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第193話 山賊対処

「来たぞ」


森の切れ目に身を隠していた6人は輸送機へと気象データを送信し、空挺投下ポイント(DZ)を確保していた。先程発射したグレネードが雪の上で赤いスモークを上げ始め、着地地点を示すと共に、風向風速を知る目安となる。


輸送機の姿が見えてくる、機体のドアは開いたまま、そのドアから次々と空中にパラシュートが花開く。灰色に濁ったような雪雲が覆う空に咲く、50数個のオレンジ色の花。その花の下についているのは、それぞれ1人1人の人間だ。


C-130Jがチームの頭上を飛び去り、エンジンの轟音を残して雪雲の上へと消える、どこからか聞こえる護衛のF-14Dのジェット音も遠ざかっていくのを感じた。


「メルヴィン、どうだ」


「全隊着地に成功、現在集結中。……あと30……いや、45分ってところか」


「それまでにここを空けさせよう、部隊指揮官と合流するぞ。皆、移動だ」


「了解」


Crye Precision G3コンバットパンツにコンバットシャツ、その上からJPC2.0を着こんだ彼等は、装備こそマルチカム迷彩だが、その上から着ているジャケットや背負っているバックパックのカバーは“マルチカム・アルパイン”と呼ばれる白いマルチカムである。


彼等はスリングでライフルを下げ、近くに隠してあった小さなソリを取り付けたスノーモービルに跨る。ライフルは全員M4A1をベースにしているが、それぞれセットアップが異なっている。


「テスラ1-1、へ、こちらジュピター。北側からそっちに接近する。撃つんじゃないぞ」


無線で彼らに呼び掛ける、やや時間があり、発信のノイズの直後に答えた。


『こちらテスラ1-1、北からだな?了解した』


彼等こそ、第2小隊を誘導する精鋭、ガーディアン空軍特殊作戦チームである。


スノーモービルのエンジンをかけ、ハンドサインと共に走り出す。1台に2人が乗ったスノーモービルは、降下して集結中の第2小隊に向かって雪原を走って行く。


「味方だ!味方だ!」


パラシュートを畳む隊員の元にスノーモービルで走り寄り、声を掛ける。


「指揮官は?」


「ラインハルト大尉はあちらです、今お呼びします」


隊員が無線で、小隊の指揮官であるラインハルトを呼ぶと、既に集結していた隊から1人がやってきた。


「第2小隊小隊長、シュバルツ・ラインハルト大尉だ」


「空軍CCT、メルヴィン大尉だ」


2人が敬礼を交わす、寒い中だし用事は手短に済ませようとメルヴィンは笑う。


「あと30分で後続の輸送機が到着する、同じLZを設定している為ここを早めに空けたい。部隊を集結させて退避させてくれ」


「分かった、誘導感謝する。各分隊は集結後、小隊本部に集結!」


シュバルツはメルヴィンからそう言われると、各分隊に繋いでいる無線機で送信する。初めての、しかも本来の兵科ではない実戦での空挺降下だ、多少の混乱はあれど、既に大まかに分隊毎に集合しているようにも見える。


「素早いな」


「2週間でこればかり訓練していたからな」


あんた達には敵わんが……と呟く様に言うシュバルツ。

メルヴィン達は空軍特殊作戦部隊だ、作戦地域への進入が空挺降下になるのは殆ど毎回の事である。


それに対して、今回作戦でという形で初の実戦での大規模空挺作戦になる第2小隊は、初めてにしては上出来だろうとメルヴィンは思う。


「雪原の中央を空ける!小隊退避!」


メルヴィンがスノーモービルで部隊を先導、降下した部隊はスキーも履いていない為、動きは遅いが確実についてくる。


そして雪原の端へと退避、再度各分隊を掌握している間にジュピター分隊も情報を整理する。


「ウィル、風は」


「……一応安定はしているが4ノットの風がしばらく続く、突風には注意した方がいい」


ウィル、と呼ばれたのはジュピター分隊の特殊作戦気象チーム(SOWT)、ウィリアム少尉だ。作戦に必要な気象データの収集、解析と予報の作成が任務の彼らはここ数日の気象データを元に風の強さ等を分析していた。


「下ろすなら今ってことだな……ジェイク、輸送機との連絡は?」


「大丈夫だ、繋がる」


メルヴィンと同じ戦闘管制官(CCT)のジェイクは、無線のアンテナを調整しながら頷いた。ウィリアムはPTTスイッチを押し、輸送機との回線を開く。


「リーチ81、リーチ81、応答せよ、どうぞ」


短い沈黙の後、輸送機の姿は見えないものの、無線が答えた。


『こちらリーチ81、聞こえる。リーチ82、83、84を伴って現在4機』


機械化歩兵小隊の戦闘能力を運んできた3機の輸送機を降下地点(DZ)に誘導、装備を下ろして機械化歩兵に戦闘能力を与える、それが彼等の役割だ。


「了解、降下地点をスモークでマークする」


メルヴィンはジェイクに目配せすると、彼は持っていたGL-06グレネードランチャーを発射、擲弾は雪の上へ落ちると、赤いスモークを上げ始めた。


「風向010、風速4ノット、突風あり、留意せよ」


了解(Roger)、侵入を開始』


雪を運んでくる風の音に混ざって聞こえてくるジェット音、護衛についているF-14Dが前方哨戒を行っているのだろう。


灰色の雲の向こうに馴染んで消えそうな機影を確認、整ったフィンガー・チップ編隊で進入してきたのは、ガーディアン空軍のC-17ER、コールサインは“リーチ”だ。


降下地点(DZ)確認、速度、高度維持』


C-17は後部ハッチを開けたまま、フラップを最大展開して低速で雪原上空へと到達する。


『リーチ81、グリーンライト!投下!投下!』


C-17の後部ハッチからパラシュートが飛び出し、空気抵抗によって搭載貨物が引き出される。パレットに固定された89式装甲戦闘車が4輌と、小隊本部のFV105サルタン指揮統制車、補給チームのFV103スパルタンと牽引用のトラクターが空中へと放り出され、引き出された大量のパラシュートによってゆっくりと降下して来た。


『リーチ81、離脱する』


「リーチ離脱、了解」


3機のC-17は荷物を運び終え、甲高いジェット音を残して旋回、雪雲の上へと消えて行った。


未だ空中を漂う10個のパレットは多量のパラシュートに支えられ、降下速度はゆっくりと表現しても良い。パレットには30t近い装甲車両が乗っているにも関わらず、だ。

その上、89式装甲戦闘車は元々空挺投下に対応した車輌ではない、そんな車輌をそのまま投下したら着陸の衝撃で兵装や電子装備、走行装置に不具合が出る事は間違いないだろうと言うのは容易に想像出来る。


ではガーディアンではその問題をどう解決したか。


地上から50m程の高度まで降下した時、パラシュートの根元から市場に向かって火を噴いた。

ロケットモーターである、技術部がロシア空挺軍の装甲車両の投下から着想を得て今回実装された装備だ。

多数のパラシュートとロケットモーターでパレットは更に速度を落として地上に降りて行く、そして地上に接地する直前、ボン、と破裂音と共にパレットの下側が爆発する。


自爆したのではなく、火薬の力で展開されたエアクッションだ。


多数のパラシュート、ロケットモーター、エアクッションと、着地の衝撃で車輌が壊れる様な事の無いようにと、“空挺投下に対応していない89式装甲戦闘車を絶対に安全に空挺投下させる”為に複数の手段を用意していたのだ。


よく見れば、車体とパレットの間には緩衝材の様な物があり、徹底されているな……とシュバルツは思った。


「我々は周辺を警戒する、安全に荷ほどきを進めてくれ」


「了解、助かるよ。……各分隊!IFVの展開作業に掛かれ!」


雪の降りしきる中、シュバルツは小隊に向けてそう叫ぶと、小隊は分隊に分かれ、それぞれの戦闘力の要である89式装甲戦闘車の荷ほどきに掛かる。シュバルツ率いる小隊本部分隊は通常の歩兵分隊9人より1人多い10人だが、車両はFV105サルタンが2輌、それだけ展開に掛かる一人当たりの作業量の負担も増える。補給チームは更に人数が少ないので、荷ほどきを終えた分隊から手伝いに入る。訓練で培ったチームワークだ。


分隊毎に雪上迷彩が施された89式装甲戦闘車をパレットに固定しているケーブルを外し、操縦手が乗りこむとエンジンの暖機運転を始める。低気温環境下でもエンジンは問題なく作動した。


よく見れば89式装甲戦闘車も細部が微妙に異なる、車体は共通装軌車体の物に換装されており、砲塔側面の誘導弾(ミサイル)のランチャーも、79式対舟艇対戦車誘導弾から中距離多目的誘導弾に換装されている。それに合わせてヴェトロニクスの改良も行った、電子機器が増えた分電力使用量も増えたが、共通装軌車体のエンジンの出力が以前よりも上がっていた為、エンジンの発電量で足りる様になり、補助動力装置(APU)は搭載せずに済んだようだ。


見た目こそ89式装甲戦闘車にそっくりだが、より進化を遂げた歩兵戦闘車(IFV)となった。


パレットから降りた89式装甲戦闘車がシステムチェックを行う、分隊の兵士はまだ乗せず、雪の上で沈みこまない事を確認する。履帯で走る装甲車両は接地圧で装輪式よりも優れているので、雪や泥濘でも沈み込みにくい。

FV103スパルタンとFV105サルタンの後部には牽引式の野外炊具車と水トラック、装具や補給物資を搭載した牽引トレーラの接続も完了した。


準備が整った分隊から89式装甲戦闘車に乗り込み、準備完了の報告が次々と上がって来る。それをFV105サルタン装甲指揮車の中で聞いていたシュバルツは、部隊指揮官として機械化小隊に命令を下す。


「了解、こちらテスラ01、ジュピターチーム、先導してくれ。カタフラクト1-1と1-2、ジュピターチームに続け。1-3、1-4は後方へ」


機械化歩兵


『了解、麓の村まで案内する』


『カタフラクト1-1、続きます』


空軍特殊作戦チームのスノーモービルの先導に続き、7輌の装甲車は深い雪にわだちを残しながら森の中へと消えて行った。




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本来戦車とセットで運用される機械化歩兵が戦車無しで投入されるケースも少なくはない。

今回はこんな山の中に主力戦車(MBT)を持って来られるはずもなく、歩兵戦闘車(IFV)と機械化歩兵のみの投入となった。


空輸するにも受け入れ可能な空港は無く、不整地着陸も雪が深くて不可能、間違いなく事故になる。空挺投下も、30t以下の歩兵戦闘車と50tを超える主力戦車(MBT)じゃ話が違う。


空挺部隊には空挺部隊の、機甲部隊には機甲部隊の戦い方がある。機械化歩兵部隊を空中投下するのは間違っているというのは何度も述べている通りだが、ガーディアンの歩兵の頭数が少ない以上、こういった無茶で無謀な方法を採るしかないのだ。


共通戦術装軌車体に換装され、いくらか広くなったとは言え、武器、弾薬、物資等を満載した車内に完全武装の兵士が6人のすし詰め状態。それに防護性向上の為ペリスコープも必要最小限しかない、閉所恐怖症の隊員なら発狂しそうだ。


ガーディアンの機械化歩兵分隊は9人、分隊長、副官、LMG手、擲弾手(グレネーダー)2人、ライフルマン4人、マークスマンで、その内副官、ライフルマン2人がそれぞれ歩兵戦闘車(IFV)の車長、操縦手、砲手を務める。


米軍では分隊長が車長を務め、下車戦闘の際は車長が降車して下車戦闘を指揮、砲手が車長を兼ねるのだが、降車した分隊を指揮する必要があるのと、歩兵戦闘車(IFV)の火力や情報収集能力は可能な限り保っておきたいので乗員から下車戦闘に人数を割くのは避けたい事。ガーディアンでは副官は通信手(ラジオマン)を兼ねるので、副官を通信役として乗車させたままの方が望ましい事からこの編成になっている。


静かな森をディーゼルエンジンの音が割るように進み、雪を踏み締めてコンボイを組んだ装甲車両。89式装甲戦闘車は前方、両側方、後方に砲塔を向けながら進み、前方2輌と後方2輌に挟むように2輌のFV105サルタンと1輌のFV103スパルタンが入る。指揮通信タイプのFV105には車両には5人ずつの小隊本部班が、兵員輸送タイプのFV103には4人の補給隊員が乗っていた。


「こりゃ装輪じゃスタックするな、間違いない」


1号車、カタフラクト1-1に搭乗したクロウ・ラッツェル少尉の分隊の副官、ロバート・へリントン曹長が車長用のハッチから顔を覗かせて呟く。


「おまけに寒いし」


「まさかこんな離れた場所に生きてるうちに来られるとは思いませんでしたよ」


異世界出身の砲手の男性隊員が隣でそう言う、砲塔に手を置こうとした彼をロバートは引っ込めさせた。


「おい素手で触るな、張り付くぞ」


車体が低温になっていると、素手で触った際に掌と車体の間の水分が瞬時に凍り付き、張り付いて凍傷になる可能性がある。


「あ、すみません」


「気を付けろ。……けどまぁ、ガーディアンに居たら色んな所に行けるかもな。航空機もあるし、団長は鉄道も敷設するつもりみたいだし」


異世界の交通手段のそれとは比較にならない程、現代技術を持ったガーディアンは速く、遠くまで行く事が出来る。


「テツドー?」


「車輪が軌条(レール)の上を走る事で早く遠くまで大量にものを運べる輸送手段の事だ、鉄道があれば西部への補給も楽になるだろうしな」


現在西部方面隊への補給はほぼ空路に依存している、航空機は天候に左右されやすい為、以前の大雨の際は輸送機が離陸出来ず西部方面隊に補給を送れなかったことがある。


色々考えてるんだろうな……とため息交じりに呟く彼に、砲手が新たな話題を振ってきた。


「そう言えば、俺達が今から行く集落って……」


「団長が西部の作戦で解放した捕虜の故郷だそうだ、彼等が案内してくれる。いきなり追い返される事は無いだろ」


前を走るスノーモービルを顎でしゃくるロバート、視線の先は空軍特殊作戦チームが居る。

彼等は先んじてこちらに降下し、気象、地形の観測とデータ収集を行いながら現地民との協力関係を築いていたのだ。


人心獲得作戦(ハーツ&マインズ)、特殊部隊の最も重要な任務の1つで、彼等がその任務を行い、現地民からの理解と協力が得られるからこそ、作戦をスムーズに進める事が出来るのだ。


暫く雪の中を進むと、前方が少しずつ開けて来た。だが少し様子が変だ。

進行方向先に確かに集落はあるのだが、集落外縁部に位置する家屋の何棟かは人気(ひとけ)のない廃屋(はいおく)のようだった。


「これは……」


「山賊の被害だな……全隊ヘリンボーンで警戒、停止しろ」


トラビスがFV105の上部ハッチを開きそう声を漏らす、シュバルツが停止を命じると、縦隊から交互左右に分かれるヘリンボーン隊形に分散、警戒に入る。


「メルヴィン大尉、聞きたい事がある。この廃屋は以前からあったか?」


『あぁ、俺達が来たときには既にあった。山賊の被害だと思われる』


FV105サルタンから降車しながらメルヴィン大尉に通信を繋ぐシュバルツ、ジュピターチームと合流する為だ、ヘルメットを脱ぎながら情報交換を行う。


「君らがここへ来てから山賊の襲撃はあったか?」


「いや、無い。襲撃が激しくなったと言っていたが……」


相手側も戦力を温存したいのか、それとも山賊は勝手にくたばってくれたか……思慮を巡らせるシュバルツの肩をメルヴィンは叩いて気付かせる。


「とりあえず長老に挨拶だな、こっちだ」


「あぁ、トラビス、ハレル、ネリア、着いてこい。残りはこの場で待機、低温に注意」


「了解」


副官のトラビス、通信手のハレル、ライフルマンのネリアを連れて、シュバルツは集落の長老の家へと足を向ける。


この辺りで最も大きい家だった、とはいっても屋敷のような物ではなく、床が少し高くなっている平屋建ての建物だが。


メルヴィンがドアを叩くと、中から出て来たのは今回の依頼人、アレクト本人だった。


「早かったな、外は寒い、入ってくれ」


「留守の間大丈夫だったか?」


「物見の連中からの連絡は無いし、問題も無かった。……随分大勢連れて来てくれたな、助かるよ」


アレクトは招き入れながらメルヴィンの問いにそう答える、長老宅は温かく、魔術ランプによって暖色の灯が照らしていた。


廊下を進み、ある部屋の前にアレクトが立つと、彼が部屋の中へと声を掛けた。


「長老、連れてまいりました」


「……入れ」


アレクトが「失礼します」と言ってドアを開け、入るように促す。室内は土間の様になっており、囲炉裏を頑強そうな中年の男数人と髪の白く皺の深い老人が囲んでいた。

丸太を輪切りにしたような椅子に座り、神妙な表情を浮かべている。


「長老、ガーディアンの主力部隊です」


「来てくれたか……座るといい」


空軍特殊作戦チームが先に話を着けておいた上に、ハーツ&マインズで集落の人達と交流してくれたおかげで反発も無さそうに見える。


「ガーディアン第2小隊、小隊長のシュバルツ・ラインハルトです」


「話は聞いておる……山賊対処、であったな。ここに居る者は山岳民兵と優秀な猟師だ、彼等と協力して貰いたい……」


長老に促されて腰掛ける4人、隣に座る髪の黒い屈強そうな男と、灰色の髪をした鍛えられた初老の男が握手を求めて来た。


「この辺りの民兵を纏めてるハイドだ、よろしく頼む」


「俺はムロイ、猟師をしてる」


「よろしく」


黒い方がハイド、灰色のエルフの方がムロイ、シュバルツが頭の中で2人の印象を反芻する。

その場に居た数人の民兵とも挨拶を交わす、元々この周辺には集落が点在し、それぞれが自警団を持っていたが、指揮系統がバラバラで実際の防衛戦等で混乱が起こった為、それを“山岳民兵”として一本化、部隊としての運用を始めたのが山岳民兵の起こりである様だ。


「で、それをやったのがここに居る長老、って訳だ」


「効率的な防衛の為の部隊運用……慧眼ですね、感服致しました。司令部はこちらですか?」


「いや、山の上にある。岩をくり抜いた砦が司令部だ」


「山の上?」


首を傾げたシュバルツに、長老が見せてやれと言いたげにアレクトに指示すると、アレクトが立ち上がって窓を少し開ける。シュバルツもそれに続いた。


「あの山の上の方だ」


シュバルツはバックパックから取り出した双眼鏡で、アレクトが指差した山の上の方を見る。岩肌が剥き出しになったような岩山が雪の向こうに微かに見えた、あの辺りに砦の様な建造物は無かったよな……と思いながら探していたが、砦らしい建物は見えない。


「あの砦はこの辺りの集落の多くが良く見渡せる、司令部にするにはぴったりだ」


アレクトはそう言いながら窓を閉める、座り直すと、周辺の地形を猟師のムロイが土間に木の棒で簡単に図を書いて説明した。


「俺達が居るのはこのミシベツ村だ、ここから西に2㎞いった所に司令部がある。ここより北は小さな集落があって、それぞれカザ地区、トミナ地区、ルルド地区と呼ばれてる。北東に4㎞行くとサルース村とベルセイ村、南西に5㎞行った所にラカタ村。目印になる人口密集地帯はそんなところだ。これより遠い所はこの時期は行けない」


個人用端末(モバイルガジェット)を取り出し、地図の集落群と名前を同期させる。ムロイの説明と大体同座標にそれらしい集落を見つけ、地図に名前を付ける。個人端末の情報はすぐに共有される。


他にも集落はあるにはあるが、本当に家が2、3軒並んでいるだけだったり、距離が5㎞以上離れていたりする集落が多い。


「部隊を分散させる訳にもいかないから、山賊襲撃に備えて、ある程度周辺の集落に避難させて纏めてる」


ハイドが補足する様に言う。戦力を分散させると防衛力を確保しきれない、戦力を集中させる為に避難させるのは村人を確実に防衛する為だろう。


「山岳民兵は全部で何人だ?」


「200人もいない、全ての村に部隊を張り付けるのは当然足りないし、公国を警戒しない訳にもいかないから砦から部隊を引っ張って来ることも出来ん」


「200人?……よく夏の間部隊が保ったな……」


「もっといたのだが、公国との戦闘で消耗してしまってな……奴らが本格攻勢をかけてくる前に冬になって良かった」


実戦経験は豊富だが、その実戦で部隊は消耗していく。冬が来なければ持ちこたえる事は出来なかったと他の民兵も呟く様に言った。


「部隊の配置は?」


「サルース、ベルセイ、ラカタに30人ずつ送って防御陣地の構築をしている。残りはここと砦。それから各地区と連絡の為の伝令を1日1度往復させてる」


山岳民兵の数が少ない以上、これ以上戦力の分散は出来ないだろう。


「君達にはこのミシベツ村の防衛を任せたい。アレクトが見たガーディアンの力、頼りにしてるぞ」


「お任せを」


ハイドからの指示を受け、こちらの動向と民兵全体の部隊配置の見直しに入る。ガーディアンがこの村の防衛に回れば山岳民兵の手は空く、空いた手で別の村の防衛を強化する事が出来る。


空軍特殊作戦チームが最初に話を付けてくれたおかげで、ガーディアンの部隊は拒まれる事も邪険にされる事も無く、話し合いと交渉はスムーズに終わった。


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