第188話 本部部隊観閲
臨時の会場は露店通りからは少し離れた基地の西側に設けてある、俺達は基地の正門を出て右折し、基地を東からぐるりと1周、西側の会場に南側から入る。
雛壇は西に向いている為、雛壇の招待客から見たら俺は会場左手から進入して来る形になる。もちろん俺から見て雛壇は右側だ。
雛壇はあまり高くない物だが、会場は良く見えるだろう、俺からもレムラス伯爵やワーギュランス公爵、定例会議の時に“お世話”になったノイマン伯爵や、ワーギュランス公爵の友人の公爵も見える。
王女殿下の姿は見えないが、代理で来ているカイの姿はある、殿下もまた多忙なのだろう。
そんな俺が小隊して招待客の雛壇に向けて、ゆっくりと走るSOVから敬礼をする、俺は軍人じゃないが、俺の知っている閲兵はこれだけだった。
『ガーディアン団長、ヒロト・タカオカが入場してきました。団長として全部隊を指揮するだけでなく、自ら最前線で戦う勇敢な兵士でもあります』
……なんか、恥ずかしいな、そんな紹介のされ方……
雛壇を前を端まで移動すると、正直あまり目立ちたくない俺はSOVから降りてそそくさと台の上に立つ。台の上は雛壇に対して背中を向け気味な為だいぶマシだ。
『最初に進入してきましたのは、ガーディアン歩兵中隊です』
アナウンスと共に、俺が入って来たのと同じ方向から部隊が進入して来る。
M4A1を控え銃、胸の前で両手で斜めに持つ姿勢のまま、4列縦隊で行進し、俺の前を通り過ぎる。
実はこの行進は完全編成の1個中隊ではない、第1小隊が欠けているからだ。数は後方支援部隊から紛れ込ませて誤魔化している。
第1小隊は特殊部隊だ、覆面を着けさせた所で、易々と公開して良い部隊ではない。
歩兵部隊の後ろには、M2重機関銃を銃座に据え付けたピラーニャⅣ、Ⅲから更新した装甲兵員輸送車が8輌で、その後ろに同じ数の89式装甲戦闘車が続く。この強力な装甲車達も、歩兵と共に戦うので歩兵部隊の配備車輌だ。
それだけではない。
『続いて進入してきましたのは、対装甲機動中隊です』
対ドラゴン戦やラプトルの森、ジャララバードの戦いで活躍した対装甲機動中隊がそれに続く。105㎜の戦車砲を搭載した“装輪戦車”とも呼ばれる事がある9輌の16式機動戦闘車と、カノーネン・アンキールを一撃で撃破出来るBGM-71 TOW対戦車ミサイルを搭載した9輌のLAV-ATで構成される中隊だ。
この中隊も戦車部隊の様だが、基本的には歩兵に火力支援を提供する部隊だ。本来であれば“対戦車中隊”名付けるところだが、この異世界に戦車は居ないのでこの名前の部隊となっている。
『その後方、迫撃砲中隊が進入して来ました。歩兵部隊を迫撃砲により火力支援を行います』
81㎜迫撃砲を搭載したLAV-Mが16輌、1個迫撃砲小隊に4輌のLAV-Mが配備されている、歩兵部隊遠距離火力の要だ。
歩兵部隊は、歩兵戦闘車を含む歩兵中隊、対装甲機動中隊、迫撃砲中隊によって構成されている。町や土地を守る主役と言えるだろう。
『続いて進入して来ましたのは、機甲中隊です。走、攻、守の揃った戦車を装備し、敵装甲戦力を撃破すると同時に、歩兵の盾として戦闘を行います』
数を誤魔化している為8輌と少ないが、砲塔側面に“士魂”のマーキングが施された90式戦車が2列縦隊で雛壇前を横切る、履帯を踏み鳴らし、地面を揺らして突き進む戦車は、異世界人から見たら怪物の様に見えるだろう。
行進なのでゆっくりと進んでいるが、あの巨体で時速70㎞以上で走る事も出来るのだ、あんなの相手にするのは俺だって怖い。
ガーディアンでは1個中隊14輌の90式戦車の機甲部隊を有しており、中隊長は先頭の90式戦車の車長席で雛壇に向けて敬礼している池田末男少佐だ。
『続きまして、砲兵大隊が進入してきました』
小野寺大地中佐率いる砲兵大隊は、牽引式のM777A2 155㎜榴弾砲12門と、99式自走155㎜榴弾砲12輌を備える砲兵大隊だ。
『射程の長い榴弾砲を装備し、仮にここから射撃しますと、シュルム街まで届きます』
「シュルム街まで……」
「さっきのセンシャと似てるが、違うものなのか」
「さっきのはキコウ、今のはホウヘイだから、役割が違うのか……」
武官寄りの貴族は流石に鋭いな、役割の違いを察するとは。
その通り、戦車と自走砲は役割は明確に違う。目の前の敵を撃つか、遠くの敵を撃つかだ。
更に機甲部隊に追従して火力支援を行う為の自走砲と、柔軟な機動力を発揮する牽引砲の中でも特に軽量で、UH-60の様な中型ヘリでも空輸可能なM777A2で役割を分けている為、どんな状況でも砲兵火力を前線に提供出来るようにしている。
因みに、ついこの間まで砲兵はガーディアンで唯一の“大隊”だったが、もう違う。
『その後方、工兵大隊が進入してきました。道を拓き、作戦の障害となる物を排除したり、陣地の構築を行います。洪水の際は、渡河支援、瓦礫の撤去で活躍しました』
戦闘工兵、建設工兵、渡河・交通の各中隊に大隊本部で構成される工兵大隊が、ガーディアンで2番目の大隊となった。戦力整備で編成を補強した形になる。
戦闘工兵中隊はM9ACE装甲ブルドーザーや施設作業車、91式戦車橋を装備している。地雷原処理用のロケットを積んだ車輌は確かに派手で目を引くかもしれないが、異世界には地雷の脅威はまだ存在していないので配備されていない。
任務は爆薬を仕掛けて障害や敵を排除したり、地雷を敷設したり、橋を爆薬で落としたりなど、他にもあるがどうしても戦闘工兵は“爆破”のイメージが付いて回る。
建設工兵中隊はパワーショベルやブルドーザー、ローラー車、クレーン等、よく使われる重機がOD色に塗られている。任務は戦闘の及ばない場所での陣地構築、簡易飛行場の設営、インフラの建築・維持等、土建屋の様な仕事が多い。戦闘工兵の任務と重複するが、陣地構築も建設工兵の任務の1つである。
また、特殊な任務として測量や地図の作成がある。平時からの任務で、周辺地域だけでなく、偵察機からの情報を元に敵地の観測も行い、戦闘を優位に進める為には欠かせない。
渡河・交通中隊は92式浮橋や07式機動支援橋、パネル橋MGBにベイリー橋等を装備し、とにかく「橋を架ける」事に特化している。
橋がそれほど頑丈ではない異世界において重要な存在であり、河を渡る為に無くてはならない存在だ。
交通隊としての任務もある為道を作る装備も有しているが、メインは渡河である。
任務が特殊な為機材も多く、また人数も多い為砲兵大隊よりも大部隊に見える。
『続いて進入してきましたのは、後方支援大隊です。整備、補給、輸送からなる3つの中隊と、通信小隊、衛生小隊で構成されます。災害の際、避難所の設営や生活支援に活躍しました』
整備中隊、基本編成である4つの小隊と中隊本部からなるのは他の中隊と変わらないが、火器、車両、通信、航空の整備小隊で編成され、基地の整備隊と異なり展開先へ出向いて整備を行う事も可能だ。また、擱座した車輌を回収する90式戦車回収車やLAV-Rも整備中隊の管轄だ。
補給中隊は弾薬小隊、燃料小隊、2個需品小隊からなる中隊で、燃料や弾薬を部隊に配分するのは当然なのだが、食事や風呂の世話をするのも任務だ。野外炊具セットで隊員に食事を配り、野外入浴セットで隊員の「心の整備」を行う部隊でもある。
特に生きていく為に欠かせない水を調達する為に、需品小隊には各種浄水セットが配備されている。水害でも大活躍した部隊だ。
輸送中隊は物資や装備、兵士を輸送する名前そのままの部隊だ。装輪車輌は戦略機動性が高いが、戦車や自走砲、歩兵戦闘車などの装軌式の車両はそうではない。長距離を移動する場合は特大型運搬車等が必要になる、また歩兵部隊に随伴する物資を輸送するLAV-Lを装備しているのもこの輸送中隊だ。
輸送部隊が無ければ、部隊は戦場に辿り着く事すら出来ない。
通信小隊は戦場での通信網の構築と言う重要な任務に就いている、現代兵器を主力とする我々は狼煙や篝火、伝令などでは無く、有線と無線の通信によって情報を正確に素早く伝達する。主力は無線通信でも、通信を中継する通信中継車や、司令部と衛星通信を中継する装備を持っており、彼らが居なければ通信も電子戦も行う事は出来ない。
加えてFOB内の有線通信網や、FOBと司令部との通信網の確保等、前線に出ることも多く、かつ重要度の高い部隊・兵の為、最も死傷率が高いとも言われているが、そんな彼らを守るのは歩兵部隊の仕事だ。
衛生小隊は部隊で発生した負傷や病気の治療を行うが、ガーディアンの衛生兵は治癒魔術を使用する魔術師が多くを占めており、現代兵器を装備しているガーディアンの中では異色の部隊だ。
もちろん通常の衛生兵の様な治療も行うし、それに対する訓練も十分に行っている。だが負傷に対して現代的な治療を行うより、治癒魔術を掛けてしまった方が怪我の治りも早く、痛みも少なく、元通りになるほど綺麗に治る。魔術が現代技術に対して優っている数少ない点を、ガーディアンでは生かしている。
それだけでは無く、ピラーニャをベースにした装甲救急車も装備している部隊でもある。
マルチカム迷彩の作業服を着ているものの、彼らの多くも魔術師だという事だ。
『続いては、防空中隊です。展開部隊を、中・近距離で翼竜などの経空脅威から防御します』
車体を90式戦車と同じ物に換装し、機関砲脇にスティンガー近SAMを搭載するなど改造を施した87式自走高射機関砲6輌の小隊が2個、LAV-25シリーズの対空タイプであり、25㎜ガトリング機関砲と4連装スティンガー発射機2基を搭載したLAV-AD 6輌の小隊が2個、レーダー車1台、射撃指揮車1台、重装輪回収車をベースに6発のミサイルを収めたランチャー車輌3台で構成されたNASAMSの小隊2個から構成される中隊だ。
この異世界では口から吐く炎や鋭い爪、竜騎兵の持つ竜槍で、手の届かない上空から攻撃してくる翼竜は地上部隊にとって脅威であり続けており、それらの脅威から部隊を守る為の中隊だ。
『上空をご覧ください、ヘリコプター部隊が進入してきました。汎用ヘリコプターUH-60Mブラックホーク、輸送ヘリコプターCH-47Fチヌーク、攻撃ヘリコプターAH-64Eがガーディアン・アパッチです』
防空中隊の行進が終わる直前、ヘリのローター音が大きくなってくる。
会場左手上空から、ダイヤモンド編隊を組んだ4機のUH-60M、4機のCH-47F、4機のAH-64Eが上空を通過する。
「空飛ぶ風車だ」
「おお、これは……」
見覚えのある貴族や招待客もいる様だ、それもその筈、今回の水害でもブラックホークやチヌークは救助と物資輸送に活躍した。そうでなくともガーディアンの歩兵部隊主力であった第1小隊はヘリを使った空中機動戦が得意だったのだ。
更にヘリの上空を2機のF-4E 2020ファントムが通過、これが現時点で公開できる地上・航空部隊の全てだ。
行進は部隊全体の行進は以上で終了するが、今ここの場に居なくとも、仕事をしている部隊は大勢いる。例えば今でも絶えず基地を運営している基地業務群や、会場の警備に当たる憲兵隊、今この瞬間も防空任務に就いている防空コマンドや、ナイトフォースやナイトストーカーズ、空軍STSを始めとする特殊部隊。彼らも合わせたガーディアンだ。
最後に、僅かに装飾の施された制服をばっちりと着こなした30人が、M16A2を“担え銃”で行進してくる。
ガーディアン憲兵隊 特別儀仗警護隊。
主たる任務は要人の警護ではあるが、特に来賓の中でも位の高い貴族や王族の護衛、監視に当たる部隊だ。ガーディアンでは主力小銃がM4A1である事を踏まえ、本来の任務である警護を行う際に他部隊と弾倉の互換性を持たせつつ、儀仗銃としてより見栄えの良いライフルとしてM16A2を使っている。
また要人警護だけでなく、戦死者が発生した場合や葬儀の際の弔銃隊としても機能する。先の水害でも、既に見つかっている死者を埋葬する際の弔銃を行った。
行進が雛壇正面で止まると、分隊長の号令と共に全員が雛壇の方を向いた。
「捧げー銃!」
号令、ザッ、と揃った音を立てて、一糸乱れぬ動きで捧げ銃を行う。
俺は壇上にあるマイクの電源を入れる、色々考えたが、ガーディアンをアピールするよりは、俺達が頑張って生き残っていこうと決めてから1年という事の方が大事だ。
「本日はお集まり頂きまして本当にありがとうございます、先の水害、心からのお見舞いと、亡くなられた方への哀悼の意を……」
「ガーディアンはこの度、設立から1周年経ちました。この街に来て、色々な事件があり、色々な任務があり、最初の1年とは思えないほど濃密な1年でした。そう言ったことがある度に、組織も、また自分も成長して来た様な、そんな気がします。これからも、そんな困難を、君達と乗り越えていきたい。この世界で、全員で生き残っていく為に」
========================================
「お疲れさん」
「本当に疲れた……慣れない事するもんじゃないな」
露店通り、喫茶店。
閲兵部隊が退場するとその場は解散となり、また各々が自由行動、又は決められた仕事へ戻っていた。
俺も今、演説とか言う緊張する慣れない仕事を終えて一息吐けたところだ。解散後、色々な貴族の方に挨拶して回ったが、出来ればああいう礼節が必要とされる所には居たくない……
「まぁ……これがどう出るかね……」
「私達と仲良くした方がいいと思うのか、それとも勝てると踏んで喧嘩を売りに来るのか……」
「喧嘩を売りに来るなら叩き潰すだけだ」
お待たせいたしました、とエイミーが完璧な振舞いで飲み物を持って来る。俺はコーヒー、エリスは紅茶を選んだ。
「ごゆっくりどうぞ」
俺達だから、では無く、誰にでも同じように対応するのがエイミーらしい。
「しかし……よくコーヒー派と手を組むことになったな」
「一時休戦だそうだ、私も驚いたが、主人である私達の要求が民の活性化なら共闘の方が効果的、だそうだ」
エリスは紅茶のカップに口を付ける、俺もコーヒーを一口。回転率を高める為に紙コップだが、変わらず美味い。
チラリとエイミーの方を見る、エイミーは優秀な従者であり、エリスの騎士団でエリスの補佐役でもあった。洞察力は優れているのか、その優秀さはガーディアンでも遺憾なく発揮されている。
「紅茶どうだ?」
「ん?」
エリスが顔を上げる。
「いつも通り美味いぞ、飲むか?」
「お、交換するか」
コーヒーと紅茶のカップを交換する、交換して飲んでみるが、いつもエイミーが淹れてくれる紅茶と同じ味がした。
「偶にはコーヒーもいいな」
俺が頼んだコーヒーを飲みながらそう言うエリス、あんまり声に出さない方がいいかもな、紅茶派のエイミーがこっち見てるぞ。
「私達は昼食を摂って午後だな……」
「またお偉方の相手か……」
周りに居て聞かれると困るので、小さな声で呟き再度カップを交換しながら言う。ゆっくり出来ないのは仕方ないが、エリスとの時間を取られると思うと仕方なくない気がして来る。
だが、招待客としてこっちから招待したのだから、すっぽかす訳にも行かないのだ。
「エリスとゆっくり回りたかったのになぁ……」
「また来年、今度は何日かの開催にすれば一緒に回れるだろう?」
「確かにな、そう思えば重い腰も上がりそうだ」
また来年、来年、来年。
また来年がある、エリスの口からまた来年と言う言葉が出て来るのは、こんなにも嬉しいものなのか。
「……ヒロト、頬が緩んでる」
「おっと」
ニヤけてしまっていたらしい、引き締めなくては。
ケーキでも頼もうかと思ったが、これから昼食なのでコーヒーだけで喫茶店を出る。それにしても急ごしらえの喫茶店にしてはよく出来ていたな、何故か女子は全員メイド服で接客していたが。
昼食は今回メインのファルの露店、ウナギの蒲焼で、濃厚なタレとふんわりとしたウナギの身が非常に美味かった、エリスも満足そうだ。
「あの泥臭い蛇みたいな魚がこんなに美味しくなるなんてな……」
こんな感想ももう3回目だ、満足して貰えたなら、ファルの露店にGoサインを出したのも良かったと思える。ファルの自信作なだけあって非常に美味しかった。
========================================
さて、今この時期に、このイベントを開催した目的は3つある。
1つ目は、水害で様々な物を失ったベルム街への支援、精神面でも食事の面でも、基地を置いているこの町への恩を返したい。
2つ目、団員たちへの激励だ、普段命を懸けて戦う為の訓練に励んでいる団員達に楽しんでもらい、設立1周年を祝う事。
最後の3つ目、各方面へのガーディアンのアピールだ。貴族、王族、ギルド、敵も味方も、呼べる貴族はかなり呼んだため、乗車場に指定した場所には20人以上の招待客が集まっている。
「トラックギリギリかな……」
「後から来るのがいなければ乗るだろ、多分……エリス、覆面しろ」
「了解」
エリスがダンプポーチに入っている覆面を被る、目だけ出ている上にブラックスモークのESS Crossbowシューティンググラスをしている為、顔は見えない。エリスはグライディア王国の海を挟んだ反対の大陸、ロート大陸では名が通っている“クロイス通商”の令嬢だ。身分が割れればそれを嗅ぎ付けたエリス実家サイドが迎えに来たり奪い返しに来たり、厄介な事になりかねない。
「お待たせいたしました皆様、これより“射撃場”にご案内いたします、案内の隊員に従ってこの荷台に乗ってくださるよう、お願い致します」
貴族たちは顔を見合わせる、特にノイマン伯爵を始め仕事で“お世話”になった貴族やギルドマスターはどこに連れて行かれるのか、何をされるのかと不安そうだ。
そんな事はしない、何も起きない限り、俺の右腰のホルスターに収まっているP226が抜かれる事は無いだろう。
貴族を手伝って73式大型トラックに乗せ、トラックを護衛するRSOVを運転するのは第1小隊第3分隊、車輌戦闘が得意なこの分隊も特殊部隊の為、全員が覆面をしている。
「何故彼らは覆面をしているのだね」
「彼らの就く任務は危険で特殊な任務です、顔が割れ、彼等の家族に危害が及ぶ危険を排除する為です」
第3分隊……と言うか、いわゆる“1期生”と呼ばれる隊員達は殆どが召喚者か元騎士団エリス派で構成されているが、全員が孤児である為、危害を加える家族などは居ないのだが、彼等の顔からエリスがバレる危険もある。
「それでは出発します、乗り心地はあまり良くないとは思いますが、しばしの辛抱を」
トラックの荷台には貴族連中を監視する隊員も乗っている、覆面していてもそれがレベッカ1等軍曹とルイズ曹長だと言うのは分かる。
頼む、そう頷いた後、俺も先頭の弾薬を満載したRSOVに乗り込む。エリスも車列後方に続くRSOVの方に乗り込んだ。
「さ、行こうか」
「これがどう出るか、ってとこですねぇ」
分隊長のストルッカの言葉を聞きながら、車列はゆっくりと山道を走り出した。
向かうのは基地の南、広大な山中に広がる演習場。
普段は戦車も走り回り、自走榴弾砲が最大距離での砲撃演習も出来る。戦闘機が上空で模擬空中戦を行い、ミサイルの発射実験も全力で行える。耕作には適さず、誰も統治したがらない都合の良い土地。
『団長、貴族の方々からいつ着くんだと質問が』
「もうすぐだ、あと3分くらいって伝えておいてくれ」
行先も知らされず、荷馬車に揺られたら怖いだろう。だが我慢して欲しい、事前にやる事は伝えてあるのだから。
俺は目の前に据え付けられている、弾薬がフル装填されたM240E6汎用機関銃のストックを適当に引き寄せる。一応先導の他に警備も兼ねているので、見張りは欠かさない。
森が開ける、コンクリートの地面に斜面になるように積まれた砂の山。射撃場に到着する。
既に第1分隊の火器小隊である機関銃分隊と迫撃砲分隊が準備を終え、俺達を待っていた様だ。当然の様に彼らも覆面をしている。
「じゃ、手筈通りに」
「了解」
RSOVから降りると、第3分隊の隊員は手分けして貴族をトラックから降ろすのを手伝った。
「ではこれより皆様には我々が使用する武器を見て頂きます、第3分隊、前へ」
号令をかけると、M4A1を持った彼らが近距離用レンジに整列する。使うのはシムニッション弾では無く、もちろん実弾だ。
貴族の方々は分隊より10m程下がった位置にいる、ここからだと射撃する彼らの様子がよく見えるだろう。
「では、射撃を開始します、大きな音がしますので、ご注意下さい」
標的は砂山の前に置かれた陶器の花瓶や壺、街の陶芸ギルドから廃棄予定の物を買ったものや、騎士団から買い取った廃棄予定の甲冑などだ。
射撃前の安全確認を終えると、射撃姿勢を取る6人の分隊。後は俺が命令を下すだけだ。
「目標正面、距離30m」
全員の視線が第3分隊か、標的に向く。
「射撃用―意!」
分隊員がM4を構え安全装置を外す、標的に向かう銃口は6つ。
「撃て!」
セミオートの銃声、通常の戦場で響く県がぶつかり合う音よりも遥かに大きな音に貴族達が反射的に耳を塞ぎ、顔を顰める。
しかしそんな事は気にも留めず、第3分隊の発射する5.56㎜NATO弾は陶器の皿を割り砕き、甲冑を貫き穴を空ける。
「こ……これが……」
続いてSAWガナーのウィンディとレベッカがM249を構える、ショートバレル、paraストックに換装され、ELCAN SPECTERDRが載せてあるその軽機関銃の照準は、短距離レンジに並ぶ壺と甲冑だ。
けたたましい連射音と共に打ち砕かれ、甲冑も穴だらけに、肩甲は飛んでいき、空薬莢の音に混ざって金属音を奏で、銃声に掻き消される。
「……何という事だ」
「どうぞ、こちらに同じ物が用意してありますので、是非お手に取って見て下さい」
簡易台にチェーンで括ってあるのはM4だ、マガジンは外してあり、手に取って見られるように2挺を用意してある。
ノイマン伯爵やワーギュランス公爵、武官出の貴族は進んで手に取った。
「こんな武器があるなんて……」
「鎧も役に立たん」
「この射程はどの程度あるのだね」
貴族の1人の質問が飛ぶ、どのくらい強いのか、と同じく意外と困る質問だ。
「そうですね……物によりますが、今彼らが持っている物では最大で500m程度でしょうか」
弓矢の射程の倍近い距離だ、この異世界で同程度の射程を持つ手持ち兵器は無く、大型弩砲や投石器の様な攻城兵器の射程に近い。
「ドラゴンも倒せる訳だ……」
「これを……1人1つか」
「最低でも1人1つですが、大抵は2つ持っています」
ライフルなどのプライマリ・ウェポンだけでなく、セカンダリ・ウェポンとして拳銃も持っているので、間違いは無い。狙撃手はスナイパーライフルを持つが、ボルトアクションは連射性が低く、拳銃とは別にPDWの様な短いアサルトライフルを持っている事もある。
「団長、準備が出来ました」
「分かった、それでは皆さん、一旦こちらにお集まりください」
射撃場とは反対向き、広く、遮る物が無い場所。1㎞程向こうにはレンガを積んで白く塗装し、見やすくした標的がいくつもある。近くにある青い球体は風船だ。
そしてそちらを向いている火器は3つ、ブローニングM2重機関銃、Mk.19mod3自動擲弾銃、M224 60mm軽迫撃砲だ。
「先程の様な大きな音がしますので、ご注意下さい」
覆面を付けた機関銃分隊の射手が、威嚇の様にコッキングハンドルを2回引く。
「目標、右のレンガ壁、射撃用意……撃て!」
さっきのアサルトライフルとは全く違う、重く腹に響く銃声だ。それも当然、使う弾は口径にして倍以上もある12.7mmの弾だ。
殺傷能力を持ったまま1㎞を飛び、レンガの壁に蜂の巣の様に穴を空けて突き崩す。
「あんな遠くまで……」
「だが見てみろ、さっきの手持ち武器より大きいぞ」
「きっと何人かで使う武器なのだろう」
鋭い、M2重機関銃を始め、ここに並んでいる兵器は複数人で運用する兵器だ。異世界の兵器に例えるなら大型弩砲の様なものだろう。
「次、グレネードランチャー、正面の風船群。射撃用意……」
「撃て!」
バムバムバムッ!と今までの銃とは全く異質な銃声、重機関銃よりも軽く感じるそれは、重機関銃よりも面の制圧に威力を発揮する擲弾だ。
連続で手榴弾が爆発したような爆発、破片が風船を一掃してしまう。どんな効果かは貴族達にも分かっただろう。
「何と!爆発魔術か!?」
「いや、魔力の流れはしなかった。これは魔術装具ではない……」
現代兵器の恐ろしい点はそこだ、戦闘において同等の威力の攻撃を行うには魔術や魔術装具が不可欠となるが、それらは魔術を使う為、魔力の流れが必ず発生する。
現代兵器は科学の力を使っている為、その流れが無い。不意打ちで致死性の攻撃が可能なのだ。
続いて歩兵の持つ兵器の中で最も火力が高く、最も射程の長い兵器、迫撃砲である。
「次、迫撃砲。目標、正面、1発、続いて5発。射撃始め!」
「1発、半装填!」
「半装填ヨシ!」
「撃て!」
「発射!」
射撃音の跡、キーンと響く音。これが伸び切った後、射撃班長の「弾ちゃーく……今」という号令。
弾着地になっているレンガの壁付近に命中し、爆音と共に土煙が上がる。
貴族たちは、その様子を唖然としたままただ見ていた。
「修正、右5。連続射撃、始め!」
号令と共に連続射撃が行われる、発射と同時に迫撃砲が音叉の様な鳴き声を上げる。
5発の迫撃砲弾が修正された通りにレンガの壁に直撃し、M2重機関銃で見せた以上の破壊力を貴族達に見せつけた。
「……こんな武器が……」
言葉を失う見学の貴族達、ガーディアンと仲良くするか、喧嘩腰で挑むか、どちらでも自由だが、各々がそうした結果を想像する様に黙り込んでいるだけだった。