第17話 基地作り
30分程走って目的の丘へ到着。
警戒しながら車を降りる。
「それじゃ、基地作り始めますか」
俺はポケットからスマホを取り出す。
選択したのは個人用テントが8棟、そして本部用のタープと野外炊具2号だ。
説明書を読みながら全員で手分けしてテントとタープを組み立てる。
テントを2列、その傍にタープと野外炊具2号を設置する。
他にも野外入浴装備や仮設トイレ等、必要になるであろう物は大体全て出した。
テントとタープの設営が終わったら周辺を固める。
魔術が使えるメンバーは魔術で、使えないメンバーはSOVに積まれているスコップで塹壕を掘る。
それが終わると鉄条網を設置、防衛陣地を構築する。
俺が鉄条網を出すとメンバーはこれを不思議そうに眺める。
「これは何ですか?」
クレイが質問してくる。
「これは鉄条網、敵の進軍を阻む物だ」
「確かにこれは痛そうですね」
鉄条網は真っ直ぐ張るのでは無く、ノコギリの刃の様にジグザグに張るのが良いと本で読んだ事がある。
ジグザグに張ると敵が鉄条網に沿って並ぶので、効率良く射撃出来るとの事だ。
陣地をグルリと囲む様に鉄条網を張っていく。
大体体育館位の広さの陣地が設営出来た。
人数が増えたらもっと立派な建物を建てようと思う。
……まあスマホでだけど。
ついでに陣地の横に射撃場を作った。
長さは約300m、幅20m位で、全体的に5m位掘り下げてある。
これで照準器の調整も出来るだろう。
「よし、設営終わり!屋敷組と居残り組で分けるぞー」
本部用タープに戻り、全員を集める。
「エイミー、ガレント、スニッド。この3人が屋敷に行ってエリス派と交渉して貰います」
エイミーはエリス派のリーダー格、ガレントは車の運転が可能、スニッドは治癒魔術師なので、どれも必要な人材だ。
「留守番組はそれ以外。あ、留守番組も忙しいぞ。いろいろやらないといけない事あるしな」
エリス、セレナ、クレイ、ブラックバーン、ユーレクと俺は居残り組だ。
「それにしても、屋敷組は休憩しなくて良いのか?疲れてないか?」
「大丈夫です」
スニッドが答える。
「私達、屋敷で鍛えられてますから」
「そうか……でもこれから移動だから、途中で休んでくれても構わないから、居残り組はちょっと休憩」
屋敷組を少し車両置き場になっているところへ連れて行く。
「何か出すんですか?」
とガレントが問いかける。
「ああ、SOVだと、あんまり人数が乗れないからこっちへ連れてくる時不便だろう」
スマホを弄り、ある車両を選択する。
すると、目の前にSOVとは違う車両が登場する。
HMMWV M998だ。
出したモデルは、ターレットの付いたフレームに幌が張ってあり、後部座席がベンチシートになっているタイプだ。
ターレットにはまだ何も乗っていない為、幌で塞がれている。
見た目はHMMWVというより、陸上自衛隊で使っていた高機動車に近い。
「おおぉー」
「SOVより大きい……」
「ガレントの運転で、これに乗って行って貰う。大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です」
と言って、3人は装備を整え始める。
まずエリス派の主要人物を隠れ家に集めるて説明し募集書類を配布、4日間の猶予の後それを回収し、一度ここへ戻ってくる。
募集書類を確認したら屋敷組には2日の休憩の後、もう一度屋敷へ向かって貰う。
そうして少しずつ応募した人達を連れてくる、という手筈だ。
向こうのエリス派の屋敷を使う為、食料と水は少しで良い。
武器弾薬は出来るだけ持っていく。
ケイン派と戦闘になる可能性があるからだ。
「じゃあ、頼む」
「お任せ下さい」
俺はガレントに紙束の入ったショルダーバックを渡す。
偽装ネットと無線機、必要物資を載せると、3人を乗せたHMMWVは発進した。
HMMWVを見送ると、俺はベースに向き直る。
「さ、俺らも必要な事しなくちゃね」
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ダァーン!
ダァーン!
ダァーン!
基地の横に作った射撃場に銃声が響く。
今は居残り組と照準器の調整をして居るところだ。
「着弾、もう少し上」
クレイが構えているM4にはACOG TA31ECOS RMRが取り付けられており、それの調整だ。
俺が双眼鏡で着弾を確認し、修正を指示する。
クレイはスコープ横のダイヤルを動かし、レティクルを少し上にずらす。
ダァーン!
ダァーン!
ダァーン!
「着弾、若干左に寄ってる。右に修正して」
クレイはもう一度ダイヤルを動かし、右側へ修正、トリガーを引く。
ダァーン!
ダァーン!
ダァーン!
「……うん、いい感じ。セミオートで連射してみて」
「はい」
ダンダンダン!
「いいよ、次フルオートね」
クレイがセレクターレバーをFULLに合わせ、射撃する。
ダダダダダダダッ!
弾丸は的に吸い込まれ、命中する。
「よし、クレイのM4は調整終わり」
「ありがとうございました!」
クレイで最後だった照準器の調整も終わり、M4もようやく戦闘ライフルっぽくなってきた。
既に全員分のM4に、改良キットが組み込まれている。
因みに銃器の扱い方は車両に搭載されている物も含めて、既に一通り教えてある。ここに居ないガレント、スニッド、エイミーにもだ。
セーフティや銃口の向き、装填、ジャムクリア、扱う上でのルール等を説明し、完璧に扱える様になっている。
「そうだ、街へ行こう」
……なんか旅行のCMみたいになっちゃったな、まぁいいや。
「街?さっき行ってきたばかりじゃないか」
「冒険者組合にギルド申請しに行くんだ、ついでに何か買い物して行こう」
冒険者組合の仕組みやルールも知っておきたいし、クエストで生計を立てるのもありだ。
「わかった、だがもう夕方だぞ?」
「……デートだよ、エリスと2人で出掛けたいんだ。暫く忙しくなりそうだし」
本音を言うと、エリスは顔を赤くする。
俺はメンバーに向き直る。
「と言う事で、ちょっと街に出掛けてくる。皆はここの周辺警戒を頼む、何かあったら無線連絡くれ」
メンバーの了承を得、無線機ーーAN/PRC-168を背負う。
本部タープにはAN/PRC-117G無線機があるからこれで連絡が取れる。
車両に搭載されている無線機もこれだ。
勿論メンバーに使い方は教えてある。
俺は駐車場に停めてあるSOVランドローバーを一台借りて再び街を目指した。