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山岳部隊

結構ごちゃごちゃな文章になってしまいましたが、見直した結果もうこれで行くしかないってなりました、間違いなく読みづらいです、あと長いです。多分後で直します。

山岳地域12500ft(約3800m)の上空を飛ぶ輸送機に俺は居る。


ガラニストから帰ったその日の内に、山岳地域に配備する山岳部隊の編制、人員、装備を吟味していた。

空軍特殊部隊の増援を現地に送り、現地の地形、天候、植生の調査を進め、どんな編成のどんな装備を持ったどんな部隊を山岳地域に置けば、来春の公国の侵攻に対応出来るかを考え、計画を練り上げた。


基地を作りやすい場所の候補地を絞って測量し、険しい山岳地域にガーディアンの一大拠点を作る計画書が、俺のバックパックの中に詰まっている。


俺は今、マルチカムのフィールドシャツとフィールドパンツを着て、ファーストラインのみを身に着けている。武装はしているものの、俺の目的は戦闘ではない。

逆に俺以外の第1分隊の面々は護衛の為、しっかりと武装していた。


俺を含めて12人、いつもの分隊とランディ達の第1狙撃分隊が、高高度降下低高度開傘(HALO)の装備を身に着けてC-130Jスーパーハーキュリーズに乗っている。


アリソン・エンジン製AE2100-D3ターボプロップエンジンが生み出す推進力によって主翼が高高度と、この地域の季節特有の冷たい空気を切り裂きながら約300kt(550km/h)で北へと向かう。


「久しぶりに乗ったな、これ(C-130)


『私もだ、ヒロトをソヴィボルに迎えに行った時以来かな』


ヘルメットに備え付けのインカムから、隣に座るエリスの声が聞こえてくる。

あの時の救出部隊はC-130の限界高度ギリギリからHALO(ヘイロー)降下し、俺達の脱出の援護をしてくれた。


普段第1小隊(ナイトフォース)は作戦も訓練もヘリボーンが多いので、俺自身もチームも輸送機からの空挺降下は久しぶりだと言える。

特殊戦を預かる俺がエアボーンが出来ないなど情けない事は言えないので、もちろん訓練を通してエアボーンは一通り実行出来るようになっているが、それが俺の心に小さな影を生んでいる。


『降下まで1分、装具点検』


ロードマスターの指示に従い、ベンチシートから立ち上がる。

自動開傘装置(ARR)をチェック、開傘高度が1000ft(300m)に設定されているのを確認したら、エリスと向かい合って装備の最終チェックだ。

俺もエリスも真剣そのもの、甘い雰囲気など一切無い、命に係わるのだから当然だ。前部の確認が終わったらエリスに後ろを向かせる。


主傘(メイン・シュート)副傘(リザーブ・シュート)、ハーネスチェック、バックルに緩み無し。


点検完了の合図に肩を叩き、今度は俺がエリスのチェックを受ける為に後ろを向く。

お互いの信頼関係が無いと成り立たない、それを成せるまでの関係を今まで築いてきたから任せられる。


チェックが終わり、エリスが肩を叩いて合図する。

ハッチ解放準備の合図、マスク装着を合図して酸素マスクを装着する。キャビンの減圧が始まり、機内の気圧はこの高度と同じにまで下がる、降下準備完了だ。


ハッチ解放、後部のカーゴハッチが開いていく、向こう側に見える景色は薄灰色の雲だけ。


『デュラハン1-1、降下』


ドアランプが赤から緑に変わる、それを合図に俺達は極寒の高空へと飛び出した。


本来の特殊作戦よりも低い高度ではあるが、手順は同じ、高度別の注意点があるだけだ。

纏まって飛び出したのを確認すると、俺は足首に取り付けられたスモーク発生装置を作動させる。実戦では使用されないアクロバット降下用の装備だが、今回は“戦闘”に行くのではない。安全に集団で降下する為の目印だ。


オレンジ色のスモークを曳きながら雲の層を抜けると、雪原が目に飛び込んできた。雪が降っているのはガラニストと変わらないらしい、ゴーグルに雪の結晶が着いては飛んでいく。


冷たい風がヘルメットを抜けていく中で、ヘッドセットから電子音が聞こえて来た。そろそろ自動開傘装置(ARR)によってパラシュートが開傘する高度だ。


腕に取り付けた高度計を見た時、高度は400mを切ったところだった。あと80m……50……20……。


身構えるとほぼ同時に背中に衝撃が走る、主傘(メイン・シュート)が開いたのだ。上から見たら雪原に開く花の様に見えるだろう、オレンジのスモークを曳きながらゆっくりと雪原に降りて行く。


そのまま着地したら雪に足が刺さって勢いのまま折れる、この世界は怪我をすぐに直せる魔術や治療魔術薬(ポーション)が存在するから折れても何とかなるだろうが、無闇に痛い思いをする必要は無い。


減速しながら着地、雪の上を転がるように衝撃を殺す。勢いで雪まみれになるが、変に着地して怪我するよりも遥かにマシだ。


雪を払いながら立ち上がる、足首に付けたスモークの発生装置はすっかり消えていた。無線で各員の無事を確かめつつ、バックパックから新たにスモークグレネードを取り出し、ピンを抜いて投げる。


「全員、オレンジスモークの場所に集合せよ」


スモークがオレンジなのは雪の中の白い背景でも視認性が良いのが理由になる、“アラート・オレンジ”として多くの国の南極観測船や砕氷艦で採用される程だ。


皆雪まみれになりながらも、怪我無く着地出来た様だ。


『デュラハン1-1へ、こちらジュピター。北から接近する、誤射に注意せよ』


空軍特殊作戦チームからの通信だ、航空機の誘導が主任務の彼らが今回も俺達の空挺降下をサポートしてくれた。


「こちらデュラハン1-1、北からだな、了解」


パラシュートを片付けながらPTTスイッチを押し、バックパックからスマホを取り出す。

召喚するのはFV103スパルタン、ここから山岳民兵の拠点であるミシベツ村、そして山岳砦までの脚だ。


目の前に光が現れ、形を変えて具現化、光が晴れると2輌のFV103スパルタンが現れた。今回の召喚は車輌要員の召喚は無し、燃料と必要な機材だけだ。


召喚でこの辺りも細かく設定出来るが、それがスムーズに行えるのも事前に段取りを決めていたからだ。


「よし、1-1Aはこっち、1-1Bは向こうの車輌だ。分乗して発進準備に掛かれ」


寒いので早めに車内に入るに限る、素手で冷えた車体に触れると張り付いて凍傷になるから注意して車体に上り、車長席のハッチを開けた時、バイクのエンジンの様な音が風に乗って聞こえて来た。音の方を見ると航空機の誘導を行っていた空軍の特殊作戦チームが、スノーモービルで接近してきたところだ。


「ジュピター班か!?」


風の音に負けない様に大きく声を張り、合図を送る。白い迷彩にヘルメットカバー、ゴーグルにフェイスマスクまでしているものだから顔が見えない。


「ええ、ご無事で何よりです」


「ウィリアムとジェイクか、村までの先導頼むぞ」


マスクをずらしてゴーグルを取ると顔が見えた、特殊戦気象チーム(SOWT)のウィリアム少尉と戦闘管制官(CCT)のジェイク軍曹だ。


「了解、着いて来てください」


転回するスノーモービルを視界の端に捉えながら車長席に座る、通信機のセットアップは既に完了している。


「通信チェック、グライムズ、聞こえるか?」


『チェック、OKです』


操縦席に座るのはグライムズだ、操縦は“伝授”によって現状誰でも操縦出来るスキルを持っている。


エンジンが始動、ディーゼルエンジンの音が響き、合図を送るとスノーモービルも発進、その背中を追う様に雪原を発進した。



========================================



アレクト達の集落までは15分程、雪に埋もれた森の中を走る。降下地点(DZ)は何度も使用しており、その度に車輌で往復している為雪の中に轍が道を作っていた。


「装輪でこの道はきついな」


地図を見る限りもうすぐ到着する様だ、スノーモービルに追突せず、遅れる事も無い速度で前進を続けると、目の前が少し開け集落が見えて来た。

既に第2小隊の陣地は撤収作業を殆ど済ませており、部隊の様子を写真で送って来てもらったようなテントや野営陣地は畳まれ、牽引トラックや10式雪上車に積み込まれていた。


集落で部隊を2つに分ける、エリス達の班と狙撃分隊は集落に残して第2小隊の掌握と民兵のガーディアンへの入隊希望者の集計等、“山岳民兵のガーディアン化”へ向けた準備を行う為だ。


「じゃ、頼んだぞエリス」


「あぁ、任せろ」


再び空軍特殊作戦チームが先導し、FV103を走らせる。川を渡り北西へ、静かに雪が降る森の中をスノーモービルとスパルタンのディーゼルエンジンの音が進み、積もった雪に吸い込まれる。ハッチから顔を覗かせていると、いつもはある筈のエンジン音の反響も無く、やけに静かな印象を受けた。


ベルム街も雪は降るには降るが、ここまでの豪雪にはならない。せいぜい薄く積もっては軽く雪かきをすれば問題なく、ガーディアンの車両運用や町の馬車の運航に影響は少ないという程度だ。


車内で予定の再確認とハッチから顔を覗かせて周囲の確認、グライムズへの指示をしている間に、例の山岳砦に着いた様だ。


かなり大きな岩山だ、見上げると、岩肌にところどころ換気用や観測用とみられる穴が空いている。岩山の麓には隠れる様に木の扉が設置されており、遠目からは判別しづらく秘匿されている様だ。扉の上も岩が張り出しており、翼竜(ワイバーン)を使った上空からの捜索からも見つかりにくいだろう。


「ここか……民兵と物資の搬出は?」


「完了していますが、一応見回っていきましょう」


施設を召喚する時、中に物や人などが残っていると召喚に巻き込まれてエラーを起こしてしまう、壁に半身がめり込んだ人間なんて見たくないし、行方不明者になってしまうのもよろしくない。


扉を開けると手掘りで掘られたであろう通路に雪が吹き込む、魔術ランタンで照らされて中は明るいので足を取られて転ぶ心配はなさそうだ。


通路は高さ180㎝くらいで幅も1m程、途中で屈曲しているのは侵入された時の動線を複途中、倉庫に使われていたと思しきダミーの部屋も複数発見した。


「もう誰もいないか?基地を改築するから生き埋めになるぞ」


ライトで部屋を照らし、声を掛けて先に進む。制圧した時と同じく折ったサイリウムを確認済みの部屋の中へと投入し、チェック済みのマーカーにしていく。


山岳砦はそこそこ広い様で、クロスボウを発射出来る銃眼付きの戦闘室や頂上の監視所は勿論の事、食堂や兵士の生活スペース、サウナなんてのもあった。水風呂はどうするんだろう、雪の中にでも飛び出すんだろうか。

中は風が無い分温かく、過ごしやすい気温が保たれている。民兵によれば一年を通して然程変わらないのだとか。


全ての部屋のチェックが完了、中は誰もおらず、もぬけの殻だったことが確認出来た。

スマホの召喚から施設にアクセスし、設計済みだった図面を呼び出す。

この召喚機能も何らかの方法でアップデートされているらしく、地中に施設を召喚する時は深度と地図アプリから引っ張ってきた地形を入力すると、岩盤の強度計算までやって最適な設備を提案してくれる様だ。流石異世界スマホ、サービスが行き届いている。


地上設備ではなく岩山内に拠点を築こうと思ったのはこの砦が元々山岳民兵の司令部であったというのもあるが、翼竜(ワイバーン)などの航空攻撃からの攻撃に対して抗堪性を持たせる為だ。


外へ出て人数確認、全員居る事を確認すると、施設召喚をタップして召喚スタートだ。


地上に施設を召喚する時の様に大きな変化はない、外から見て分かる変化と言えば、たった今俺達が出て来た小さな木製のドアが、観音開きの偽装済みのドアに変わっていったところだろうか。


変化が収まると早速中へ入る、入って来たときはこのドアを開ければすぐに坑道だったが、今度はその奥にもドアがある、外気の流入を防ぐ二重扉になった。


坑道内の通路も一回り大きくなり、地肌が剥き出しだった壁や床、天井は強化コンクリートの内張りで覆われる事に。


「また凄い事になりましたなぁ」


内装を見てブラックバーンが唸りを上げた、部屋も分かりやすくフロア分けしてあり、出入口以外の複雑さは以前よりも無い。要塞というよりも巨大な地下街だ。


「ここは娯楽が少ないからな、ここで働く事になる隊員の為にも出来るだけ福利厚生は充実させておきたい」


設置されている案内板を眺める、このフロアは車輌格納庫や防御陣地がメインのフロアになっている。

このフロアが1階で、ここより地下には福利厚生施設が多く集まっている、例えば映画館や劇場、ライブハウス。ビリヤードやダーツが楽しめるゲームセンター、ボウリング場に卓球、バスケットボールなどのスポーツアミューズメント施設、カラオケやレンタルビデオ店、図書館もある。


スポーツジムには小さいながらプールが併設されていて、隊員達のトレーニングにも使える。

他にもスーパーマーケットに飲食店街等も存在し、地下街はさながら転生前の施設の様だ。


フォート・フラッグ(本部)よりも豪華ですね」


「山岳戦は隊員数も多くなる上に僻地だからな」


だがヒューバートの言う通りだ、フォート・フラッグ(本部)にこういった設備は少ない。基地の中に作るのもありだが、ベルム街の復興都市計画に異世界資本の娯楽を組み込むのは転生者と召喚者にとっては嬉しいかもしれない。検討しておこう。


これより上階は作戦室や隊員の居住スペース、最上階は監視所が残されてる。


施設の召喚が済んだら今度は隊員だ、要塞は人が居なければ機能しない。

これも事前に決めていた段取り通りの人数を召喚する、スマホを取り出し、人数を打ち込んで召喚、3個中隊で1個大隊の歩兵、2個山岳砲兵中隊。軽戦車、防空、工兵、後方支援が各1個中隊。かなり大規模な部隊に見えるが、この数の部隊がここに纏まる訳では無い。


俺は要塞の中を歩き回り、施設を把握しながら部隊や必要な人員を召喚する。来週にはこの要塞で入隊希望者の初期訓練が始められるだろう。


坑道を進んである施設へと向かう、俺がこの要塞を召喚する上で苦労した場所だ。

ドアの上のプレートには“第1航空機格納庫”と刻印されている。


中に入り電源を上げる、かなり広い格納庫の中は未だに空っぽだが、ここにも部隊を召喚する。


UH-60Mブラックホークが12機、AH-64Dアパッチ・ロングボウ8機、それからその操縦と運用、整備を手掛ける航空中隊1個だ。

UH-60Mは山岳運用の為、気象レーダーが装備されいるタイプを選んだ。それからUH-60M、AH-64Dは共にメインローターを自動で折り畳む機能を追加した、広いとは言えスペースの限られる格納庫に収める為だ。


「飛行場は?」


「あのシャッターの向こうだ」


問いかけるグライムズに俺は指を差して答える、格納庫は岩山の中だが、あのシャッターの外は広い台地になっており、その上にヘリパッドを用意した。

山の上には平らな地形が無く、この台地に対してどう格納庫を配置するか悩んだところだ。


飛行場にした台地は北と西へ開けており、南と東は岩山になっている。南は短辺、東が長辺の鏡に映したL字の様な型の岩山だ。第1格納庫は南、つまりLの短辺側にある格納庫。


では長辺側は何かと言うと、第2航空機格納庫になっている。こちらに関してはローターを畳めないヘリを格納し、召喚したのは軽輸送に便利なUH-72Bラコタが10機、OH-1Bニンジャ観測ヘリが6機だ。


第2格納庫の北の端にはヘリがローターを広げたまま昇降出来るサイズのエレベータがあり、飛行場の真下へ繋がっている、飛行場の真下は天井クレーンもあり、本格的な分解整備が可能な整備場が存在する。


さて、一通り部隊の召喚が完了したが、まだこれで終わりではない。


「ジェイク、ウィル。例の場所は」


「ここから尾根を1つ超えた谷です」


「案内してくれ、陸路で向かう。グライムズ、また運転頼む」


「次はアレですか、了解」


事前の予定通り、俺達は再びFV103に乗り、山岳砦を離れる。雪の中、空軍特殊戦チームの先導で、彼らが割り出してくれた予定地へ向かわねばならない。

地図を頼りに雪の森を走る事1時間、辿り着いたのは要塞の南西、尾根を1つ超えた谷だ。


「ここか……」


「ここの気象センサーは風向きが変わる事は有りませんでしたし、風も一定で弱いです。ぴったりでしょう」


「ありがとう、助かったぞ」


俺は空軍特殊戦チームに気象や地形データの収集の他に、もう1つの任務を任せていた。“飛行場の建設に適した地形を捜索せよ”という物だ。


ここからベルム街のフォート・フラッグまでは800㎞以上、その間に固定翼機の下りられる滑走路は無い。航空機がいくら長く速く飛べるとしても、この辺りに航空機の活動拠点が欲しかった。


それに第2小隊をここからベルム街に戻す為、輸送機をここに着陸させる必要もある、それには滑走路の長い飛行場が必要になる。

飛行場の建設に必要な条件の揃った場所が1つがこの場所だ、離着陸の障害になる地形が無く、風向風速が安定した直線で5㎞以上の地点、よく探してくれたものだ。


図面を呼び出して召喚をタップ、目の前が光り、長さ3000mのコンクリート製滑走路が出現した。

滑走路の東側には、岩肌に沿う様な駐機場(エプロン)と滑走路を繋ぐ誘導路、崖の中には耐爆掩体(バンカー)と格納庫が仕込まれている。


「これだけの施設を一瞬で構築出来るというのは転生者の強みですね」


ブラックバーンの言う通り、ここまで大規模な施設を構築出来るのは俺のスマホの能力のお陰だが制約も多い。能力を使って召喚した施設なので、兵器同様消すことが出来ない事や、これだけ大規模になると事前に施設の図面を用意する必要がある事などが挙げられる。


滑走路が召喚される前に地面にあった雪は消え、新たな雪が滑走路や駐機場に降り積もり始める。


門は北に1か所、そこから基地に入り、警備の為の防御陣地を抜けると耐爆掩体(バンカー)が見えてくる。それを超えると駐機場(エプロン)だ、ここは本部(フォート・フラッグ)の空軍基地程広くはない。幅1000m程しか無い谷間に作ったのだ、滑走路に誘導路、駐機場(エプロン)だけで地上施設は殆ど一杯だ。


駐機場(エプロン)にも幾つか強化コンクリート製の耐爆掩体(バンカー)が並び、崖側にも崖をくり抜いて強化コンクリートの内張りを仕込んだ耐爆掩体(バンカー)が4つ並んでいる。中は戦闘機が2機並んで駐機出来るスペースがあるから十分だろう。


少し大きい崖への入り口は山の中へと続く巨大な地下格納庫だ、大型機や多数の機体を収容出来るようにしてある。その他兵舎や司令部、地上にありそうな施設は殆ど全てが地下に収容されている。


地下の大型格納庫の中で基地運営の人員と機材を召喚し、この基地を運用可能な状態にするよう命令した。

駐機場に戻ってCH-47Fを召喚、パイロット、()パイロット、ロードマスターも召喚し飛行準備に入る。


「ジェイク、ウィル、新任務だ」


チヌークが飛行準備を行っている間に、空軍特殊戦チームの2人に新たな任務を伝える。決して思いつきではなく、これも計画に含まれた任務の1つだ。


「何でしょう」


「基地職員と協力して通信を確立し基地機能を立ち上げ、48時間以内にこの基地に第2小隊を回収するC-17を呼べ。それから他の空軍特殊戦チームと協力して第2小隊をこの基地に誘導、出来るな?」


「もちろん」


「お任せを」


空軍特殊戦チームは本よりそう言った特殊任務のエキスパートで、特にジェイクはCCT。東日本大震災の際、津波に襲われ機能を喪失した仙台空港の航空管制機能を、現地入りから僅か6時間で完了して支援物資を搭載した空軍の輸送機を空港に呼んだ部隊でもある。条件こそ違うが、今回は機材も設備も揃っている。彼らならやれるだろう。


「団長!飛行準備が整いました!」


召喚していたCH-47のロードマスターが格納庫の中へ呼びに来る、外からは重く喧しい輸送ヘリのローター音が聞こえてくる。


「1-1A、一緒に来い。もう一仕事だ」


グライムズ、ヒューバート、ブラックバーンの3人を連れて、ロードマスターの後に続く。

全員乗り込むとハッチを閉じ、CH-47Fはエンジンの出力を上げ離陸した。


雪の中を南東へ飛ぶ事1時間弱、ガラニスト近郊へとやってきた。


公爵から譲って貰った土地は丘の陰で、ガラニストの北門から100m程の場所。門からは直接見ることが出来ない場所で、以前来た際に立てた印が雪の中から頭を出している。

立てた印に後部ハッチを向けてホバリング、対地高度で25ft(約7.6m)だ。ダウンウォッシュによって雪が舞い上がり視界を白く包む。


「姿勢を維持してくれ」


『了解、ホワイトアウト、突風に注意』


「ロードマスター、ハッチ解放」


頷いたロードマスターが後部ハッチを開放、見える

ハーネスに取り付けた落下防止のランヤードを辿り、後部ハッチギリギリへと立つ。スマホを落とさない様に取り出し、召喚をタップ。召喚するのは勿論施設。


地上が光に包まれ具現化、光が晴れて現れたのは石の詰まった蛇篭にへスコ防壁が重ねられた小さな区画。

2機分ほどのヘリパッドに建物が2つ、倉庫が2つだけの施設が地上に召喚される。能力を使えばこんな風に、目の前よりも少し離れた場所に建物を召喚する事が出来るのだ。


「よし、“ガラニスト事務所”の完成だ」



========================================



24時間後、俺は山岳砦の司令部に居た。

新たにこの部隊を“北部方面隊”とし、来たるべき公国の山岳地帯侵攻に備える為部隊をどのように運用するかの情報収集等の為だ。

多目的室に机を持ち込み、簡易的な事務室になっていた。


「外はあんなに寒かったのに、中は意外と温かいんだな」


同じように事務作業をしているエリスが、マグカップに注がれた紅茶を飲みながら言う。


「風が無いからな、それに空調も効いている。1年を通して過ごしやすい気温だろう」


新しい山岳砦はしっかり電気も通っている、地熱発電と風力発電が主な電力源だ。小さい電力だが、地下街の更に下に存在する魔術文字による増幅器を通して、山岳砦と空軍基地に使用するのには十分な電力を供給している。


「第2小隊は明日には帰れるそうだ、今は輸送機にIFVの積み込み作業をしてる」


「良かった、第2小隊が空軍基地に辿り着くまでに少し苦労したからな、基地間を結ぶ道も整備しないと」


「ここの工兵部隊の最初の仕事はそれになりそうだ」


この周囲の交通インフラは貧弱そのものだ、道と呼べる道が少ない事もあり、大型車両の通行に支障をきたしている。その為、現時点での輸送の主力は雪上車と輸送ヘリだ。


山岳部隊らしいと言えばらしいが、山岳空軍基地とこの砦との間での物資輸送を考えると、流石に交通は整備した方がいい。


「そうだ、村長が温泉施設を新しくしてくれた事に感謝してたぞ、ガーディアンが使ってくれると村が賑わうって」


「いい湯だったしな、時間できたらまた行きたい」


第2小隊が陣地を敷設した迷惑料ではないが、召喚した山岳部隊と後方支援隊で村の温泉施設の改築を行ったのだ。野ざらしの源泉に湯船があるだけであったが、改築後には小さいながら立派な温泉施設になっていた。ガーディアンの隊員も今後あの温泉を使う事になるだろう、村に金を落とし、経済を循環させる事が出来る。


ふと1枚の書類に目を落とす、山岳部隊の装備についての検討結果だ。


新たに召喚したガーディアンの隊員の他、山岳民兵も部隊に組み込む為、彼らの使う火器についてが記されている。


拳銃は本部部隊と同じくSIG P226だが、目立つのはやはり小銃だろう。専攻の結果選ばれたのは、自衛隊が使う89式5.56㎜小銃であった。


召喚した隊員が自衛官の割合が多いというのもあるが、山岳民兵の身体検査の結果、体格が日本人に非常に似通っており、尚且つ右利きの割合が非常に多いという身体的な理由も挙げられる。


反動抑制に適した消炎制退器と優れた命中精度、AR系ライフルで使われるSTANAG弾倉と互換性があり、似たような運用のされている小銃と比較し、「山岳部隊で運用するのに適している」と結論づけられたのだ。


とは言え少々手を加えたところもある。


全ての89式小銃に左方切替レバーが取り付けられ、セレクターの順番も安全→連射→3点バースト→単射から、安全→単発→3点バースト→連射の順にされている事だ。

これはオーストラリア陸軍主催の射撃競技会“AASAM”で使用された実在するモデルである、単発(セミオート)射撃に素早く切り替えられる様、こちらのモデルを選んだ。


それから山岳地域で起こるであろう長距離での交戦を見越し、小銃を装備する全部隊にTrijicon(トリジコン) ACOG TA11Fを配布した。89式小銃は小銃でありながらIAR(歩兵自動火器)、つまり分隊支援火器的な運用がされる事があり、光学照準器も必要になるだろうと判断した結果だ。


余談だが、山岳部隊の迷彩パターンに自衛隊迷彩を採用したのは、調査の結果現地の植生に合わせるのもそうだが、89式小銃を持たせるからそちらに寄せたところが少しある。


小銃だけではない、榴弾砲は小型軽量なM119A3、装甲戦力も戦車は無く、代わりにFV101スコーピオン軽戦車等山岳部隊向きの装備が配備されている。


これからこの部隊をどう成長させるか、俺はそれが楽しみだ。


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