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第171話 ヒロトのヲタク話: .300BLK

最初にお断りしておきますが、この171話は読まなくても本編の流れ的にぶっちゃけ全く問題はありません、ただヒロトがオタクな話をするだけです。

数日後、俺は少し心を躍らせながら仕事をしていた。

団長としてガーディアンの戦力の見直しと士官教育の進捗と内容、今回の西の砂漠での王国からの報酬は莫大なものとなり、会計科より大規模な軍拡が許可された。


これによって歩兵は頭数を増やし、第3小隊の設立が可能になった。


第3小隊は軽歩兵からなる48人の小隊で、主な移動手段は装甲兵員輸送車(APC)HMMWV(ハンヴィー)。しかし、移動手段だけであればヘリコプターも利用する、空挺歩兵と機械化歩兵の中間の様な歩兵だ。


これによりガーディアンの歩兵は、第1第2第3の各小隊と火器小隊、狙撃小隊3つを合わせて273名となり、中隊長と副長、情報士官、運用訓練幹部、先任下士官、副先任下士官、魔術戦士官、通信手、衛生兵、兵站軍曹2名の11名からなる中隊本部を加えて、284名の“中隊”の編成となる。


第3小隊は全員“召喚者”によって構成されている、いつもの部隊の様に13週間の訓練の後、8週間の練度向上訓練を行っての実戦だ。

本来ならば召喚する兵士は基礎訓練課程を終えている状態で召喚されるのだが、それとは別の“召喚者育成プログラム”を全員が受けてもらうことになる。


これで今までより戦術の幅が大幅に広げられる、そう考えると、今の兵士たちの負担も軽減出来るだろう。


それから、拡大した部隊に伴って、後方支援部隊の拡充も行った。

情報科、工兵科、通信科、武器科、補給科、輸送科、衛生科等の元々あった部隊の再編や編成拡大、新たに憲兵科と化学科、魔術科の設立だ。


最近は「科」の文字を見すぎてゲシュタルト崩壊するようになってきたが、まぁいいだろう。


しかしこれだけ部隊を拡大してもまだ懐には余裕がある、昇進した会計科のジーナ少尉、まだ穏やかな表情をしている。


基地業務群に属する部隊も、


航空機の安全な運用を管理する基地管制隊。

基地施設の維持補修を行う基地施設隊。

基地内外の通信を維持管理する基地通信隊。

福利厚生や人事、給食業務を行う基地業務隊。

隊員の給与や手当など、あらゆる金銭の管理を行う基地会計隊。

翼竜(ワイバーン)などの航空攻撃から基地を守る基地防空隊。

主に航空機の整備と補給を行う基地整備隊。

基地に配備されている、主に銃器の補給や保守管理を行う基地武器隊。

生活物資の補給と管理を行う基地補給隊。

基地周辺の気象情報を収集、部隊と基地に共有する基地気象隊。


以上10の部隊に再編し、ジーナ少尉は基地会計隊となった。


段々と大きくなってきた部隊だが、そろそろ部隊の大きさに対応するために編成が地球(前世)の軍隊っぽくなってきた。これなら徐々に部隊を大きくして行ったとしても大丈夫だろう。


もちろん軍備拡張は喜ばしいことだが、今俺が心を踊らせている理由は他にあった。


数日前にパーツを組んで、調整の為に基地武器隊に渡していた俺のライフルが、今日仕上がるのだ。

あまりに楽しみで、「そわそわしすぎだ馬鹿者」とエリスに叱られてしまったが、仕方ないだろう、許してくれ。


そんなこんなで今日一日仕事がえらく捗ったり気になって手につかなかったりしたが、受取の時間になる前にようやく全部終わらせた。やはり楽しみは全部終わってからでないと……


受け取りは16時30分、時間になった瞬間に俺は執務室から出る、地下へ向かう足取りは軽いが、走って向かうのは辛うじて理性で押し留める。

久しぶりにヲタクの血が騒ぐ、こればっかりはどうしようもない。


地下1階は武器と弾薬の管理室、銃と弾薬、攻撃ヘリに搭載するミサイルまでを管理している。保管する武器ごとにカウンターが分けられており、俺が訪れたのはその内の“銃”のカウンターだ。


「おう」


「あ、ヒロトさん、お疲れ様です」


この緑色の髪をした青年はラッシュ・フローリング准尉、基地業務群、基地武器隊の管理人で、召喚者だ。

厳しい武器の管理と精密で繊細な調整の腕を持つことから、“地下室の番人”と呼ばれている。因みにその髪は地毛らしい。


何度かこの武器庫には通っているが、彼も“銃ヲタク”であることが分かり、銃についての相談事や調節等も彼にお願いしている。


「頼んでたものは……」


「あ、出来てますよ。トリガーも2ステージトリガーを入れてあります。しっかし、ARでこれを組むとは物好きですなぁ」


そう言いながらラッシュは後ろのロッカーから1挺のライフルを取り出す、ハンドガードは細く、アクセサリーも取り付けてあった。

俺は受け取ったライフルを手に取り、構えたり取り回したりして確かめる。隙間やガタつきは一切なく、剛性には微塵も不安を感じない仕上がりになっていた。


「……素晴らしい仕上がりだ、自分で組むより安心できるよ」


「そりゃどーも、鉄砲弄るのが好きな身としては大きな誉め言葉ですよ。ゼロインも出来てますから、そのまま持ち出せますよ」


「ありがとう、任せて良かった、最高だ」


「褒めても取る物は取りますよ、小金貨6枚です」


俺は財布から小金貨を6枚取り出す、任務外の調節は工賃が発生する。

ラッシュは俺から金貨を受け取ると笑顔で「またのご利用お待ちしております」と言った、ぜひまた利用したい。


執務室へと戻ると、嬉しさのあまり構えてみたり、スリングを取り付けて銃をぶら下げてみたりした。不審者じみたキモいヲタク丸出しだ。


「私のノックが聞こえないくらい夢中になっていた様だな」


背後から声を掛けられ、振り向くとエリスが立っていた。どうやらノックをしたが反応が無いので入って来たらしい。少し呆れ顔だ。


「あぁ、すまん。ちょっとのめり込み過ぎた」


割と本気で反省だ、いくら楽しみな物が手に入ったからと言って少し夢中になりすぎた。


「まぁいい、私もお茶にしようかと思っていた所だ」


「あ、じゃあ俺が淹れるよ」


「そうか?なら頼む」


俺は応接用のソファにライフルを置き執務室から出て、隣の給湯室に紅茶を入れに行く、ライフルを弄ってテンションが上がってしまい、気付かなかったお詫びだ。


まだ残暑が厳しいからアイスティーにしよう、お湯を沸かして紅茶の茶葉をポットに少し多めに入れ、熱湯を注ぐ。


2分蒸らしたら氷を入れた耐熱のポットに茶漉しを通して移し替える。エイミーに教わったのだが、これで一定のレベルの腕にはなるという。


粗熱が取れたらいい感じだ、グラスに氷を入れて紅茶を注ぐ。色も香りも悪くない。


「お待たせ」


「おかえり」


応接用のソファに座って待っていたエリスの前にグラスを置き、俺は向かい側に座る。


「……うん、合格だ」


「ありがたい」


紅茶を一口飲んだエリスからそう言われる、彼女に紅茶を褒められるのは素直に嬉しいのと同時にホッとする。普段からエイミーの紅茶を飲んでいる彼女であるから、紅茶には拘りがあるのだろう。相手はエイミーだ、エイミーが淹れた紅茶に勝てる訳がない……。


「で、そのライフルは何だ?先日からやけにそわそわしていた原因だとは思うが……」


「あぁ、これはM4なんだが、.300BLK(ブラックアウト)の弾薬に最適化する様に組んだんだ」


7.62×35㎜ .300BLK(ブラックアウト)、.300 AAC Blackoutとも表される弾薬は、ジャララバード解放戦の際に試験的に実戦投入した弾薬だ。


「M4?減音器サウンド・サプレッサーが付いているが、随分短く見えるな。どんなライフルなんだ?」


「あぁ……けどその前に1つ断っておきたい事がある」


エリスは怪訝そうな表情を浮かべる。


「ここから話すのは、一兵士の領分を超えた、いわゆるマニアとか、オタク範疇の事だ、余計な話まで逸れるかもしれないし、つい話し過ぎるかもしれない、不確定な情報もある」


ヲタクが嫌われる要素はここだと思う、聞いてない事まで答えたり、その話題に夢中になってしまったり、あやふやな事を確からしく喋ってしまったり。


色々あるが、俺もいわゆる“早口ヲタク”の一員だ、それ故に俺が拘って組んだこのライフルについて、話過ぎてしまうかもしれない。


「……聞こうか」


エリスはそれでも聞いてくれる、ヲタクは話を興味深く聞いてくれる人に弱いのだった。

俺は棚から.300BLKの模擬弾を取り、テーブルの上に並べる。


「こいつはSTANAGマガジンに5.56×45㎜NATO弾と同様に30発を装填出来るのは知っているな?」


「体験済みだからな」


.300BLKと5.56×45㎜NATO弾はリム径が同じだ、その為、既存のプラットフォームからあまり変更を加えずに使用できるのが強みの弾薬である。


「けど、これだと潜在的な危険性があるのと、最高のパフォーマンスが望めないんだ」


「潜在的な危険って、この間ガレントがやった奴か」


「そうそれ」


つい1週間ほど前の事なのだが、射撃訓練中のガレントが5.56㎜用の銃身(バレル)のまま.300BLKをそのまま装填し、射撃しかけるという重大なインシデントがあったのだ。


気付いてよかったと今でも思う、下手をしたら死者追悼壁に刻まれる名前が増えてしまうところだった。


「今後ああいうのが事故に至らない様にな、.300BLKを使うライフルはハンドガードの形を大きく変えて、マガジンにも印を付ける様にしたらいいんじゃないかって」


「そうだな、それがいい。事故で仲間を喪うなど悔やみきれないからな……」


事故を防ぐ為の措置として取った方法に、エリスは納得したように頷いて呟く。


「それから.300BLKは、基本的に9インチバレルで最高のパフォーマンスを発揮する様に設計された弾薬だからな、それに合わせてバレルも短くしてる」


減音器サウンド・サプレッサーを外し、CQB-Rよりも短いバレルを見せる。MP5と同じくらいの長さのバレルだ、ほぼSMGやPDWの様なサイズ感である。


「どんなパーツを組めばいいんだ?」


「バレルは当然ながら.300BLK用のバレルを使ってる、ガスチューブもピストルレングスっていう、短い奴にしてるんだ」


ハンドガードの隙間から見えるガスチューブをエリスに見せる、いつも使っているガスチューブはカービンレングスと言う長さのものだが、今このライフルに取り付けているガスチューブはピストルレングス、更に短い。


「本当だ、短いな……どうしてだ?」


「.300BLKは発射薬(パウダー)に拳銃用の燃焼速度の速い物を使ってるんだ、チューブが長いとガスの取り入れ口に辿り着く前にガスが燃焼しきってボルトが後退不良を起こす。十分にガスを機関部に取り込めない為だな」


以前の戦闘中もそうだが、.300BLKをカービンレングスのガスチューブで射撃した時、動作不良(マルファンクション)を良く起こしていた。


やはりガスチューブなどの銃の動作に関係するところが原因だったらしい。なので、ガスチューブの径、長さ共に.300BLKに最適な物を選んでもらった。


それだけじゃない、そう言ってM4をテイクダウンし、ロアレシーバーからバッファを外す。


「これもちょっと違うんだ、H2ヘビーバッファ、重いバッファで後退速度を調節して、燃焼速度の速いガスを取り込んでも安定して動作する事が狙いだ」


「5.56㎜のバッファより重いのか、軽いバッファのままではダメなんだな……」


「ダメというよりは動作不良の原因になるな、個体差はあるけど、これがあれば.300BLKにより適合する」


バッファを戻してピンを留める、中身を変えたが、基本的なベースはM4A1のそれだ。


「ハンドガードも細い、握りやすそうだ」


「BCMのMCMRを使ってる、8インチだ。サプレッサーを付けるからバレルより1インチ短い」


BCM(ブラボーカンパニー)は元海兵隊員によって設立された、アメリカで人気のPMC向けAR系ライフルアクセサリーを手掛ける銃器メーカーだ。


選んだのはMCMRの8インチ。

M(M-LOKの)C(互換性がある)M(モジュラー)R(レール) systemはその名の通り、銃身冷却腔(クーリングホール)の様なM-LOKスロットを装備したハンドガードで、アクセサリー装着の自由度がピカティニーレールやKeyMod(キーモッド)よりも高い。


その上で細くて握りやすく、これなら俺達の装備する5.56㎜の普通のM4と見間違える事は無いだろう。


「アタッチメントはいつも通りだ、夜戦対応のLA-5C UHPとSurefire(シュアファイア)のM300V、光学機器(オプティクス)EOTech(イオテック)のEXPS3-0だ」


「553は?」


「流石にちょっと古くてな、それに短い銃に載せるにはEXPS3の方がいい」


先が丸くなっており、CR123を1本使用するタイプのホロサイトだ。俺の14.5インチ、5.56×45㎜NATO弾を使用するM4にはEOTech(イオテック)553ホロサイトが載っているが、最近短い方にはEXPS3を乗せている。


EOTech(イオテック)のホロサイトは視界が広いから見やすくて好きだ、劣化して来ても召喚で出せばいいしな」


「便利だなぁ……コレ、ヒロトの世界で買うといくら位するんだ?」


「金貨15枚くらいかなぁ」


「じゅッ……!?」


日本円に換算すると約15万円、もう少し安いこともあったが、基本的にそれくらいだ。


EOTech(イオテック)のホロサイトは劣化するとよく言う、レーザーダイオードの輝度が低下したり、ホログラフィック投影膜の特殊なゼラチンフィルターが空気に触れると劣化し、接眼レンズに唐草模様が浮かび上がったりする。


劣化には個体差があるので劣化しない物もあるが、米国のシューターの間では、「2~3年でオプティクスを買い替えられるのであればEOTechを使うべきだが、そうでなかったり同じものを10年使いたいのならばAimpoint(エイムポイント)製ダットサイトを買った方が良い」とも言われている。


俺達の兵器の供給は俺のスマホからなので、2~3年に1度と言うより、下手したら例えば1ミッションで交換する事も出来るので、そこは問題ないと思う。


「……そんなにしたのか」


「ここでは俺が好き勝手召喚できるから気にしなくていい、いやマジで」


下のPXに行けば小金貨6枚程度で買えるのだから、異世界に来て本当に良かったと思う、使いたい放題だ。


「やはりEOTech(イオテック)はいい……」


「ヒロトはこれがお気に入りか」


「もちろん、使いやすくてかっこいい、俺はこれが気に入ってる」


「なるほどな……T2やCOMPも試してみたけど確かにEOTech(イオテック)が使いやすかったな。……フロントサイトのデザイン、変わった奴だな?」


LA-5に埋め込まれている様に取り付けられているフロントサイトに目が行った様だ。


「これはLEAF(リーフ)、ATPIALに適合する様に作られたフロントサイトなんだ」


SAGE DYNAMICSとRAIL SCALEが共同開発したLEAFは、PEQ-15やLA-5などのATPIALと併用する事が考えられたフロントサイトで、レーザーとイルミネーターの照射口の間にぴったり収まるように設計されている。


こうする事でよりATPIALをハンドガード前方に装着することが出来、ハンドガード上にデュアルリモートスイッチが配置しやすくなる。


加えてイルミネーターやレーザーの光がフリップアップサイトなどに干渉し、銃口側で眩しく光ってしまう“IRスプラッシュ”という現象を解決する事が出来るのだ。


LA-5を前にマウントした分、ハンドガード上に俺はSurefire(シュアファイア) SR-D-ITデュアルリモートスイッチを置き、手元でレーザーとライトを操作する事が出来るようになっている。


「完全に夜間戦闘対応型だな」


「.300BLK自体、射程距離が短いからな。亜音速弾で大体250mくらいの交戦距離だ、夜間の奇襲作戦とかを想定してる」


減音器(サプレッサー)と組み合わせれば、かなり静かな弾薬だからな……減音器(サプレッサー)は何を?」


Surefire(シュアファイア)のSOCOM762-RC2だ、口径は7.62㎜だからな、減音器(サプレッサー)もその口径に合わせた物を使ってる」


減音器(サプレッサー)にはSOCOM762-RC2の刻印が、それを外すと、7.62㎜対応の4-Prong(四又)ハイダーが現れる。


「他にもSurefire(シュアファイア)のSOCOM300SPSとか、AACの762-SDN- 6とか、対応するのは色々あるぞ」


「サプレッサー外すとまた更に短いな、要人警護とかにも使えそうだ。ストックは前のと同じか?」


「うん、MAGPUL(マグプル)のMOEストックで、スイベルはASAPを使ってる。この辺は操作感はあまり変わらないな」


ストックを2か3段階伸ばして構えてみる、SOPMODストックの頬付け感より、俺はこっちの方が好みだ。


「ちょっと撃ってみるか、地下に行こう」


「あぁ、どんなライフルになったのか……」


サプレッサーを取り付けてスリングで担ぐ、この重さも楽しみだ。

エリスと一緒に地下の管理室に向かい、再びラッシュと顔を合わせて.300BLKの弾薬を受け取る。超音速弾と亜音速弾の2種類、マガジンも4つ借りた。


地下の射撃場に着く、今日は天気もいいし射撃訓練は外でやっているんだろうか、ここには誰もいないので使いたい放題だ。


「マガジンも区別しないとな」


テーブルに弾薬とマガジンを置き、エリスが弾を込めながら言う。

5.56×45㎜NATO弾と.300BLKは同じマガジンが使えるからSTANAGマガジンが使える上に、30発をフル装填出来る。


しかしそのせいで装填の間違いによる事故が発生しやすいのだ、マガジンに何か分かりやすい区別を付けなければならない。


「簡単なのはペンで書きこむんだが、どうだろうな。他にもバンドを付けるとか、マガジンそのものの種類を変えてみるとかな。5.56㎜弾がSTANAGで、.300BLKはP-MAGとか」


カチャカチャと.300BLKをSTANAGマガジンにとりあえず25発、超音速弾を詰める。超音速弾は125グレイン(約8g)、初速は620m/sになるらしいが、果たして……


ヘッドセットを装着、ホロサイトの電源を入れて見出しを確かめる。マガジンを差し込み、チャージングハンドルを引いてセレクターはセミオートに。超音速弾が薬室に装填されてボルトがロックされる。


ストックを肩にしっかり当てて標的に向けて構え、ヘッドセットを付けたエリスに目配せする。


いくぞ。


あぁ。


視線を標的に戻すと、引き金を引いた。


シパァン!


鞭の様な音と共に標的に命中、銃声は普通のライフル弾に減音器(サプレッサー)を取り付けたような銃声だ。しかし圧倒的に標的に命中する音が重く、近距離であれば相当なダメージを与えている筈だ。


続けて2発、3発と立て続けに射撃、ライフルは問題なく動作し、次々と命中弾を叩き出す。


「……機能してるな」


「不調も無さそうだ」


マルファンクション(ジャム)も無く快調、試しに指切りバースト気味のフルオートでも射撃してみたが、普通に機能している。

セミオートとフルオートを交えて25発を撃ち切って、通常通りにホールドオープンもした。


「普通に撃てたな」


「次は亜音速(サブソニック)弾か?」


そう言ってエリスが弾倉を渡してくる、弾倉の中には.300BLKの亜音速弾が詰まっていた。


「ありがとう、助かる。これ撃ったらエリスも撃ってみるか?」


「本当か?実はさっきから説明を聞いててどんなものか気になってたんだ」


エリスはそう言うとニコニコしながら、空の弾倉にそれぞれの弾薬を詰め込み始める。


俺はエリスから受け取った弾倉をM4に差し込み、ボルトストップを押すとボルトが前進。射撃準備が整うと、再び銃口を標的に向けてトリガーに指を掛ける。

220グレイン(約14g)、初速310m/s。2ステージトリガーの引き心地の後、撃鉄が撃針を叩いた。


カシュンッ!


「えっ」


俺の驚きの声と、エリスの声が重なった。


銃声がほとんどしないのだ、ボルトが作動する音が大きく聞こえる程、銃声が減音器(サプレッサー)によって小さく抑えられている。


続けて数発をフルオートで撃ってみたが、やはり音は小さい。こんなに小さいのか。

試しにヘッドセットを外して射撃してみる。


カシュン!カシュン!


やはり銃声よりも機関部でボルトが動作する音の方が目立つ程静かだ、耳に響くような音は無く、そして弾頭重量が重い分、スチールターゲット(金属製の標的)に命中する音も重い。


ホールドオープンしたライフルをしばらく眺めてしまう、これを組み上げたラッシュの腕前とこのライフルの完成度に驚いた。


「凄いな、ちゃんと機能している……」


「次、私、良いか?」


ゲームの順番待ちをするような表情のエリスがライフルを見つめてくる、エリスも撃ってみたいのだろう。


「いいぞ、ちょっと待ってて、装填するから」


薬室が空になっている事を確かめてエリスに渡す、エリスがライフルの取り回しを確かめている間にマガジンに超音速弾と亜音速弾をそれぞれマガジンに装填する。


「はい、これで大丈夫だ」


「ありがとう、こっちは?」


「それが超音速弾、20発にした。亜音速弾はこっち、25発入ってるから」


「分かった、撃ってみる」


エリスがライフルを構えて標的に向け、引き金を引く。


減音器(サプレッサー)を取り付けた際の銃声の場合、超音速弾の音の大半は、弾頭が音速を超える時のソニックブーム(衝撃波)によって構成されている為に鞭の様な高い音がする。


エリスが超音速弾を撃ち終えると、俺が亜音速弾の装填されたマガジンを渡す。エリスはそれを受け取ると、俺がさっきやったようにヘッドセットを外して射撃し始めた。


亜音速弾は音速を超えない為、ソニックブーム(衝撃波)が発生しない。火薬の燃焼する発砲音は減音器(サプレッサー)に抑えられており、かなり静かになっている。


「……凄いな……」


「だろう?」


「私もコレ組んだ銃、欲しい。どういうパーツを選べばいい?」


「本当か?ならうちの分隊のライフルはこれで統一するか、他の分隊にも、.300BLKのライフルを選んで貰わなきゃな」


エリスも気に入った様だ、それなら良かった、分隊内でライフルを統一出来る。俺は後でラッシュに頼んでおこう、そう思いながらエリスの射撃を見つめる。


その日は持ってきていた.300BLKを、2人合わせて600発消費した。

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