第21話 隠れ家に戻る3人
ガレント視点
ケイン派を避けて道を大きく迂回したり、HMMWVの隠し場所を探したり偽装を施したりで、結局隠れ家に到着したのが基地を出発して3時間近く経ってからだ。
「しかし、あのHMMWV……隊長曰く自動車と言うのは素晴らしいな。馬車ならリンカーからイサイアまで丸1日はかかる……」
「迂回してきたとはいえ、3時間でここまで来れるのは凄いですね」
隊長……ヒロトさんから貰った"腕時計"を見ると、20:30をまわり、辺りは真っ暗だった。
「この"腕時計"も、時間がこんなに正確に分かるなんて……」
スニッドが不思議そうに腕時計を見つめる。
「何者なんだろうな、ヒロトさん」
俺は疑問が一瞬頭を掠めたが、任務に集中、と頭を振る。
「出来るだけエリス派の人員を集め、基地へ連れて帰る事」が任務だ。
隠れ家の中へHMMWVから無線機や武器弾薬、食料品などを運び込み、5日程生活出来る準備を整える。
俺は無線機ーーAN/PRC-117Gのスイッチを入れ、ヒロトさん達と連絡を取る。
「こちら屋敷班ガレント、誰か聞こえますか?どうぞ」
暫くノイズが入り、応答が来る。
『こちらヒロト、聞こえます、どうした?何かあったか?どうぞ』
無線に出たのはヒロトさんだ。
「いえ、こちらは屋敷の隠れ家に到着しました。今日はもう遅い為明日から行動を開始します。どうぞ」
『そうか、わかった。こっちも2人程メンバーに加入した奴がいる。こっちに戻って来る時にガレント達と顔合わせだな。どうぞ』
「了解、ではまた明日。おやすみなさい、どうぞ」
『ああ、おやすみ』
ザッ、と無線が切れる。
「どうしたって?」
宿泊準備中のエイミーが聞いてくる。
「向こうは2人メンバーが増えたってさ。戻って来る時に顔合わせだって」
「おぉ!増えたの⁉︎」
「本当⁉︎」
話を聞いていたスニッドも驚いて振り向く。
好反応、ギルドは上手く行きそうだ。
「さ、とりあえず行動は明日からだ。飯食って風呂入って寝るぞー」
はーい。と2人が返事をする。
ドンドンドンドン!
ドアの叩く音だ。
俺達は自分の武器を取る。
俺とスニッドはM4、エイミーはM249MINIMIだ。
俺は2人に何時でも撃てるようにさせ、そっとドアを開ける。
「よっ!」
「ストルッカ⁉︎」
俺の同僚で親友のストルッカ・スミスだった。
===========================
「へぇ、そんな事が」
「まぁな、こっちもこっちで大変だったんだ」
夕食用の戦闘糧食Ⅱ型のカレーを食べながら、ストルッカと話をした。
曰く、結婚式の後、エリス派のメンバーはかなり虐げられていたらしい。
掃除や洗濯などの雑用仕事を押し付けられ、扱い方も相当雑になっていた様だ。
「大変でしたね……」
「お疲れだ、ストルッカ。そんな生活ももう終わりだ」
ぺら、と、ガレントはヒロトから預かった紙束をバックから出し、ストルッカに見せる。
「なんだこれ?えらく白い羊皮紙だな」
「これな、俺たちのギルド"ガーディアン"の入団書類だ。エリス派全員分あるぞ」
「本当か⁉︎」
「ガーディアンでは、今人手不足が深刻な問題だ。そこで、俺たちがヒロトさんから人を集めて欲しいと頼まれたんだ」
「はー、成る程。それで信用できるエリス派を雇おうと言うわけだ?」
「そういう事だ」
「よっし、わかった、俺が屋敷に戻った時にそれをエリス派に配ろう、そっちの手間も省けるだろう」
「おっ、本当か、それは助かる。だがな、ケイン派にバレるなよ、全てが水の泡だ」
「任せておけ、この俺ストルッカ様を何だと思ってる?」
「馬術の天才、関係ねぇだろ」
「はは、ちげぇねぇ」
ガレントとストルッカは笑い合う
ストルッカは早めに屋敷に戻ると言うので、ガレントは紙束をストルッカに渡した。
3人は明日からの任務の準備の為、早めに床についた。
===========================
2日後、20:06
再びストルッカが隠れ家にやって来た。
全員分の募集が集まったらしい。
「……40、1、2、3、4、5⁉︎」
「ぇえっ⁉︎全員⁉︎」
「ひゃ〜……」
強制的な物では無いので2〜30人位だと思っていたが、まさかエリス派全員がガーディアンへの就職を希望するとは思ってもみなかった。
よっぽどケインの下で仕事するのが嫌だったんだろうなぁ……
「記入漏れは……無いな」
「俺も驚いたぜ、まさか全員希望したとはな……」
ふぅ、とストルッカが息を吐きながら言う。
「……わかった、基地に戻ってヒロトさんと相談する。また2日位したら来るよ」
「おう、なるべく早くな」
ガレント、スニッド、エイミーの3人は素早く荷物を纏め、撤収する。
「じゃあ、またな」
「待ってるぜ」
===========================
ヒロト視点
ガレントが募集用紙を全て回収し、無事戻って来た。無事で何よりだ。
本部タープの下で書類をチェックする。
「45人全員か?凄いな……」
「はい、書類も全て記入漏れはありません」
「ありがとう、お疲れ様。2日後に人員回収に行って貰うから流石に休め。2人にも伝えておいてくれ」
「そうさせて頂きます、ありがとうございます」
ガレントは一礼し、欠伸をしながらテントへ戻っていく。
俺はガレントが持ち帰った書類の処理を始めるため、目を通す。
「名前、ストルッカ・スミス。性別、男。年齢、21歳。志望職種、戦闘。……」
1枚1枚目を通し、ハンコを押していく。
45人の名簿と人員の振り分けに、約2時間程掛かった。