第182話 訓練後
「……やられたな」
無事だった第3小隊の小隊長が唖然とする。
敵の存在は知らされておらず、運用訓練幹部からは「アドバイザー役の統制管を所定のポイントまで護衛せよ」と任務を受け、その命令に従っていたにすぎない。
だが、第2小隊が爆撃を受け、第3小隊も一部がやられた。増援に来て警備に就き、本隊が手薄になった隙にアドバイザーを攫われた……いや、敵がアドバイザーを“救出に来た”と言った方が正しいだろう。
そして今この目の前に放置されているピラーニャを使い逃走した、という事だ。ご丁寧にピラーニャの運転席と車長席、通信機には“破壊”の文字が書かれた紙が貼られている。
つまりこの車両は、統制管により撃破の判定がされているという事だ。それに野営地に残した分隊の全滅……こんな事が出来るのは第1小隊……デュラハンのコールサインを持つ小隊しかいない。
実戦ではないと言う事に安堵しつつ、何も出来ずに部下を半分以上失った事の悔しさに歯噛みする。
「小隊長、足跡があります」
第1分隊の分隊長、チャールズ・ケリー軍曹が、空が白み始めたとは言えまだ暗い足元をライトで照らしながら報告する。トレッキングシューズの特徴的なソールの跡、それは西へと続いていた。
「わざわざピラーニャを奪取した……という事は敵は空から来たという事だな」
小隊長の推測は当たっていた、彼らも素人ではない、召喚者の軍人だ。このシナリオの無い訓練で既にやるべきことは理解している。
「足跡を辿って追跡する、空から来たという事はヘリが迎えに来るはずだ。LZを見つけて先回りして待ち伏せ、場合によってはヘリを撃墜する。ケリー軍曹、第1分隊を他の痕跡の捜索に当たらせろ。他の者は付いてこい」
「了解」
「了解」
特殊部隊と言えども、少しだけ特殊な技能を持った軽歩兵に過ぎない。火力においてはこちらの方に分がある。
逃げられると思うなよ……そう思いながら第3小隊の小隊長は足跡を辿り始めた。
東の山の尾根からは、太陽が顔を出し始めていた。
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「居るか?」
『居ますね、ピラーニャが見つかりました、足跡を追ってLZBに向かっている模様……規模は1個分隊、もう1つ分隊が周辺を捜索中です』
俺の掛けた声に、レミントンMSRのスコープで監視中だったランディがそう答える。
今は少し山を登り、木と岩が入り混じった地形の崖にいる。岩の陰からランディとクリスタが崖の下を監視中で、担架を持った俺達は20m程下がった森の中に隠れており、森の後ろの尾根を迂回してLZCを目指すところだ。
日が昇った為、暗視装置を付けたヘルメットは脱いでバックパックに入れておき、代わりに独立しているCOMTAC3ヘッドセットとブーニーハットを被っている。
「どうやら上手くいったみたいだ」
「カウンター・トラッキングに引っ掛かってくれて助かったぞ」
現地の足跡はわざと残した物だ、砂の多い所をわざと踏み、LZBへ向かう足跡を残す。もう1つ、LZA方面に向かうルートへ木の枝を折ったり、蜘蛛の巣を破ったりしてきた。もちろん、ここへ来るまでの足跡はなるべく消して来ている為、こちらに気付くまでかなり時間が稼げそうだ。
この様に部隊の痕跡を辿って追跡する事を“トラッキング”と呼ぶが、それに対してわざと別方向へ痕跡を残し、トラッキングを欺いたり待ち伏せしたりする事を“カウンター・トラッキング”と言う。
「ただ相手もすぐに気付く、なるべく急ぐぞ」
「相手がヘリを出して来なければいいが……」
エリスの言う事はもっともだ、最初のブリーフィングで敵の戦力については伝えられていたが、その時はヘリの情報は無かった。
しかし敵の増援としてヘリが出て来る可能性は捨てきれない、そうなったらこちらに対抗手段は無く、せいぜい小銃を空に向けて撃つくらいだが、それで対抗できるか……悪くて全滅だ。
救出には成功したが、基地に帰るまでが作戦だ、気を抜けない状況の中、悪い方へ悪い方へと考えが動く。こちらの前提を最悪な方向に崩されない事を祈りつつ、“ヘリが迎えに来る”と言う前提が崩された時の事も考えなければならない。
「そうだな……ともかく急ごう、迎えが来るまでそう時間は無いぞ。エリスはヘリからの連絡に注意、ランディ、先導を。1-2は背後を守ってくれ」
「あぁ」
「了解」
各員が周囲を警戒しながらゆっくりと立ち上がり、その場の足跡を乱雑に消す。俺も担架の持ち手の1つを持ち、立ち上がる。
設定していたLZCまであと5㎞を切った、残り5㎞の移動手段は、もちろん徒歩だ。
「射撃の腕前、統率力、カリスマ性」
担架で寝ている統制管が口を開く、負傷者の設定だが、設定の為本当に負傷している訳では無く、ピンピンしている。
「本職の軍人にも引けを取らない、見事です。一般人には到底見えない」
統制管はいわゆるこの訓練の審判だ、その審判に褒められて悪い気はしないが、演習の状況中とはいえ、そんな元気があるなら自分の足で歩いて欲しい。
「寝てれば直ぐだ、気をしっかり持て」
本当に自分で歩けないなら、意識も朦朧としている筈だ。実戦で歩けない事を想定して、一応彼の両足にはC-A-T止血帯が巻かれている、もちろん血流を止めない程緩くだが。
ランディ達狙撃分隊が俺達を追い越して隊列の戦闘に立つ、彼らが先頭に立つのは監視の能力が高いからであり、ランディは時々立ち止まって首から下げた双眼鏡で先を見つめたり、クリスタはSR-25のスコープを覗いて警戒、伏兵が居そうな場所を注視警戒する。
「交代だ」
「了解」
1時間程山を登り、5分程の小休止で担架の担ぎ手を第2分隊と交替する。行軍速度を維持する為に定期的に担ぎ手を交替し、全隊の消耗速度を押さえる為だ。
担ぎ手に4人が割かれるのは戦力的に痛い、いつ追跡が来て後ろから撃たれるか分からない、さっきまではチェストリグの方が良かったと思ったが、今はプレートキャリアでよかったと思う。
バックパックを下ろして、ペットボトルの水を飲む。その間も気は抜けない、まだ脱出出来ていないのだから。
再度出発の前にマガジンを交換しておく、プレートキャリアのマグポーチから新しいマガジンを出してM4からマガジンを抜き、新しいのを差し込む。新しいマガジンはマグポーチに戻し、準備完了。
今のマガジンには29発入っている。1発だけわざと抜いてあり、これは装填後のマガジンの脱落を防ぐ為だ。最近のマガジンはフルロードでもスプリングが下手る事は無いが、フルロードだとスプリングがそれ以上下がらずマグキャッチがかからなかったり、ボルトの消耗が激しくなったりする様だ。
「……さ、行こう」
その場にいた痕跡を可能な限り消し、山歩き再開。
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更に2時間程、すっかり日は昇って、さっきの休憩中に射撃用アイウェアをスモーク入りに交換したところだ。
現在は尾根の裏まで来ており、山の南の斜面という事になる。ここは北の斜面よりも日が当たる為か植物の生育が良く、緑が多い為身を隠しやすい。
身を隠しやすいと言う事は向こうも待ち伏せしやすいという事でもあり、トラップと待ち伏せには警戒しながら進んでいく。
歩きながら木々の隙間から南の方を見る、今歩いている山より高い山が連なる山地で、この山地の南は別の公爵の領地だと言う。いつか会う事になるのだろうか。
トレッキングシューズのソールが草木の混じった土を踏みしめる音は北側の斜面と少し違うな、そんな事を考え、GPSの座標を確認しながら戦術端末で現在位置を確認する。
「……ふぅ……あと1㎞だ」
「もう少しだな……担ぎ手を交替しよう」
「そうだな、ガレント、担ぎ手の交替、ユーレク達に変わらせろ」
「分かりました、ユーレク、交替だ」
「了解」
先行して警戒していたユーレク達と4人、担ぎ手が交替する。ユーレクは自分のMPWにセーフティを掛け、担架のハンドルを持った。
それにしてもこの辺りは本当に起伏が激しい、LZCを選んだのは敵の追撃が最も少なくなるコースだからだが、実戦でもこういう事はありそうだと思うと文句は言っていられない。
『グレゴリー2、合流します。撃たないでください』
「了解、全員撃つな、グレゴリー2が合流する」
LZC付近に着くと、先に着いてLZCを監視していたグレゴリー2と合流する。空爆の誘導役となった彼女らは一足先に山を越えていたのだ。
「無事で何よりです」
「何とかな、LZ確保感謝する」
着陸したヘリに乗る順番を今の内に決めておく、ヘリが着いてからでは遅いからだ。
LZから50m程離れたところに身を隠していると、ヘリの音が近づいてくるのが聞こえた。思わず安堵したくなるが、ヘリの姿を見るまで敵か味方か分からない。
着陸地点は崖になっており、1機を着陸させるスペースは無い。
ではどのように回収するのか。
「こちらデュラハン1-1及び1-2、タスカー02、聞こえるか」
『こちらタスカー02、感明良し。LZC到着、周辺を警戒する』
その通信の直後、重いローター音と共に、崖の陰から空中をドリフトするようにMH-47Gが姿を現した。大柄な機体に似合わず機敏な機動で旋回し、後部ランプドアを開けたまま、崖にランプドアを乗せてホバリングする。機体は空中に浮いたままだ。
流石はナイトストーカー、なんて技量だ……
凄い物を見せられているが、敵の追撃がいつ来るか分からない中で、感心している暇は無い。AH-64Eアパッチが一緒にいる上に、AC-130Uスプーキーが上空から見張っているとは言え、油断は出来ない。
「よし行け!」
「GO!GO!」
先ずはアンナやエル達、第2狙撃分隊が乗り込み、人数の確認に入る。
続いて担架を持った第2分隊が続き、キャビンの奥まで進む。これで救出対象はヘリの中へと入り、安全は確保出来た事になる。
俺達第1分隊がハッチの周囲に展開、周辺を警戒している間に第1狙撃分隊が乗り込み、最後に俺達だ。
ハッチへ飛び込みながら、ヘリの中に入った俺の分隊の人数を数える。グライムズ、アイリーン、ブラックバーン、クレイ、エイミー、ヒューバート、そしてエリスだ。
「1-2!全員搭乗よし!」
「グレゴリー2!搭乗よし!」
「グレゴリー1、全員掌握」
積み忘れは無い、救出チーム全員と救出対象、全員がヘリに乗り込んだ。
「搭乗よし!」
「離陸準備良し!」
『了解、タスカー02、離脱する』
ふわり、と機体が浮き上がると同時に、階下行きのエレベーターに乗った時の浮遊感を数倍強くしたような感覚に襲われ、思わずよろけそうになるが、俺の手をエリスが掴んだ。
「大丈夫か?」
「すまん、助かった」
踏ん張って堪え、側面のシートに腰を落とす。ランプドアは開放されたまま、一杯に崖が見える、恐らく攻撃を警戒して高度を急激に下げたのだろう。
山の合間を縫うように低空飛行に移り、攻撃ヘリとガンシップの援護の下、MH-47Gは離脱した。
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出発時の空軍基地では無く、本部基地の方に着陸。担架を運び出すと、救出対象役の統制管は医務室へと運び込まれた。治療も訓練の内だと言う、まぁ本当に負傷している訳では無いが、手順の確認や流れも含まれている。
俺達は駐機場に設置されたテントに入り、マガジンと薬室に入っている弾を抜く。時計を見ると、あと少しで10時になるところだ。
第3小隊の作戦終了時刻は10時だ、後5分……彼らがあと5分で戻れるとは思えない。
バックパックを下ろし、アイウェアを外し、帽子を脱いで汗を拭う。もう秋だが運動すると流石に暑い、バックパックから水を取り出して飲むが、いい加減ぬるくなっていた、早く冷たい水が飲みたい。
設置されている時計の秒針の音が聞こえるくらい、テントの中は静かだった。これよりもずっと長い訓練は何度も経験したから慣れてはいるから、俺も仲間も表情には出さないが、きっと疲れているだろう。
秒針が鳴るのを数えるのもそろそろ飽きて来た時、10時のチャイムが鳴った。パイプ椅子に座っていた統制管と、さっき医務室に運ばれて行った俺達が“救出対象”にしていた統制管が戻って来た。
「お疲れ様でした、第1小隊の今回の状況は終了です。装備を解いて、昼食までは自由時間とします」
「データは既に取ってありますので、昼食後はブリーフィングになります」
10時までに、第3小隊は俺達が救出した統制管を奪還し、状況を続けられなかったという事で、この状況は俺達の勝ちになった。
ギシリと音を立ててパイプ椅子から立ち上がって三々五々、解散していく。バックパックを再び背負い、M4を持って作戦棟まで歩く。
「自由時間の殆ども、装備解除の時間で潰れそうだ」
隣を歩くエリスが溜息交じりにそう言う、まったくだ、思わず笑ってしまう。空包の返納、銃や装備の清掃点検、迷彩服を洗濯してシャワーに着替え……プレートキャリアもヘルメットもバックパックも、汗と泥で汚れてしまっている。
「終わったら待とうか」
「いや、いい、エイミー達と話してるよ。次はブリーフィングでな」
「ああ、了解」
そう言うとエリスは俺を追い越して先行するエイミー達に追いつく。同じ分隊内なんだ、仲は良いに越した事は無いし、女子達で過ごす時間も必要だろう。恋人とは言え、そこは俺が束縛するところではない。
作戦棟に入ると、ロッカールームはすぐそこだ。この頃また設備を見直し、ロッカールームを小隊毎にし、待機室も兼ねている様なった。自分のロッカーに着くとまずはM4からAAC 762-SDN-6サプレッサーを外し、M4はロッカーの中へ立てかける。
ベルトのホルスターからP226を抜いて抜弾されているのを確認、訓練用ハンドガンは返納だ。
バックパックは中身を出して、自分で管理する物は仕舞い、返納する物はとりあえず近くに置いておく。
プレートキャリアからマガジンとポーチに入れておいた物を全て出し、ドラゴンプレートも抜いてバックパックと同じように分けると、ロッカールームに備え付けの水道で泥などの汚れを洗う。ヘルメットも付属品をなるべく外して同様だ。外したベルトと一緒に洗ったものは一角にある乾燥室に入れておく。いくら装備を際限なく召喚出来るとは言え、なるべく装備は丁寧に長く使いたい。
返納する空包はマガジンから抜き、自分のロッカーにおいてある返納品用の小箱へ入れる。空にしたマガジンも同様だ。
シャワー……と行きたいがまだだ、銃の整備がある。一応使い終わったライフルやハンドガンは基地武器隊がメンテナンスしてくれるが、その前に自分で清掃出来る所はしておくのだ。
自分のロッカーからメンテツールセットを取り、M4を持ってテーブルへ。ピンを抜いてアッパーレシーバーとロアレシーバーに分解し、ボルトとチャージングハンドルを抜く。
「おいヒューバート、終わったか?」
「……ぁい、まだです」
「しっかりしろ、寝るにはまだちょっと早いぞ」
ベンチでM249を抱きかかえながら船を漕いでいたヒューバートを起こしながら、クリーニングロッドでバレルを清掃、ウエスでボルトを拭く。
「.300BLKにサプレッサーだと、中の汚れもかなり溜まりますね」
「だなぁ……こればっかりは仕方ない」
.300BLKも良い事づくめの弾ではないという事だ、色々改造の手間もかかるし、使える様にしたとしても射程が短い。だがそれをしてもデメリットを上回るメリットがある、要は使い分けだ。
清掃を終えて必要な部分に注油し、ボルトとチャージングハンドルを戻して、レシーバー同士を結合させる。とりあえず簡易メンテはこれで終わりだ。
ライフルを自分のロッカーに仕舞うと、ようやくシャワーを浴びられる、迷彩服は後でまとめて洗濯だ。
シャワーを終えると基地武器隊に弾薬と弾倉、バックパックの中の物を返納、ライフルのクリーニングを頼み、終了。
やっと終わった……時計を見ると、あと30分そこそこで昼食の時間だ。小隊の隊員達は思い思いの時間を過ごしている様で、数人で集まって喋っている奴、筋トレをするストイックな奴もいれば、ベンチで横になって昼寝をしているお疲れな奴もいる。
いつも大体エリスと一緒にいるが、今はエリスは女子分隊の方に行っている。ちなみに別に女子分隊ってのは正式名でも何でもなく、分隊を2つに分けるた時のライフルマン2名、擲弾手とSAWガナー各1名のになるが、これを俺の分隊でやると配分が綺麗に男女に分かれるから勝手にそう呼んでいるだけだ。
今日の救出作戦はここが良かったな、ここが反省点か、そんな事を考えながら基地の売店へ。適当に見繕うが、やはりコーラの魅力には敵わない。
コーラを買って、作戦棟とヘリ格納庫の間のベンチで喉を鳴らして飲む、美味い。その内瓶のコーラでも取り扱うか、いや瓶の処理が面倒だな、異世界の硬貨で自動販売機が使えればいいけど……そんな事を思いながら暇を弄んでいると、昼食の時間になった。
さて、今日の昼飯は何だろうな。
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唐揚げだった、非常に美味かった。ニンニクの利いた塩唐揚げとジューシーな醤油唐揚げ、どっちも最高、マジで。
転生者組と駄弁りながら飯を食い、昼休み一杯は怠惰に過ごす。しかし昼休みが終わればまた仕事だ。
さっきのテントに戻ると、小隊の中でも生真面目な奴らは既にパイプ椅子に座ってブリーフィングを待っていた。
これから統制管の評価の時間だ、何が良くて何がダメだったか、自分では気づけない点を第3者の目から指摘してもらい、今後同じような事があったらどうすべきかに繋げる。答え合わせの様なものだ。
時間が近づくにつれ、人数が段々と増えてくる。その中には女子分隊の姿もあり、エリスは俺を見つけると開いている隣の席に座ってきた。
「今日の昼は美味かったな」
「あぁ、カラアゲとても美味かった。疲れた身体に沁みる美味さだな」
食堂のシェフ、ファルの料理は皆にも好評なようだ。
「少しは休めたか」
「あぁ、談話スペースで喋っていてな。そしたらアイリーンが途中で寝てしまって……」
エリスが笑いながらそう言う、時折ある、友人同士で喋っていて、1人が急に静かになったと思ったら寝落ちのパターンだろう。
「あまりにも自然に寝てしまっていたから、思わず笑ってしまってな……」
くつくつと笑いを堪えるエリス、いつも凛とした彼女が浮かべる笑顔が何とも可愛らしい。
「疲れていたんだろうな、きっと」
「あぁ、多分な」
「エリスも眠いか?」
「うーん、いや、今のところは平気だ」
「もう少しの辛抱だぞ」
これからブリーフィングだ、今寝られたらちょっと困る。
統制管がテントに戻って来る頃には、既に小隊全員が集まっていた。
「改めまして、訓練お疲れ様でした。早速ですが、今回の訓練の評論に入っていきます」
プロジェクターに映し出されたのは恐らく、作戦開始時から監視していたMQ-9からの映像だ。全体の地図と重ね合わせて、現在位置と何をしているかが表示される。
「空軍基地への侵入は首尾よくいきましたが、正面は監視カメラがある可能性があります。今回の演習状況は監視カメラは含まれていませんでしたが、もし監視カメラがある場合、正面からよりも、事前に偵察を行い判明した監視カメラのない所から侵入するか、監視カメラを破壊して侵入するのが望ましいでしょう」
言われて見ればそれもそうだと思う、異世界で監視カメラがあるとは流石に思えないが、対等に近い相手だと監視カメラが無いとも限らない。失念していた。
「次にですが、遠隔地にヘリで降り、徒歩で救出地点に向かうのは非常に良かったと思います。ヘリの騒音を相手に極力聞かせる事無く接近出来ますので良い作戦です。しかし輸送機からのHALO降下なら、徒歩移動の距離をもっと短く出来ます」
ヘリなら気にする騒音も、輸送機ならヘリ程気を遣わなくてもよい、という事か。しかし相手が高度な防空システムを持っていた場合、山の陰に隠れられない輸送機は護衛機を付ける必要がある等、一長一短だ。作戦に応じて使い分ける必要があるだろう。
「航空支援は有効に活用できたと思います、囮の方に着いたガンシップや攻撃ヘリコプターは結果的に遊兵となってしまいましたが、囮としての役割を全うできたなら問題ないでしょう。囮部隊は無傷でしたので安心してください」
欲を言えばもっと航空支援が欲しかったが、現状のガーディアンの頭数では仕方ない。
「撤収はスムーズでした、救出地点と敵支援部隊の完全制圧が出来れば、ここにヘリを送り込んで回収、と言うのも良かったかもしれませんが、今回のこの戦力ではこれが取れた作戦としては最大限でしょう」
この様な感じで、統制管とのブリーフィングは進んでいく。食後と午後の眠気と闘いながらレポート用にとってあるメモは、段々と細く薄く雑な字になってしまっていた。
聞き逃しとメモの取り忘れこそ無かったものの、お陰でこのミミズが躍っている様な文字を翻訳するのに少々時間を要してしまったのは言うまでもない。