飛行訓練
10文字以上のルビを振るのが多かったので、変なところで改行されてしまって自分で読み返した時に「???」ってなっている……
20文字くらいルビ振れる様になってほしいな……
ベルム街の作戦から1週間、クルセイダーズとグラディエーターのガーディアンへの統合が正式に決定し、手続きが進んでいた。
2つの傭兵を吸収した事で得た人員は2個小隊分の100人、彼らは入隊後、13週間の基礎訓練と12週間の練度向上訓練を受けてからの実戦部隊への配属となる。
訓練から脱落した者への再就職先は当然用意してあるが、それは彼らには明かしていない。異世界人だからと言って訓練を甘くするつもりも無く、ガーディアンに入る以上、対等の条件の試験と訓練を受けてもらう。
所変わって、空軍基地の更に南に広がる演習場、屋外射撃場の“マッチエリア”
俺とエリスはニルトン・シャッフリル銃の試射に出ていた、技術的な解析が終了した様だ。
評価試験隊は用意した机の上に3挺のニルトン・シャッフリル銃が並べられ、3種類のマガジンが置かれる。マガジンにはそれぞれ“炎”“氷”そして“雷”のタグが付けられていた。
「構造としては報告の通りガスガンのそれに近いものがありました、魔力の圧縮と開放で弾丸を射撃するものです」
フランツ少尉が説明しながらニルトン・シャッフリル銃を手に取りながらボルトハンドルを起こして引く、薬室内が見えるが、実銃のそれとは構造が全く異なっている。
「マガジンからの魔力をボルトで圧縮、トリガーを引いて開放する事で弾を飛ばします。この時、何の魔石を用いているかによって射程や命中時の効果も変わって来ます」
フランツが説明しながらボルトを撃発位置へ、合図で俺達もヘッドセットをして射撃に備える。
彼は視線の先、100m程に置かれた鎧の標的へ銃を向けてスタンスを正し、引鉄を引いた。
その銃声は俺達の使う銃と同じ位か少し重い位のもの、彼の肩にかかる反動は少し強いものに見える。胸甲を貫く高い音は弾が命中した証だ。
「腕がいいな」
「結構撃ちましたので」
そう言いながらフランツはボルトを引き、マガジンを外す。
「魔力の流れもしっかりある」
隣で見ていたエリスもそう言う、魔導銃とも呼べるそれは飛ばす弾丸が殺傷能力を持つが、魔術を使う者には魔力の流れを察知される為、暗殺や奇襲には向かない。これは西部方面での調査でも判明している事だった。
余談だが、ニルトン・シャッフリル銃の形状は固定されたものは無い、スプリングフィールドM1903に似ているもの、Kar98kに似ているもの、ブレイザーR8に似ているものもあればモシン・ナガンM1938に似ているものもあり、“ニルトン・シャッフリル銃”というのはこの動作方式で射撃されるものの総称のようだ。
「撃ってみても?」
「どうぞ」
俺はフランツからニルトン・シャッフリル銃を受け取り、マガジンを手に取る。炎の魔石が装填されたマガジンを装着し、ボルトを押し込む時に僅かに抵抗を感じるのはエアソフトガンっぽさがあると思った。
射撃の姿勢を正して照準を合わせ、焦点をフロントサイトの合わせて引鉄に指を添える。ゆっくりと引き絞ると、銃声と共に弾丸が発射された。
ガツンという鈍い音、鎧の厚手の所に当たったらしく、被弾の穴が1つ増える。
引鉄の引き味は俺達の銃に似ているが違う、もっと重く、キレが良いとは言えないもの。
反動は強め、M4よりは重く、M24より少し軽いが、銃床のせいかマズルジャンプが大きく感じる。
銃声も似たようなもの、炎の魔石を使っているからか、マズルフラッシュも発生している。フラッシュハイダーに類するマズルデバイスが無い為、フラッシュも少し大きめだ。
「炎の魔石を使うときに限り、魔力の解放と共に燃焼が発生するので、弾速、射程、直進性は向上します。代わりに弾丸に魔力が付与されないので、命中時の魔術的効果がありません」
「魔石変えるとまた違うのか」
「雷の魔石は相手に電撃を喰らわせ、氷の魔石は相手を凍結させられます。どちらも魔石にチャージされた魔力量によって効果の程度は変わって来ますが、炎の魔石ほど射程と弾速は伸びません」
“氷”のタグが付けられたマガジンを手に取り、先程と同じように装填する。
スタンスを正し射撃すると、弾は標的の手前5m程で地面に落ち、着弾点の半径30㎝程度の地面を凍結させた。銃声も炎の魔石の時よりも軽い銃声、反動も小さくなっている。
ボルトハンドルを引き、マガジンを外す。雷の魔石の装填されたマガジンに交換してボルトを戻す。
三度スタンスを正して引鉄を引く、撃ち味は氷の魔石と似たもので、やはり反動は軽い。
明確に異なるのは命中した時、空中放電の様な音と共にスパークが走る。射程距離は氷の魔石よりも若干長い程度か。
「レールガンみたいに弾速と射程が伸びるって訳じゃないんだな」
「魔力ですし、エンチャントされているのが主に弾丸ですからね」
銃をクリアにし机に置く、異世界製の銃は今後俺達にとっても脅威となって来るだろう。特に魔術が付加された弾の攻撃への対応は難しくなる。
「どう思う、エリス」
「どうって言われても……そうだな幸いまだこちらのアサルトライフル等の火器に射程と精度の優位があるから、接近される前に阻止射撃が基本の対策になりそうだな」
先にに見つけて先に撃ち、当てる。やはりこれに尽きるのだろう。
「ヒロトはどう思う」
エリスが俺に聞き返す、俺がこの銃と交戦し、技術解析の報告を聞いて思った事。
「この銃で終わりじゃない、この銃の設計には間違いなく転生者が絡んでる」
内部構造はこの世界の技術体系からは全く外れたもの、であれば現代兵器の知識のある転生者が作ったか、この世界の技術者に入れ知恵している可能性が非常に高い。
「俺達の銃も進化を続けて来た、今にこの技術を応用した自動火器が出て来るぞ」
異世界の銃撃戦は今後、激しさを増していくのが容易に想像出来る。
そんな俺達の頭上を、ジェット機の轟音が駆け抜けて行った。
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第3者視点
時間は少し遡る、ベルム街の浄化作戦が始まるよりも前の話だ。
フォートフラッグ上空、2000ft
冬の只中の冷たい空気を切り裂くジェット音、飛行訓練を終えてフォートフラッグへ帰投するのはM-346マスター練習機。
『Rookie2-3 on Final RWY27』
操縦桿を倒し、左に180度旋回。ここまで来たら速度表示を見る事はほぼ無い。
『滑走路見えてるか?』
ベースターンの旋回にかかるGが終わると、後席に座る教官の声が聞こえて来る。
『見えてます』
操縦桿を握って教官にそう返すのは、“元”ドラゴンナイツの団長、カナリス・フルブラックだ。
速度と高度、機体姿勢等様々な情報が投影されているHUDの向こう側の視界には、3000mの滑走路が徐々に迫って来る。
滑走路端に描かれた過走帯標識と着陸脚が下りている時に表示されるHUDの迎え角表示の上端、そして現在進路を表すフライトパスマーカーの横線が重なるように意識しつつ、操縦桿で機体のバランスを取り、スロットルで速度を微調整して進入角度を維持する。
機体が滑走路端に入り、機首上げ動作、迎え角表示の中にフライトパスマーカーが入り込む。スロットルを緩やかに引いてアイドル位置に、機体は滑走路の中心から少々右にズレたが、許容誤差の範囲内だ。
ズシ
着陸脚が接地した感覚、12度の機首上げを維持しエアロダイナミックブレーキ、つまり機体全体で空気抵抗を受けて減速する。
速度が徐々に落ち、自然と機首が下がってきた所で操縦桿を一杯に引き、機首がゆっくり下がる様にしながら前輪が接地した後も操縦桿を引き続ける。両足ペダルのつま先側を踏んでホイールブレーキをかけて更に減速、誘導路に入れる程度の速度まで落ちたら、前脚でのステアリングをオンにする。
『Rookie2-3 FortFlag tower. welcome back. TurnRight on available taxiway』
『Tower Rookie2-3 Roger.exiting on B』
管制塔からの通信にカナリスはそう返し、Bの標識看板の設置されている誘導路へ右のペダルを踏んで右折する。
『Rookie2-3, Taxi to APRON104 via B G I.』
カナリスはフォートフラッグの誘導路と駐機場の配置を思い出す、教育隊の駐機場は滑走路から少し遠く、3桁の数字が振られている。
AT-29を使った教育の時、間違えて輸送機の駐機場に停めてしまった候補生が練習機にその駐機場を使う飛行隊の落書きをされてしまった上、管制官や教官からこってり絞られてしまった事があった。流石に可哀想だと思ったが、間違ったスポットインも事故に繋がるかもしれないミスだ。あの洗礼も含めて教育なのかもしれない。
彼は復唱すると指定された誘導路へと機体を向け、104、104……と間違えない様に呟きながら駐機スポットを目指す。
指定された駐機場にスポットインすると、エンジンを落とす作業に入る。
パーキングブレーキをオン、射出座席の安全装置も入れ、HUD、レーダー高度計、右側コンソールからINSやGPS等のアビオニクス関連のスイッチを全てオフ。PROBE HEATもオフ、ランディングライトと機外灯オフ。一通り全ての機器をオフにしたらエンジンをカット、キャノピーのロックを解除して外気とご対面だ。
「ふぅ……はぁ……」
ヘルメットに繋がっている片方のラチェットを外して酸素マスクをぶら下げ、地上作業員の掛けてくれる梯子を教官に続いて降りる。
90分の飛行、コンクリートの地面に足を付けてもまだフワフワと不安定な気分になるが、訓練期間でもう慣れっこだ、ここでへたり込んで教官にシバかれていた時とは違う。
そしてそんな指導をしていた教官はクリップボードに何かを書き留め、視線を上げてカナリスに声を掛けた。
「すぐにデブリーフィングだ、今回の訓練と反省点の洗い出しに入る」
「了解」
教官に敬礼し、ヘルメットを脱いで教育隊司令部へ。本当ならシャワーでも浴びたい所だが、まだ授業中だ。耐Gスーツとヘルメットをロッカーに返し、飛行ノートを持って教室へ。教官からの指摘を書き込み、次の飛行訓練に生かす。
プロペラ機の操縦訓練は“飛行に慣れる事”が主な目的であったがジェット機クラスではそれに速度が乗り、基本的な空中機動と航法が加わって来る。
旋回は勿論、横転、宙返り、離着陸。航法もGPSがあるから良いとは当然ならず、地図とコンパスだけで自機位置と目的地を割り出す等の技術が必要になって来る。
「このまま行けば、戦闘機コースに上がれるが、どうする」
「……と言いますと」
一通り今日の飛行の評価と反省、次回に向けた対策を終えた時、教官はカナリスに話しかける。
「ここから先の進路だ、戦闘機コースに上がるか、輸送機や回転翼機コースに転科するか、地上勤務に転科するか」
航空学生というのは複数の進路が用意されている、それは適性や本人の希望等で変更も可能な進路で、実際操縦訓練の途中から回転翼機コースに転科したカナリスの同期も少なくない。
「このまま戦闘機コースを目指します」
「分かった。……座学の成績も問題無し、操縦も合格。来週から戦闘機コースだ」
「了解、ありがとうございます」
カナリスは無事戦闘機コースへ進級が確定したが、現時点で残っている元ドラゴンナイツの航空学生は半分になっていた。
翌週
グリーンの飛行服と耐Gスーツに身を包み、灰色のヘルメットとニーボードを持って割り当てられた機体へと歩みを進める。
F-16D、今日から訓練で乗る事になる戦闘機だ。
F-16、小型軽量の機体に大きな推力のエンジンを搭載、フライ・バイ・ワイヤやブレンデッドウィングボディの恩恵を受け運動性に優れた戦闘機。かつてはF-15と共に“ハイ・ローミックス”の“ロー”、つまり性能は抑えつつも安価で大量調達出来る戦闘機として開発されたが、今では世界最高峰の多用途戦闘機としてその名を轟かせている。
___というのは資料で頭に入れたが、カナリス自身が体感や実感した事ではない。
辞書よりも分厚いフライトマニュアルと、戦闘機に関する資料を読み漁り手にした知識だ。シミュレータも乗ったが、実機の戦闘機に乗るのはこれが初めてとなる。
「カナリス・フルブラック訓練生です、本日はよろしくお願い致します」
戦闘機の前で待っていた教官に敬礼し、少佐の階級章を付けた教官もそれに応えて敬礼を返す。
「“ルーラー”だ、よろしく」
パイロットは“TACネーム”という渾名で呼び合う、名前の重複を避けたり通信を簡潔にする為だ。ヘルメットにも“Ruler”と刻まれているのが分かる。
「今日の予定は」
教官の声に、ニーボードにクリップで挟んであるミッションシートを確認しながら答える。
「はい、使用機材はF-16DM、コールサインは“リーフ1-4”、飛行目的は戦闘機初期操縦訓練。飛行時間は90分を予定しています」
「うん、では準備しようか」
任務の認識に齟齬が無い様確認し、搭乗準備を進める。
ピトー管やその他の装置に取り付けてある“Remove Before Flight”のフラッグを外しながら教官はカナリスに問いかけた。
「今日の天気は?」
「この分だと大丈夫でしょう」
「そうじゃない」
カナリスは教官の言葉に手を止めた。
「ブリーフィングの気象情報は確認したんだろ?飛べる天気なのか?風向きは?」
教官は本当に天候の事を訊いているのではなく、カナリスが飛行に当たって気象情報をチェックした上で飛べると判断したかを聞いている。
「……上空の天候は現在安定しています、雲量2、風は北から3ノット、突風は無しです。午後からは西からの高気圧により風が西向きに変わり、強く吹く可能性があります」
飛行前ブリーフィングで気象隊からの報告を脳内で反復する、航空機というのは高速で自由に空を飛びまわれる分、天候に非常に左右されやすい兵器でもある。気象情報というのは飛行する際に重要な要素となる。
「飛べるのか?」
「飛べます」
「よろしい」
全てのフラッグとインテークのカバーも外し、機体に付いているのが車輪止めだけになった。
機体の左に掛けられた梯子を登り、コクピットに座る。事前にシミュレーターで何度も飛ばしたが、実機のコクピットに触れるのは初めてだ。
「エンジンの始動から離陸準備完了まではやれ、離着陸は俺がやる。上空へ上がったら操縦桿を渡す、今日は体験飛行みたいなもんだ、気楽に行け」
「了解」
ヘルメットを被り、耐Gスーツのエアーホースを機体に接続、シートベルトを装着しグローブをはめる。その間に教官が後部座席に乗り、地上作業員が梯子を外す。
F-16のコクピットの特徴と言えばその広い視野と少し後ろに倒されている座席、そして脚の間からではなくサイドコンソールから生えているサイドスティック式操縦桿だろう。
カナリス自身はもう慣れたが、彼自身もその仲間も、練習機からの乗り換えのシミュレーターを操縦した際に感覚が随分違う事に驚いていた。
現在はHUDもMFDも、その他計器類の電源も何も入っていないコールド&ダークの状態、ここからマニュアルに沿って機体を始動していく。
左コンソールにあるIFFの設定パネル、MASTERのダイヤルをSTBY、機外灯の設定からWING/TAILとFUSELAGEのスイッチをBRTに入れる。昼間なのでFLUSHではなくSTEADYにしておく。
スロットルの下やや前方のUHFバックアップコントロールパネルから、バックアップUHF無線機の2つのノブをBOTH、PRESET。これはバッテリー電源で使える無線機なので、離陸前に設定しておく必要がある。
コクピットチェックは完了、エンジン始動前チェックに入る。
スロットル下のELECのMAIN PWRスイッチをBATTに入れ、バッテリーからパワーを貰う。航空機のバッテリーは容量が限られているので、5分以上BATT状態にしてはいけない。それ以上スタートに時間がかかる時はエンジンを始動するか、地上から電源を貰う必要がある。
FLCS RLYライトが点灯しているのを確認したら、コンソールの最後方にあるFLCS PWR TESTスイッチをTEST位置で保持。
FLCS PWRのインジケーターライトのA、B、C、Dの全てが点灯、バッテリーからの電力がFLCSへ正常に供給されているのを確認出来る。
FLCS RLYのライトが消え、TO FLCSへ移行。FLCS PMGが点灯したのを確認してからFLCS PWR TESTスイッチをNORMへ戻す。
MAIN PWRスイッチを“MAIN PWR”へ、右側計器パネルのENGINE警報灯、HYD/OIL PRESS警報灯、右側補助コンソールパネルのELEC SYS警告灯、SEC警告灯の点灯を確認。
左の補助コンソールパネルのANTI-SKIDスイッチをパーキングブレーキに入れる、自動車のサイドブレーキに似たようなものだ。
ENG FEEDノブがNORM位置に来ているのを確認、全ての燃料ポンプがオンになり、F-16の重心が自動で制御される。
AIR SOURCEノブNORM、エンジンブリードエアーバルブが開き、コクピット油圧調整やアビオニクスの冷却等を行う。
スロットルがOFFdetents位置に来ているのを確認、ここまで来て初めてエンジンを始動出来る。
JFS START2。
エンジンに圧縮空気を送る、右計器パネルのエンジンRPM計を注視し、20RPMを越えたらスロットルをIDOL位置へ前進。10秒後にはエンジンが始動する。SEC警告灯が消えるのを確認、エンジンの回転数も徐々に上がって来る。
「キャノピー」
「クリア」
そろそろエンジン騒音も入って来る、後席に座る教官に声を掛け、風防に何も挟まないか確認してから、左側のキャノピースイッチで風防を閉じる。
透明なポリカーボネートのバブルキャノピーが下りて来てカナリスの頭上を覆う、座面が高く感じ、腰から上が機体フレームから出ているようで視界が非常に良いのもF-16の特徴である。
キャノピースイッチ付近の黄色いレバーを倒し、風防をロック。外からのエンジンの音がある程度遮断され、機内に伝わって来る振動でF110-GE-129の鼓動を感じる。
エンジンRPM計で60RPMを超えると予備発電機が始動、ENGINE警報灯とHYD/OIL PRESS警報灯が消え、JFSのスイッチが自動でOFFになる。予備発電機が始動するとすぐに主発電機が始動、代わりに予備発電機は停止する。
SEAT NOT ARMED警告灯、WFEELS DOWNライトの点灯を確認。
エンジンが安定したら計器類を上から順に確認していく。
FUEL FLOWが700から1700pph。
OIL PRESSが最低でも15psi以上。
NOZ POSが94%以上を差している。
RPMが62から80。
FTITが650℃以下。
HYD PRESSが2850から3250psi。
「エンジン……よし」
エンジンの始動は完了、次はエンジン始動後の各種チェックだ。
左側コンソールのテストスイッチパネルからPROBE HEATスイッチを入れても警告灯が点かない事を確認。ここで警告灯が点いたらヒーターか検知器の故障が疑われるからだ。
続いてPROBE HEATスイッチをTEST位置に入れ、警告灯が点滅する事を確認する、点滅しない場合は検知システム非稼働の不具合だ。今回は問題なく点滅、異常なしなのでスイッチをOFFにしておく。
FIRE&OHEAT Detect TESTボタンをオンにしながら、ENG FIRE警報灯とOVERHEAT警告灯が点灯するのを確認。
スイッチ1つを挟んで隣にあるMAL&IND LTSボタンを押し続け、各種警報や警告が正しく点灯するかを確認。コクピット内の文字通り全ての警報、警告、指示灯が点灯し、警告音と音声が流れ続ける。
それが終了したら今度は航空電子機器関係だ。
右コンソールのアビオニクス電源パネルから、MMC、ST STA、MFD、UFC、GPS、DLを全てオン。10秒経過してからMIDS-LVTノブをオン。
INSノブをALIGN NORMへ。
INSのリングレーザージャイロ航法装置の調整が始まる。正面のアップフロント操作パネルの右側にあるDEDが起動、調整ステータスや機体の緯度、経度、システム高度、機首方位、対地速度が表示され、膝に挟んだバインダーに記されたそれらの数字と見比べながら正確な事を確認、操作パネルのデータ操作スイッチを選択してENTERキーを押していく。
このアラインメントというのは時間がかかり、通常8分程を要する。DEDがINS RDYを表示しても、調整状況の数字が10以下になる必要がある。
その間他の各種アビオニクスの確認と調整を行う事にするが、レーダー類の電源はまだ入れない、強力な電波放射で地上作業員に健康被害が出る可能性があるからだ。
HUDの表示をアップフロント操作パネル左上のダイヤルで輝度調整、操縦桿の右側にあるHUDコントロールパネルからHUDに表示したい情報を選択する。今回は操縦訓練の初期段階なので、左上のスケールスイッチをVV/VAHにして速度、高度、昇降計、方位を、フライトパスマーカースイッチをATT/FPMに入れてフライトパスマーカーと姿勢表示バーを出す。
左MFDを囲むキーの中からTESTと表示されているページを開き、CLRを押しておく。あらかじめ出ているエラーを消し、次のエラーが適切に表示される様にする為だ。
操縦桿を動かして各動翼面の動作確認、F-16のサイドスティック式操縦桿は感圧
タイプ、操縦桿にかかる圧力を電気信号に変えて各動翼面に伝え、動かしている為ほとんど動かないタイプであったが、操縦感覚を分かりやすくする為、後に少し動く様になった。
操縦桿を動かすのは操作確認の他に、動翼面を動かす油圧パイプ内の作動油を温め気泡を除去する目的がある。それが終了したらFLCS-BITを開始する。
FLight Control System-Built In Test、いわゆる自己診断テストだ。左コンソールのFLT CONTROLパネルの右下のスイッチを入れ、その上のライトにRUNの文字が光ると45秒間のテストが始まる。
待ち時間の間にSAIのロックを解除して水平に合わせ、FUEL QTY SELノブを回し、燃料計を確認しながら規定量の燃料が入っているかを確認、今回胴体下の増槽は携行しない為、EXT CTRに合わせても0の表示になる。
EPU燃料計99%、EPUの燃料であるヒドラジンの残量が95%から102%の間ならOKだ。
割り振られた無線周波数とステアリングポイント、ビンゴ燃料の設定等をニーボードを確認しながら手早く済ませて行く。実任務であればチャフ/フレア等の自己防御装置や電子妨害装置、照準ポッド等の設定も行うが、今回は無しだ。
FLCS-BIT完了、DEDがINS RDY表示、アラインステータス6。
DBUスイッチオン、警報灯にDBU ONの点灯を確認し、操縦桿を動かして動翼面が動くかを目視確認。飛行制御装置がバックアップモードでも正しく動作するかをテストする為だ。
操縦桿のエアブレーキスイッチを前後させ、エアブレーキの展開と格納をチェック。
トリムチェック、TRIM/AP DISCスイッチをDISC、操縦桿のトリムスイッチを動かしてもインジケーターが動かない事を確認。NORMに入れて同じことをし、今度はトリムがキチンと機能しインジケーターが連動する事を確認。
次にMPOチェック、Manual Pitch Overrideの略で、機首縦角度の権限をオーバーライドする機能のテストだ。ディープストール等からの回復操作の際に必要になる。
水平尾翼が互い違いにならない様に注意を払い、操縦桿を真っ直ぐ、前一杯に倒す。左コンソール前方にあるガード付きMPOスイッチを、NORMからOVRDへ。
水平尾翼の後端が更に下がるのを確認してから、操縦桿とMPOスイッチを離して水平尾翼が元に戻るのを確認したらチェックOK。
空中給油受油口の開閉もチェック。左コンソールのAir RefuelをCloseからOpenに切り替えると、インジケーターのAR RDYライトが点灯、Closeにすると消える。
ANTI -ICEチェックAUTOかONにスイッチを入れ、RPM計がIDOL値で安定していたら一旦OFFにしてからON。今日の外気温は7℃なので、45秒経過してからAUTOにしておく。
テストパネルからOBOGS-BITスイッチを入れて、OXY-LOW警報灯が点灯するのを確認してからスイッチをOFFにする。
SECチェック、エンジンがセカンダリモードでも正しく動作するかの確認だ。
輪留めが付いているのは確認しているのでチェックを始められる、ENG CONTスイッチの赤いガードを外し、PRIからSECへスイッチを切り替える。
警告灯パネルの“SEC”が点灯、RPM計に動きが生じるが、RPMは5%程度の低下で安定する。それを確認したらスロットルを動かしてA/B無しの最大推力へ、RPM計が85%に達したらすぐにIDOLに戻し、NOZ POSが10%以下、確認。
ENG CONTをPRIに切り替えてガードを戻し、SEC警告灯が消え、NOZ POSが94%以上なのを確認したら完了だ。
エンジンスタートアップ、完了。
「Leaf1-4. Ready」
後席に座る教官に聞こえる様に、コールドスタート完了を報告した。