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第178話 空軍の準備部隊

中井です。

いつもミリヲタは金曜の18:00更新と決めていましたが、今回からは書きあがり次第更新としてみます。

そろそろ正式な名前を付けた方がいいと思っているガーディアン空軍基地、滑走路の北側に、司令部施設群がある。

その中の1つに、“空軍教育隊”と看板が掛けられた建物がある。空軍の各種パイロット候補生、整備士候補生、管制官候補生等、空軍のありとあらゆる職種へ配備される候補生を教育するための部隊で、座学は当然のことながら、他にも減圧室や各種シミュレータ等も備えている。


元々現代世界でもこの異世界でも、空を飛べるのは一握りのエリートだけだ。異世界の軍隊では竜騎兵の中に“空士官”と呼ばれる階級があるが、その階級の者しか翼竜(ワイバーン)に乗れない様に、戦闘機に乗って空を飛び、任務を遂行できるのは士官だけだ。


なのでパイロットとしての訓練の他に、士官教育を受けなければならず、それ故にパイロットの育成には時間がかかる。


「ドラゴンナイツの竜騎兵達は皆戦闘機パイロットへ?」


「一応一緒くたに“パイロット”ってしてるけど、希望を取ったら全員第1志望は戦闘機隊だったな。一応途中で何度か希望を取って、その都度希望職種と適性に合わせて振り分けていくつもり」


一括りにパイロットと言っても、戦闘機や攻撃機の他に偵察機や輸送機、回転翼機(ヘリコプター)、無人航空機等もある。訓練を通じて何度か希望を取って適性検査を行う予定であり、俺も全員が戦闘機パイロットになれるとは思っていない。


パイロット志望以外の地上要員は、主に地上の警備要員や高射部隊を希望する者が多かった。その為それに応じた教育と訓練を受けさせる様になっている。


入り口から入ると、その内装は殆ど大学と変わらない。講義室がいくつもあり、その中の一室を覗いてみることにした。


扉を開ける前にエリスに静かにするようジェスチャー、エリスは頷くと、訓練で培ったステルスエントリーの技術をフルに使い、ドアを鳴らすことなく教室に入ることに成功した。


「航空機の操縦は翼竜(ワイバーン)と全く異なり、スティックと呼ばれる操縦桿、フットペダル、そしてエンジンの出力を調整するスロットルがコックピット内にあり、それを両手足を使って操縦する。また他にもレーダーを操作したり兵装を操作したりするスイッチがいくつもあり、パイロットになるにはそれらを全て覚えなければならない。しかもそれでできるのは飛行するだけだ、戦闘する時は視界、聴覚から得た情報を素早く処理し、周囲の状況を把握し、自分が生き残り、仲間も生き残れるように頭を働かせて指示を出し、敵を叩き落す、ここまで出来て初めて、実戦に出られるパイロットになる」


教官が壇上で全体に話しかける、ガイダンスの様な授業で、航空機の基本的な事から、航空力学、電磁気学、電子工学、航空工学まで座学でみっちりやる。空戦エネルギー理論にも少し触れたが、殆どの候補生が首を傾げており、中には欠伸をしている生徒までいた。


座学は退屈かもしれないが、やってもらうのは安全の為だ。空の上では、地上より容易く人の命が失われる、それは命が失われやすい異世界でも同じことが言える。


しかし……


「それで、俺達はいつになったらコウクウキとやらに乗れるんですか?」


候補生の1人が教官に向かってそんな言葉を投げる。同じ教室に居たカナリスが宥めようとするが、彼は言葉を続けた。


「俺達は空の戦士だ、座学より、実際に乗って覚えた方が早いと思うんですがねぇ」


エリスが驚いた顔をする、彼を叱責しようと一歩踏み出すが、俺は無言で手で制した。見てろ、教官の腕の見せ所だ、そうエリスに囁いて、姿勢を直す。

教官は授業を止め、彼の言葉に頷く。召喚者ではあるが、召喚者には必ず経歴がある。彼は彼の年齢に見合った経験から、この候補生をどう扱うか見極めている様だ。


「……君、名前は」


「ライル・ヘイザリーです、教官」


教官はファイルを捲る、候補生のデータファイルだろう。


「ライル・ヘイザリー、18歳、竜騎兵としてドラゴンナイツで活躍。ドラゴンナイツの竜騎兵では最年少ながら、西部戦線では4騎の公国竜騎兵を撃墜。また偵察任務中に襲撃を受けて上官が戦死するも、単騎で敵竜騎兵を1騎撃墜し、残りを撃退。……凄い腕前だな、君の様な腕前の若者がパイロット候補生、本当に頼もしい限りだ」


教官は彼の経歴を読み上げる、若くしてかなりの戦果を挙げている様で、かなり自信家なのだろうか。


「腕には自信は?」


「あります」


「早く慣れたい、飛びたいと思っている」


「えぇ、ここに居る皆の中にも、同じことを思っている者が居ると思いますよ」


数人が彼の言葉に頷く、しかし教官が叱責する事は無かった。


「ふむ……そうだな、では今日は少し話をしようか」


教官はそう言うとスクリーンを下ろしてプロジェクターを使い、1人の男の写真を映し出す。


「アーサー・ホランド中佐、当時46歳。B-52H爆撃機のパイロット、腕のいいパイロットで、TACネームは“バド”。彼も自信家で勇猛果敢なだった、君と同じように」


それは現実世界の軍人だ。


「彼はその自信から危険な低空飛行を繰り返していた、安全係数を無視した旋回を大きな爆撃機で行ったり、最低高度制限以下、勇猛さは時として危険を招くが、彼は死神の機嫌を損ねてしまった様だ」


1994年6月24日、それは起きてしまった。


「アメリカ合衆国ワシントン州、フェアチャイルド空軍基地、13時58分、B-52Hが離陸した。この日は同乗していた乗組員の引退飛行でもあった、ホランド中佐はより気合も入っていた事だろう。コールサインはCzar52、ほぼ全ての演目が終了した後だった」


14時16分、教官はそう言って動画を再生する、ここから先は説明するより見せた方が早いだろうと判断したのだろう。滑走路上空を低空飛行(ローパス)していくB-52、何度見ても怪鳥に見える飛行機だが、管制塔を掠めて高度を上げずに大きく旋回。バンク角はどんどん大きくなっていく。


そして高度がどんどん下がっていき、機体がほぼ垂直になった瞬間、急激に高度が落ちた。講義室の全員が息を吞むのを感じた。


機体が左翼から地面に叩きつけられ、一瞬で燃え上がる。動画の中の悲鳴とは裏腹に、候補生たちは静まり返る。早く航空機に乗せろと言っていた彼もだ、絶句と言うのはこういう事を指すのだろう。


「この事故でホランド中佐を始め、搭乗員4人全員が死亡した」


いくら自信と腕のあるパイロットだとしても、安全規則、安全手順に背くとこうなるという例だ。


「今受けて貰っている安全講習を完全に受講し、知識として身に着け、訓練で体に覚えさせてもらわなければ、この様な惨状を招く。この結果は自分の命、仲間の命を奪い、下にいる仲間や罪なき人の命も奪う。そしてガーディアンの信用も失いかねない、信用の喪失は守るべき民に疑問を抱かせる事になり、我々から仕事を奪う事にも繋がる。安全と言うのは、それだけ大切な事なのだ」


教官の言葉にパイロット候補生と同じように思わず聞き入ってしまう、安全講習、新兵教育の際には必ずやるが、航空機を運用する部隊のそれは更に厳重な物だ。下手をすれば安全規則、安全基準の講習だけで1年が潰れかねないが、それだけ安全を重視するのは理由がある。


「航空機の安全規定、安全規則、航空法は、先人の血で書かれた文書である」


昔、知り合いの飛行機乗りが言っていた言葉だ。

航空機が墜落、不時着する度に安全規定や規則が出来る、不時着や墜落には死人が出るケースが殆どであり、その為そう言われているのだと言う。


「ライルと言ったね、君は」


「……はい」


「君もドラゴンナイツでは優秀な竜騎兵だったことが戦歴から分かる、そしてそれは自信にも繋がる。それは大事な事だ、しかし、ここはドラゴンナイツでは無くガーディアンだ、航空機は翼竜(ワイバーン)とは飛行特性も操縦方法も全く違う。君が味方や守るべき人々を殺さないために、そして君自身が生きて戻るように、この訓練は受けて貰いたいな」


「……分かりました、教官。妨害してすみませんでした、続けて下さい」


どうやら収まった様だ、収め方に拍手を送りたいが、授業の邪魔をするのも良くは無いのでそのまま退室する事にした。


「教官の腕がいいな」


廊下に出るとエリスはそう言う、確かにと頷いた。実際に見せるとは思っていなかったが、フェアチャイルド空軍基地の事故の例は安全規定の講習の際によく引き合いに出されるらしい。


「教え方が上手いんだな、皆いいパイロットになってくれるといいんだが」


あの中の内、何人が戦闘機に乗れるだろうか。ガーディアンの空の今後を左右する彼らに、俺は正直かなり期待している。



========================



空軍基地の内部はかなり広い、敷地面積だけで言えば滑走路がある分本部よりも広く、その中には様々な施設がある。


そして空軍基地の中でも機密性の高い部署、“空軍特殊作戦コマンド(AFSOC)”と看板が掛けられた建物がある。まだここは準備室の段階だが、試験的に機能している部隊だ。


「空軍も地上部隊を?」


「主に地上で戦闘をする部隊をサポートする部隊だ、正面切っての作戦に従事する事は少ないけど、その分特殊技能を持った奴が揃ってる」


庁舎は普通よりセキュリティが厳しい、普通は出入り出来るような入口は常時施錠されており、開錠にはIDカードキーが要る。管理用のサーバーで入退館を管理しているのだ。


カードキーはドッグタグだ、常に携行しているドッグタグはIDカードになっており、それを翳すと自動ロックが開く。


「……本部よりも厳重だな、本部の特殊作戦部隊の事務所もそうだが」


「特殊部隊の扱う情報の機密性の高さが原因だな、特に空軍特殊部隊は情報収集を重視してる部隊だから特に厳重だ」


入口の壁には部署ごとに分かれている表示板がある。空軍特殊部隊は基本的に4つの部隊に分かれており、どれも通常の部隊とは任務の性質はかなり異なり、専門性の高い部隊になっている。


「STS……PJ、CCT、TACP、SOWT……なんだこれ」


「空軍特殊部隊の中の部隊名だ、STSにはこの4つの部隊がある」


「その部隊の頭文字ってところか、ヒロトの世界の軍人は洒落てるな」


それはその通りだと思う、こういう部隊の略称は多く、恐らく軍人は呼びやすいの他にもかっこいいって理由があるんだ、多分。

因みにSTSはSpecial(特殊)Tactics(戦術)Squadron(中隊)の頭文字だ、ガーディアンは人数がそもそも少ないので中隊クラスの人員は必要ないかもしれない、試験運用後、部隊を統廃合する事も一応視野に入れている。


「PJはパラレスキュー・ジャンパー、パラはパラトルーパーで落下傘兵と言う意味だけど、主に空挺部隊の事を指すことが多いな。航空機からパラシュート降下や高度な医療、薬学の専門知識を持つ戦闘員だ、任務は敵地に降下して撃墜された戦闘機や味方の救助、場合によってはその場で治療、手術まで行う事があるんだと」


「空飛ぶ戦闘可能な医師ってことか、ヒロトの世界には魔術が無いそうだが、治癒魔術も無いなら怪我を治すにも治癒魔術以外の治療も必要なんだろうな」


そう言いながら事務所の中を覗き込むエリス。

中は事務机のセットと、恐らくは銃器や装備、機器などが収納されていると思しき鍵のかかるロッカー、ホワイトボードなどがあるだけだ。


「……何か、えらく殺風景だな、それにこれで全員か」


室内に居るのは12人だけ、エリスの声に気付いたのか、こちらに向かって敬礼をしてくるので答礼を返す。


「まぁ、まだ準備室段階だからな。それにPJは戦闘する部署じゃなくてCSARが主任務だし」


CSARとはCombat Search And Rescue、戦闘捜索救助だがこれは前線または敵の勢力圏に不時着した航空機の乗員を捜索し、救出する任務だ。他にもPJは状況によっては他の部隊に派遣支援(アタッチ)する事が多く、大人数での行動はあまりしない部隊でもある。


「特殊作戦の大きな部隊には加わる事もあるぞ」


「頼もしいな、負傷者の救護をしながら戦闘も出来るとは……ただこっちじゃ治癒魔術があるから、治癒魔術師に任せた方がいいんじゃないか?」


「そうなんだよな、治癒魔術師なら衛生兵を任せられるが、そんな人員がウチ(ガーディアン)には……」


「マリーとケイトの2人かな、候補があるとすれば」


「1期生だしな、今度移動を打診してみるよ」


それに魔術は流れを察知される可能性がある、隠密状況下や特殊作戦の環境下でPJが任務を遂行する事を考えるとあまり好ましいとは言えない場面も出て来る。ポーションの実用化も進んで、メディカルポーチの中身が殆ど携行可能なパック容器に入ったポーションに置き換わったとはいえ、それに寄り切れない状況に備える必要も出て来るだろうし、専門的な医療の知識は必要だ。


エリスと一緒に廊下を進み、次の部屋を覗く。


「お次は何が出て来るのかな?」


「次の部署は更に小さいかな、CCTとTACP(タックピー)、航空機誘導の専任ユニットだ」


CCTはCombat(戦闘)Control(管制)Team()、TACPはTactical(戦術)Air(航空)Control(統制)Party()の略であり、共に航空機の誘導を行う部隊である。


「共に任務は航空機の誘導なのに名前が違う……何が違うんだ?」


「誘導の種類だな、CCTは航空機の着陸と攻撃の誘導の両方をやるが、TACPは攻撃誘導に特化している専任部隊だ」


CCTは、物資や空挺部隊のDZ(ドロップゾーン)、ヘリなどのLZ(ランディングゾーン)の確保と誘導、秘密裏に潜入した空港への航空管制を行い、航空機を安全に離着陸させることが任務の部隊だ。


戦闘機・攻撃機・爆撃機・ガンシップや砲撃を誘導する能力を持ってはいるが、CCTの主要な任務では無い。彼らの任務は降下ゾーンの確保と離着陸の誘導が主な任務であり、部隊に専任ユニットのTACPが要る場合はそちらに任せられる。


CCTの活躍については、2011年3月11日、地震とそれによる津波によって機能を喪失した仙台空港に先んじて展開し、瓦礫の撤去と臨時の航空管制を行い、空港の機能が復旧するまで支援に努めたのは有名だ。


対してTACPは、航空攻撃の要請と誘導が主な任務であり、特殊部隊と行動を共にする通常2人1組のチームだ。

特殊部隊と言ってもただの軽装歩兵であり、重装備や大量の敵を相手する能力は無い。そういった場合は、攻撃機の航空支援や砲撃による火力支援が不可欠になる。それを誘導するのがTACPの主な任務になる。


CCTとTACP、部隊の性質は似て非なるものだが、航空機と連絡を取り地上部隊と連携を確保するという点では一致している。

また未だ準備室段階である為運用課程で統廃合の可能性があるが、今のところは分けて運用し、その過程で検討する、と言ったところだ。


「着陸を誘導と攻撃を誘導で部隊を分けてるんだな……不便じゃないのか?」


「俺にも分からん、作戦運用能力を得るまでにどうにかしたいところではあるが……」


異世界に転生し、身体とメンタルを鍛え、部隊を運用する指揮官となった身ではあるが、本質は未だに勉強中の只のミリタリーオタクだ、専門的な突っ込んだところまではよく分かっていない事が多い。第一、特殊部隊など公開されていない情報が多く、異世界に来て機密の制約がなくなったとしても知る事の出来ない部分も多々存在する。


「……もどかしいな」


「何がだ?」


独り言のように吐き出した言葉にエリスが反応する、聞かれたくはなかった気がするのは自分の弱い所が独り言で出てしまったからだ。


「俺は元々こういうのが好きなオタクでさ、かっこよくて追っかけていた様なものなんだけど、実際こうなって部隊を扱ってみて、こうも違うのか、こんな事があるんだ、って知らない事の連続でさ。……自分が知らない事がこんなにあるって突き付けられるの、結構……いやかなりキツい」


自分が無知だ、何も知らない、ニワカだ、と突き付けられる様で、かなり精神的にクるものがある。自分の知らない事を知る事が出来る反面、何を知っていて何を知らないのか、知ったフリをしていただけだったのかと改めて認識させられるのは、正直言って相当自分の自尊心が欠ける思いだ。


しかし、エリスはそんな悩みを鼻で笑った。


「フン、なんだそんな事か」


「そんな事って……」


これでも割と真剣に悩んでいるつもりなんだけども……


「良いか、自分で何でも出来るなんてのは思い上がりだ。ヒロトがこちらの世界に来るまではただの一般人だったんだ、知らなくて当然のこともあるだろう。異世界の兵器を手に入れて何でも出来る気がしてくるのは分かる、だがただ武器が好きな一般人が1年で何でもできる様になる訳がないだろう」


よく考えてみれば、それもそうかもしれない。


「私だって剣を握って騎士団の団長になるまで10年はかかったんだぞ、そう簡単にヒロトにギルドの団長になられては、私の立つ瀬がない。……しかもヒロトに拾われてから、異世界の兵器への知見も運用の知識もないから、こうしてヒロトが案内してくれるまで何もわからないんだ」


そういうエリスが苦笑する。

そうは言っているが、エリスの現代兵器への知識ももう俺に追いつきそうだ、エリスから見れば現代兵器は異世界の未知の兵器であるのに、説明しなくても理解している事がもうかなりある。


「そう急ぐ事は無い、気に病む事も無い、私がヒロトの世界の兵器の事で頼れるのはヒロトだけだ。私と一緒にゆっくり確実に、1歩ずつ歩いていこう」


俺がしっかりしなきゃ、そうしないと皆が不安がる、そう思って内心はずっと焦っていたのかもしれない。

しかし命を預けている彼女らからしてみたら、求めているのはスピードより正確性だ。


「“ゆっくりは確実、確実はスムーズ、スムーズは素早い”、ヒロトがいつも言っているだろう?」


「……エリスお前、本当に18か?」


「何だ突然」


「いや……妙に大人びて見えてな、俺が18の時はこんなにしっかりしてなかった……いや今でもしっかりしてないな」


「しっかりしろ団長、お前が頼りだ。気を取り直して、次の部隊は何なんだ?お前が説明してくれないと、私は分からないぞ?」


煽る様な言葉だが、その口ぶりはとても楽しそうだ。

焦る必要は無い、そう思うと少し気が楽になる。歩兵1個大隊、戦車や砲兵を含めるともっと大規模な部隊の団長になったから、もう少し人間が出来た物になったと思ったが、どうやら俺はまだ相応の人間味を残していたらしい。


「次か、次は……あったSOWT(ソウティー)だな」


「ソウティー?」


特殊(Special)作戦(Operation)気象観測(Weather)チーム(Team)の略で、SOWTと呼ばれる。

この部隊は気象観測のスペシャリスト集団で、ラジオゾンデや観測レーダー、各種通信機器、偵察機や衛星等、あらゆる装備を用いて作戦の遂行に必要な気象データを収集、分析し、特殊作戦を支援するのが任務だ。


敵対的な環境で気象データを収集し、予報を作成、その情報をもとに偵察も行うチームだ。


「作戦を行う現地の天候、地質や土壌サンプル、月齢、潮位データを調べて、作戦を成功に導くんだ」


「気象か……その土地特有の風の吹き方、雨の降り方、日の射し方なんてのもあるから、そういうのも情報として収集するのか……盲点だったな……」


「作戦地域の植生によっても迷彩服の選定も変わって来るしな、今後、西部方面隊の様な地方部隊を設立する時に役立つかもしれない」


西部方面隊は砂漠が多く、マルチカム迷彩の中でも“マルチカム・アリッド”と呼ばれる砂漠向けマルチカムが採用されているが、今後そう言ったデータ収集もこのSOWTに任せる事になる。


事務室には大きなスクリーンが3つ、1つは基地を含めたベルム街周辺の気象レーダー、1つはその更に広域図、もう1つのスクリーンには西部方面隊の拠点である国境地帯の気象レーダー画像が映し出されている。


「……ここも随分少ないな」


「3分の1しかいないな、残りは任務に出てる」


「もうか?まだ準備室の段階なんじゃ」


「ここは部隊の編成はもう完結してるからな、気象データと土壌サンプルを取りに行ってるよ」


本格的にではないが、ここの部隊は既に少し動き始めている。本部の基地気象隊と連携した気象予報の作成を既に始めていた。


「……なるほどな、空軍特殊部隊は特殊性が高いって言っていた理由が少しわかった」


「主に支援に特化しているからな、空軍特殊部隊は。主な部隊は今紹介した4つと、特殊作戦飛行隊だ」


「特殊?戦闘機の精鋭部隊とか?」


「やっぱりそういう事は思いつくよな、特殊作戦飛行隊は特殊部隊を運んだり支援する飛行隊だ」


C-130の特殊作戦対応タイプのMC-130やCV-22オスプレイ、MQ-9リーパーなど、陸空軍問わず特殊部隊を支援する為の飛行隊だ。以外にもAC-130ガンシップも、特殊作戦飛行隊の指揮下に入る。


「へぇ……じゃあ訓練や実戦で世話になるのは……」


「そう、特殊作戦飛行隊の輸送機がメインになるってことだな」


空軍特殊部隊は、今後俺達の特殊作戦を成功させる要になっていく部隊だ。


そんな部隊に期待を託しながら、俺達はまた次の施設に向かった。

案内は、まだまだ終わっていない。

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