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三頭熊

荒々しく唸る獣の吐息


茶色掛かった黒の、重厚感を感じさせる毛皮


先程の熊よりも2回り以上大きな体躯


何よりも3つある頭部、それぞれの口元からは、涎が雪の上へと垂れている。


その場に居る全員が、その巨大な熊に息を呑み、動けずにいた。動けば、動いたものから喰われると本能的に理解していたのだ。


空気を震わせる咆哮は、先程の熊の3倍だ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


恐慌状態になったのは、その熊に最も近かった猟師だ。

彼は叫びながらニルトン・シャッフリル銃を構えて引鉄を引くが、ガチンと撃鉄が落ちる音だけが空しく響く。その猟師は自らの銃が手入れ不足により撃発不能な状態にあった事を忘れていた様だ。


熊はその猟師の頭に噛みつき首を振った、何かが熊の口元からこぼれ出たと思ったそれは、頭部の無い猟師の死体だった。


「全員雪上車に乗れ!!」


ロバートが声を掛け、雪上車が超信地旋回で荷台をこちらに向ける。2人の猟師が荷台に飛びついたが、1人の猟師が間に合わずに背中を噛まれた。


「ひっ!?あ゛!や、やめ、ぅ゛ぐぁ!」


腕を振り回し、熊の鼻先を殴るが、脚を別の頭と取り合う様に咥えられると、そのまま胴体を引き千切られて熊の口元を血で汚す。


「この、化け物がぁぁぁ!!」


「やめろ!戻れ!」


ナターリエの静止を振り切った猟師が、銃剣を付けたニルトン・シャッフリル銃を持ち、仲間の仇と言わんばかりに突進する。

だがその切っ先が熊の毛皮を引き裂く事は無かった。


熊は右腕を大きく振るい、ただ振り払う。

パン、と鈍い破裂するような音と共に、その猟師の()()()()()がその場に膝を着いた。

薙ぎ払われた上半身は近くの木に肉塊となって飛ばされ、血の染みを作る。


「ムロイ!早く!」


雪上車に居ない残りの猟師はムロイだけだ、彼も走り出したが、熊の爪が彼の足下を薙いだほうが早かった。


彼はその場で転んだが、起き上がろうといくら地面を蹴っても起き上がれない。

立ち上がる為の脚、膝から下が、熊の爪に抉り取られていた。


仰向けになったムロイは、唯一作動するニルトン・シャッフリル銃の銃口を熊に向け、引鉄を引く。


回収しようとロバートが飛び出し、ナターリエが援護射撃しようとするも、熊は倒れたムロイにしか興味が無い様だ。

熊のその巨躯にとって、ニルトン・シャッフリル銃の射撃などかすり傷にもならない。大きく前足を振りかぶり、ムロイの頭を踏み潰した。


「くそっ……」


「戻れロバート!」


熊が潰したムロイの死体に夢中になっている内に、ロバートは雪上車に戻る。


「ロバート、全員掌握しろ!」


「了解!」


この分隊は9人、89式装甲戦闘車に3人、雪上車に2人、荷台には4人。加えて生き残りの猟師2人、ちゃんと乗っている。


「全員掌握!」


『無駄に撃って注意を引くな、ミシベツ村へ撤収する!』


砲塔を熊の方へと向けたまま交代してくる89式装甲戦闘車と合流し、分隊は生き残りの猟師を乗せて退却を開始。


退却する雪上車の荷台から見えたのは、3つ頭のある熊に寄り添う、先程屠った熊と同じ位の体躯の2頭の熊だった。


========================================


獲物だ


獲物だ


寒い季節は餌が見つからない


空腹でイライラする


普段は子分たちが餌を持って来る


けど、今日は違った


子分が命と引き換えに、餌を見つけた


餌は叫びながら棒を鳴らす、鳴った後に痛みが走った。


餌の分際で、我に傷をつけるとは……


生意気な餌だ、こっちも生きてこの冬を越さねばならんというのに


頭を潰して仕留めたが、雄の肉は固くてマズい。美味い雌の肉の方がいいな


それなら……餌が沢山獲れるところを探すとしよう。


弔いのつもりか何だか知らないが、獲った餌を隠していたのに、餌どもが持ち帰ってしまったし、それも取り返さないと……



========================================



「同じ熊か……」


FV105サルタンの後部に急造した作戦本部に置かれたモニターには、若干不鮮明ながら3頭の熊が写された写真が表示されていた。3つ頭の巨大熊が1頭、普通の大きな熊が2頭。


「これは……化け物だな……」


トラビスが写真を見ながら腕を組む、写真から推定される体長は5m、体重は700㎏から1トン近い予測が立てられている。


「で、効いたのか?」


小隊長のシュバルツがクロウに振り返りながら訊ねる。


「小さい方は……小さい方というには大きすぎますが、頭1つの方は一応、35㎜機関砲のHE弾が有効な様でした。3つ頭の方とは交戦していません」


火器が有効なら、駆除も可能な筈。シュバルツはそう考えたが、クロウの次の報告でその難易度が高いと考え直す。


「3つ頭の方はニルトン・シャッフリル銃を喰らってもほぼ無傷でした、俺達が使う自動小銃クラスの威力の小銃でも、恐らく歯が立たないでしょう」


ニルトン・シャッフリル銃の威力は、使用する魔石や魔石の残魔力量、弾の品質にも左右されるが、この世界の鎧などは簡単に貫通する威力がある。その銃でも毛皮を貫通する事が叶わなかったのだ。


クリアすべきは毛皮の厚さだけではない、毛皮の下の脂肪、筋肉の層を貫いて、あの熊の生命を破壊しなければならないのだ。


「……俺の責任です」


「何がだ?」


クロウが目を伏せたままそう話し出す、唯一熊に対抗し得る装備を持ちながらも、その力を十分に発揮出来ず撤退して来た事が、彼の背中に重くのしかかっていた。


「持てる力を出し切らず、猟師を4人、死なせました。俺が守るべき命でした」


クロウの視線がシュバルツとかち合う、続けろ、と言ったのはシュバルツだ。


「あの時俺が、機関砲やミサイルで反撃していれば、4人は助かったかもしれません」


自分の責任だと言い張るクロウだが、シュバルツは首を振った。


「熊は他にもいた、お前があの場所で反撃し留まっていれば、今度は雪上車が別の熊に襲われていたかもしれない。そうすればもっと犠牲者は増えていたし、隊員にも死者が出ていただろう」


もしもこうしていれば、過ぎた転換点を振り返るのは結構だが、そこに拘っていたら前に進めない。


「お前はあくまで、その時最善だと思った行動を取ったんだ。後から振り返り反省するのは良いが、責任云々は違う。責任は俺の仕事だ、取らないでくれ」


シュバルツは立ち上がり、クロウの肩を叩いて。気にするなと声を掛ける。


「少し休め、休んだらやってもらう事が山の様にある」


「……了解、第1分隊、休息に入ります」


クロウは敬礼すると、踵を返して本部テントを出て行った。彼がシュバルツの言葉をどう解釈して受け取るかは彼次第だ。


「一端の隊長らしくなったな」


「うるせぇ」


隣で揶揄うトラビスに笑いながらそう返すと、シュバルツは無線機のスイッチを入れた。


『こちら民兵砦、ジェイク軍曹』


「ミシベツ村、ラインハルト大尉だ、フォート・フラッグに繋いでくれ」


『了解、お繋ぎします』



========================================


ヒロト視点



北の山岳地帯に部隊を送って5日が経った。


彼等だけで行かせる不安もあったが、今のところ問題なく任務を遂行中らしいと報告を受けていた。

3日目で山賊と交戦し、その山賊の発生原因が巨大な熊による食糧不足である事が分かり村人を守りやすい様にミシベツ村に集めた所だった。


彼等からの通信が入ったと聞き、地下にある中央作戦センターに向かって階段を下りていた。


作戦センターのドアを開けると、モニターが並ぶ室内に複数人のオペレータが作業を行っており、内数人が俺が入って来たことに気付き視線を上げた。


「第2小隊からの通信か?」


「はい、こちらです」


1人の女性オペレータが俺に受話器を手渡してくる、俺は彼女に礼を言いながら受話器を受け取ると、シュバルツの声が聞こえて来た。


『こちら第2小隊、ラインハルト大尉』


「こちら団長だ、何か問題か?」


定時通信の時間ではなく、俺を呼んだという事は何かあったのだろう。心配と不安が頭を掠める。


『例の熊ですが、1頭では無く複数頭を確認しました。内1頭を撃破しましたが、新たに確認した熊は更に大型です。撮影した写真を送ります』


一番近いオペレータの女性が視線を送って頷く、画像が来たようだ。俺が画面をのぞき込むと、若干不鮮明な写真ながら、その中には4頭の熊が映っている様に見えた。


1頭は第2小隊が倒したであろう、血を流し絶命している様にも見える熊。

その熊を2頭、同様のサイズの熊が近くで見ている。問題は最後、その熊よりもさらに巨大な熊だ。


「何だコレ、頭が3つ……?」


『えぇ、その通りです。猟師が発砲しましたが、ニルトン・シャッフリル銃ではまるで歯が立ちませんでした』


ニルトン・シャッフリル銃が有効ではないならば、彼等が装備しているM4でも相対しての対処は難しいだろう。いくら軟目標に対する破壊効果が高い5.56㎜NATO弾とは言え、このサイズのヒグマとなれば話が変わって来る。


「了解、写真から色々分析してみる、何か要求はあるか?」


定時連絡ではない、という事は、何かしらの要請だろう。そのくらいの想像はつく。


『M4より強力な火器と弾薬、チェーンソーと爆薬が必要です』


「了解、明日朝1番の輸送機で送る、DZ(ドロップゾーン)は前回同様、管制はジュピターに」


50人以上が展開している現地へライフルを送るとなると、選定、調整を今からやらないと間に合わない。彼らに戦う力を与えるのが、今の俺の仕事だ。


『それから……航空支援を送って頂けると助かるのですが』


シュバルツの言葉に、俺の頭の中で様々な考えが浮かぶ。

雪の山、分厚い雪雲の中に航空支援を送るのはかなり危険だ。例え無人機(UAV)だとしても、カメラが雪や雲に遮られてはっきりと捉えられず、誤爆の危険性がある。


「……空軍特殊部隊の見解は?」


『SOWTは雪が弱くなるのはまだ先だと言う見通しです、雲も低く、送るには雲の切れ間を狙うしかない、難しい、と回答を貰いました』


ま、そうだよな……航空支援の誘導を専門とする彼等が言うなら間違いない。

だが彼等は欲しているのだ、地上部隊だけでは決して発揮出来ない能力を持つ航空機の支援を。


「分かった、そこから5分以内の地点に無人機(UCAV)を常時待機させておく。そちらの要請に応じて、空軍特殊部隊の誘導で航空支援を送れるようにしよう」


『了解、助かります』


無人機を周辺の天候の影響が少ない場所に旋回待機させておく程度なら問題ないだろう、俺は通信を終了すると今度は空軍の司令部に繋ぎ、明日朝1番の輸送機の手配と、MQ-9リーパー-ERを武装させて待機させておく様に命令を出す。


さて、彼等は現地で命を懸けて戦っているのだ、俺も俺の仕事をしなければ。



========================================


第3者視点


翌日


隊員達に届いたライフルと装備が配られる、弾薬も含めるとコンテナ3つ分の荷物を隊員はそれぞれ装備した。


ミシベツ村は川の南にあり、熊の活動域を川が分断している為、村から南は安全地帯だ。

そんな安全地帯に昨日、第2小隊は即席の射撃訓練区域を設けた、雪を掘り返して分厚過ぎる程の雪と木の壁を作り、発射した弾丸があらぬ方向へ飛んで行かない様にする為である。


そんな即席射撃場(レンジ)の中で、第1分隊のクロウが支給されたライフルのハンドガード上部のコッキングレバーを引き、上に引き上げ切り欠きに引っ掛ける。

ボルトオーブンを目視で確認すると、プレートキャリア__ATS Aegis V2のフロントマグポーチからマガジンを取り出し、マガジン前部から引っ掛ける様に装填。


引っ掛けたコッキングレバーを弾き落し、スプリングがコッキングレバーを押し戻すと共にボルトが弾薬を薬室へと送り込む。


ストックを肩に当てて細身のハンドガードを握り、やや前傾の姿勢で構えて機関部上部(レシーバートップ)に取り付けられたスコープ__ACOG TA11のレティクルを視線に合わせる。レティクルと重なるのは射撃場(レンジ)の向こう、100m先の人型標的(マンターゲット)だ。


セレクターをセミオートの入れ、引鉄をゆっくりと絞る。


5.56㎜NATO弾とは質の違う銃声が響き、反動がクロウの肩を蹴り、ボトルネックの辺りに黒いススのようなスジが着いた空薬莢が排出されて雪へ落ちた。


そのままセミオートで速射を続け、20発を撃つと弾倉が空になるが、排莢口(エジェクションポート)はホールドオープンしない。


すかさずコッキングレバーを引いて上に引っ掛け、マグウェル後部にあるレバーを倒しながらマガジンを外す。そのリロードはAKのよく似ていた。


コッキングレバーを弾き倒す“HKスラップ”と呼ぶリロード動作が、このライフルの特徴だ。


「どうだ、G3は慣れたか?」


訓練を監督している小隊長のシュバルツの手にも、そのライフルが握られていた。


彼等に渡されたライフルはG3A3、ドイツH&K社が開発し、ドイツ連邦軍にも主力小銃として採用されていた7.62×51㎜NATO弾を使用する自動小銃だ。


軟目標に対する破壊効果が大きい5.56㎜弾ではあるが、それは目標が人間大の物に限った時の話だ。巨大な熊となったら話は変わり、弾自身が持つ運動エネルギーが重要になって来る。


適切な個所に適切な命中弾を送れば、銃という兵器は確実に命を奪えるが、熊の場合、それを硬い骨格と分厚い肉と毛皮が防ぎ、()()()()()()()()()しまう。


その為5.56㎜NATO弾を使用するM4A1ではなく、より大きな運動エネルギーを持つ7.62㎜の小銃であるG3が選ばれたのだ。


「いつもと操作は違いますからね、もう少し練習したいところではありますが」


「MP5を使う訓練も受けているだろ、すぐ慣れるさ」


G3は普段彼等が使用しているM4A1とは操作系が大きく異なり、初弾装填や再装填(リロード)の際、“HKスラップ”という動作をする必要がある。普段と操作が異なる小銃を使う為にはそれに慣れる為の訓練が必要であるが、彼等は短機関銃(サブマシンガン)としてMP5を使用する訓練を受けているので、比較的簡単に転換できるのが、今回G3A3が選ばれた理由だ。


「AR-10の派生とか無かったのか……」


クロウはそうぼやくが、AR-10を近代化した物は基本的に特殊作戦向きの物で、一般歩兵に支給されるいわゆる“サービスライフル”ではない。

確かに操作系が同じの為M4から乗り換えるならAR-10が望ましいのだが、“7.62㎜NATO弾を使用する”“軍用サービスライフル”で、全員が操作方法の訓練を受けている物、そしてガーディアンの銃火器の在庫を考えた時に最も効率的と判断されたのがG3A3だった。


「他にも考えがあると思うぞ、本部(団長)の方はな」


「どんな?」


「さぁ?」


現場には現場の、上層部には上層部の考えがあるという事だろう。


そう話す彼等の横で、更に重い銃声が響く。腹に響くセミオートの銃声だ。

長い銃身の銃口近くの雪は舞い上がり、親指程の太さの空薬莢が雪の上に落ち、キュウと小さな音を立てて湯気を上げる。


射撃しているのは第1分隊マークスマンのナターリエ、彼女が伏射(プローン)で射撃しているのはM107A1、12.7㎜の対物狙撃銃だ。巨大な熊に対抗する為、口径・破壊力のある火器が配られた形になる。


他にも近距離で交戦した場合に備え、予備武装として3インチマグナムスラッグ弾を装填したベネリM4が配布されている。


プレートキャリアのポーチもだ。

実戦テストという形で支給されていたATS Aegisプレートキャリアに取り付けられていたポーチは5.56㎜、主にSTANAG弾倉用のポーチであったが、これも7.62㎜用のポーチに換装されている。


これもATS Aegisプレートキャリアが“プラカード”システムを装備しているプレートキャリアであり、迅速な装備の換装が可能という特徴を持つからこそ可能な事だろう。


装備正面、脇腹部分(カマーバンド)を挟み込み、マグポーチを取り付ける部分がSwiftクリップと呼ばれるバックルで連結されるプラカードモジュールになっており、このモジュールをミッション毎に簡単に換装する事が出来る戦闘システムである。


実戦テストという点でボヤいていた隊員も居たが、これのお陰で素早く容易に装備を切り替える事も出来たのだ。


「よし、第2分隊と訓練を交替しろ!第1分隊は北側で防御陣地の構築に入れ!」


「了解」


第1分隊の面々がG3にセーフティをかけ、マガジンを外しコッキングレバーを引いて溝に引っ掛けて保持、薬室(チャンバー)から抜弾と薬室内を空にした事を確認すると、コッキングレバーを弾いて薬室を閉鎖する。


「じゃ、第2分隊呼んできますんで」


訓練を交替する為にクロウが分隊を率いて村の北側の橋のたもとまで行くと、第2分隊が川の向こうで作業をしている所だった。


小隊長のシュバルツと猟師達、長老の見立てでは、熊は必ずこの橋を通って南に向かう。水に濡れずに食料のある南に向かうにはこの橋を渡るしかないからだ。


闇雲に探しても遭遇率は低い、更に村の守備の為に部隊を一度に動かせない事から、捜索すれば必ず部隊は分散し、火力が制限されてしまう。

その為この橋で()を待ち伏せ、火力で圧倒して仕留めると言う作戦に出る事にした。


「サイモン、聞こえるか?」


『聞こえる、どうした?』


「射撃訓練を第2と交代する、戻って南の射場に行ってくれ」


『了解、すぐに向かう』


長さ90m程度の橋の向こう、彼等は対岸でチェーンソーを使って木を伐っていた。


銃という兵器はその性質上、射界の確保が重要になって来る兵器だ。こちらの射線を確保し、相手の遮蔽を少なくする為、川のこちら()側に積み上げていた。

今、最後の1本を切り倒し、対岸()側の切り株が7つになったところだ。


第2分隊は伐採した木を10式雪上車に繋いで牽引し、橋を渡る。


「小隊長が呼んでる、練習してこい」


「お前はもういいのか?実戦になって操作間違えたって知らねーぞ」


「抜かせ、早く行けよ」


「はいはい……」


第2分隊は雪上車と伐採した大きな木を適当な所に置くと、第2分隊は持っていたベネリM4とG3A3を持って射場の方へと歩いていく。


残された第1分隊の仕事は、橋の入り口に防御陣地を構築する事。


「ロバートの班は橋の右に、俺の班は左にそれぞれ陣地を構築しろ。チェーンソーは雪上車にある筈だ」


雪上車に積まれたチェーンソーで丸太を切断、雪に埋めて固定したり、簡易的な遮蔽を作る。現状山賊の襲撃は無いが、もしそうなった場合飛び道具から身を隠せるようにだ。


そして橋の左右に防御陣地を構築、そこに据え付けたのはブローニングM2重機関銃だ。

陣地には継続して射撃可能なように予備の銃身と弾薬箱を配置。さらには橋の目の前に89式装甲戦闘車を移動させ、準備完了だ。


「で、本当に都合よく来るのか?」


M107A1を携えるナターリエが問う声は疑問を抱えている様だった。


「来なければ作戦の前提が破綻する、食料の少なくなった熊がこの橋を通って食料のある南に向かう、これに賭けるしかない」


相手は野生の生物だ、そう簡単に相手の動きを制御出来るとは思えないが……というのはクロウも思っている事だったが、小隊長に勝算があるならそれを全力で支えるのが俺達の仕事だ。


「さぁ、かかってこい。相手になってやる」


橋の向こうの雪に覆われた森を睨みつけながら、クロウはそう呟いた。

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