切り株
餌場を廻ってみたが、餌が居る気配が無かった。餌の癖に逃げ出すのは一丁前だ。この辺りの餌が無くなったら、今度は川の向こうに行かなければならない。この寒さで川に入るのは凍死するのと同じだ、川から上がれば寒さで凍り付いてしまう。
川のこちらの餌場の餌どもは皆逃げ出し、集まって1か所に守りを固めて集まっている様だ。川向うに向かうついでに、あの餌場を漁るとしよう。
あの大きな音の筒は確かに見た事無かったが、大した威力は無く、蜂に刺された様な物だった。脅威ではない。
だが、やられた子分はいる、あの傷跡から考えるに、餌の中には怪しげな術を使う物もいる様だ。そんな物を喰らったらひとたまりもないだろう。
餌を探すのも注意しなければ、餌の動きが一番鈍る時間を狙おう。
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2日後
薄明時の防御拠点、雲の上は明るいのは分かるが、まだまだ暗視装置は必要そうだ。
風は弱いがまだ雪がちらついており、そして何より__
「寒っっ……!」
吐息が瞬時に白く濁り舞い上がる、気温も氷点下、隊員達に外套が支給されているとは言え、かなり寒いのだ。
一生懸命カイロを揉んでいる隊員や、焚火に手を翳して当たっている隊員も居る。
防御拠点で各分隊の交代で警備に就いており、現時刻は第1分隊が担当していた。
川を挟んで対岸の森を各々が持つ暗視装置や、車載の熱線暗視装置で監視し、交代の時間を待つ。
「なぁ、本当に勝算があってこの配置なのか?」
「じゃなきゃこの配置にはならん」
フェリックスの質問に、クロウは双眼鏡で川向うの森を見つめながら返す。
「熊は必ずここに来る。……それは今かもしれないし、明日かもしれない」
「結局我慢比べね……それもそうか、相手は野生動物だし。で、ここに来るって根拠は?」
あぁ、と言ってクロウは双眼鏡から視線を離す。
「1つは第4分隊が熊の隠した遺体を持って帰ってきた事だ、熊は自分が興味を持った物に執着する」
数日前、偵察に出た第4分隊が、熊の被害者とみられる亡骸の一部を持ち帰ってきた。それを元に戻せるはずも無くその場で弔いを上げたが、熊にとってはそんな事は関係ない。餌に執着するなら取り戻しに来るだろう。
「2つ目、川向うの村はもう全部無人だ。餌を獲りたいなら川を渡る。川を渡りたいなら橋を渡らなきゃいけない。で、直近で橋があるのはこの村だけだ」
何度か偵察を出した結果、川の“こちら側”に熊の痕跡は認めらなかったようで、やはりあの熊はこの川を渡るのを避けている様だ。天然の障壁になってくれているのは、この村の住人からしても安心だろう。
「川を渡って来ないなら、ここの橋を必ず渡る」
だが、熊が大きく上流を迂回してくる可能性も捨てきれない為、川幅の狭い場所のいくつかにトリップワイヤーを仕掛けた指向性散弾とセンサーを仕掛け、熊が川を渡って来たら即座に通知する様にした。
万全とは言えなくとも、打てる手はほぼ尽くした形だ。
「一応勝算はあるんだな……しかしこの天気で航空支援も呼べないのは何とも心細いね」
「それは仕方ないだろ、天気に加えてこの近くに飛行場は無い。一応付近に無人機を待機させていてくれるらしいが……」
彼等の知覚出来るよりも遥か上空、そして5分程度で到着可能な安定した天候の空域には、フォートフラッグ空軍基地を離陸したMQ-9リーパーERが、武装した状態で旋回待機している。
熊だけでなく吹雪や雪崩、風、寒さも敵なのだ。
「よう、どうだ?」
パチ、パチ、という焚火の爆ぜる音に人の声が混ざる。
声は村の方からだ、声の方を見ると、山岳民兵のアレクトが数人と共に立っていた。
「お茶持って来た、温まるぞ」
「お、それはありがたい。おーい皆、差し入れだ」
クロウは分隊に声を掛け集合を掛ける、アレクト達が持ってきてくれたのは大きめの急須と木のコップだった。
「外は冷えるからな、温かい物を飲むと良い」
急須からお茶を淹れる、この世界では珍しい緑茶の香りがふわりと広がり、隊員達の鼻腔を擽る。それもすぐ、冷たい空気が塗り替えてしまうのだが……
こぽこぽと柔らかい音を立てて急須から注がれるお茶は湯気を立て、なんとも落ち着く香りを放っていた。
コップを皆に配ると、それぞれがアレクト達に礼を言って飲み始める。口の中に広がる優しい甘みと仄かな苦みが口いっぱいに広がると、隊員達の表情も綻んだ。
「お代わりもあるからな、遠慮無く言ってくれ」
数人がお代わりを申し出ると、アレクトはコップを受け取って追加を注いだ。
「これ美味いな、初めて飲むお茶だ」
フェリックスはそう言ってお代わりを受け取る、この世界はお茶と言えば紅茶が一般的だが、この付近では緑茶も栽培している。
「南の方のお茶とは違うかもな」
「甘味が上品で香りも良い、私はこっちの方が好きだ」
ナターリエもそう言う、かなりお気に召した様だ。
警備の時間は束の間だが、温かい飲み物で張り詰めた空気が緩み、誰もが皆笑顔になっていた。
「すまなかったな」
「何が?」
クロウがアレクトにそう切り出す。
「猟師……仲間を守り切れずに死なせた事だ」
「あぁ……」
アレクトは頷きながらクロウの言葉を聞く。
「小隊長……シュバルツはああ言ってはいたが、俺達も責任を感じずにはいられん」
「……ムロイの……猟師達の最期はどうだった?」
そう問い直すアレクトにクロウは怪訝な症状を浮かべた、責められこそするだろうと思ってはいたが、そうではない事に驚く。
「自分の何倍も大きな熊に立ち向かって、死んだ。……あの時、無理やりにでも割り込んでいたら……」
「それだよ」
クロウの言葉を遮り、アレクトは言う。
「猟師連中は俺達山岳民兵よりも一層山に強く敬意を持っていた。山からの恵みと試練に対して、それを与える山の神に信心深く、敬意を払い、その中で命のやり取りをした結果だ。無念だと思う、だが彼らの死に方を否定する事は出来ない」
猟師として山が与える困難に立ち向かい、そして死んでいった彼ら。その死は悼まれるものだが、山の民を守ろうとした猟師としての誇りある死だ。
アレクトは山岳民兵という立場から猟師達を見ていた。
確かに彼ら猟師は少々山の神の信仰心から非現実的な事を言う事があったが、山に対する敬意は山岳民兵よりも強かった。それは彼らが猟師として山の獣を直接狩り、命に対する距離が近かった事もあるだろう。
「それに、今度はあんた達が、その武器でムロイの仇を取ってくれる」
だろ?というと、クロウは力強く頷いた。
「必ず仇を討つ、約束する」
第2小隊の元の任務は山賊からの護衛だったが、その任務はアップデートされた。
熊を仕留め、この山の人々の不安を消し去るのが彼らの任務になった。
「木を伐ったのか」
「あぁ、射界を確保する為だ。遮蔽を少なくしてこちらの攻撃を有利にしてる」
アレクトは橋の向こう、木を伐った事に気付き、指差しながら切り株の数を数える。
「……7、8。8本か、結構森の奥まで見えるな」
だがクロウは首を傾げた、伐った木は7本の筈だ。
「8本?木は7本しか伐ってないぞ。よく見ろ、切り株も7つだ。1、2、3……7だ」
「見えないのか?左の奥に8本目があるだろ」
「8本目ぇ?」
アレクトは雪の中に幻覚を見ているのか、それとも数え間違いか。彼の指差す方向に向けて双眼鏡を覗く。すると、確かに切り株の様な8本目の黒い影が見えた。
それに気づいた時、クロウは前進の毛が逆立った。
「ほらな?8本」
「……いや」
8本目の切り株にピントを合わせる、動くはずの無い切り株が、ゆっくりと動いているのだ。
「あれは熊だ」
戦闘配置、命令は小声だったが確かに全員に伝わった。クロウはPVS-15を下ろして黒い切り株の様な物が動いているのを確認すると89式装甲戦闘車のハッチに乗り込み、砲手のエッブスに命令を出す。ナターリエもM107A1を据え付けたバリケードに戻り、フェリックスはM2重機関銃の銃座に着く。他の分隊員もG3A3を手に取り、膝射の姿勢をとった。
「エッブス、距離160、弾種APDS」
クロウは今度は周波数を切り替え、本部へと繋ぐ。
「こちらテスラ1-1、熊を視認、橋に向かって近づいてきている。これより交戦する」
『了解1-1、増援を送る。交戦を許可する』
本部からの返答、口の中が渇き、呼吸が浅くなるのは寒さが原因ではない事は明らかだった。
「ミサイルの照準をこっちに」
「了解」
ヴェトロニクスを弄った事により、車長席からも各種兵装の操作が可能になったガーディアンの89式装甲戦闘車、クロウはその正面のパネルを操作し、砲手席の火器管制の一部を車長席に回し、砲塔両側面の中距離多目的誘導弾を起動させる。
通常であれば79式対舟艇対戦車誘導弾が搭載されているキャニスターが若干上を向いて蓋を開けると、これまた改良により置き換わっていた中距離多目的誘導弾のシーカーが露出する。シーカーを赤外線画像にセットし、アイコンの中心に熊を捉え続ける。
熊との距離はそろそろ120mになる、そして熊のシルエットにも変化があった。
「アイツ、1頭じゃない」
「後ろに隠れていたのか……!」
薄明の空で不鮮明だが、蠢く影の後ろから更に熊が姿を現した。合計3頭、内1頭はあの三つ頭の熊だ。
「ケルベロスかっつーの……総員、合図があるまで射撃待て」
『了解』
『了解』
陣地のバリケードでM107A1のスコープを覗くナターリエ、彼女の目にはスコープ越しにタンデムしたCNVD-T暗視装置の熱線映像が見え、明らかに切り株、そして周囲の温度の違う熊は白く浮かんでいた。
その隣のM2重機関銃陣地では、フェリックスがM2のグリップを握りバタフライトリガーに指を掛ける。他の隊員もその周囲でG3を構え、射撃準備は整っていた。
「人か!熊か!」
アレクトは森に向かって念の為叫ぶ、最後の確認だが、当然返事は無かった。ロバートがアレクト達を89式装甲戦闘車の陰に引っ張って隠れさせ、耳を寄せろと合図する。
「いいか、でかい音がするから住人達は起きる、不安がるだろうが、アレクト達山岳民兵は住人を落ち着かせて欲しい」
「分かった、頼むぞ」
アレクトが村に戻るのと入れ替わりで、増援の第2分隊がライフルを持って到着した。
『クロウ、第2分隊が到着した』
ロバートの通信を聞き、部隊配置を脳内の浮かばせる。現在89式装甲戦闘車の両翼に各3人ずつが展開、機関銃陣地は右翼、狙撃陣地は左翼側だ。
「了解、ラインフォーメーション、サイモンと機関銃持ちは左翼に、狙撃銃持ちは右翼側に展開させろ」
火力、精度のバランスを保ちつつ人員を増員させる命令を出したクロウは、ミサイルの照準パネルを見つめたままだ。
「射撃命令は」
「まだだ、引きつけろ」
エッブスは引鉄に指を添えたまま催促するが、クロウの命令は“待て”だった。車外の雪の中では、分隊員がG3を構えてセレクターを安全から単発に入れた。
「ライフルマンは橋の上の熊を狙え、50口径は森の奥の3つ頭の奴だ」
『了解』
『了解』
熊との距離は100mを切り、斥候のつもりか単頭の熊を先に橋を渡らせようとしている。耳を澄ませば獣の息遣いまで聞こえる距離に迫る。
狙い澄ましたその照準が安定した時、全員の無線に受信のノイズは微かに聞こえた。
『撃て』
大中小、様々な銃声が雪の森に響き渡る。マズルフラッシュが雪を舞い上げ明るく照らし、銃弾という人間が作り出した暴力の嵐が森に向かって吹き荒れる。
「装填!」
誰かが叫ぶと、まだ弾を残している者がカバーに入る。コッキングレバーを引いて切り欠きに引っ掛け固定し、弾倉を交換した後にHKスラップと特有の手順を踏んでリロード、射撃に復帰すればまた誰かが装填に入り、復帰した物がカバーに入る。
ナターリエ達マークスマンは、初弾が3つ頭の熊に命中した手ごたえはあった、M2重機関銃の銃座についていたフェリックスもそうだが、流れ弾が巻き上げる雪煙でそれ以降の射撃効果は確認出来ずにいた。
しかし、分隊で唯一“砲”と呼べる火力を持っている89式装甲戦闘車の車内にいた2人は違った。
35㎜機関砲を射撃しつつも熱線映像装置でその様子を観測しており、熊への命中弾を確認していた。
3つ頭の熊は何発か喰らうと形勢不利を悟ったのか反転し、森の奥へと逃げていく。
「エッブス撃ち方止め!ミサイル撃つぞ!」
「了解!」
エッブスが35㎜機関砲の射撃を止め、今度はクロウの番だ。デジタル射撃操作盤の発射ボタンを押すと、ロケットモーターの音と共に砲塔側面から中距離多目的誘導弾が発射された。画像赤外線シーカーがロックしているのは勿論3つ頭の熊だ。
ミサイルは加速しながら、逃げる熊へと喰らい付いた。
ドン、と重い爆発音が森に響き渡り、一瞬の閃光と共に更に大量の雪を巻き上げる。
手応えはあった、だが本当に撃破出来たかどうかは分からない。
『総員撃ち方止め、撃ち方止め』
クロウの無線の合図と共に全員が射撃を止め、雪の森は射撃前の静寂を取り戻す。変わったのは橋の上の黒い大きな影2つだけだった。
「……やったか?」
「次それ言ったらぶん殴るぞ」
「ッス」
クロウは溜息を吐きながら再びPTTスイッチを押す。
「ロバート、ゲルハルト。ここから援護するから、橋の対岸まで行って仕留めたか確認しろ」
車外で射撃していた副官のロバートとライフルマンのゲルハルトは無線に「了解」と返すと、自らのG3A3を手に取って橋を渡り始める。
雪の上に足跡を残しながらゆっくりと歩みを進め、橋の上に横たわる黒い影に近づいた。
「死んだフリだったらどうします?」
「その為に来たんだ、管理射撃しろ」
「了解」
ゲルハルトはロバートからそう指示されるとG3を構えてセレクターをセミオートに入れ、熊の頭に銃口を突き付けるとそのまま2発撃った。
ヒグマの頭蓋骨は頑丈だ、角度によってはライフル弾も貫通しないと言われているが、銃口を密着させる様な至近距離で、頭蓋骨に対してほぼ垂直に放たれた7.62㎜NATO弾は3304Jの運動エネルギーを持ってしっかりと貫通、眼窩や鼻から血を吹き出させた。
「で、こっちは……」
1頭目は始末完了、2頭目の方はと言えば、1頭目が盾になり、逃げる途中にM2の射撃か35㎜機関砲の流れ弾を喰らったらしく、橋の出口付近で動けなくなっていた。
下半身は原型を留めておらず、上半身も腕は皮1枚で繋がっていて、大きく隆起した肩は原型を留めないほど破壊された無残な状態だ。
首にも被弾しているのか地面に伏せ、それでもその体躯の驚異的な耐久力と生命力で文字通り血反吐を吐きながらも死ねずにいた。
ぶ、ぶ、と濁った鳴き声を上げると共に、苦しそうに雪へと血を吐き流す。
「動けなくなってますね……今楽にしてやる」
「管理射撃する」
2人がセミオートで3発ずつ頭に打ち込むと、ようやくそのヒグマは頭を雪の地面に横たわらせた。
「分隊長、対岸クリア。熊2頭ダウン」
『了解、3つ頭のは?』
辺りを見回すが、仕留めたのはその2頭だけの様だ。周囲は静かな物で雪を運ぶ風の音と川が流れる音しか聞こえない。
「いない、仕留めそこなったようですが……」
ロバートの視線の先には、何やら地面に片膝を着いて雪を調べている様なゲルハルトが居た。
ロバートが覗き込むと、雪の上には夥しい血痕が残されている。明らかに人の血ではなく、引き摺る様な血痕は森の奥へと消えていた。
「熊の血痕です、北に向かってます」
その報告を受け取ったクロウは頷いた、これはチャンスだ、運がこちらに向いてきた。
「了解、第2分隊はIFVと共に集合しろ、雪が痕跡を掻き消す前に追跡する」
そんな彼らに本部から通信が入ったのは、その直後の事だった。
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「第2小隊が交戦を開始する」
時間を少しだけ遡り、山頂砦に拠点を設けていた空軍特殊作戦チームは、熊を発見した直後の通信を傍受し、交戦に入る事を察知していた。
この山頂砦はミシベツ村北西2~3㎞程の距離にある岩山をくり抜いて作られた砦だ。熊騒動からこっちは岩盤に開けられた数か所の出入り口は岩を積んで封鎖され、ほんの少数の山岳民兵が常駐しているだけの監視拠点になっていた。
その最上階の使っていない監視室を空軍特殊作戦チームは間借りし、通信機材と風向風速計、果ては簡易の天候レーダーを持ち込んで観測室にしていた。
「とうとう見つけたか」
当直の戦闘管制官メルヴィンと、気象観測チームのウィリアムはカップに淹れたコーヒーを飲みながら眠気を醒まし、気象観測と航空機の誘導に徹していた。
「ここじゃ俺達は何も出来ねぇな」
地上で戦っている機械化歩兵の小隊に対して、俺達空軍特殊部隊は高みの見物か、ウィリアムはそう自嘲するが、本来彼らは積極的に打って出る部隊ではない。
特殊部隊と聞いてイメージするのは、人質救出やテロリストの襲撃等、派手で絵になる任務を遂行するエリート、という人も多いだろうが、彼らの任務はそう言った表に立つ部隊が作戦を成功させる為の支援を行う事なのだ。
気象観測、航空機の誘導、負傷者の治療のスペシャリスト。彼らが居なければ、作戦行動は成り立たないと言っても言っても過言ではない。
そもそも彼らのメインミッションの1つたる“第2小隊の着陸誘導”は既に終了しており、帰りのミッションまでに気象データを採ったり、いつ偵察機が来ても良い様に誘導しているだけなのだ。
「風と雪が止めば、無人機の誘導で彼らの手伝いも出来るのにな」
航空攻撃を容易に投入出来ないのはこの地域の天候が影響している、雪と風が強く視界が悪いこの地では、なかなか航空機の優位を活用するチャンスは巡って来ない。
その内無線の向こうからも銃声が聞こえてくる、交戦が始まったが彼らが出来るのは視認が出ない様祈るだけだ。
「ウィル、コーヒーいるか?」
眠気覚ましのコーヒーを飲み干した、ウィリアムもそうかと思い声を掛けたが、応答が無い。
寝ている様ではないらしい、先程からひっきりなしにタブレットとラップトップPCのデータに視線を送っている。
「おい、ウィル」
「あ?あぁ……コーヒーくれ」
ウィリアムのカップを回収し、ドリッパーからカップにコーヒーを注ぐ。
「そんなに集中してどうしたんだ?」
カップを手渡しながらメルヴィンは問いかけた。
「いや、ここ6時間くらいのデータを見てた」
そう言ってウィリアムがタブレット端末で見せたのは、風速と風向の時間ごとの変化のデータだ。
「3時間前から強まったり弱まったりしてる、周期的だ。ほぼ無風の時間が5分くらいあった時もある」
「……何?」
メルヴィンもタブレットに表示されたデータに違和感に近い物を覚える。
「こっちは天候レーダーだ、周囲のエコーに薄い所と厚い所が交互にある」
続いてウィリアムがラップトップPCで見せたのは設置した天候レーダーの画像だ、ウィリアムの言う通り、雲の影が濃い所と薄い所が交互にあり、しかもそれが続いている。つまり風が弱まる時が周期的に訪れているのだ。
「……待て、今無人機の場所を調べる」
ウィリアムは気象担当、航空機の誘導はメルヴィンの担当だ。
彼の戦術端末には、彼らの位置から丁度5分程度の場所にMQ-9リーパーERが待機している表示が出ていた。
先程までの緩んでいた空気は霧散し、2人とも完全に任務に頭を切り替えていた。
「ウィル、次に風が止むのは」
「5分後、5分後だ。そこから約7分は風が落ち着く」
「ちょうどいい。……ヴァルチャー1-6、聞こえるか?こちらジュピター。どうぞ」
任務にスイッチの入ったメルヴィンの問いかけに、本部の無人機オペレータはすぐに答えた。衛星を介した長距離通信様様だ。
『ヴァルチャー1-6、ジュピター、どうぞ』
「5分後に風が止む、7分間、作戦地域へ航空機の投入が可能だ。すぐヴァルチャー1-6を作戦地域に移動させてくれ。どうぞ」
『了解ジュピター、すぐにか?どうぞ』
「あぁ今すぐだ、第2小隊を支援する。どうぞ」
『了解、移動を開始。アウト』
続いて無線の周波数を切り替え、メルヴィンは第2小隊本部に繋いだ。
「テスラ1へ、こちらジュピター。風の状況を見て偵察及び攻撃に航空支援を投入する。到着は5分後、そこから7分間の支援が可能だ」
ガーディアンの89式装甲戦闘車、ヴェトロニクス含めかなり弄っていて
・車体は共通装軌車体
・パワーパック出力の向上
・ミサイルは中距離多目的誘導弾
・デジタルFCSを導入しエアバースト弾を射撃可能に
・上記の兵装を使用する為にセンサー増設
・半導体技術の向上による電子装備の小型化
・電子装備増設に伴う消費電力増加に対応し、APUを搭載
を行っています。車体サイズはそのままなので見た目は「89式装甲戦闘車の砲塔が乗った共通装軌車体」にしか見えません(もう新造しろ)
今後出番があれば更に弄っていく予定です。