劣化模倣の精神
エリス視点
山岳部隊を設立してから1ヶ月、年は明けたが寒さは全く緩まず、ベルム街でもちらほらと雪が降り始める。
ベルム街は毎年雪が降るものの、本格的に積もる程ではない。北から来る雪雲も北部山脈とカンサット公爵領にたっぷりと雪を降らせるものの、ワーギュランス公爵領に入り山の向こう、バルランスに雪を降らせてからは急激に衰え、降雪地はこのベルム街が最南端となる。ベルム街の南の山を越える頃にはすっかり雪を吐き出し切った乾いた寒風が山を越え、南の土地へと流れていく。
昨日降った雪も幸い大きく積もる事は無く、今朝軽く雪かきをした程度で路面は見えていた。しかしギルド組合に行けば雪かきの依頼もいくらか見られる事だろう、その程度の降雪だった。
まだ瓦礫の片付ききれていない町は、秋の豪雨水害からの復興途中なのだ。
時間はもうすぐ15時になる、そろそろ休憩になる頃だと思って2階に上がる。団長執務室は階段のすぐ傍だ。
ノックをしようと思い気付く、ドアの表示が“外出中”に切り替わっている。
「いない、のか……」
一応ノックをしてドアを開ける、私の恩人、恋人の転生者、団長であるこの部屋の主の姿は確かに無かった。
外出中、となるとどこへ行ったのだろう。ドアを閉めながら考えを巡らせてヒロトが行きそうな場所を思い浮かべる。
管理棟と格納庫の間のベンチ、あそこは自販機も近く休憩スペースとして適しているが居なかった。
地下の射撃場は現在、山岳民兵からの志願者の訓練で使用中だ。
屋上か?屋上は喫煙所があるが、ヒロトは喫煙者ではない。
地下の作戦室は全体の部隊の動きを見られるが、特段気になる活動をしている部隊も無し。となると作戦室に向かう動機も薄い。
この時間に自室にいるという事も無いだろう。
兵科事務室を一通り見てみたが、姿は無かった。
地下の武器の管理室、最近部隊で銃を一新したのでここに居るかとも思ったが、どうやらいない様だ。ラッシュ准尉も行先は知らないという。
となると基地の外か……?レムラス伯爵との会合の予定も今日は無いから、街に居るという事は無いだろう。
外部施設群の中でも最近動きが著しい技術研究開発局、鉄道とやらの開発状況の確認に向かったか。
それとも空軍基地か、そろそろ空軍の飛行訓練生も、プロペラ機からジェット機へ乗り換える頃だろう。
「うーむ……やはり1か所ずつ探して回るか……」
「どうかされましたか?」
すれ違いざまに声を掛けて来たのは、私のメイドのエイミーだ。
「あぁ、ヒロトがどこへ行ったか知らないか?」
エイミーは顎に手を当て少し考えて、思い出したように声を上げた。
「場所は分かりませんが……先程フル装備で東門へと向かわれるのをお見掛けしました」
「フル装備……なるほど、基地に居ないと思ったらそういう事か……」
「ご一緒します」
「助かる」
エイミーと共に車輌格納庫へ向かう、管理棟の一番近い格納庫には、いつでも使える様に鍵の付きっぱなしになっている車輌が数台ある。その中からATVに乗り込み、エンジンをかける。ハンドルを切って中央通りから東門を抜けて、演習場へと車を走らせた。
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ヒロト視点
ベルム南演習場、マッチエリア
演習場の一角に、幅100、奥行き500mの窪地が存在する。
標的射撃訓練用のプレートやマネキン、遮蔽物としての馬車などがバリケードとしておかれているここは、ただ漠然とした射撃をするだけではなく、小規模な射撃と機動の練習も出来る場所となっている。
「67ッ、68ッ、69ッ、70ッ……」
俺はその中で1人、フル装備のまま腕立てをしていた。
マルチカム迷彩のコンバットシャツにコンバットパンツ、ファーストラインのホルスターにはP226が収められており、JPC2.0に挿入されているのはドラゴンプレートではなく通常のESAPIプレート。もちろんヘルメットもFASTドラゴンではなく、同じセットアップの通常のFASTバリスティックヘルメットだ。ドラゴン素材でない分、ズシリと重く感じる。
スクワットと腕立てを各80回行った後、傍らに置いていたライフルを手に取る。
特殊戦小隊では最近、5.56㎜のライフルを一新した。俺が構えているライフルはM4A1だが、アッパーレシーバーをGeissele Mk.16ハンドガードのURG-Iに換装した“SOPMOD Block3”仕様、銃身長は11.5インチだ。
それ以前は14.5インチ銃身の所謂“M4A1カービン”をベースとし、追加で近接戦闘用に10.3インチ銃身のアッパーレシーバーを支給、その上で.300BLK弾に対応した9インチの消音ライフルをもう1本持つことになっていた。
だが本数が増える事で整備の手間がかかる事と、.300BLKのライフルと5.56㎜のライフルで大きく使い勝手が違うのでは、高ストレス環境下での咄嗟の判断に支障を来す、との事で、5.56㎜の14.5インチ銃身と10.3インチ銃身のアッパーレシーバーを統合し、1本のライフルにするという事で選ばれた。
11.5インチ銃身は「5.56㎜NATO弾が良好な弾道・威力を発揮出来る最短の銃身」とされている為、この銃身長で2本のアッパーレシーバーを代替する事になった。
ちなみにだが俺のハンドガードは黒色、ホロサイトとブースター、サプレッサーも黒色で統一されている。サプレッサーの付いている11.5インチ銃身は14.5インチ銃身よりも長いが、取り回しは全く問題ない、訓練を積んで慣れたからだ。
走りながらセーフティをセミオートに切り替えてストックを肩に当て、ハンドガードを横から握るC-クランプで構える、遮蔽物になっている馬車の陰に隠れてカッティングパイの要領でサーチ、視線に入った目標にEXPS3ホロサイトのレティクルを重ね、引鉄を引く。
Surefire SOCOM556 RC2に抑制された、鞭を鳴らす様な銃声。標的の金属プレートに命中する音は、ヘルメットに取り付けたヘッドセットのマイクが拾っていた。
2発、3発と撃ち込みプレート標的が確実に倒れるまで撃ち込み、移動する直前に進行方向に標的を確認、牽制の為にセミオートで速射しつつ遮蔽の陰に滑り込み、身を隠しながらG45ブースターを起こす。距離が離れているならブースターで正確に狙うまでと、レティクルの中心に捉えた標的に更に撃ち込んでいく。
疲労の溜まった腕でライフルを保持するのはかなりクるな……目の前の標的を撃破した俺はその後ろに居るであろう標的に牽制射撃をする。
“当てない”射撃というのも実は大切だったりする、俺も以前は弾の無駄だと思い命中させる射撃こそ至高と考えていた。だが戦っていくにつれてそれは偏っている事に気付いた。射撃によって相手に頭を出させないよう牽制したり、相手の移動を制限、つまり“拘束”する為の射撃も訓練の中で学び知った。
一撃必中の射撃から倒れるまで撃つ射撃、そして勝つ為の戦術へ、少しずつ学べている気がする。
だがそんな事は、今の俺にはどうでも良かった。
射撃や戦闘の技術が向上するにつれ、俺の中には何か違和感の様なものが芽生え始めた。最初は作戦参加資格剥奪から来る、早く現場に復帰しないと、という焦燥感とも思っていた。
だが作戦参加資格を剥奪されている間、戦闘訓練ばかりしていたら組織の“ボス”としての教養を失ってしまう、そう思い伯爵の騎士団に体験入隊の機会を得た。彼らが普段何を学び、どんな心得で戦いに赴いているのか知るいい機会だと。
そこではっきりした。
俺は自分自身の中に、軍人が存在しない。
学べる事が多かった体験入隊は無事に、問題なく終える事が出来た。だからこそ得られた気付き。
違う、本当はもっと前から気付いていた。いや、気付かないフリをし続けていた。
ヒューバートを召喚した時も、エリス達の騎士団を招き入れた時も、それ以降、俺が軍人を召喚した時も。内面にある魂の質の違いに。
転生前、知り合いの自衛官はこう言っていた。
「自衛官も同じ人間だ」
彼らが特別な人間だとは思っていない、優れた人種だとは思っていない。怪我をすれば痛いし、ショックな事があれば心に傷を負う。優秀な者が居ればそうでない者もいる、善良な者もいれば悪辣な者もいるだろう。
自衛官だけではない、あらゆる軍人も俺と同じ人間なのだ。そこに軍民の違いはない、本当にその人の言う通りだと転生した今でもそう思う。
だからこれは人間としての質の違いではない、戦いを生業にする者、“戦人”としての質の違いだ。
転生前、本物の銃を撃った事はあっても、俺は自衛官でも軍人でもなく、ただの民間人、軍事系な知識を持つオタクでしか無かった。
転生後、この戦いがありふれた世界で生き残っていく為に俺は彼らから学んだ、彼らの姿を模した、戦い方を模した、組織を、知識を、生き方を模した。
それなのにどうしても、本物の彼らが居る場所には届かない。
勿論ガーディアンを設立した時、自分や仲間を守る為の力を持つと決めた俺の気持ちは今も変わり無い。
その為には人を殺す事になるとしても構わないと覚悟した時の俺の意志は揺らぎない。
それならば、その為に彼らと同じ場所に立つのが、ボスとして、リーダーとしての義務なんじゃないか。そう考える様になった。
どれだけ彼らから学んでも、彼らと共に戦っても、技術を身に身につけ、組織を築いたとしても。
出来上がった俺の中の戦人はどこまでも彼らの劣化模倣___贋作でしか無かった。
猿真似だ、分かった気になっているだけで本質を理解していない、理解しても身体に沁みついていない。
きっと本物の軍人が見たらきっと言うだろう、「こんなパチモンの軍隊ゴッコして遊んでいるのか」と。
俺が今まで生き残れたのは、相手が弱かったからだ。銃の無い世界に火器を持ち込み、付け焼刃の知識を使いチート気取りで無双していただけだ。
「……クソ」
バカじゃねぇの
息切れのする吐息に混じって悪態を吐く、熱を持った吐息は冬の冷たい空気に掻き消されて白く登っていき、息を吸えば冷たい空気が喉を焼いて思考を冷やす。
砂利を踏み締めて走り出す、走って撃って、戦っている間は、彼らに近づける気がした。
実際、訓練を続け、実戦を経験する度に俺の肉体は彼らに近づいた。腕は太くなり、腹筋も割れて、持久力も転生前に比べて明らかに伸びた。転生直後はヒーヒー言っていたAT-4を担ぐことも、今は特に問題には感じない。
だがそれでも、俺の肉体に宿る戦人の精神は、彼らと同じにはならなかった。
結局の所、俺は異世界に来ても、俺は俺のまま、軍人にはなれないのだというのを、はっきりと自覚した。
呼吸が浅くなる、心臓が焦りを伝える、視野が狭い。覗いたホロサイトの視野が俺の世界の全ての様に感じる。
より対等に近い敵との戦いの経験が余りに不足しすぎている。その環境では今この瞬間、撃ち返されてもおかしくない。軍人はそう思って訓練を、実戦の世界に身を置いている。
俺はそんな彼らを素直に尊敬する。
ならば今度は俺がそうなる番だと、尊敬は挑戦へ、そして義務へと変わったとしても、人間の精神はそう簡単に変われはしなかった。
「はぁ……!はぁ……!はぁ……!」
こんなにも寒いのに、乾いた地面に汗が滴る。動き回った身体の熱を、冷たい風が冷やしていく。
もうコースを何周したか分からない、肩に伝わる反動と引鉄を引く指が痺れて来た。いつもなら軽々と扱えるはずのライフルが、何倍も重く感じる。
「俺は……」
強くあれ、組織を背負う者ならば、自分を、仲間を、他人を守ると決めた者ならば。
「弱い……!!」
銃声の向こう、背後の方で、ホイッスルの音が聞こえた。
反射的にライフルにセーフティを掛け、振り向くとそこに居たのはホイッスルを咥えたエリスだった。
冷たい空気を吸った頭の中にホイッスルの音が反響する、入場合図だ。ホルスターからP226を抜き、マガジンを抜いてダンプポーチに放り込み、スライドを引いて薬室から初弾を抜く。
ライフルも同様に初弾を抜き、安全装置を掛けて携行火器の安全化が完了する。
「熱中するとすぐこれだ」
エリスは腰に手を当て、呆れたように言う。
「悪い……」
「で、新しい銃の出来は……聞くまでも無さそうだな」
エリスが指差した鉄板の人型標的のほとんどは、元の白いペンキがほぼ見えなくなるほど灰色のフランジブル弾の命中痕が付いている。
俺が通ったコースは空薬莢が転がり、移動経路が分かる程だ。気が付けば既に残りの予備マガジンはプレートキャリアには無く、ファーストラインのポーチに1本と、さっきダンプポーチに放り込んだほぼ撃ち切った1本だけになっていた。
射撃に夢中になりすぎた、残弾管理が出来ていない。
身体から溢れ出るこの感情は、嫉妬と焦燥、戦人としての劣等感だった。
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フォート・フラッグ 管理棟2階 団長執務室
仕事用のデスクではなく、部屋の中にあるテーブルを挟んでソファが向き合っている応接スペースのソファに身を沈めている。
「外は寒かっただろう、少し休憩しろ。仕事はそれからでも良いだろう」
そう言うエリス、目の前のテーブルにはエイミーが置いてくれた紅茶がカップの中から湯気を立てていた。お茶請けのお菓子もある。当のエイミーも休憩と言うのか、メイド服に身を包み、立ったまま紅茶を飲んでいる。
「ありがとう」
カップを取り、エイミーにも感謝のつもりでカップを軽く掲げる。
「熱っ!」
思ったよりも熱かった、反射的に首を引っ込める様子を見てエリスはクスクスと笑う。
「ふふっ、エイミー、ヒロトが紅茶が熱すぎるってさ」
「申し訳ありません、以後少し冷ましてからお持ちします」
至っていつも通りの、平坦な声色でエリスにそう返すエイミー。
「いやそんな……」
「冗談だ」「冗談です」
息がぴったり揃う、阿吽の呼吸とはこの事だろう。エリスとエイミーは血の繋がりは無いが、一緒に居た時間は親よりも長く、きっと本物の姉妹以上だ。
肝心の紅茶はいつも通り、完璧に美味い紅茶だ。恐らく王宮でもこれ以上の紅茶は出てこないと思う。香り高く爽やかな甘みと、控えめだが主張する苦みが舌に伝わり、香りは鼻から抜ける。
「美味いな……」
「だろう?」
良いメイドは主人の自慢の種になる、バルランスの会合に招かれ、貴族と交流した時も使用人自慢はよく聞いていた。
「で、お前の最近の腑抜けた顔は何だ?」
「そんな面してるか?」
カップの紅茶の水面に映る顔はいつも通り、いや少し疲れが見えるが、概ねいつも通りだ。
「あぁしてる、作戦参加資格剥奪で落ち込んでるのかとも思ったけど、どうやら違うらしいな」
エリスが俺の目をじっと見つめる、何だか逸らしてはいけない様な、だがその目で内心を見透かされている様な気がした。
「……話してみろ」
「……これは答えを人から与えられちゃいけない問題な気がするんだ」
「話してる内に答えが見つかるかもしれないだろ」
吐き出せば答えが見つかるかもしれない、ってことだろうか。
話すのは良いけど、悪いがエイミーには聞かせてやれない。エリスは副官であるが恋人だからまだいい、エイミーは部下だ。立場が上の者が、弱い所を下の者に見せちゃいけないのだ。
「エイミー、悪いが……」
「かしこまりました」
エイミーには申し訳ないが、席を外してもらう。彼女が部屋を出ると、大きく息を吸い、吐く。まるで悪い事をした子供が親に罪を告白する様な心境だった。
「……エリスは不安になる事、無いか?」
「不安?」
「その、戦人の精神、みたいなのだ。俺はこの世界に来る前は軍人じゃなかったから、そう言うのが無い。それが……」
たまらなく不安、劣等感、言葉を探した。この感情を表す言葉はこの世には沢山あるだろうが、今口から出して良いものなのだろうかと逡巡する。
良くない事だ、部隊指揮官がこんな事で、グズグズと。
「最近、腑抜けた顔をしていると思ったらそういう事か……心配したぞ」
そんなに分かりやすかっただろうか、出来るだけ態度に出さない様にしていただけに、バレていたことに驚く。
「どうにも一度気が付くと頭ン中でグルグルしちまってな……戦人なら戦人らしく、軍人なら軍人らしい精神が解るんだろうが、俺は軍人じゃない……けど軍隊みたいな組織を統括しているなら、そうあるべきなんじゃないかってな」
ヒューバート達召喚者は皆軍人だ、彼らに聞いたことはあるが、こういった精神は経験や立場の中で身につくものだったり、誰かから教わったりするものだったりと答えはまちまちだった。
これも言ってみれば単に「知識として覚えただけ」だ、俺の肉体と精神は、軍人のマインドセットの本質を理解していない。
「そうだな……難しい問題だ、私の家は貴族だったから、幼い頃から騎士道精神を教え込まれていた」
「騎士道精神……どんなのだ?」
「強く勇敢であれ、弱い者を助けよ、義を以て気高くあれ、礼節を忘れるな、徳高く善く生きよ。それこそが騎士の名誉。……そんなところかな」
転生前の“騎士道精神”とは少し違うようだが、この世界でもその様な示範がある様だ。
「私もな、最初は分からなかったんだ。それを知っても普段からそう過しても、騎士の様になれるか不安で眠れなかった事がある。ガーディアンを設立してからももちろんあったぞ、お前の世界の武器について行けるかってな。けど今こうして、私はお前の副官として、これからを歩む伴侶としてここに居る」
エリスの碧い目がじっと見つめてくる、それは20歳になっていない少女の物とは思えないほど大人びて見えた。
「経験から得られる精神は、誰かから教わって与えられるものじゃない。それは先の見えないトンネルに入る様なものだ、目の前は真っ暗で足元さえ見えなくて、さぞかし不安だろう」
でも、と言葉を区切ってエリスが俺の手に手を重ねる。
「私はお前を信じてる、自分で答えを見つけられるってな」
そうだ、自分で探さなければならない。この異世界での俺の立ち振る舞いを。
「……エリスは本当に強いな」
「近接戦闘じゃまだヒロトに負けたことが無いからな、それに迷った者を支えて共に歩むのも“善い生き方”だ」
徳高く善く生きよ、この世界の騎士道精神に則って考えれば、エリスの徳は積まれ過ぎて恐らくスカイツリーの高さを超えているだろう。
本当に良い女だ、俺には勿体ない位。もちろん手放す気もさらさらないが。
「軍人らしくか……頑張って探すか」
「軍人軍人って、まるで軍隊に入ったみたいだな」
「そりゃな、俺達が使ってる兵器だって、俺の世界じゃ軍隊で使ってるものだし」
「そうなんだろうが……私達は戦闘ギルド、傭兵だぞ?もっと肩の力を抜いても良い」
それもそうだ、俺達は国の為に動く軍隊ではない。自らの身を守り、その力を他の為に使い、利益の為に働く傭兵なのだ。
どちらが上等とか、そう言うのではない。軍人と傭兵では見えてくるものもちがって来るだろう。
ガーディアンの組織構造も転生前の軍隊を多く模倣しているが、ただ模倣するだけで無く、良い所を取り入れつつ、この世界の傭兵に上手く組み合わせなければならない。
「傭兵……そうだよな……」
俺の中には軍人は居ない、この組織も軍隊にはなれない。そう言った重圧めいた何かは未だに俺にのしかかっている。この先もずっと消えないだろう。
だが俺が答えを見つけなければならないのだ、自分の経験から自分の手で。それは軍隊の経験者としてではなく、この世界の傭兵“ガーディアン”の経験からだ。
そして俺は自分で見つけた答えから、この組織を導いていかなければならない組織の団長なのだ。弱気になってはいられないなと思う。
「解決……はして無さそうだが、解消くらいにはなったか?」
「あぁ、助かった」
「なら私はエイミーを呼んでくる、いつまでも廊下で待たせてたら可哀そうだ」
エリスはそう言ってソファから立ち上がる、俺は自分のカップに残った紅茶を啜った。
紅茶の香りはまだ消えておらず、感じる苦みを噛み締めた。