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206/215

H4拠点

作戦本部テントで俺は準備を進める。

全身の装備に異常は無いか、俺はいつも通り2人1組になって全身の装備をチェックした後で、作業台の上に並べられた弾薬を取り、弾倉に弾を込めていた。


既に3本の弾倉を満たした、俺に必要なのはあと3本、90発。


スピードローダーを使えば早いが、俺が今こうして1発ずつ弾を込めているのは、湧き上がる怒りを抑える為だった。


1発、1発、また1発と、殺意と共に5.56㎜(フランジブル)弾がP-MAGに収められていく。

30発を数え、スプリングが固くなると次のP-MAGを取り、また繰り返す。


こんなに怒りが込み上げて来るのは、ノエルの時以来だ。だが、それを発揮するのは今ここじゃない、自責によってその熱さに冷や水を掛ける様に落ち着きながら、静かに怒る。


殺されたのは憲兵、彼は俺が召喚した“召喚者”だった。彼自身も、俺も、危険も死も覚悟していた。俺が命令を送り、そして死なせた。


仲間を死地に送る覚悟が出来ている、というのは、決して仲間の死を悲しまず、怒らず、仲間が死んでも顔色を変えずに任務を遂行する、という事ではない。

同じ内面の問題でも、感情の“向き”が全く異なる。


30発を詰め終えたP-MAGを作業台に置き、マガジンは6本になった。これで規定数だ。


ごちゃごちゃ考えても、今まで俺はずっとそうして来たのだ。仲間の命を守る為に、俺達は敵対者と命のやり取りをし、そして殺して来た。

殺した相手は、誰かの仲間だったかもしれない、誰かの大切な人だったかもしれない。そんな者の命を奪ってきた俺が、仲間が1人殺されたからと怒るのはお門違いかとも思う。


___だから何だ


そんな事は知っている、だが生きる為でも銃を持ち、敵に向かって撃ってしまったのだ。

その業も俺は背負って、死ぬまで、いや、死んでからも持って行く。


「なぁ、ヒロト」


P226のマガジンを確認、弾は満タンになっているのを確かめていると、頭上から声が降って来る、顔を上げると、装備を整え終えたエリスが立っていた。


彼女は身を屈めると、俺の頬に手を当てた。


「お前1人に背負わせなんてしないさ」


俺が背負うものだ、とは言え、実際に背負わせなくとも、そう言ってくれる、俺の事を想ってくれる仲間と大切な人がいる。それだけで俺は十分だ。


「……あぁ、助かるよ」


俺はエリスの手を取り、立ち上がった。

作業台に置かれた弾倉をプレートキャリアとベルトのマグポーチに入れていく、既に慣れて身体が覚えているから、マガジンの向きを間違えたりなんてしない。


ライフルを手に取る、URG-Iの11.5インチ、サプレッサーは無し。ホロサイトもライトもレーザーも、電池は十分だ。


「分隊集合――――!!!」


テントを出ながら自分の分隊を集める、既に俺以外は準備が終わっていた。


コンバットシャツ、コンバットパンツ、装備までマルチカム、今回は白昼堂々乗り込む為、暗視装置(ナイトビジョン)は無しだ。

実戦も訓練も、いつもこのメンバーで乗り越えて来た。例え技術が本職に及ばなくても、阿吽の呼吸がこのチームにはある。


「弔い合戦だ」


仲間が殺された、それは例え転生者でも、異世界人でも、召喚者でも変わりは無い。等しく俺達の仲間だ。


仲間の死を乗り越えるケジメを付ける為にも、この街の暗部の元凶を断ち切る。


「いつでも行けます」


ブラックバーンがそう言うと皆も頷いた、ならば言う事は無い。


「装甲車に乗ってMCVの後ろに着く、着いたら作戦開始だ。行くぞ!」


俺はチームを引き連れて車列に向かう、街へ入る車列の先頭は16式機動戦闘車、その後ろに第1小隊が乗る8輌のピラーニャⅢC装甲兵員輸送車と、第3小隊が乗る同数のピラーニャが続く。


「車長!デュラハン1-1、全員乗ったぞ」


「了解、現在第1小隊の搭乗を確認。第3小隊は……今報告が来ました、全員搭乗、出発します」


ピラーニャのハッチが閉じられた後、床下からエンジン音を響かせながら、ゆっくりと8輪の装甲車は走り出した。



========================================



車列がH4拠点へ通じる道へと入ると早速、連弩銃の銃座による歓迎が始まった。


据え置き式の連弩銃から放たれる矢は通常弓矢やクロスボウで使われる矢よりも太く、威力がある。装甲車の装甲を貫くほどの威力は勿論無いが、それでも装甲で弾かれる矢の音は普段とは異なる。

恐らくこれが当たったら相当痛いどころではないだろうなと思いつつ、上空を旋回するMQ-9リーパーが放ったAGM-114Mヘルファイアが連弩銃の銃座陣地に着弾するのを見届けた。


連弩銃の銃座は拠点となっている工房の様な建物の門の前と左右の道を塞ぐ様に3つ置かれており、ヘルファイアが撃ち込まれ銃座は完全に破壊される。


辛うじて爆撃から逃れた連弩の射手を待ち受けていたのは、16式機動戦闘車が放ったキャニスター弾だった。


戦車砲から放たれるショットガン、無数の散弾は道に飛び出した銃座の兵士の生き残りを薙ぎ払い、刻んでいく。


拠点正面から真っ直ぐ伸びる道へはAH-6Mキラーエッグが向かい、ミニガンの射撃によって敵を一掃、正面の道はクリアになった。


降車ポイントの手前で車列が停車、トラブルかと思い車長に問おうとすると、車長が何か通信を受けている。


「了解……正面連弩陣地は排除、拠点の向かいの建物から攻撃を受けているとの事」


マズいな、正面の建物は狙撃チームが降下する建物だ、内部が掃討されていないと屋根に降下する狙撃チームが危ない。

かと言って第3小隊を突入させるのも良くない、彼らの任務は通りの安全確保であり、建物の制圧に投入する部隊ではない。


「仕方ないか……1-4を向かいの建物制圧に投入、1-1と1-2、1-3でA・B両棟を制圧する」


「了解」


俺は無線のチャンネルを切り替え、小隊本部へと繋ぐ。


「デュラハン・ヘッド、こちらデュラハン1-1、どうぞ」


『1-1、こちらデュラハン・ヘッド、どうぞ』


返答は、聞き慣れた友人の声だ。


「現在拠点正面の建物から攻撃を受けている、その建物の制圧に1-4を充てたい」


『拠点内はどうするんだ?』


「A棟は1-1と1-2、B棟は1-3で制圧する」


『了解した、その様に命令を出す、1-4は制圧終了次第、援護に向かわせる』


本部も了承した、俺達の行動は計画通りで変わらない。B棟を制圧する1-3の人数は少なくなるが、B棟はA棟よりも小さく、離れの様な建物だ。1-3なら大丈夫だろう。

車長に合図を出すと車長がハッチを開ける、降車後は拠点前の建物からの射線を切るように防御態勢を取り、俺は無線で各分隊長を集めた。


ピラーニャの陰に隠れて分隊長が集合する、上階からの攻撃に16式機動戦闘車がRWSのM2重機関銃で応射する音が聞こえた。


「予想はしてましたが、激しい抵抗ですね」


自身のヘルメットの角度を直しながらそう言うのはガレントだ。


「本部からの命令変更は聞いたな?」


俺の問いに答えたのは1-4の分隊長、スティールだ。


「聞きました、1-4は向かいの建物の制圧、その後拠点内制圧の援護に回れと」


「なら話が早い、作戦開始だ。死ぬなよ」


「「「了解」」」


分隊長が一斉に自分の部隊の所へ向かう、俺も1-1の所へ戻ると作戦開始を伝えた。


「装甲車の陰に隠れて門まで進むぞ」


俺の言葉にエリスや分隊員は頷いて返す、拠点の向かいからは矢がそれこそ雨あられと降り注ぐ、これにやられたら戦線離脱だ。そんな事を考えながら姿勢を低く取り、ゆっくりと進む装甲車に合わせて前進する。


俺達の前を進むピラーニャがハンドルを切ると、そのままH4拠点の建物外周を囲む塀に突っ込んだ。煉瓦造りの壁とは言え、流石に15トン以上ある装甲車の勢い付いた突進に耐えられる様な作りでは無かったらしい。装甲車が後退すると壁が崩れ、中庭が丸見えになった。


ほぼ同時に16式機動戦闘車のRWSが拠点向かい側の建物上階を掃射、その援護の下1-4がするりと建物内に侵入していく。


「行くぞ」


上階からの攻撃が止んでいる間に装甲車の開けた穴から拠点内に俺達1-1と1-2、1-3が侵入、1-3はB棟と名付けられた離れに向かう。窓越しに肉の盾として括られている女性の表情には恐怖が浮かんでいた。


今出してやる、そう思いながら窓からの攻撃に備えライフルを向けながら中庭を突っ切り、中へ通じるドアの前に張り付く。1-2は別の入り口から侵入、突入口を分けて各個撃破されにくくしている。


『グレゴリー1-1、配置についた』


1-4も仕事が早い、向かいの建物を制圧して狙撃チームを下ろした様だ。狙撃チームが監視に入ってくれるなら俺達も動きやすい。


扉が急に開いて敵が出て来るのを警戒しつつ突入陣形、ポイントマンはブラックバーン、俺はドアを開けてから殿だ。


ドアは内開き、俺はプレートキャリアのバックパネルの隙間の差し込まれていたブリーチングバー___先端を尖らせた平たい金属の棒だ___を取ると、ドアの隙間に差し込み思いきり抉じ開ける。

メリメリとドアの木材が裂ける音と共にドアが開き、ブラックバーンから順に突入。突入してすぐに銃声が聞こえたが、こちらの被害報告は無い。どうやら上手く片づけたようだ。


俺は殿に付き、最後に突入、入り口から見える範囲に敵の死体が既に2つ、手筈通りエリス達の班は2階の制圧に向かった。

廊下に入ってすぐ右の部屋へ突入準備をしているグライムズの向かいに立つ。


『1-1、その隣の室内に敵2名。窓際に居る』


今まで部隊と班にコールサインを振っていたが、今度から個人にもコールサインを振っても良いかもしれない。


俺は頷くと、グライムズがドアを押し開け、音を立てずに侵入する。

この部屋は無人で、通路を通じて隣に繋がっている、カッティングパイの要領で部屋の7割を視界に入れると、入り口から見えない3割の死角に押し入った。


“肉の盾”のある窓の近くに、武器を構えながら窓の外を見ている男が2人。


足を止めずに部屋に入る、足を止めてしまうと後続が(つか)えて妨害になってしまい、攻撃を集中されれば各個撃破されてしまう。

敵に対して速度と衝撃の優位を保つ、俺はM4を構えて視線にホロサイトの光点(レティクル)を合わせ、敵がこちらに気付いて振り向く前に引き金を引いた。


5.56㎜の4g(62グレイン)の弾丸は銃身内で充分なエネルギーを受け取り、狙い通り男の胴を貫いた。


銃への対策だろうか、厚めの鎧を着ていたが、数mの距離から放たれた5.56㎜弾を防ぐことは叶わなかった。男に迫りながら、2発、3発、倒れるまで撃ち続ける。


完全に無力化した後、頭に1発撃ち込んで止めを刺す。もう1人の方もグライムズがしっかり仕留めた様だ。


見える敵を仕留めると、今度は隠れている敵の捜索に移る。

クローゼットの中、ソファ、ベッドの下、棚の裏。それぞれ探したが、敵の姿はない。


「クリア」


「こっちもクリア」


「次だ」


クリアにした部屋に短いサイリウムを折って投げ込み、部屋から廊下へ、また次の部屋のドアを開けて部屋の中を確認する。クロスボウで部屋の中から待ち伏せしていた者が居たが、相手が射撃する前に片付ける事が出来た。


死角になっている部屋の角へ突入、さっき殺した敵以外の姿は無い模様。

敵を求めて部屋から部屋へ、次の部屋はダイニングを抜けた向こう、部屋のドアは開いていた。

食糧庫、収納の中、人が入れそうな家具の中は全て捜索。部屋に入る前は入口から見える範囲を手前から奥へ視線を走らせ、角度を変えてそれを繰り返す。


同じ要領で突入、部屋の中に敵の姿は無い。


「クリア」


マガジンの中は残り10発程、1マガジンも撃ち切っていない。


「この部屋で最後か?」


「えぇ」


俺は胸元のPTTスイッチを押し、分隊の無線に繋ぐ。


「こちらヒロト、ブラック、どうだ?」


『こちらブラックバーン、オールクリア。ブラスの姿無し』


『こちら1-2、オールクリア。ブラスの姿は見当たらない』


A棟1階の敵は全て排除。しかし目的の人物の姿はない。突入前に逃げたのか……?


「1-1A(アルファ)、A棟1階を確保、ブラスの姿はない」


『1-1B(ブラヴォー)、2階クリア、ブラスの姿はない。5名排除』


2階に上がったエリス達の班もブラスを見つけられていない。この建物には居ない様だ。


「了解……全隊へ、こちら1-1、A棟にブラスの姿はない。“肉の盾”を複数確認、衛生兵を要請する」


無線のチャンネルを切り替え、全隊無線に流す。

A棟は母屋、B棟は離れだ。母屋に居ないとなると離れに隠れたか……。


『こちら1-3、B棟クリア。地下に続くトンネルを発見した』


「おいおい……マジか」


無線を入れずに呟いた。地下組織とはよく言ったものだ、こういったテロリスト達はトンネルをよく使う。


「了解、A棟に衛生兵が到着後、そっちに向かう」


制圧したA棟に衛生兵が到着すると同時に2階から降りて来たエリス達の班と合流。1-2をA棟確保の為に残し、1-3が向かったB棟に向かう。


「トンネルとは、厄介だな」


「あぁ……どこに繋がってんだか」


単純にトンネルに入って捜索するのは得策ではない、地の利は相手にあるし、暗く狭い所で不意打ちを受ける可能性もある。


水攻めは定番だが、この作戦地域はベルム街新市街地として活用される。そんなところの地下トンネルに水を流せば陥没事故が相次ぎ、下手したら北岸が湿地帯になってしまう恐れも。それに人質の有無も不明なのだ。


ガスで燻し出すのも同様、ガスを流した後に捜索に入って酸欠死、なんてのもあり得る。


そんな事を考えながらB棟に入ると、1-3の分隊長であるストルッカが床に空いた穴をライトで照らしていた。


「どうだ?」


「板で雑に覆われていました、深さは2m程度、地下道があるようです」


深さを見る為に先に落としたとみられるサイリウムが穴の底で光っているのが見える、底からトンネルは北へ延びている様に見えた。


トンネルの捜索は時間がかかるもっといい手は……


「……そうだ、偵察隊を呼ぼう」


「ラプトルですか」


偵察隊にはラプトルが配備されている、匂いでトンネル内のブラスを追跡すれば追いつけるかもしれない。

ラプトルの嗅覚は馬よりも鋭い。それを利用してガーディアンでは以前、竜人族からの依頼の際に譲り受けたラプトルと、卵から孵したラプトルの計6頭を飼育・配備し、軍用犬ならぬ軍用ラプトルでK9ユニットを構成している。


本部に無線で偵察隊を要請、K9ユニットはトラックでやってきた。


「我々の出番と聞きましてね」


そう言いつつ、M4を携えてやってきたのはヴィーノ、K9ユニットの隊長だ。


「今日はどのチームだ?」


「トンネルと聞きましたんでね、コールサインは“キャッスル”です」


トラックから下車して来たのはゴードンと、先に投入していたのよりも小振りな2頭のラプトル。緑色の身体で“Bv”の刻印の首輪と、緑色の身体だが黒い横縞が特徴で首輪に“N”の刻印がある2頭だ。

2頭とも、カメラ付きのハーネスを着用している。


「ゴードンも馴染んだな」


マルチカムの戦闘服と装備がすっかり身体に馴染んだゴードンは“竜人族”のオブザーバーだが、銃の取り扱いも車輌の操縦も、一線級の隊員と遜色ない訓練を受けている。


「訓練ばかりだったからな、ようやく俺達の出番だ」


K9はラプトルの扱いが難しい、訓練を積んでどうにか召喚者の隊員にも扱えるようにしたいが、こういう任務の様な柔軟な対応を求められる時はラプトルと心を通わせられる竜人族の出番になる。


「このラプトル、他のよりも小さいな」


「まだ子供だ、とは言えしっかり命令はこなす」


成獣のラプトルは体長1.5m程、今目の前の2頭は1m無い位の子供の様だ。トンネル内だとこの小ささが生きる。

2頭は外に出た経験が少ないからか、周囲を見回し甲高い鳴き声を上げる。


「よしよし落ち着け」


ゴードンは2頭を宥めながらストルッカから袋を受け取る。

A棟の捜索中に、ブラスが直近まで着用していたと思われるジャケットが見つかった。袋の中身はそれだ。


「良いかブラボー、ネクター。この匂いを追うんだ」


くぅぁ、と2頭が同意したような鳴き声を上げる、周囲を見回した後、鼻を鳴らしながら地面に残る匂いを辿り始めた。

やはりと言うか、匂いはトンネルの中へ向かっている様で、ラプトル2頭は匂いを追いながら、トンネルに飛び込んで行った。


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