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第183話 雨の日

雨が降っていた。


「ヒロト殿、すまないね、足元の悪い中」


「いえいえ、仕事ですので」


ベルム街東地区、レムラス伯爵の屋敷。

俺はいつものマルチカム迷彩の戦闘服では無く、紺を基調に黒いラインが入った制服に身を包んでいた。公式の場や偉い人との会談の時には制服を着る事にしている。身に着けているベルトも黒いRaptor(ラプター) Tactical(タクティカル)ODIN(オーディン) Mk.3 MINI-25ベルトに、色を合わせたホルスターとピストルマグポーチ、ダンプポーチとファーストエイドキット、警棒……とゴテゴテと言うほどでは無く、必要な物が必要なだけ、と言う感じの装備だ。


そして、そんな装備のそんな恰好という事は、ここがそう言った“ちゃんとした方が良い”場であるという事だ。


「先日の提案、改めて読んだが、どれも素晴らしい物だった。正式に定例会議でも承認されたし、あの様子だと王国の予算承認もすぐに下りそうだ」


「いえ、自分は伯爵の案を補完したにすぎませんから」


半月ほど前にレムラス伯爵と会談を行った、その際に提示されたのはこのベルム街の都市計画だ。


このベルム街は王都から見て北西に位置し、途中の山地を超えて来た西へと向かう商人の休憩場所でもあり、遥か北の山岳地帯から産出される鉄鉱石を王都へ運ぶ為の交通の要衝である。


街の北には西から南東に向かって流れるラスカ河があり、河から町へと入る運河があるが、喫水も浅く片側通行する程度しか運河の幅も無く、船着き場も然程広くはない。有り体に言ってしまえばこの町の水運は“交通の要衝”と言われる割には貧弱であった。


レムラス伯爵の都市計画の大きなピースはこの水運能力の強化であったが、技術力と人手の問題で計画は足踏みをしていた。


そこで白羽の矢が立ったのがガーディアンだ。


伯爵が目を付けたのはガーディアンの建設工兵部隊、部隊の再編成で工兵は1個中隊規模となっており、内訳は戦闘工兵小隊、建設工兵小隊、渡河支援小隊と中隊本部で、最適と言われたのは建設工兵小隊だ。


建設工兵はいわゆる土建屋だ、塹壕を掘ったり陣地を構築する築城任務、測量に兵站支援等、他兵科が戦うために必要な土木工事や建設任務等の殆どを担っており、その為油圧ショベルにブルドーザー、クレーン、ダンプトラック等様々な建設機械を保有し、それらを使いこなすスペシャリストだ。


伯爵はこの建設工兵小隊に協力して欲しいらしく、隊員と機材を貸して欲しいと申し入れて来たが、俺はそれを断った。


確かに俺が建設工兵小隊に派遣を命じれば工事はすぐに終わり、何なら俺が設備を召喚すれば20分程で都市計画は終了する、だがそれではこの町の失業率が格段に高まり、治安も悪化するだろう。

釣った魚を与えるのは簡単だが、それでは街全体の為にならない。この街の雇用を守りつつ、大きな利益を上げる方法、つまり、魚の釣り方を教える所から始める事となった。


「断られた時ははじめは驚いたがね、まさかこういった形で協力してくれるとは」


「自分達もそろそろここに来て1年が経ちますから、只この街のギルドと言うだけでなく、街にもっと貢献しないといけませんからね」


伯爵と街の土木ギルドが協力、主役はあくまでそちらだ。俺達ガーディアンは建設工兵小隊が協力し、重機を土木ギルドにレンタル、重機の扱いを教えたりする支援に徹する事になった。


土木ギルドは人間の手で行うよりも圧倒的に短時間で作業を終わらせることが出来、伯爵は都市計画の予算削減と土木ギルドとの関係強化、俺達は授業料と重機レンタル料を貰う、と言う構造になり、伯爵とその上位のワーギュランス公爵に正式に承認されたのだ。


更に、交通が強化されれば人間も増える、ベルム街に定着する人が増えれば衛生環境も悪くなる、その対策として、上下水道の整備も決定し、街の病院能力の強化も俺達が支援する事になった。


人間が増えれば出生率も上がる、という事で、学校の建設も決まった。これもガーディアンは土木ギルドに建設工兵小隊をアドバイザーとして派遣し、技術を教える事になる。教師は街の教師を主に採用し、ガーディアンからも数人の召喚者を派遣する事になっている。


この街全体が、新しい“流通の中心街”に生まれ変わる為の計画だ。


「しかしこんな雨では計画はしばらく延期かね、雨では水量も増えて流れも強くなる、運河の工事も始められん」


「その通りですね……天気ばかりはどうしようも無い」


「わざわざ来てもらって申し訳ないが、現地の下見は延期だな。雨が上がり次第ではあるが……この様子では今日は無理だ、契約の正式締結だけにしておこう」


「かしこまりました、ではその様に」


相変わらず大粒の雨が窓を叩く、雨音をBGMにして契約書の確認するが、伯爵はもうすべてに目を通していた様なので、本契約自体はスムーズに終わり、計画の細部を詰めていく。


「土木ギルドの方には何と」


「今朝方伝令を送った、正式契約と工事延期の報せをと思ってな」


「我々もすぐに取り掛かれる準備をしておきますので___」


雨はまだ、降り続いている。



========================================



「ではまたよろしく頼むよ」


「かしこまりました、それでは」


屋敷の玄関前まで伯爵に送ってもらう、貴族らしい礼儀正しい挨拶に負けない様に、背筋を伸ばした敬礼を返す。

護衛として一緒に来ていたエリスと共に雨の中、傘を差して屋敷の門の近くに停めてあったHMMWV(ハンヴィー)に乗り込む。


「ふぅ……ひどい雨だな」


「全くだ……洗濯物も中々乾かん、訓練も外でやりにくい、髪も纏まりにくい……」


エンジンを掛け、ディーゼルエンジンが2t以上ある車体を動かす。雨がフロントガラスを強く叩き、ワイパーを動かさざるを得ない雨脚だ。屋敷の門を出て、舗装されていない道で基地の方にハンドルを切る。


「はは、女子は大変だな。髪とか肌の手入れ」


「お前は少し無頓着だな、制服の着こなしはこんなにいいのに……」


「あんまり意識した事は無いなぁ、髪は寝癖が直ってればいいし、服もちゃんとしたのを

着ていればいいかな」


「おしゃれじゃないと人気出ないぞ、まぁ、女子からの人気を集められても困るが……」


「……照れること言うな、エリスは」


「当たり前だろう、相手が誰だってお前を渡さんさ」


「王女殿下でも?」


エンジン音の中、エリスが黙り込む。ちらりと目を移らせると、考え込んでいる様だ。


「……おい」


「っははは!嘘嘘冗談だよ、すまないな、揶揄って。お前が嫉妬と言うか、試す様な事を言うのが珍しくてな。大丈夫、例え王女殿下でもお前を渡したりしないさ」


「本当に?」


「本当だとも、くれって言われても噛みついて追い返してやる。銃もある事だしな」


なんだよ、と安堵の溜息を漏らす。


基地の正門に着くとIDをチェックし、車の下の不審物をチェックする。しかしこんな雨の日、あのレインポンチョの下はプレートキャリアにベルト、M4にP226 に弾薬の詰まったマガジンの入ったポーチ……歩哨に立つのも基地警備隊の大事な任務とは言え、見ているだけで大変だ。


「さ、仕事がまだ残ってるぞ」


「はいはい、団長に休みなし、っと」


HMMWV(ハンヴィー)を駐車場に停め、雨の中管理棟まで続く屋根に何とか入る。

雨が止む気配はまだ無い、空もどんより曇ったままだ、気圧の変化であからさまに体調が変化する訳では無いが、天気が悪いと気が滅入る


「各科には?」


「話は通してある」


一旦執務室に戻り、執務机の引き出しに入れた金庫を開錠する。中に入っていたのは俺が兵器召喚に使用するスマホだ。


「最初は基地武器隊か」


「ラッシュが待ってるぞ」


「分かってる」


これからやるのは、基地で使用する燃料、弾薬、整備部品、予備部品などの召喚だ。その都度請求に合わせて召喚する事があるが、月1でこうして備蓄を増やすようしている。


地下に向かうと既に基地武器隊のラッシュ准尉が準備をして待っていた。


「今月の請求分です」


「どれどれ……こんなに撃ったっけ」


「訓練が増えてますからね、最近」


請求の中で最も多かったのは5.56×45㎜NATO弾、60万発。9×19㎜拳銃弾は50万発だ。全力で戦闘をすれば2時間程の量でしかないが、先月もこれくらい召喚した気がする……今月だけでそんなに消費しただろうか。


加えて最近ラインナップに加わった亜音速と超音速の.300AAC Blackout(ブラックアウト)に、7.62×51㎜NATO弾、12.7×99㎜弾、狙撃銃用の.338Lapua(ラプア)と機関銃用のNorma(ノルマ)、.45ACP、12ゲージ各種。それから40㎜擲弾各種……ガーディアンで採用している銃に使用する弾薬は全て召喚した。


召喚作業をする時は、好みに流されず弾薬の互換性のある銃器を選んでよかったと心から思う。


「ありがとうございますー」


「また適宜召喚しに来るから、よろしくな」


大変なのはここからだ、知っての通りガーディアンで運用している兵科は歩兵だけではない。

機甲部隊にはAPFSDS(翼安定装弾筒付徹甲弾)と最近砲弾更新によって使う様になった、HEAT-MP、障害物排除砲弾、キャニスター弾を統一するAMP(多目的砲弾)を、120㎜滑腔砲用と、105㎜砲用、89式装甲戦闘車に搭載する35㎜のAPDS(装弾筒付徹甲弾)HEI(焼夷榴弾)、LAV-25A2用の25㎜機関砲弾APDSやHEI等数種類。それから89式装甲戦闘車用の対戦車誘導弾(ミサイル)等も召喚した。


砲兵部隊には155㎜砲弾のM795と、着発、遅発、曳火射撃用の時限信管等の各種信管を。


航空科にはAGM-114ヘルファイアや西部方面隊に配備されているAH-1W用のBGM-71F TOW2B、空対空ミサイル用のスティンガー、ハイドラ70用の各種70㎜ロケット弾等の攻撃ヘリ用兵装や、ミニガン用の7.62×51㎜NATO弾等を、各科補給部門に召喚した。


もちろん適当に大量にではなく、種類、数は記録してあるし、召喚前に消費量をチェックしているから数の管理は決してザルではない。


弾薬や消耗部品だけでなく、補給科には戦闘糧食や衣類等の消耗品も召喚して納品。


燃料は比較的楽だ、車両用のディーゼル燃料、航空機用燃料、生活用燃料、それからガスと、種類は少ない上にタンクの前に立ち、タンクの中に召喚すればそのタンクの容量内の任意の輌を召喚出来る。異世界用スマホ様様だ、欠点と言えば弾薬の様に目の前に現れる訳では無くタンクの中は見えないので、メーターを見たりしないと召喚する実感がない事か。


因みに生活に必要な水に関しては演習場内の立ち入り禁止エリアの河と、ラスカ河の上流から取水して浄水装置を通しているし、電気は敷地内の中型高効率風車による風力と屋上や格納庫上の太陽光パネル、河の流れを利用した小型の水力発電に加え、最近では基地で出たゴミを燃やした際に出る廃熱を利用して同次に火力発電を行う、いわゆる廃棄物発電も導入しているので、電気は安定供給に近い状態になっている。


「だぁー、疲れた……」


召喚作業は2日間に渡って行われ、ようやく片付いた時には終業時間になっていた。



=======================================



翌日は体力温存の為にゆっくり休んだ、その更に翌日、未だ降り続ける雨の中、相合傘をしながら基地の中を東門に向かって歩いていた。


「お疲れさん、殆ど半分以上は残ってたのが幸いだったな」


「これ、西部方面隊に補給するの大変だぞ……」


本部基地への補給はまだ良いが、西部方面隊の基地やFOBへは輸送機で向かい現地で召喚したが、公国軍との散発的な戦闘が守備隊との間で発生しており、あちらの方が弾薬の消費の方が激しかった。


俺がこちらから向かわない場合、輸送機を飛ばして物資をバイエライド(あっち)まで輸送する事になるが、航空機は天候に左右されやすい。今日のような雨だと特に。それに弾薬や物資ならまだしも、燃料は輸送機のパレットに乗せるフレキシブルタンクがあるとは言え、一度に輸送できる量が限られる。


「何かこう、一度で大量に輸送できる方法は無いかねぇ……」


「ふぅむ……」


考えながら東門から外、技術研究開発局に向かう。

技術研究開発局の開発した魔力増幅回路はほぼ実用クラスの出力に増幅可能になっており、実際に馬車に取り付けて実地試験に入る段階まで来た。

技術研究開発局は広い倉庫があり、工房と共同での作業が可能な倉庫がある。


「テックス主任」


「あぁ、団長でしたか、お疲れ様です」


テックス・マクダエル元教授、今は技術研究開発局の技術主任となり、魔力増幅回路開発の第一人者となった。


魔力の増幅回路は出来たものの、いきなり魔力増幅回路を使った自動車を作るのは難しく、まずは人々に広く行き渡っている馬車の荷車に取り付け、かつ車軸の強化とダンパーとサスペンションの衝撃吸収機能による乗り心地の改善、積載量の増加、速度の向上を狙い、今までよりも優れた馬車の足回りとして販売する予定である。


「晴れれば実地試験が出来るんですがね……」


「天気ばかりはどうしようもないからな……済まないが、調整を頼む」


「了解」


目の前の馬車の足回りは今までの物よりも更に現代風になっており、車輪の内側にはサスペンションとダンパーが、車体中央付近の車軸にはモーターの様な物と、自動車のエンジン程度の大きさの箱が取り付けられていた。


「これが増幅回路か……魔石は幾つ使う?」


「この大きさで2つですね、これくらいの大きさまでの魔石であれば使えます」


そう言ってテックス主任が手で示した大きさは、ソフトボール大の大きさの物だ。これなら商会や物流系ギルド、貴族程度なら購入出来そうだ。しかも魔石は消耗品では無く、何度も繰り返し使える。


「これ以上の効率化はまだ難しくてですね、もう少し回路の見直しが必要ですかねぇ……」


「なるほどなぁ……」


「……ところでさっきから気になっているんだが、これは何だ?」


一緒に居たエリスが後ろを振り返る、そこにあったのは2階建てくらいの大きさのプレハブ小屋の様な物が2つだ。壁には何だかびっしり、不気味なくらい魔力文字が刻まれている。


「これは試作の高出力型魔力回路です、かなり増幅出来ましたね、この馬車が500……tx(テックス)ですが、こいつは4000k(キロ)tx(テックス)です、2基で8000ktx(キロテックス)ですよ」


「8000キロ!?」


えー、馬車に積まれている魔力回路が500tx……800万txという事は……16000倍だ。

そんな高出力な物、もう作ったのか!?


「……中、見られるか?」


「メンテ用ハッチから覗けます」


許しを得てハッチを空けて貰い、エリスが中を覗き込む。


「うわっ」


若干引いた様な声が中から聞こえたが、一体何があったのだろうか。


エリスと交代して、ハッチから中を覗き込んでみる。


「うわっ」


驚いて、さっきのエリスと同じような声が出てしまった。


中は壁面、天井、床を問わずびっっっっしりと魔力文字は張り巡らされており、中には棚を増やして魔術文字が刻めるスペースを増やす工夫もされていた。


これはちょっと……見た目が気持ち悪いと言うか、若干引く。エリスがあんな声を出したのも納得だ。


「うわぁ……」


「かなり時間はかかりましたがね、楽しかったですよ」


ドン引きの声を感嘆の声と取られた様だ……だが凄い、これだけやれば16000倍にまで増幅できるのか、そっちの方は素直に感心する。


「これは魔石はどれだけ使うんだ?」


「このくらいの物を4つですね、しかし高くて実験分しか確保できませんでしたよ」


彼が手で示した大きさはバスケットボール大だ、これはかなり大きい物で、市場にはなかなか出回らない。


「これが何かに使えればいいんですけどね……」


残念そうに肩を落とすテックス主任だったが、俺は1つ閃いた。スマホをポケットから取り出し、急遽倉庫をもう1つ作る。


「え?え?」


「ヒロト?」


エリスは俺が目の前に建物を召喚するのはもう慣れた様だが、テックス主任はまだ目を白黒させている。


「入ってくれ、ちょっと主任に提案がある」


倉庫の中に彼を案内する、今の倉庫の屋根を伝ってすぐ隣、雨に濡れる事は無い。中には2条のレールが敷かれ、目の前に赤い大きな物体が鎮座していた。


「……ずいぶん大きいですが、これは……」


「機関車って言うんだ、正確にはディーゼル機関車でな。列車に着いては説明したな?」


「え、えぇ、一応……確か長く連なってレールの上を走る輸送車両とか……」


彼には既に俺が違う世界から来たことは話してあり、開発する魔力回路がどんなことに使えるかと言うのも説明してある。


列車はその中の1つだ、目の前に現れたDD51ディーゼル機関車を眺めているテックス主任に声を掛けた。


「あの魔力回路をこの機関車に押し込めるサイズにして欲しい」


「これに……でありますか?」


「西部方面隊の居る国境地帯までかなり距離がある、陸路は時間がかかりすぎるし、航空輸送は限度がある……鉄道輸送なら、量と時間、両方の問題が解決する」


「……なるほど」


鉄道輸送が可能なら、部隊展開や補給の問題はいくらか解決する、それどころか町の人にこれを開示すれば、更なる財源になるかもしれない。


「忙しくて技術的にも大変な所があるだろうが、主任の力が必要だ、頼む」


「……団長であるあなたに頼まれたら、仕方ありませんなぁ」


言葉とは裏腹に彼の目には、また新しい挑戦の光が宿っていた。



========================================


「長距離輸送の問題を解決しちゃうとはな……」


「丁度いい所に丁度いい才能の人と物があっただけだ」


エリスと再び相合傘をしながら東門からの道を戻る、ここ数日雨がずっと続いているせいか、中央通りに隊員は居ない。


良い事もあったが、それを掻き消すような雨だ、路面に打ち付ける雨が水煙となり、視界が白く曇る。正門までは見通せるが、そこから先が見えない状態だ、航空機も緊急を除いて格納庫で羽を休めているだろう。


管理棟まで辿り着くと傘を畳み、執務室に戻る。


「何か飲むか?」


「紅茶がいい、頼む」


「もちろん」


エリスが紅茶を淹れてくれる間、スマホを金庫に仕舞って外を眺める。ぼんやりとしている間に、紅茶のいい香りが漂ってきた。


「お待たせ」


「ありがとう」


エリスの淹れた紅茶を飲む、程よい苦みを舌の上で転がし、鼻腔に漂う香りを楽しむ。美味い。

雨のせいか、時間の流れがゆったりな気がする、こう言う時間は幸せだ。


エリスと紅茶を飲み終える寸前、窓を叩く雨音が大きくなっている事に気付いた。雨脚が強まっている。


「しかし、酷い雨だ」


「こういうの、カルペラの長雨って言うらしいぞ」


エリスが窓の外を眺めながら呟く様に言う。


「よく知ってるな、異世界の事だからその手の事はてんで……」


「この間、伯爵の屋敷でお前を待ってる時にな、伯爵のメイドから聞いたんだ。ただ、こんなに長いのは久しぶりなんだとか」


「へぇ……」


妙な感じがして、生返事の様な返しをしてしまう。。


何か、引っかかる。


「……ヒロト……?」


「……空軍に連絡を取る、全部隊は待機の命令を出してくれ」


「わ、分かった」


エリスは放送室に向かう、俺は残りの紅茶を飲み干すと、慌てて地下の中央作戦センターに向かった。

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