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第177話 防空コマンド

「はい、そこにサインを」


「ここですか?」


ワーギュランス公領、公都バルランス。

今俺が居るのはワーギュランス公爵の宮殿だ。


件の演習が終わり、ドラゴンナイツが解散してから1週間が経った。ドラゴンナイツと契約をしていた貴族との契約の引継ぎに来ている、カナリスも一緒に来ているが、彼は既にドラゴンナイツでは無く、“空軍パイロット候補生”だ。


元ドラゴンナイツの希望者はパイロットになる為に、これから1年間は座学と操縦訓練を受け、適性を見て戦闘機、輸送機、回転翼機など、ガーディアンが運用する航空部隊に配属される事になる。


書類はギルド組合の監修の下、公爵の執事とガーディアンの渉外科、ドラゴンナイツの広報部で作成した。ドラゴンナイツ、ガーディアンのトップ、それから公爵も内容については確認済みであり、不審な所はない。


契約の内容は「公爵家とそれに属する領地への防空サービス提供の契約」だ。


ドラゴンナイツが消えた今、公領の空は丸裸も同然だ、何せ公領で最強の翼竜(ワイバーン)を擁するギルドが消えてしまったのだから。それをガーディアンが肩代わりするのが今回の契約の引継ぎだ。


ドラゴンナイツの元屯営地は、防空指揮所か駐屯地を設営する計画はあるが、それもまだ定まっていない。どちらにせよ戦闘機でエアカバーを行うなら大してその施設は必要ない。レーダーサイトは強力な電波が人体に及ぼす影響を考えて却下だ。


「これで、ガーディアンは私との直接の契約を結んだ訳だ、今後とも変わらず、よろしく頼むよ」


目の前にいるのはこの公都バルランス、及びワーギュランス公領を治める、ラウル・フォン・ワーギュランス公爵。今日からこの人がガーディアンのお得意様になる。


「全力を尽くします、公爵閣下」


「……ところで、バルランス近郊に防空拠点が無い様だが……」


「ご心配なく、我々の拠点の方で、このバルランス上空は丸見えです、何人たりとも入れません。それに拠点からバルランスまでは約10分で飛んでこられます」


「ベルム街から……?馬車で3日、翼竜でも2時間はかかると言うのに……」


戦闘機の最高速度は機種によるが、現状のガーディアンが採用しているF-4Eファントムがマッハ2.23、常にその速度で飛んでいる訳では無いが、バルランスなら10分で到達出来る。


その内レーダーサイトを増設し、防空を担当する対空ミサイル部隊などを駐屯させる可能性もあるが、今はまだ人手が足りない。


「公領の空はガーディアンが守ります、ご安心を」


「うむ、期待している」


契約はこの公都で最後だ、これでドラゴンナイツの任務は完全にガーディアンに引き継がれることになる。

パイロット育成、軍備拡張、教育部隊の発足、練習機の選定。忙しくなりそうだ。



======================================



さて、基地に戻って来て書類の整理を終えたわけだが、既にやったことを整理する。

空軍教育隊の発足と支援部隊の拡充は済ませてあるし、それに伴う基地の拡張も終わっている。教育プログラムは大筋は決まったが、細かい所はまだ教育隊で詰めて貰っているので手が出せない。


そしてこれからやらなければならない事は、練習機の選定だ。


操縦訓練を行う初等練習機はAT-29スーパーツカノでほぼ決まっており、問題なのはジェット機の操縦訓練に充てる中等練習機だ。

候補に挙がっているのは、日本でもお馴染み、ブルーインパルスとしても有名な、ドルフィンの愛称を持つ川崎T-4。

イタリア、アエルマッキ製、軽攻撃機にも転用出来るM-346マスターの練習機型、M-346FT。

イギリス、BAEシステムズ製、現在まで900機以上が生産されたベストセラー機で、米軍もT-45ゴスホークとして採用しているBAeホーク。


この3機種の中から選定するところまで絞る事は出来た。M-346は高等練習機や、高度なアビオニクスと兵装を搭載できる能力もある為LIFT機に分類されるが、基本性能と用途は似通っているので選択肢に入れた。


空軍の方でも話は出ており、ボーイングT-7Aも候補に挙がったが、あれは第5世代ジェット戦闘機向けの訓練を行う機体でもある為、現状で第5世代ジェット戦闘機が召喚出来ないガーディアンでは能力が過剰だ。少なくとも第4.5世代ジェット戦闘機と合わせた方がより高度な訓練が出来るだろうと思う。


それからここへ来て設立したのが、平時から空を監視し、戦闘機部隊を管制しつつ、長距離や中距離等、様々な射程の地対空ミサイルでの防空を担う“防空コマンド”の準備室だ。


今までのガーディアンには、地上部隊に野戦防空を行う高射部隊は居たが、あれは地上で戦闘を行う部隊の頭上を守るための部隊であり、それを除けば基地防空隊しか抵抗する術はなかった。


そこで空軍内に基地の上空や契約した領地上空を監視する複数のレーダーと、それに連携した地対空ミサイルシステムを構築し、戦闘機で撃ち漏らしたりした目標を地対空ミサイル(SAM)で撃破しようという意見が持ち上がり、これが防空コマンド準備室設立へと繋がった。

装備するミサイルの候補は、MIM-23ホークや既に基地防空隊で採用しているNASAMS、03式中距離地対空誘導弾とし、広範囲を警戒、防空に当たる部隊の構想が既に出来ている。


「練習機選定、ガーディアン第2次F-X、防空圏の拡大による戦略防空……目が回るな」


「しかし契約更新で収入が増えたな、軍拡も出来る。……最近空の事ばかり考えてないか?」


最近は執務室でずっと書類と睨めっこ、エイミーも紅茶係の出番が多くなり、コーヒーを差し入れに来たグライムズと水面下のコーヒー紅茶戦争が表面化しそうになって危ない。


そうでなくても朝起きたら執務室で書類仕事、昼を挟んで会議、他の者は定時で上がった後も執務室で仕事、これでは身体が鈍ってしまう。


心配そうに声を掛けてくれるエリスだが、団長としての仕事だし、仕方のない事だ。


「俺の作戦参加資格がまだ復帰してないからなぁ、とりあえず空軍の事が済むまではかかり切りかな」


「体動かしてるか?」


「まぁまぁかな、時間見て筋トレくらいだけど……そういえば運用訓練幹部から来たぞ、明後日から俺達第1小隊が訓練だそうだ」


「お、待ってました」


「けがの無いように準備はしとけよ」


「分かってるさ、この間のライフルも組んで貰ったしな」


.300BLK(ブラックアウト)のライフルを組み、試射の事を伝えると、その弾薬は特殊戦を担当する第1小隊(ナイトフォース)の間では瞬く間に人気となり、ラッシュ准尉は大忙し。彼は日に4本程度のライフルを組み上げているが、調整の工賃が相当発生している為あまりきつそうには見えない。


「今回は夜間戦闘の訓練だとさ、.300BLKの性能を試す良い機会だぞ」


「分かってるさ、だが時間は夜だ、ヒロトもしっかり寝ておけ」


「了解、先に戻っててくれ」


「あぁ、待ってる」


そしてその訓練の日、.300BLKを使った訓練で第1小隊(ナイトフォース)が猛威を振るったのは言うまでもない。



===============================




空軍でパイロット候補生の訓練が始まってから1週間。1年間の訓練で操縦適正と空戦の知識を身に着け、戦闘機パイロットになってもらうためだ。


戦闘機パイロットになる場合、航空自衛隊の場合だと約3年近くかかるらしいが、それを1年に縮められたのは俺のスマホの機能の1つ、“伝授”システムのお陰だ。


これのお陰で戦闘機を操縦するための知識は殆ど身に付き、操縦訓練で多くの時間を占めることが出来る。伝授システムを用いたパイロット育成課程は、半年間、朝から夕方までみっちり座学を行い適性検査、そこから座学の合間に3ヶ月AT-29スーパーツカノによる初等操縦訓練、合格者は更に4ヶ月、ジェット機の操縦訓練を中等練習機で行う。そしてそれに合格した者は晴れて戦闘機パイロットになれる訳だが、任務飛行はまだ出られない。


そこから更に3ヵ月、複座型ジェット戦闘機にて操縦訓練を行い、数回の試験に合格した者が更に3ヵ月の単独操縦訓練を経て、ようやく任務飛行に就ける、と言うところだ。


戦闘機に乗れるまで1年、任務飛行に就けるまで1年半、ここまで圧縮出来たのもスマホの能力のお陰だ。


同時に、主力戦闘機のF-Xにより戦闘機の機種転換も行う。これも伝授システムのお陰で1ヶ月に短縮することが出来た。


前回の会議でF-XでF-4戦闘機の後継が決まり、戦闘機による防空体制に穴が出来ない様、4機の戦闘機が2機ずつ新型機に置き換えられ、同時にパイロットも4人ずつ訓練に充てる予定だ。

穴は開かないとは言え……任務に動員出来る戦闘機が大幅に減る、かといって現在進行形でバチバチにやり合っている西部方面隊から引っ張って来る訳にも行かない。


そこで取り急ぎ、防空コマンドの整備から着手する事になった。


ミサイルシステムは、レーダーとミサイルを別個に配備するなら一緒の方がいいだろうと、陸上型イージスシステムである“イージス・アショア”を中核として構築し、基地から約1000kmの距離の防空を行い、垂直発射装置(VLS)の数を増やして様々なミサイルを装填する事で、弾道ミサイル以外にも巡航ミサイル、低空飛行のヘリコプターまで対応させる事になった。


スタンダードミサイルを搭載したMk.41VLSを32セルでまとめ、それを8基、合計256セルが配備され、空軍基地の滑走路南側の敷地を拡張してクレーンによる再装填を容易にする為、埋め込むことになった。その内32セルには発展型シースパロー(ESSM)が搭載され、SM-6の召喚が可能になったら全てSM-6に置き換える予定だ。

レーダーはAN/SPY-7、ベースライン9Cで弾道ミサイル防衛(BMD)から対空戦闘(AAW)まで対応したIAMD機能を持たせたものになっている。


そしてその内側を防御するのが、イスラエル製の防空システム、アイアンドームだ。

Counter-RAMに分類されるこのミサイルシステムはロケット弾や155㎜砲弾の迎撃も可能で、対空ミサイルとしてはUAVや航空機、更には誘導爆弾の防御までも可能とされている。戦歴もあのイスラエルで実証済だ。


「一気に防空が強化されたなぁ」


「これがイージス・アショアか……」


退役したMQ-1やその他の無人航空機が離陸していく空軍基地、その片隅に建設されたイージス・アショアのレーダー塔にエリスと共に向かい、眺めながら呟く。

イージス・アショアの更に南にはVLSの区画があり、Mk.41の中に200を超えるミサイルが眠っている。


空軍基地を挟むようにSAMの陣地があり、そこにアイアンドームの発射機が配備されている。アイアンドームはタミルミサイルの発射機のみで、レーダーはイージス・アショアとリンクし、SM-2と同時に防空指揮所で管制される。


丁度防空演習がミサイル発射試験と合わせて行われるようなので、お邪魔してみる事にする。


レーダー塔の内部、その中にCIC区画のドアがあり、それを開けるとまず感じたのは冷気だ。コンピューターを冷却する為のエアコンが発生させる冷気がふわりと外へ流れ出る。


「おぉ、ここも涼しいな。……という事はここも“でんしそうち”が沢山使われているんだな?」


「ご明察、コンピュータが大量に使われているからな、常に冷却していなければならないんだ、この辺は本部の地下の中央作戦室(COC)と同じだ」


コンピュータの熱暴走を防ぐ為の冷房が常に効いている為、秋口は少しだけ肌寒いかもしれないと思いつつ、部屋の中を見回す。

内部はイージス艦のCICそのものだった、いくつものモニターと、地図に重ねられたレーダー画面。兵装を操作するコンソール等も、イージス艦と同じ物が使われている。


「教練、対空戦闘用意」


「教練、対空戦闘用意―!」


海上自衛隊式の号令と共に訓練が始まる、この中に居るのは、レーダーを見張るレーダーオペレーター、目標への指示を行う防空管制オペレーター、ミサイルの発射スイッチを握る兵装オペレーターが各3人。そして全体を指揮する防空指揮官が1人に補佐に付く1人の合計8人、4交代制のクルーが24時間体制で基地から半径1000kmを常時監視している。


「対空戦闘、基地に接近する目標あり、低速低空目標多数」


「目標群をA(アルファ)B(ブラボー)C(チャーリー)と呼称」


レーダーオペレーターからの情報を防空管制オペレーターが受け取り、脅威度が高いと判断された優先目標のマークが終わっていく。


「CIC指示の目標、目標群A(アルファ)、トラックナンバー001から004、スタンダード、用意良し」


兵装オペレーターが目標に合わせ、イージス戦闘システムから提案された最適な兵装を選択、ミサイルの発射準備が整う。


「スタンダード、発射始め!」


「サルボー、発射始め!撃て!」


サルボー発射、外にあるMk.41VLSの蓋が開き、排炎口から壁状の炎が立ち上がる。ホットローンチのセルから、装填されてあったスタンダードSM-2が高く上昇していく。

1発だけではない、2発、3発、合計4発が発射されていく。


CICの中に僅かに低い音と振動が届く、ミサイルが発射されたことは中に居ても分かった。

ミサイルはRIM-156A SM-2ER、イルミネータの誘導に乗って目標へと真っ直ぐ飛んでいく。

目標はMQ-9の運用開始に伴い退役したMQ-1プレデターだ、演習空域を低空で飛んでいる。


「インターセプト15秒前」


カウントダウンが始まる、レーダー画面上では飛翔するミサイルと目標に設定されたプレデターの位置がどんどん縮まっていく。


「5秒前、4、3、2、1……マークインターセプト」


ミサイルと重なった瞬間、目標が画面上から姿を消した。


「ターゲット撃墜(キル)


「目標群B(ブラボー)、同じく低速目標、トラックナンバー005から008、更に接近」


「スタンダード発射始め!」


更に続けて4発のSM-2がVLSから解き放たれる、音速を超えさらに速く速く加速し、気付けばこの異世界で何者よりも早く飛んでいく。

凄まじい速さで標的のMQ-1に命中したミサイルの62㎏のHE弾頭が炸裂し、多数の破片が捕食者に穴を空けて空中で爆散させた。


「トラックナンバー005、007、008撃墜(キル)、トラックナンバー006破壊出来ず(サバイブ)、回避機動を取りつつ接近中」


「ESSMに切り替える、トラックナンバー006、サルボー、発射始め!」


「ESSM、撃て!」


別のVLSの蓋が開き、2発のRIM-162 ESSMが連続発射される。最新型のBlock2で、アクティブレーダー誘導方式だ。凄まじい追尾性能を見せる短距離ミサイルがマッハ2.5まで加速し、重量41㎏の指向性爆風・破片炸薬の弾頭だが、高い運動性を有するミサイルは弾体を直撃させた。


「ターゲット撃墜(キル)、目標群B(ブラボー)、全機撃墜」


「目標群C(チャーリー)、高速目標2機、小型目標を分離して離脱した模様。ミサイルを発射したと思われる」


高速目標、戦闘機だ。演習のシナリオを知っているからわかる事だが、これは高速無人標的機を搭載したF-4だ。

標的機を発射したF-4は即座に離脱、対空ミサイルの射程を出るが、ミサイルを模した小型高速標的機だけがこちらに向かってくる、その数合計6機。

「目標群D(デルタ)と呼称、トラックナンバー009から014、更に接近」


「ESSM、サルボー、発射始め!」


「撃て!」


VLSの新しい扉が開き、再びESSMが発射される高く白い煙を曳いて昇っていくかと思えば、角度を変えてぐんぐん加速していく。合計12発のESSMが目標に向かう、1目標に2発を発射して迎撃率を少しでも高めるのだ。


「インターセプト5秒前、4、3、2、1……」


10km程南の上空で花火が上がるように、ミサイルが高速無人標的機に命中する。レーダー画面上では、6機のミサイルを模した高速無人標的機の内、4機を撃墜している。


「トラックナンバー010、011、013、014、撃墜(キル)


「トラックナンバー009、012破壊出来ず(サバイブ)、真っ直ぐ突っ込んでくる」


「アイアンドーム、スタンバイ」


迎撃に然程時間がない中、兵装オペレータがミサイルをアイアンドームに切り替えた。


「発射始め!」


アイアンドームシステムの迎撃ミサイルであるタミルが、20連装のランチャーから垂直に撃ち上げられる。1目標に2発、今度こそ確実な迎撃を狙う。


「……マークインターセプト!」


レーダー画面上で、ミサイルが無人標的機に命中、画面から消えレーダーがクリアになる。


「目標群C(チャーリー)、空域を離脱、レーダークリア、周辺空域に目標無し」


「対空戦闘、用具収めます」


「対空戦闘用具収め」


レーダーオペレーターのレーダークリアの報告に、兵装オペレーターの声が続く。防空指揮官が対空戦闘の格納を命じ、戦闘状況が終了する。兵装オペレーターのコンソールに映されるミサイルの残弾はまだ200発以上残っていた。


「教練、対空戦闘、状況終了」


訓練が終わった後、思わず拍手が出てしまった。エリスもだ。


「素晴らしい戦闘だった、撃ち漏らしへの対処も流れる様に出来て技量の高さを感じる」


防空指揮官にそう言うと微笑んで敬礼を向けて来た。


「ありがとうございます、こちらもシミュレータは何度も訓練していたのですが、実射を伴う訓練は初めてでしたので、私も部下も緊張しておりました」


「エリス、何かあるか?」


エリスに向き直ると、エリスはサムズアップして答えた。


「全く文句無しの防空戦闘だった、ここに居ながら飛行物体を全て撃墜出来るとは……兵器の能力の高さと君達の練度の高さが伺えるよ。翼竜(ワイバーン)が要らなくなるな」


「とは言え、我々が出来るのはベルム街とその隣接する領地を経空脅威から防衛する事だけです。本格的な攻勢は、他の部隊に任せるしかありません」


防空指揮官はエリスの言葉にそう返す、彼らが居るからと言って、戦闘機部隊が不要になる訳では無い。あくまで平時から空を常に監視し、防御するフィールドを張る、と言うイメージだ。


「1つ質問がある、今回は基地に近づける事無く全機撃墜したが、もし更に接近を許したらどう対処する?」


「アイアンドームの内側に入って来た敵は、基地防空隊がVADSなどの対空機関砲で迎撃します。必要ならそこで撃墜しますが、目的はあくまで敵を遠ざけ、対空ミサイルで撃墜する事になります」


エリスの質問に防空指揮官が答える。

イージス・アショアとアイアンドームの地対空ミサイル(SAM)、その内側を守るVADS等の対空機関砲で「ガン・ミサイルコンプレックス」を展開し、広範囲で防空を行うのだ。


「基地と周辺は彼らに任せて、戦闘機部隊は安心して戦ってほしい、という事だな」


「えぇ、低空を低速で飛び回る翼竜(ワイバーン)から弾道ミサイルまで、何でも撃ち落とします、空からの脅威から守り安心感を与えるのが、防空コマンドの任務です」


爽やかにそういう防空指揮官の笑顔には、自信の色が浮かんでいた。





「あそこからミサイルが真上に出る」


「あれか、今出たのは?」


「あれ」


「どれだ?」


「あの焦げてない蓋の奴」


「あぁ、あれか」


終了後にエリスとイージス・アショアの付近に設置されたVLSを見ていく、蓋が焦げていないVLSから、ついさっきミサイルが発射されていた。


「どこまでカバーできるんだ?」


「公都までは余裕だ、早期警戒機(AEW)早期警戒管制機(AWACS)が居ないから、迎撃に向かう戦闘機の管制や誘導もやる」


「今は動ける機体が2機だけだからな……これは頼もしい」


エリスも結構、ミリタリーな話が分かるようになって来た、最近では補足説明を入れなくても理解する様になってきたので、だいぶ()()()()に染まって来たな、と言う感じがしている。


「お、ファントムが戻ってきたぞ」


「本当だ……着陸直前はあれでも低速なんだもんな……早いなぁ……」


さっきのイージス・アショアのミサイル発射訓練で、高速無人標的機の発射母機になっていた2機のF-4Eファントムが甲高いエンジン音を響かせながら戻ってきた。

滑走路上空をオーバーヘッドアプローチ、戦闘速度を維持したまま滑走路上空を1度旋回する。戦闘機は着陸直前がもっとも狙われやすいからだ。

通過したらダウンウィンドレグ、戦闘速度のまま1機ずつ旋回し、速度を落として着陸脚(ギア)を下ろす。

滑走路の着陸コースに進入、13度の迎え角を維持したまま150kt(約270km/h)で接地し、1120mもの長い距離を使って着陸する。

キィィィィィ……というエンジン音が飛行場全体に響き渡り、F-4ファントムが誘導路から駐機場(エプロン)へと入っていく。


「空軍のパイロット候補生の実習も見に行ってみるか」


「そうだな、ちょっと見に行こうか」


カナリス他元ドラゴンナイツの隊員達がパイロット候補生になり、訓練を受け始めてから1週間、進捗はどうなっているだろうかと思い、滑走路を大回りして庁舎群の方へ向かう。


戦闘機のパイロット候補生は40人、さて、その内何人が戦闘機に乗れるだろうか、楽しみだ。




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