元締め
おっっっっっっそ!!!!!!!!!!投稿が遅い!!!!!(自戒)
最近色々な作品を読んでいて思ったのですが、1話が短い方がテンポよく読めますね。
ミリヲタは8000文字くらいで投稿していたのですが、5~6000文字で投稿してみようと思います。
ちなみに今回、6736文字です。
ところで、異世界の風俗街にも“元締め”というものが存在する。風俗街の莫大な資金力を得て、この広大な街の自警団を展開維持し、街を発展させてきた統括者だ。
かつては風俗街に元締めの屋敷があったらしいが、ベルム街の傭兵が強力になっていくにつれ、取り締まりを避ける為に屋敷ではなく街中の事務所を転々としている様だ。
そんな情報を得たのは作戦展開から2日が経過し、街の70%の制圧が完了した昼過ぎの事だ。展開している部隊は交代で休憩を取り、戦闘は小康状態になりつつあるところだった。
捕虜を管理する憲兵隊の尋問により、捕縛した捕虜の中に元締めに近い立場の者が居る事が判明した。
「ここか?」
「えぇ」
フォート・フラッグ 外部施設群 捕虜収容所
風俗街の戦闘で捕縛・投降した自警団等の抵抗勢力がおよそ40人程収容されており、憲兵隊の下尋問が行われている。
赤毛の憲兵、ラスティに案内された独房兼取調室となっている部屋を覗くと、中肉中背の短髪男が中に居た。
「……とても側近の1人には見えんな」
「自分もそう思います」
ラスティもそう言って頷く、とても風俗街を握る者の1人には見えず、ギルド組合や街中に居ても印象に残らない普通の男、そんな風に見えた。
「俺が話す」
「自分も入りましょうか」
「いや、いい。話すだけだ、外で待っていてくれ」
この部屋は頑丈な壁に覆われていて、壁の中は魔術を封じ込める魔術文字が張り巡らされている。いざとなれば腰の拳銃を抜くまでだ。
俺はノックをし、返事を待たずにドアを開ける。
「ガーディアンの団長だ」
「……噂には聞いている、ヒロトさん」
男は疲れた様な声をしていた、聞けば護衛らと傭兵の間で戦闘になり、建物に逃げ込んだところを拘束されたらしい。
俺は持っていたファイルを開き、個人情報を確認しながら話しかける。
「……バロス・グリアーダ、43歳。風俗街のNo.3。現元締めのブラス・バスーンの部下、風俗街の物資調達担当……」
尋問によって得られた基礎的な情報、彼からは色んな情報を取れるし、No.3が捕虜になった事は元締めにもじわじわと効いてくるだろう。
「ベルム街随一の傭兵に追いかけられるなんて、人気者になったものだな、俺も」
軽口を叩く余裕はまだある様だ、疲れた表情をしてはいるが、それで人間の中身までは見えない。
「……奥さんと子供は?」
俺の質問に口を結ぶが、俺は肩の力を抜いて背もたれに身体を預けた。
「ただの雑談だ、まだ風俗街の中に居るのか?」
バロスという男は深呼吸をして口を開く。
「妻も子供も街を出た、行先は言わん」
「そうか」
だが俺が聞きたいのはそんな事じゃない、確実に欲しい情報に近づかなければならない。
「とにかく、お疲れさん。もう戦う事は無いし、家族にも手出ししない」
一瞬目を見開くが、信じないと言った表情にすぐ切り替えた。
敵対組織のボスだ、風俗街では裏切りや騙し合いが日常茶飯事だったのだろう。
「君の役目は終わった、安心してゆっくり休んでくれ」
俺はそれだけ言うと席を立った、鉄格子付きのドアから出ると、11.5インチのARを携えた憲兵とラスティが待ち構えていた。
出口に向かい歩きながら、ラスティに指示する。
「待遇を良くしろ、温かい飯を与えてゆっくり寝かせるんだ。アイツは絶対何か情報を持っている、確実に聞き出せ」
「この世界では拷問で口を割らせるのは一般的だと言いますが、無しの方向で?」
「当然だ」
拷問で得られた情報というのは信頼性に非常に欠ける、自ら口を割らせる為には至誠が必要だ。
「時間が無いのは分かるが、確かな情報が大事だ。頼んだぞ」
「了解」
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作戦は再び動き始め、その日の内に風俗街全体での戦闘が散発的に発生する程度になってきた。
ガーディアンを始め各傭兵が連携して戦闘をしかけ、勝ち目が薄くなってきた辺りで降伏する自警団も出始め、風俗街全体の戦闘も収束に向かいつつある。
それでもまだ、頑強に抵抗する防御拠点があった。
最初の偵察で判明した“H4”と名付けられた防御拠点は風俗街の奥まったT字路に存在し、周囲の建物ごと防御拠点にしており、ほぼ“要塞化”と言っても差し支えない程堅牢な物となっている。
前の道には組んだ木枠と石が積まれた馬防柵には矢を射る為の銃眼が備え付けられており、馬防柵の前にはしっかり塹壕が掘られている。
防御拠点になっている建物の周囲は連弩の備えられた銃座が幾つも存在し、建物自体の窓は目張りされているか、件の“肉の盾”が備えられて用意に入れない様な細工もされている様だ。
作戦開始から3日、その他の防御拠点は既に破壊または降伏を選んだのだが、H4拠点だけがまだ陥落していない。
何しろ防御拠点のある道に顔を出すだけで凄まじい数と勢いで矢が飛んでくるのだ、これではクルセイダーズの得意とする白兵も、セイバードッグの十八番の突撃も阻まれてしまって辿り着けない。
「捕縛していた風俗街のNo.3が吐いた、元締めのブラス・バスーンの居場所だ。H4拠点は直近の奴の拠点だった様だ、拠点の動きからして人が出入りした形跡は無い。まだH4拠点にいる可能性が高い事が判明した。明朝、H4拠点へ攻撃を仕掛ける」
川の橋の麓に設営された作戦本部のテントに集まった傭兵達のリーダーの前で作戦を説明する、既に街や傭兵、レムラス伯爵は元締めであるブラスを“排除”の方向で動いている。
生かしてこの街から出すつもりは無いらしい。
それもそうだろう、この街の治安悪化、そして公衆衛生環境悪化の原因だ。バロスが洗いざらい吐いたことでブラスの情報源としての価値はほぼゼロ、罪は明白、優先度の天秤は捕縛より“排除”に傾いた。
「時間はどうなんだ?のんびり明日まで待ってられるか、今すぐ殺っちまおう」
ギルド“グラディエーター”の団長は幅広の剣を握りしめて声高に言う、アクスは仏頂面のまま腕を組んで黙ったままだ。
「グラント、敵ばかりじゃない、中には人質も居るんだ」
「ぬう……」
アクスが“グラディエーター”の団長の名前を呼びながらそう宥める、グラディエーターは今回、団長のグラントを筆頭に攻勢ではもっとも戦果を挙げている傭兵ギルドだ。
血気盛んで技量も充分だが、そればかりでは行かない事も多々ある。今回は特にそうだ。
「外から偵察し、中に入れるか探ってみる」
「だがグラントのいう事も分かる、あまり時間をかけると、ブラスが逃げ出すかもしれないぞ」
「そうならない様に拠点を大部隊で囲んでるんだ」
第2、第3歩兵小隊と憲兵隊、偵察隊、傭兵団の予備戦力まで使い、拠点の包囲を固めている。地下に道があれば別だが、地上から逃げ出すのはかなり難しくなっている。
地下に道があれば河に繋がっているという予想の元、ラスカ河も水運ギルドが見張っている為、そちらの警備も厳重だ。
「入り口を見つけたらまずは人質を救出、全員救出出来たら内部の掃討に移行し、ブラス他一味を排除する」
救出担当はガーディアン、掃討担当は傭兵団の担当となった。
作戦決行は、明日朝9時、風俗街の治安戦の最終決戦の様だ。
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その日の夜
H4拠点の周囲を、敵が逃げ出さない様に迎撃警備を敷いている。通りを憲兵隊のHMMWVで塞ぐ様に配置し、その銃座には50口径の重機関銃が鎮座している。
夜は戦闘の音も殆どしない、HMMWVのエンジンは切っている為、静かな市街地だ。戦闘が終わり、市街地の再開発が済めばまた賑やかさが戻って来るだろう。
ここに配備されている憲兵を含め、ガーディアンの隊員はその殆どが召喚者だ。ヘルメットに暗視装置を付けて警戒する姿も、自然と“兵士”のいで立ちになっている。
「異世界って本当にこんな感じなんだな……」
召喚者の感覚は基本的に現代現実のもので、異世界の感覚は無い。彼らも異世界に召喚され、最初は驚いていた様だった。
「フォート・フラッグが地球の街に近いからな、生活も基地の中で完結してしまう分、見慣れてないのもありそうだ」
雑談しながらも警戒は怠らない、暗闇だが、こちらには暗視装置がある。PVS-15の緑色の視界は、この世界では考えられないほど良好だ。
だが、暗視装置の視野は約40°と若干狭い。使い慣れていない訳でもなく、警戒を怠った訳でも無いが、若干反応が遅れた。
角を曲がり、HMMWVの方へを走って来る者へ、最初にM4を向けるまで1秒。
「止まれ!!止まらないと撃つ!!」
誰何をするが間に合わず、憎しみに取り付かれた様な表情の男がHMMWVへと迫る。
何かを抱えながらHMMWVのボンネットへと男は身体を押し付ける。
「これが俺達の意地だ!!!傭兵ども!!!!」
HMMMWVの外に出ていた兵士は嫌な予感がした。
イラク、アフガンでこんな風な光景を見た。
警戒部隊の兵士が動けたのは、アクションを起こす前に射殺しようとした瞬間まで。
男の顔は最後まで憎しみに捕らわれたままだった。
大きな爆発音を聞いたのは指揮所の横の仮眠所だった、落雷の様な大音響に目を覚まし、傍に置いていたJPC2.0を着て、M4を掴んで指揮所に出る。
「何の爆発だ?」
「現在情報を収集中、H4拠点附近の警戒部隊が対応中」
夜間の指揮所に詰めている当番の隊員が無線を聞きながら報告を上げてくる、丁度上空のUAVは交代のタイミングだった。
「攻撃か?」
第1分隊の女子メンツも起きて指揮所に入って来た、仮眠所も目を覚ました気配を感じる。
「今情報を収集中との事だ、憲兵の警戒部隊が対応中らしい」
俺がそう言ってすぐ、指揮所のオペレーターが声を上げる。
「警戒部隊に負傷者発生!重傷3!軽傷2!」
眠気が一気に吹き飛んだ。
「衛生兵を!」
待機していた衛生隊を向かわせる命令を出し、指揮所も騒がしくなり始める。
既に現地にいる衛生兵が対応しているだろうが、あくまで応急処置だ。それに第3歩兵小隊の衛生兵は魔術師ではないので治癒魔術は使えないのだ。本部で待機している衛生隊のピラーニャ装甲車改造の装甲救急車に治癒魔術が使える衛生兵を含めた衛生隊が乗りこみ、現地まで向かう。
治癒魔術というのは異世界側の大きなアドバンテージだ、ガーディアンでも衛生兵には治癒魔術が使える魔術師が多く配置されている。
だが、治癒魔術で直せる傷病にも限度はある。術者の魔力によっては失った手足も治せるらしいが、ガーディアンにそんな魔力量の衛生兵や軍医は居ない。
20分程で赤十字を付けたピラーニャ装甲車が本部に隣接する野戦病院に戻ってきた、警戒部隊の物と思われるHMMWVも一緒だ。
ガーディアンの衛生隊とクスリヘビ団が詰めるテントから慌ただしい声が聞こえて来る。
「担架を!」
「3名重傷!2名意識無し!」
「応急処置の為、ブルーポーション2本を患部に塗布!」
叫びに近い声がテントから聞こえる、内部の様子を見たいがテントの幕を開けたら、内部は衛生的に入室禁止だと締め出されてしまった。
「……クソ」
行き先を失い下がった手を、ぐっと握りしめた。
だが確かに俺が中に入ったところで、出来る事は何もない。応急処置の知識はあっても、本格的な医療の知識は無いし、治癒魔術も使えないのだ。
俺は本部に戻り、オペレーターに声を掛ける。
「被害を受けた部隊から何か報告はあったか?」
「まだです」
「人間爆弾ですよ」
会話を遮るようにテントに入って来たのは憲兵隊のエミルだった、水害の時にはギルド組合の支援に向かった彼も負傷していた様で、コンバットシャツの袖は破れ血の染みが残っており、プレートキャリアもところどころ裂けたり傷ついたりしている。
「エミル、お前大丈夫か?」
「相当痛かったですが……今は平気です。軽傷判定だったのは運が良かったんですよ」
彼は現地に居たようだ、そして攻撃に巻き込まれ負傷した。既に治癒魔術によって傷は治っている、治る程度の軽傷で済んだという事だ。
「すまん、教えてくれ、一体何があったんだ?」
仲間が傷ついたところを話すのは辛いだろう、その点は申し訳ないのだが、聞かなければならない事だ。
「HMMWVに取り付いたのが人間爆弾だったんです、HMMWVが吹っ飛んで負傷者が……」
「そうか……分かった、話してくれてありがとう、ゆっくり休め」
とにかく被害を受けた部隊を休ませよう、考えるのはそれからだ。
「部隊の再配置を、人間爆弾に対応する為に憲兵は下がらせる。他の傭兵にも注意するよう連絡。魔術師の隊員を派遣して、建物に通じる道を“アース・ウォール”で囲んで封鎖だ」
「了解」
オペレーターがそう言うと各方面へ指示を送る、振り返ると、唖然としているエリスや他の隊員も居た。
「担当外の人員は休め、休む事も仕事だ」
隊員達にそう言うと、ぞろぞろと自分のテントへ戻っていく。
俺は指揮所にあるベンチに腰掛けて顔を撫でた。
何が悪かった?警備の配置か?部隊の練度か?
いや、それは問題無かったはずだ。計画通りに道を封鎖し、出ようとする敵は封じ込め、人質は逃がす。
最初から土魔術の壁を作ってしまうのは非戦闘員を中から外へ出す手段が無くなってしまう事でもあったから避けた、だがそのせいで隊員が負傷したとなれば俺の判断ミスか。
まだ眠る時間は残っていたが、眠れるはずは無かった。被害を受けた隊員の心配、被害の原因になった敵の武装は何だ、隊員の負傷は俺のせいだという自責。考えが頭の中をぐるぐると廻る。
「ヒロト、大丈夫か?」
エリスが俺の顔を覗き込む様に窺う、いつの間にか隣に座っていた様だ。
「あぁ……いや、どうかな」
大丈夫だと言いたいところだが、そう言い切れる精神状態ではない。
「……現代兵器の圧倒的な力を以ってしても、治安戦というのはこうも難しいものか」
「ヒロトの世界でも、こういう戦いは苦戦していたのか」
「あぁ、世界最強の軍隊が10年以上も苦しんだ」
いくら勉強したところで、本物の軍隊に比べるとガーディアンは稚拙なのだと感じる。
「戦いの中で優秀な兵が傷ついていくのは、、いつも辛いな」
彼女が戦いに身を置いている期間は、俺よりずっと長い。こうして仲間が傷つき、時には死んでいく様も見送ってきたのだろう。踏んでいる場数が俺とは違うのだ。
エリスはそう言いながら、ただ隣にいてくれた。それだけで少し慰めになる気がした。
結局眠る事が出来ないまま朝を迎え、陽が昇ってから詳細な報告を受けた。
あの“壁”に星が1つ、増える事になってしまった事も。
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H4拠点の攻略は先の攻撃による危険も考え、本来傭兵団に割り当てられていた屋内掃討もガーディアンが行う事となり、他の傭兵部隊にはその他地域の制圧、また制圧した地点の確保に割り当てた。各傭兵団とも、それに異存は無い様だ。
「H4拠点の制圧にかかる、敵の本拠点と目される建物だ。建物は2棟、1-1と1-2でA棟、1-3と1-4でB棟を制圧する」
報告が上がってから作戦が承認されるまで、俺は何度もH4拠点を空爆しようかと思った。だがそれを押し留めていた理性の源泉は、拠点に人質が居る可能性を考慮しての事だ。
窓から見える“肉の盾”に括り付けられているのはぐったりとしているがどれも女性、非戦闘員を巻き込むような戦い方は可能な限り避けるべきだし、何より拠点の調査がされていない。もし空爆で全て燃やした後に何らかの情報が出て来て、調査しておいた方が良かった、では遅い。
「航空支援と戦闘偵察中隊の16式機動戦闘車が拠点前の連弩銃座を潰し、屋根の上の敵は上空からリトルバードが援護、排除する。周辺の屋上に狙撃小隊を下ろして監視、建物周辺の道は第3小隊が封鎖、拠点は第1小隊が突入、制圧する。援護の為に偵察隊からK9分隊を待機させ、要請に合わせて投入だ」
現在投入可能な歩兵戦力のほぼ全てと、支援戦力もふんだんに使う。
質問は、と言うと第3小隊の小隊長、ハワード大尉から質問が飛ぶ。
「もし標的が居なかったら?」
「K9に追跡させる、生死は問わない、必ず排除する」
この辺りは雪融けも早く、ラプトルが活動可能になる時期も早かった。北の山の中ではこうもいかないだろう。逃げられたとしても、ラプトルで追跡出来る。
「ただし、投降した場合は別だ。明確に投降の意志を示した場合、殺さず捕縛。その際は自爆攻撃に十分注意しろ」
戦闘の意志のない者を攻撃して殺すほど、俺達は落ちぶれていない。例え仲間が殺され、怒りに燃え上がっていようと、それは理性的に対応しなければならない事だ。
「気を付けて行こう、作戦開始」