第28話 緊急事態
※今回は説明が多くなります。
特に人の名前などが多く出てきますので、苦手な方は注意です。
◤◢◤◢緊急事態発生◤◢◤◢
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「どういう事だ?それは?」
「すみません」
俺は本部タープの中でガレント達3人の報告を受けていた。
どうやらこちらに人員を密輸(?)していた事がケイン派にバレ、ケインがエリス派8人を人質にとり屋敷に立て篭もったらしい。
「いや、責めている訳では無い。悪かった。俺も折角ヘリを出したのだからヘリで迎えに行くべきだった。完全に俺のミスだ」
静粛性を優先して車輌で迎えに行かせていた俺のミスだった。
事の発端は、まずケインがエリス派の人員がどんどん減っていく事に怪しまれた事だ。
ケインは調査を命じ、調査された結果、エリス派の出入りが多い建物からエリス派の隠れ家が特定。
夜中に踏み込んだ時に撤退するガレント達とケイン派の兵士が鉢合わせになりガレント達は応戦。
ガレント達のM4には減音器がついていたので銃声を響かせなかったのは良かったが、運悪く1人を取り逃がし、エリス派拉致に至った、と言う。
「ど、どうしましょう……」
エイミーが聞いてくる。
「俺が何もしないとでも?」
と返し、紙とペンを取り出した。
「第1分隊と第2分隊、それからナイトストーカーズのパイロットも全員集めろ、作戦会議だ」
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10分後、教導に出ている隊員を除いて第1第2分隊全員がタープ内に集合した。
「屋敷に残っていたエリス派8人が、ケイン派に拉致された。現在屋敷に立て篭もっている状況だ」
集まった隊員がどよめく。
「俺は屋敷には短時間しか滞在していなかった為、内部情報はよく分からない。だが人質を取るならなるべく1箇所に集める筈だ、監視が楽だからな」
エリス、と俺はエリスを呼ぶ。
「人質を纏めて監視出来るのに適していそうな部屋はあるか?」
エリスは顎に手を置き少し考える。
「……あぁ、2階の会議室か、1階の食堂、倉庫。あとは地下牢だな」
「ありがとう。食堂は屋敷の皆が使う場所だ、そこで監禁なぞしたら奴等は飯が食えなくなるから食堂はまず無いだろう。つまり、敵はこの3箇所のどこかにエリス派8人を監禁している可能性がある」
俺はホワイトボードに貼り付けられた屋敷の全体地図と見取り図を指差しながら作戦を説明する。
「作戦はこうだ。まず、第1分隊がMH-6Mに分乗、屋上から1機、地上から2機エントリーさせる。降下した第1分隊は3箇所へそれぞれ向かい、人質を確保する」
ホワイトボードの屋敷の全体地図の屋上と広い中庭にリトルバードのコマを置く。
「リトルバードは分隊を降下させたら直ぐに離脱、帰投しろ。続いてMH-60M、スーパー62と64が第2分隊を乗せて中庭に着陸、第2分隊は中庭に展開し着陸地点を確保しろ。第1分隊が救出した人質をヘリに分乗させ、第2分隊も分乗し、即座に帰投しろ」
全体地図からリトルバードのコマを退け、ブラックホークのコマを2つ置く。
「第1分隊は?どうするのですか?」
ガレントから質問が飛ぶ。先に回収される第2分隊の分隊長だけに、第1分隊が心配なのだろう。
俺はコマを動かしながら説明する。
「心配するな、第1分隊はスーパー62と64が離陸し次第、スーパー61に乗って離脱する。63と65は機銃で撤退まで航空支援を頼む」
それから、と、微苦笑しながら言葉を続ける。
「スーパー62と64が離陸しないと61が着陸出来無いから、第2分隊の引き上げは急いでくれ」
それから第1分隊が乗り込むリトルバードとブラックホークに乗り込む第2分隊を配分する。
以下、その編成である。
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MH-6Mリトルバード1番機"スター41"
パイロット:キース・ジョーンズ
副パイロット:デリル・ハーディス
降下員:コールサイン"1-1"
高岡ヒロト
エリス・クロイス
グライムズ・ジューク
アイリーン・バレンツ
2番機"スター42"
パイロット:ドミニク・キャロル
副パイロット:イリス・オークス
降下員:コールサイン"1-2"
エイミー・ハング
グリッド・エルストン
クレイ・パルディア
ブラックバーン・マーズ
3番機"スター43"
パイロット:ミーリア・マクラグレン
副パイロット:トラビス・アンヴィル
降下員:コールサイン"1-3"
ヒューバート・ハドック
セレナ・ホークレーン
ランディ・ヘイガート
クリスタ・ヘイガート
第2分隊
MH-60Mブラックホーク"スーパー62"
パイロット:ゴフィーナ・ヴェントレス
副パイロット:ヴォルター・エイモッド
機銃手:トーマス・ハドソン
アドルフ・ブルースター
降下員:コールサイン"2-1"
ガレント・シュライク
スニッド・キャスター
リチャード・スティング
ハミルトン・アレクス
レーナ・レイムリー
"スーパー64"
パイロット:マイケル・デュラント
副パイロット:メリッサ・ラミーニード
機銃手:グレアム・ハイデッガー
フィリア・プレンストン
降下員:コールサイン"2-2"
ユーレク・クライフス
ロバーツ・ラプター
ロイ・アンドリュー
ユーリ・フレイラム
ノエル・ブレンジー
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「それで次が最も重要な事だが……」
「何だ?ヒロト」
「武器がなぁ、足りないんだ」
今回の任務では、SMGを使用しようと思っている。
なぜなら、アサルトライフルでは威力が高すぎ、壁やドアを貫通して人質や無関係な人を殺傷してしまう恐れがあるからだ。
新たな銃器を召喚すると引越しの時に無駄に荷物になってしまうから、出来るだけ基地にある銃器を使う。
あくまで人質の救出・確保がメインなので、戦闘はなるべく避けたい。
現在、基地にあるサブマシンガンは、俺が脱出の時に使用したH&K MP5SD6が1挺、街に出る時に使用したKRISS Vectorが1挺、SOVに積まれているH&K MP7A1が3挺とH&K MP5A5が6挺……だが、更に制約がある。
減音器、若しくは消音器を使用出来る武器が望ましい。という点だ。
減音器又は消音器とはどういったものか?
読んで字の如く、というが、これらは銃声を低く抑える物だ。
銃声を完全に消す事は出来無いが、かなり小さく出来る。
「厳密にいうと〜」とか「正確には〜」とかは面倒臭いし、効果はどっちにしろ同じなの割愛させていただく。
ただ、呼び分け方に着いては、MP5SD6やロシアのVSSなど、最初から消音を前提に組み込まれて設計された物を消音器、アサルトライフルやハンドガン、サブマシンガンなどに後付けで取り付けるものを減音器としたい。
銃声は140デシベル〜165デシベルとかなり大きな音だ。
参考までに電車のガード下は100デシベル、近くのジェットエンジンは120デシベルだ。
銃声のせいで味方の無線や呼び声が聴こえなくなるし、長期的に見ると耳へのダメージが蓄積され、難聴になる可能性が高い。
その上、銃声や発砲炎で敵に位置を悟られる。
それを減音器を取り付けると、約3〜40デシベルと対数計算上1000分の1程に小さく出来るという。
MP5A5は減音器に適していない。
同じMP5SD6に比べ、どうしても消音効果は落ちる。
出来れば減音器との相性のいい45口径のサブマシンガンか個人防衛火器が好ましいと思ったが、現状使える火器が5挺……圧倒的に足りない……
「どうしようか……」
「「「うぅ〜〜ん……」」」
タープの中を悩ましい声が包む。
「……あっ!」
「どうした?リース?」
スーパー63のパイロット、リース・マックスが声を上げる。
「ヘリから個人防衛火器を貸与します。ヘリには墜落や着陸時の自衛戦闘の為、個人防衛火器が搭載されているので、それを」
「……なるほど、一理あるな。だが君達が墜落した時の自衛火器が無くなるだろう」
そう答えたが、リースが胸を張って断言する。
「安心して下さい、我らはナイトストーカーズ。この作戦、トラブル無く遂行させてみせます!」
「……わかった。第1分隊各員聞いたか?ナイトストーカーズから武器を借りる、借りるのは、P90を4挺と、MP7A1を4挺、いいか?」
「はい、大丈夫です!」
「よし、それでは1-2はブラックホークからP90を、1-3はMP7A1をリトルバードから借りて照準器の調整に入れ、後はSOVから持って来い。作戦は明後日、02:50に決行する。以上だ!」
隊員はそれぞれ火器を借りにヘリのパイロットへと着いて駐機場へと向かっていった。
タープに残ったのはエリスだけだった。
「……どうした?エリス。借りに行かないのか?」
「いや、そうでは無く。ヒロトは何を使うのだ?」
「俺か?俺はそれを」
と、ガンラックに立ててあるH&K MP5SD6を指差す。
「この間の屋敷から脱走する時、あれを使いこなせなかったからな。言って見れば、MP5SD6への汚名返上、復讐戦って感じかな?」
「そうか、では私はこれを使おう」
「お、おい。いいのか?それで」
エリスは同じガンラックからKRISS Vectorを手に取る。
確かに使用弾薬は.45ACPだから減音器との相性は良いが……
「良いんだ。街でアイリーン達を助けた時からちょっと使ってみたかったんだ」
「そうか、グライムズとアイリーンとは弾薬弾倉の共有は出来無いが、良いか?」
「ああ」
「よし、じゃあ俺も照準器の調整行くかな」
と言って、膝を叩き、立ち上がった。
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次の日、23:55。
「実戦で暗視装置使うの初めてだな」
現在俺達は、夜戦に備えて暗視装置をつけた最終訓練を行っている。
暗視装置はヘルメットに装着し、重心が前に偏るのでヘルメットの後ろにバランスを取る重りを取り付けるのでヘルメット自体がかなり重くなる。
現在MICH-2001ハイカットヘルメットのマウントに取り付けてある暗視装置は、GPNVG-18である。
GPNVG-18は、"4つ眼ゴーグル"とも呼ばれ、あのビン・ラディン暗殺作戦の時に米特殊戦開発グループが使用した事でも有名だ。
パノラマ増幅管を4つ備えて、従来の暗視装置より視野が広く取れるようになっている。
「どうだ?暗視装置の具合は?」
「前が重いな……」
「やっぱりな」
「夜なのに見える仕掛けですか……良く見えますね、これ」
まぁ、暗視装置の仕組みは置いておいて、皆暗視装置の重さと扱いに慣れたようだ。
作戦を行う部隊全員を集め、作戦開始時刻の再確認を行う。
「明朝02:50にヘリで出発する。それまでは休め。02:30にまた集合だ。解散!」
それぞれの隊員が散り散りに、休憩や武器の調整に入った。
そして−−−−