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貴族の信頼


ヒロト視点



カンサット公領、公都ガラニストへ来るのはこれで2度目だ。


前回と同じくCV-22B(オスプレイ)に乗りガラニストの城門前へと降り立った。カンサット公爵との交渉の為だ。


熊の討伐確認後も、第2小隊はまだ山岳民兵の村で警備を続けている。山賊が発生する可能性がまだある以上、当初の目的である警備任務は続けなければならない。

それに雪山から800㎞も離れたフォート・フラッグに89式装甲戦闘車を回収する手段がまだ確立出来ていない。撤退は早くてこの交渉の1~2週間後になるだろう。


現地でまだ任務を遂行中の第2小隊から連絡が来たのだ、山岳民兵から契約延長して欲しいという依頼があった。春になった時に押し寄せて来るであろう公国軍と戦う為だ。


俺は第2小隊さえよければとは考えていたが、隊員の健康と安全、そして環境を管理する以上、任務期間を大幅に超えての部隊の駐留は可能な限り避けたいとも思っていた。


そこで上級幹部や運用訓練(3課)と話し合いを重ねた結果に出た結論について、カンサット公爵に交渉する必要があると判断した上で、再びガラニストに降り立った。


「相変わらず寒いな……」


「あぁ、それに雪も深くなってる」


隣で雪の上を歩くエリスがそう言うが、脚が埋もれている様子は無い。俺やエリスだけでなく、ヒューバートやエイミー達、他の分隊員についても同じだ。

前回はあまり対策を考えていなかったが、今回は雪の上を歩く事を想定してトレッキングシューズに外付けのスノーシューを取り付けている。


西洋かんじきとも呼ばれるスノーシューのお陰で、雪の上でも足が沈まず歩く事が出来る為、あるのとないのでは大違いだ。


俺とエリスは制服に拳銃だけ、他6名は戦闘装備をしている為フィールドシャツとフィールドパンツにプレートキャリアといった装備で前回と変わらない。


そして今回もオスプレイで来たから城門の衛兵も俺達だという事を理解しているのか、警戒はしているものの敵意は見られない。


衛兵が近づいてくると、俺は手を挙げて答えた。


「ガーディアンだ、毎度騒がせてすまない」


「寒い中良くお越しで、既にお話は聞いております、中へどうぞ」


「あぁ、寒い中ご苦労」


馬車は準備されている様で、俺達をすんなりと通してくれた。


カンサット公爵は武人であるが、人と人の信頼という物を重視している人物でもある。そして俺はカンサット公爵が信頼してるワーギュランス公爵の領地から来ている、代表という訳では無いが、恥じない言動を心掛けねばならない。


馬車に乗ると前回と同じ様に走り出す、違うのは人通りと宮殿までのルートだ、どうやら襲撃対策として要人の輸送ルートを変えている様だ。


「まったく、大したもんだ」


「あぁ、戦場で生きて来た公爵らしいな」


馬車の中でスノーシューを脱ぎ、制服の俺とエリスは革靴に履き替えておく。制服は一応礼服だ、礼服にトレッキングシューズはミスマッチが過ぎる。

館に到着すると、前回同様カンサット公爵が出迎えてくれた。雪が降っている中だというのに傘も差していないのが何とも武人らしい。


「随分早く再開出来たなヒロト殿、ベルム街からは随分遠いだろう」


「我々の乗り物は足が速いですから。お出迎え感謝します、公爵閣下」


「ベルム街からガラニストまで1日以内で着く乗り物とは……いつか乗ってみたいものだ」


「すぐ乗れる事になりますよ。お時間を頂いて申し訳ありませんが、重要な要件で参りました」


「そうか、立ち話もなんだ、入ってくれ、どうぞ護衛の方達も」


前回は初顔合わせと展開許可という事もあり、然程肩の力を入れずに済んだ。だが今回の交渉、事と次第によってはお互いが剣を抜く事態になりかねない可能性がある。


しっかりしろ、言葉を間違えるな。


そう自分に言い聞かせる、ふと隣を歩くエリスに視線をやると、彼女も緊張している様な表情を浮かべていた。

そりゃ緊張もするよな、何て言ったって相手は公爵だ。


軽く世間話をしつつ、公爵の態度を窺う。お茶が運ばれてきたタイミングで、そろそろと本題に入る。


「今日ここへ来たのは、山岳民兵の集落に展開している我が部隊と、今後の方針についてです」


「何か問題があったかね」


公爵は心配そうに眉を寄せた、任せた手前、動向を心配しているのだろう。

俺は第2小隊が送信して来た報告書を鞄から取り出し、公爵に差し出しながら言う。


「現地集落の山賊被害は少なくない物でしたが、捕虜にした山賊への尋問によりそれが食糧不足である事が判明しました」


「よくある事だ、珍しくもない……」


上質な紙だな、と呟きながらカンサット公爵は資料に目を通す。


「山賊の襲撃は撃退に成功しましたが、問題はその後です」


報告書を捲った公爵が目を見開いた、第2小隊と空軍特殊作戦チームが撮影した熊の足跡、そして遠巻きに撮影した巨大な三頭熊の写真が添付されている。

公爵は写真を不思議そうに見るが、「景色の一部を切り取って映す魔術道具の様な物です」というと感心した様に頷いた。


「そんなものまで持っているとは、君達の魔術道具の技術には驚かされる」


本来は魔術道具ではないのだが、説明も面倒だし本題からは大きく逸れるだろうから割愛だ。


「この熊が食糧を探して集落を襲っていた事で食糧不足に陥り、集落が山賊化していた物と思われます」


「この熊は?」


「既に我々が撃破しました、別個体が居る可能性というのも捨てきれませんが……」


「いや、この大きさの熊が出る事はそうそう無い。冬眠に失敗した個体なのだろう。……よくやってくれた」


山賊の原因となっていた熊は排除されたのだ、今後山賊は減少していくだろう。

メインの依頼は果たされたのだが……


「私からも報酬を出そう、本来であれば我々の兵士で対処すべき問題だったのだから」


「ありがとうございます。……それでなんですが、現地部隊が山岳民兵から直接、追加の依頼がありまして」


「ほう?」


そう、本当の本題はここからだ。


「国境の向こう、山岳地帯の公国軍が来春に攻勢を仕掛けて来る兆候があります。山岳民兵からは、春まで部隊を残して共に戦って欲しいと依頼を受けました。私はこれを受けようと思いましたが、現地に展開している部隊をそのまま春まで雪の中に留めて置くのは難しいと考えています」


任務完了次第引き上げと考えていたが、雪の地に第2小隊を縛り付けるのは得策ではない。休息や十分な訓練環境も無い中では練度も下がり、隊員は消耗する。

それに第2小隊は機械化歩兵、本来であれば戦車と行動を共にする部隊であり、雪の降り積もる山岳地帯は彼らに適した戦場ではないのだ。


「そこで、現在展開している部隊に変わる部隊を山岳地帯に配備し、現地の設備等を整え、山岳民兵を正式にガーディアンに組み込みたいと考えています」


カンサット公爵の興味を強く引いたらしい、紅茶のカップに口を付けながら目を細める。


当然だ、カンサット公爵も直接指揮下や私兵に組み込んでいる訳では無いが、信頼を置いている部隊だ。その部隊を下さい、と言っている様な物だろう。反感を持つのは自然な事だ。


だが、来春に訪れる公国軍の攻勢を凌ぎ、山岳地帯国境を防衛する為に、最短で最も効率が良く、確率の高い方法だと現地民兵の指揮官と各部隊長と話し合った末の結論だった。


カンサット公爵が大きく息を吸う、じっと見つめてくるのは怒りか、別の感情か……


「……その結論に行きついた理由を聞いてもいいかね?」


「はい、1つは山岳民兵の戦力です、現地指揮官の話では民兵の数は全体で200人を切っています。山岳地域は攻勢をかけられる場所を限定出来ますが、防御地点へ民兵を配置すれば戦力は分散、各個撃破の可能性もあります」


「民兵は精鋭揃いだ、数は不利でも地の利がある」


「それは敵である公国軍もそう考えているでしょう、作戦を立て、新兵器を使い攻めてくる。従来の武器や戦術では対抗し切れない可能性もあります」


事実として公国が銃を開発した今、銃には銃で対抗しろとまでは言わないが、既存の歩兵や騎兵は撃破され易くなってしまった。カンサット公爵もそれには気付いているだろう。

公国軍は銃を使った戦闘を体系立ててくる、この世界には魔術も存在するから、銃を使った知らない戦術も生まれる可能性がある。


「そんな中、200人以下の民兵で守り切るのは、彼らに凄まじい犠牲を強いる事になります」


「民兵だけで戦う訳では無い、公国との戦闘となればこちらも増援を出す」


「それが2つ目の理由に繋がります、現状の公国軍の集結度合いと布陣から、恐らく雪融け後すぐに攻勢に出ます。こちらもUA……翼竜(ワイバーン)を飛ばして偵察し、情報収集した上でその可能性が高いと判断しました。ガラニストから国境まで200㎞、雪が解けてから増援を送るのでは間に合いません。間に合う様に増援を送るには、残雪と泥濘の山岳地帯に軍勢を行軍させることになります」


俺は出した地図を指差しながら説明を続ける、ガラニストから山岳民兵の前線基地、果ては戦場と化す山岳地帯までは地形の険しい難所が続いている。平坦な場所はあるにはあるが、雪解け水で泥濘地と化すだろう。


そんなところを行軍させた後での戦闘だ、疲弊した部隊が戦えばどうなるか、想像に難くない。


「3つ目の理由が、公爵閣下の戦力です」


「私の?」


3つ目の理由は収集した情報からして、確率は高いが不確かだ。交渉するに辺り確認しておきたい事の意味合いが大きい。


「収集した情報では、閣下の兵力が冬に至るまでの攻勢での消耗から回復出来ていない可能性があるとの事です」


「……情報か、その根拠は?」


「はい、通常であれば山岳砦に配置されている公爵閣下の兵が居らず、また連絡係として置いている筈の公爵家の人間も居なかった事がその根拠です」


空軍特殊作戦チームからの報告だ、彼らは山岳砦に拠点を置いているが、民兵の話によればその砦は例年、公爵の兵が少なくとも5人は居るのだとか。

他にもミシベツ村を拠点に各集落を連絡巡回する兵も数名いる様だが、今年はゼロ。川より南や東の集落にもいないのだと言う。


重要任務である国境防衛の任務を民兵に任せ、兵を引き揚げる程の兵力不足。だがガラニストの城門にも兵は居たし、先程通ってきた街中では10m進むごとに兵士を見かけた。それにこの館の中庭でも訓練をしている声が聞こえてくる。


「部隊の再編、育成の為に兵を引き揚げ訓練中、と我々は予想しました。山岳民兵をガーディアンに組み込み、ガーディアンの部隊を現地に配置するという案は、公爵閣下の国境防衛をカバー出来ます。……いかがでしょう」


カンサット公爵の表情は険しい、前のめりになり、机の上の地図と俺の顔を交互に見つめていた。

その時間が長く続いた、いや、実際は30秒も無かっただろう。公爵が腕を組み、椅子の背もたれに深くもたれ掛かった。


「いやはや、若くて青い戦士だと思っていたが、兵力不足まで見抜いていたとは恐れ入る」


深くため息を吐いて後そう言った、顔に手を当て、眉に触れながら言葉を続けるが、かなり言いづらそうだ。


「……そうだな、どこから話したものか……辺境防衛を任されているとは言うが、先の夏の攻勢はかなり苦戦を……いや、誤魔化すのは止めよう、君達の予想はほぼ当たりだ。一部戦線を除いて惨敗といっていい損害を我々は被った」


ゆっくりと語り出したのは、約半年前の公国の攻勢の時の事だった。


「敵の使う新兵器と新戦術に我々は翻弄された、破裂する様な音と共に飛んでくる不可視の速矢……公国軍は兵士全てが魔術師になった様だった」


不可視の速矢、恐らく銃の事だろう。公国は思ったよりも広い戦線で、かなり大規模に銃を使って戦闘を行っているらしい。


「我々もすさまじい数の犠牲を払ってあの地を守ったが、春以降、同じだけの犠牲を払わずに状況を打開出来るとは到底思えない。貴族は民の為に戦うもの、とは言えそのまま部下に命令するのも、死んで来いと言っている様なものだ」


上に立つ者として、指揮官は部下に死んで来いと命令する立場てある事は確かだが、犠牲を前提とした作戦を実行するのはその指揮官の怠慢だ。

しかしこの世界では、銃に対して戦う戦術が余りにも未発達すぎる、実戦の経験をフィードバックして訓練しようにも、経験豊富な者が生きて帰って来なければ意味はない。


「国王陛下からの信頼を受けて辺境の守りを預かっている身ではある、貴族としてのプライドもある。……現状を正しく認識し理解したところで、このまま状況を打開出来ないのでは……」


公爵の脳裏には、貴族らしく先陣を切って進み、華々しく散る。そんな選択肢も生まれていた事だろう。

だがその後、残されたガラニストや公領の民はどうなるか……想像すればそんな事は出来ない。


そこで俺達だ、公爵の領地に俺達が部隊を駐留させれば、公国を押し留められる。奪われた領土を奪回する事だって可能になる。


「我々がお力になります」


俺の言葉に、公爵は首を縦に振らない。


「君達が居てくれれば確かに国境の防衛は可能だろう、そのまま国境の防衛の為に居てくれれば我々も心強いし、暗い話をすれば資金の削減も出来るかもしれない。……だが、貴族の、“カンサット公爵”としてはどうなる?陛下から任された国防を任を傭兵に丸投げすれば、“カンサット公爵”の信頼は低下する」


言われてみればそうだ、公爵は国王から信頼されこの地を任されている。国防の任務を任せてしまえば、それは国防の任務を放棄したと見做されかねない。


「じゃあ山岳民兵はどうなんだ」となるが、山岳民兵は公爵の兵では無いものの、協力関係にあるという事で問題は無いそうだ。。


領土防衛の為の部隊を増強したい山岳民兵、部隊を派遣して影響力を強めたいガーディアン、ガーディアンの力を借りたい公爵。3つの勢力の利害がほぼ一致しているものの、どうしても最適解に行きつかない。


「私から提案があります、よろしいでしょうか」


どんよりと泥の様に停滞した空気に凛々しい声を差したのはエリスだった。


「君は……」


「自分の副官で副団長です」


よろしいですか、と公爵に視線で問うと、公爵は頷いた。エリスに発言を促すと、エリスは小さく咳払いをしてからゆっくりと話し出す。


「ガーディアンに山岳民兵を組み込む、ではなく、ガーディアンを山岳民兵に組み込む、のではいかがでしょう。ガーディアン山岳部隊としながら、有事の際は公爵がガーディアンを山岳民兵として扱う……公爵は有事の際民兵に命令し、今まで通り民兵が国境を守るのです」


エリスの提案は、ガーディアンが手助けするのはあくまで山岳民兵であり、そこに駐留するのは公爵の要請ではないという建前を作る事だ。

貴族というのはメンツを気にする、そのメンツを潰さず、領土を守る為の現実的なラインの最大公約数だろう。


「……王国議会から追及されやしないか」


「我々はあくまで山岳民兵との契約という立場ですし、戦力不足を補う為であれば問題無いかと思われます」


グライディア王国は国王が専門職から意見を求める為の議会が存在する、そこからの追求を躱せれば、ガーディアンを配備するハードルは低くなる。


エリスも元はといえば貴族であるし、その辺りの知識や経験もあるのだろう。現代社会で生きて来た俺には無いものだ。


「君、名前は?」


カンサット公爵がエリスに問うが、答えようとするエリスを制して先に俺が口を開いた。


「申し訳ありませんが、彼女は名前を名乗る事は出来ません。彼女は副団長ですが、我々の任務は非常に機密性が高い物もあり、名前や容姿が割れると報復を受ける可能性もありますので」


「秘密部隊という事か、承知した」


「感謝いたします」


どうやら内心は固まった様だ。

だがまだ問題はある、山岳部隊を配置したとして、山岳部隊とガラニスト間の連絡手段が無い事だ。


その問題を切り出そうとした矢先に、公爵から丁度その事を突っ込まれた。


「しかし山岳地域での民兵の動きを把握はしておきたい、ガーディアンからの伝令はどうなる?」


「丁度その話をしようと……ガラニストの城壁外に事務所を構えさせていただきたい。どんな伝令よりも早く情報を伝達出来る手段で閣下にお伝え致します」


山岳地域、ガラニスト、フォートフラッグを繋ぐ通信拠点を確保する事で、有事に対して公爵からの要請を受けやすくし、迅速な対応をする事が可能だ。

戦闘部隊の居ない連絡事務所なら少人数での設営、運用が可能になる。


「城壁外でいいのかね?」


「えぇ、我々の移動手段は着陸に広めの土地が必要になります」


翼竜(ワイバーン)の様なものか」


山岳地域からガラニストまでは200㎞少々ある、陸路ですぐに到着できる距離ではない為、事務所にはヘリパッドと駐機設備が必要になる。その土地はガラニスト周辺に確保しなければならない。


「どのくらいになる?」


「60m四方程度の敷地であれば……もちろん城壁外で閣下の都合の良い場所で構いません、適正価格で買い取ります」


あまり近い場所は公爵やその兵の不安を煽るだろう、公爵のガーディアンへの信頼度が最初からそう高いとも思えない。

だが遠くても連携と連絡に不都合が生じる、そんな都合の良い土地があればいいんだが……


「……そうだな、君達が来た北門から100m程のところに空き地がある。誰も住んでおらず、農場も無い。条件には合致するだろう、そこを君達に譲ろう」


……あるんだ……

案外あっけなく決まってしまった、しかし正直不安になる。


「良かったのですか」


「土地の事か?気にすることは無い」


「いえ、そうではなく」


どういう反応が返って来るのか、正直怖い。

だがそれでも気になるのだ。


「自分は、閣下と直接お会いするのはまだ2度目です、ですが閣下は余所者である我々が閣下の領地での軍事的な行動を許して下さった上に、公都の目と鼻の先に土地を売ってくださる……そんなに簡単に信頼して貰えるとは思いませんでしたので、正直驚いています」


こんなに簡単に他人を信じてしまっていいのだろうか、と若干不安になるほど、公爵は俺達ガーディアンを高く買ってくれている。その高評価と信頼はどこから来るのか、失礼かもしれないが正直な所、もしかしたら罠なんじゃないかとも思ってすらいる。


「何を言っているのだ」


だが公爵は俺の不安を余所に優しく微笑みながら言う。


「君達は私の信頼に、立派に応えてくれたじゃないか」


山賊対処の依頼、カンサット公爵はあれで俺達に期待をかけていてくれたらしい。

そしてそれに俺達は応える事が出来た、実行したのは俺じゃないし、命を懸けたのも俺じゃないから何とも実感は薄いものではあるが。


「ワーギュランス公爵が君達を信頼している理由がよく分かる依頼だった、信頼を通して私と君達のギルドは繋がったと、私は確信している」


公爵は俺達が1度目にここに来たとき、「信頼という不確かな物が世界を繋いでいる」と言った。その時の俺達はワーギュランス公爵とカンサット公爵の信頼の線の上に居ただけに過ぎない。

だが今度は、ガーディアンとカンサット公爵が信頼という線で結ばれたのだ。


「今後ともよろしく頼むよ」


握手を差し出され、俺はその手を取った。


「もちろん、こちらこそよろしくお願い致します、閣下」


たった1度の任務だが、その1度の任務は、公爵を信じさせるに足る働きだった様だ。


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