容の確認を行う。


現在突入部隊の服装は、CRYE(クレイ) PRECISION(プレシジョン)社のG3コンバットシャツとコンバットパンツだが、マルチカム迷彩ではなくブラックの物だ。

装着するJPCもヘルメットも黒で統一されている。


作戦全体の流れと帰投後の説明と質疑応答を5分で終わらせる。


「人質を確保したら無線でその旨を報告し、他の班を待たずに第2分隊の展開する中庭へ離脱しろ。何か質問は?」

「敵は撃っても?」

「あぁ、基本的に攻撃には反撃して良い。だが目的は人質の確保だ、出来る限り戦闘は避けろ」

「了解」

「他に質問は?……無いな。なら装備を整えろ、出発する!」

「「「はいっ!」」」


全員がガンラックからそれぞれの武器を取り、全弾装填済みのマガジンをポーチに入れていく。

ポーチは既にそれぞれの銃のマガジンに合う物に変えてある。


俺はMP5用のマガジンをポーチに入れ、ブラストベルトのフラッグポーチにM84スタングレネード(フラッシュバン)を合計4つ入れる。

載せてあるAimpoint(エイムポイント) COMP(コンプ) M2と、トップレールにオフセットで取り付けてあるタクティカルライトが点灯するか確認。


エリスは街に出掛けた時と同じタクティカルライトとEXPS-3ホロサイトでカスタムしてあるKRISS(クリス) Vector(ヴェクター)を使用している。


グライムズとアイリーンはリトルバードから借用したH&K MP7A1にAimpoint(エイムポイント) T-1マイクロダットサイトとSUREFIRE(シュアファイア)のウェポンライトを装備。

全員の銃には減音器サウンド・サプレッサーが取り付けられている為、銃声は低く抑えられる。


1-2(ワン・ツー)は全員がFN P90を、1-3(ワン・スリー)はMP7A1を装備している。


「よし、行くぞ!」

「ああ!」

「「はい!」」


第1分隊は銃の準備を終えると、既に出撃準備に入り暖機してあるMH-6Mリトルバードに走る。


既にナイトストーカーズのパイロットは搭乗済みだ。


俺達は機外に装備されているEPS(外部ベンチシート)に座り、ベルトを締め、飛行中に目を保護するゴーグルをする。

スター41(フォー・ワン)に乗る俺とエリスは左側、グライムズとアイリーンは右側だ。


俺はMP5のハンドガード左側のコッキングレバーを引き、回して固定する、マガジンを差し込む。

これで後はコッキングレバーを弾けば初弾が装填され、射撃が可能になる。

初弾装填は安全性を考え、屋敷に近づいたら行う。


2機のブラックホーク、スーパー62(シックス・ツー)とスーパー64(シックス・フォー)にも、第2分隊全員の搭乗が完了したらしい。

ヘッドセットと耳の後ろに装着した骨伝導スピーカーから無線の音声が聞こえてくる。


『スター41(フォー・ワン)、離陸する』


パイロットのキース・ジョーンズがピッチレバーを引く。

すると、ブラックホークより軽いメイン・ローター音が高くなり、機体がふわりと上昇していく。


ブァァァァァァァァー!


後続のスター42(フォー・ツー)とスター43(フォー・スリー)も離陸し、スター41(フォー・ワン)の後ろに続く。


MH-6Mリトルバードは軽強襲ヘリコプターで、隊員は機外のベンチシートに座る。

開けた視界の端で、MH-60Mブラックホークが離陸するのも見えた。


皆、これからの任務に集中を高めている。

と、後ろから腰に手を回され、抱き締められた。エリスだ。


「こう機外に放り出された状態で飛ぶとは、何度か乗ったとはいえ、少し怖いな」


メイン・ローターの音に紛れて周りに聞こえないように言う。

確かに機外に座っている為、あまり高度が上がると少し怖い。


「あぁ、そうだな。しっかり掴まってろよ」


いろいろ忙しくてあんまりエリスと居られないんだ、これ位いいじゃねぇか。


俺はエリスの肩を抱き、エリスの小さな公私混同に応えた。


===========================


『あと1分!』


キースが無線を入れ、到着まであと1分と知らせてくれる。


エリスと俺は体を離し、戦闘準備に入る。

MP5SD6のコッキングレバーを弾いて初弾装填、COMP M2のスイッチを入れる。

ナイトビジョン(NV)モードにし、ヘルメットのナイトビジョンで見えているか確認。

エリスはKRISS(クリス) Vector(ヴェクター)左側のコッキングレバーを引いて離し、初弾を装填。

ヘリの反対側では、グライムズとアイリーンがMP7A1のチャージングハンドルを弾いた音が微かに聴こえた。


ヘリの編隊がゆっくりと旋回し、目標建物に近づく。


『スター41(フォー・ワン)、離脱する』

『了解』


ナイトストーカーズの間で活発に無線が交わされる。スター41(フォー・ワン)は屋上からのエントリーの為、直前に1度離脱し侵入する。


『目標に接近!』


ナイトビジョン越しに屋敷の屋上が見える。

恐らくこの距離だと、何事かと皆騒ぎ出す頃だろう。


『接地降下ー、着陸!』

『スター41(フォー・ワン)、屋上にタッチダウン!』


ほぼ同時に全機のリトルバードのスキッド(着陸脚)が、中庭の地面と屋上を捉える。


リトルバードが停止、ベルトを素早く外して4人が降下する。


「サンキュースター41(フォー・ワン)、帰投しろ」

『了解、幸運を!』


屋上に着陸した俺は素早くヘリから離れ、リトルバードにハンドサインを送る。

リトルバードは俺にハンドサインを返し、離脱していった。


「よし、行くぞ!」

「あぁ!」


4人は屋上へと出るドアへ駆け寄り、鍵を破壊するまで弾丸を撃ち込む。

エリスと俺と、5発ずつでドアが破壊された。

そして俺がドアを蹴破り、最初にエリス、続いてアイリーンとグライムズが、最後に俺が入る。


外ではMH-60M(ブラックホーク) 2機が中庭へ降下、着陸して行く。


奪還作戦の始まりだ。



===========================


ケイン視点


アイツを誘き出す為にエリス派のメンバーを監禁してから2日、そろそろ襲撃に来るんじゃないか?と厳戒態勢を敷いた。


注意すべき点は、アイツはクロスボウの様な変な武器を使うし、動く荷台にも乗っている事だ。


あの武器は遠距離武器らしく、高速の矢を射るものだと推測している。実際教会で喰らった時も矢は見えなかった。

それに対抗する為、僕らの兵士全員にクロスボウ、弓矢を装備させた。

どこまで対応出来、どれだけの犠牲者が出るかわからないが、エリスを取り戻せれば犠牲は厭わないし、死んだ兵士も報われるだろう。


ただ、それだけでは僕が納得出来ない。あのヒロトとか言う奴を徹底的に叩き潰してやる。


そろそろ夜中の3時になる。

"動く荷台"の警戒の為、屋敷前の道に多数兵士を潜ませている。

あの"動く荷台"で来ると踏んでだ。

鏃も強力な物に変えてある。


「これだけの網を張れば、エリス派の奴らも逃げ出せないし、アイツも仕留められるだろうな」


「左様でございますね、ケイン様」


エリス派のメンバーは地下牢に監禁し、多数の兵士で監視している。

幾ら優れた剣士とはいえ、脱獄や奪還は難しいだろう。


「……ケイン様、震えて居られるのですか?」


「武者震いか?ふふふ、そうだな。暴れられるのは楽しみだ」

「あまり震えて大きな音を立てますと、敵に気付かれるやもしれません」

「そんなに震えてないぞ、なぜ……」

「ではこの音はなんでしょう?」


…………バラバラバラ…………


「風が強いのか?風鳴りじゃ……」

「それにしては音が大きく……」


「待て、何の音だ……?」

「段々近づいて来ましたね」


その風鳴りの様な音が、轟音へと変わっていく。


ドドドドドドドドドドドド!


「やかましい!何の音だ!」

「け、ケイン様!アレを!」


その時僕の目に写ったのは、風車を横倒しにした様な空を飛ぶ物だ。

黒いそれは夜空に溶け込み見えにくいが、"空飛ぶ風車"の光る部分が、中庭と屋上に着地するのが確かに見えた。


「クソッ、アイツの仕業か⁉︎」


正門前に居た僕らは、何人かの兵士を連れて屋敷に駆け戻った。



===========================


ヒロト視点


パスッパスッパスッ!

シュカカカカカカッ!

カキキキン!


廊下の前後左右を警戒しながらゆっくりと進んでいく。

たまに現れる鎧の兵士は手足、肩を撃ち抜いて制圧する。


「あっちか⁉︎」

「4つ目の怪物だ!」


廊下を曲がろうとした時に、向こう側から声がした。

俺は銃をローレディに構え、銃口が角から覗かないように気をつける。

流石にヘリは初めてだったが、こういった動きは前世で参加したサバゲーやハートロックのお陰で身体に染み込んでいる。


後ろのエリスにハンドサインで俺が先に出ると合図、エリスは1度頷く。


3……2……1……


バッ!とMP5を構えて角を飛び出し、ダットサイトで狙いを定め、指切りバースト。


シパパパッ!


鎧に火花が弾け、悲鳴とともに兵士が崩れ落ちる。


階段をクリアリングし、2階の会議室へ踏み込む。


「動くな!」


「4つ目の怪物だ!」

「来やがったな!」


"4つ目の怪物"とは、恐らくGPNVG-18がそうに見えるのだろう。


4人が突入し、フルオートで足元を掃射、撃ち漏らしはセミオートで肩を撃ち抜いていく。


見渡すが、エリス派の人質は居ないようだ。

エリスに視線で問うが、彼女は首を横に降る。


ここはブラフだ、それなら多分地下牢か倉庫だろう。


俺は無線を入れ全部隊へ知らせる。


「こちら1-1(ワン・ワン)、会議室は無人、倉庫か地下牢の可能性が高い」


『こちら1-3(ワン・スリー)、倉庫に踏み込んだが無人、人質は地下牢にいる!』


『こちら1-2(ワン・ツー)、地下牢で人質を発見。エリス派全員を確認した!』


「でかした1-2(ワン・ツー)!、1-1(ワン・ワン)はそちらへ向かう!オーバー」


1-3(ワン・スリー)は中庭へ向かう、オーバー』


1-2(ワン・ツー)了解、人質を確保、中庭へ向かう!』


==================================


エイミー視点


今、私が使っているのは、大きく重く、見た目だけで破壊力を感じさせるようなM249ではない。


M249は室内戦では取り回しが悪く、長い銃身と銃床が邪魔になる。

しかも、5.56×45mm弾は容易く壁を貫通させてしまう為人質や仲間を誤射してしまう可能性がある上、減音器サウンド・サプレッサーとの相性も良くはないので銃声で位置がバレたり、周りに迷惑がかかる。


手の中にある銃はFN P90、ナイトストーカーズという部隊が室内戦用に自衛用武器を貸してくれたものだ。


銃身が短く、室内での取り回しも良い。


リトルバードが中庭に着陸し、突入、担当の地下牢へと向かう。


怪力グリッドが地下牢の鉄のドアを蹴破り、突入する。


「うわっ、なんだ⁉︎」

「よ、4つ目の怪物だ!」


何度"4つ目の怪物"と呼ばれたか分からない。

暗闇でも見える装置が4つ目に見える為、そう呼ばれていた。


こちらに弓矢やクロスボウを向けてくる兵士に向けて引き金を引く。

ここで働いていた時は"同じ屋敷の同僚"だったが、今となっては敵だ。

派閥も違う上対立していたので、容赦無く引き金を引ける。


足を撃ち抜いて行動不能にし、出来れば武器も破壊する。


牢内のエリス派を誤射しない様に気をつけて発砲、地下牢の全ての敵兵を排除する。


「え、エイミー!」

「お久しぶり、スティール」

「すみません、こんな形なりで」

「いいわ、それより開けるわよ」


見張りから鍵を奪い、ダミーかどうかを試す。

やはり見張りの兵士が持つ鍵はダミーだった。

ここでグリッドに目配せ、グリッドは頷き、牢屋の格子に手を掛ける。


グリッドが力一杯引くと、牢屋の格子の蝶番と鍵を纏めて吹き飛ばして開いた。

開けながらエリス派じゃない者が混ざっていないか確認する。


「スティール、サーラ、リール、アレックス、ロベルト、カレン、リハルト、ケイト。よし、全員居る!出るわよ!」


「「「了解!」」」


「ブラック!クレイと先導!グリッドは誘導!私が殿を!中庭へ!」


ブラックバーンとクレイが集団を外へ出す為に先導、集団に直接グリッドがつく。


私が全部隊共通の周波数に合わせた無線で確保・離脱の旨を伝えると、後退する私の目の前に黒い影が降ってきた。

月明かりが振り下ろす刃に反射しギラリと光る。


「っ⁉︎」


バックステップで躱す、足下に2発発砲、しかし向こうも躱す。


「おやおや、エイミーじゃないか」


「ケイン……ッ!」


ケイン・ボックスカー


エリス様を無理矢理娶ろうとし、エリス派を拉致監禁した奴。


表では良い顔してるけど、裏ではいろいろと策略を巡らせ自分だけ良くなろうとしている奴。


「あのヒロトとか言う奴も一緒じゃないのか?」


「……ヒロトさんは別の場所を捜索してます。もう終わったので中庭へ向かっているでしょうね」


「まぁいい、中庭か。エリスを救出できればいい、後は皆殺しにするか、お前も含めてな」


こいつ、狂ってる。


「行って!」


思わず立ち止まった離脱部隊に振り向かずに後ろに声を投げ、中庭へ離脱させる。

私は油断なくP90を構える。


「その変な武器、結構痛いんだよなあ。ま、お前を殺して奪えば良いんだがな」


「お前は狂ってる!そんな狂ってるお前にエリス様は渡さない!お前はここで倒す、絶対に!」


「ほう、やってみると良い」


向こうは踏み込めば斬りつけられるし、私は引き金を引けば良い。

ただ睨み合いが続く。


先に仕掛けたのはケイン。


ヒュッ!とサーベルが鳴る。


左に踏み込んで躱す。


右側へ発砲、2発の銃弾は壁を抉った。


ケインがサーベルを振り抜く。


減音器サウンド・サプレッサーが中程から切断された。


「くっ……!」


左に回り込み、2発撃つ。


これも躱された。


また睨み合いになる。


と、その瞬間。


『エイミー、聴こえてるな。ケインの背後の曲がり角に1-1(ワン・ワン)が居る。3カウントでケインを撃つから柱の角に隠れろ、あとはお前の判断で撃て』


骨伝導スピーカーとヘッドセットから無線が聞こえた。


ケインは気付いていない。


『3……2……1……』

「Go!」


私は弾丸が貫通しない柱の陰に飛び込んだ。

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