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第170話 基地案内、午後の部

お久しぶりです、めちゃくちゃ難産&多忙による遅筆が重なりまして、約2ヶ月ぶりの更新になります。


前回を忘れてる方も多いと思うのですが、王女殿下の基地視察、昼を挟んで午後の部になります。

「美味かったですね……」


「ガーディアンは戦場でも良いものを食べているな」


カイと王女が昼食を手放しで絶賛してくる、作戦行動中の胃袋を支える後方支援部隊の重要性を分かって貰えただろうか、


テントの中で食後のアイスティーを楽しみながら後方支援部隊の撤収作業を見ている、これは実際に戦線後方で行われる作業であり、撤収も含めて訓練だ。


「さ、それでは。食休みを兼ねて部隊の交流会の方を食堂の方で実施致しますので、移動をお願いいたします」


「了解した、交流する部隊は歩兵だけか?」


「いえ、午前に話したほぼ全ての部隊から数人ずつ選抜しました、説明では難しい現場の声を聞いて頂ければと思います」


管理棟に戻り大食堂へ向かうと、準備が整えられていた。必要以外のテーブルは端に寄せられ、アイスティーやアイスコーヒー、オレンジジュースなど、数種類の飲み物が準備されている。


既に食堂で待っていたのは、歩兵、機甲、砲兵、航空、後方支援の各部隊、それぞれ二人ずつ。司会は俺だが、要するに「おっ放すから現場の奴の話を好きに聞け」という事だ。各自は話していけない機密のラインと言うのは分かっている為、俺が話に割り込まなくてもいいのは楽だ。


「では、交流会の方を始めさせていただきます。お飲み物はお好みの物を、時間は1時間程です。ではどうぞ」


それぞれが飲み物を取ると、興味のある部隊に話を聞きに行く。王女とカイは歩兵や機甲の戦闘部隊の方へ、文官のイアンと侍女のクリスは後方支援部隊の方に話を聞きに行く。


「初めまして、私は歩兵部隊第2小隊小隊長のシュバルツ・ラインハルト大尉です」


「機甲部隊第1中隊中隊長の池田末男少佐であります」


「砲兵大隊大隊長の小野寺大地中佐であります」


「グライディア王国第3王女、アレクシア・ルフス・グライディアだ、今日はよろしく」


「グライディア王国近衛兵団特務隊、カイ・ライノルトです」


各々が敬礼と握手を交わし、座談会の様な形式で進んでいく。

王女殿下は兵器について質問している様だ、戦車、砲兵、航空、そして俺達が使う銃や装備について、聞かれたことに関して担当の兵科が機密に触れない範囲で答える。


「先程売店で見た鎧ですが……あんなに薄い鎧を着て戦っているのですか?」


「あの鎧の中に板を入れるのです、そうする事により防護性能が飛躍的に向上します」


「ガーディアンの弩砲(バリスタ)はどこまで飛ぶのか?先程ホウヘイと言う部隊の説明を受けたが……」


「ベルム街からシュルム街までは届きます」


「なんだと……!?そんな遠方を……!?」


シュルム街はベルム街の西へ18km行ったところにある次の宿場町だ、ガーディアンの保有するM777A2 155㎜榴弾砲は公称スペックで24km、99式自走155㎜榴弾砲は約30kmである為過小評価にはなるが、据え置き式の弩砲(バリスタ)の射程距離が長いものでは1kmにも及ばない異世界では驚異的な射程距離だ。


「それはそれは……兵站も部隊の戦闘能力に必要な物と重要視していましたが……ガーディアンはそこまで……」


「戦闘部隊の任務にはこの兵站部隊の護衛も含まれております、ですがそれとは別に、兵站部隊も自前で自衛戦闘能力を有しています」


一方こちらでは後方支援部隊の話を、文官のイアンと侍女のクリスが聞いている。質問を交えて答えたり、兵器を異世界の装備に置き換えて話すなど、話し方も工夫していた。


「考えたな」


俺にそう声を掛けて来たのはエリスだ、案内役だが完全に手持ち無沙汰になった彼女は自分の飲み物を手にして、会場全体を眺めている。


「そうか?単に案内が俺の手から離れるから楽をしたかっただけだから、褒められた事じゃないんだけどなぁ」


自分も飲み物を注いで飲みながら全体を見回す。

文官、武官、侍女、そして王女が、それぞれ興味のある話を聞いている。王国にどう報告されるか気になるが……


「この後は工房か」


エリスの声が、考えても仕方のない思考に陥っていた俺の意識を引き戻す。


「あぁ、工房の後に装備品展示と射撃訓練展示だな」


「少し装備品展示の準備の進捗を見てくる」


「あ、俺も行く」


司会(ホスト)がここを離れたらいかんだろう、私が見てくる」


それもそうか、と思いながら確認をエリスに任せ、会場の雰囲気を楽しむ。王女殿下達の質問で答えられることは答え、答えられない、つまり機密に触れる所は軽く流す。

広報の人間ではないが、対外的に取材などに出しても問題なさそうだ。そう思う。


腕時計の時間を確認していると、エリスが戻ってきた。


「準備も順調そうだ、恐らく工房を回っている間には終わるだろう」


「了解助かる、そろそろ時間だ、切り上げかな」


時計はそろそろ1時間になろうとしている、切り上げにも丁度いい時間だ。

時計の秒針が0を回った瞬間、声を上げた。


「はい、では時間になりますので、そろそろ次の案内を致しますので、終了させて頂きます」


「む、もうそんな時間か……名残惜しいが、ラインハルト大尉、イケダ少佐、オノデラ中佐、とても良い話が聞けて良かったよ」


「そう思って頂けたなら幸いです、またこの後の装備品展示でもお目にかかれることを楽しみにしております」


1時間に亘る交流会はこうして終わり、王女達は次の行程に入った。



=======================================



「さて、お次は何を見せてくれるのかな?」


わくわくしたような表情の王女殿下はそう言いながらついてくる、次に向かうのは別棟、ガーディアンの基地では目立たないが、かなり重要な場所だ。


「次は工房をお見せします、我々ガーディアンの開発や製造部門が集中しており、資金源になる馬車の足回りなども組み立てを行っています」


別棟は工房、工房事務所、評価試験隊などがあり、各種テストや実験などもやりやすくなっている。

今回は公開はしないが、評価試験隊ではガーディアンで正式配備しているM4ライフルやSR-25狙撃銃、M240汎用機関銃の他にも、AKMやドラグノフ狙撃銃(SVD)、PKM汎用機関銃、OSV-96対物狙撃銃なども配備されており、西側には無いパワーの弾薬を用いた防弾耐久試験を行う事も出来る。


「ガーディアンの馬車か……レムラス伯爵の馬車に乗せて貰ったが、揺れが少なくて良かったな。従来の馬車よりも速度も出る、私達の馬車にも欲しいくらいだ」


「注文を頂ければご用意出来ます、ですがご好評頂いている為、まだ少し順番待ちなどもございますが」


「本当か?そうすれば、また近い内に正式に注文の手紙を出そう」


「畏まりました、工房の者にはそのように話しておきます。殿下が宣伝して頂けるのなら、この商品の需要も更に高まりましょう」


工房の中では見学している間にも作業が続けられている、タイヤも貨物用や旅客用、貴族用、それに馬車の大きさ等に合わせて様々で、それに合わせて重量を支えて安定した走りを提供する金属の車軸、揺れや地面の衝撃を吸収するサスベンション、対応したブレーキなどもあり、用途によって車輪やサスペンション、ブレーキも異なるものを組み立て、納品する。


これがガーディアンの資金源の大きな要素の1つであるタイヤ販売だ、現在も貴族やギルドなどから大変人気のあるガーディアンの“商品”である。


「これの売れ行きはどの程度かね?」


「レムラス伯爵の馬車は全てこれが装備されています、農業ギルド、工業ギルド、商業ギルドや運送ギルドの馬車もほぼ全て、個人所有の馬車も殆どの方がこちらを購入していただいております。戦闘ギルドも、この町の一部のギルドを除き、この車輪に更新されております」


質問は文官のイアンから投げられた質問にそう答える、実際この車輪の売れ行きは良好だ。発注の手紙はひっきりなしに届く、ありがたいことだ。


しかし、イアンが質問から想像したのはガーディアンの経済規模と戦力規模だろう、どれくらい売れているかが分かれば、どの程度の部隊規模、戦力の規模などが想定出来る。

……まぁ、兵器類や燃料、装備は金がかかっていない召喚品だから、金がかかっているのは人件費がほとんどだ。それを知らないでガーディアンの戦力規模や経済規模を想像するのは困難で、それを知っているのはガーディアン内部の人間だけだ。


イアンは難しそうな顔をしているが、この経済規模でこの部隊規模を維持出来ているのが不思議なのか……それともまた別の理由なのか。


「さ、では次に参りましょう」


別棟の工房を後にした後、格納庫を廻りつつ広場へ戻るコースを取る。


「……なぁ、ヒロト殿。これは何だろうか」


王女殿下が呼び止め、指差す先にあるのは、白い壁だ。

コンクリート製の白壁の建物だが、こちら側には入り口は無く、壁の真ん中には星が彫られている。

星の下には小さな文字で、「N・B 1pt2sq」と刻印がされている。


「これは死者追悼壁です、亡くなった隊員の遺体は火葬してこの建物へ、亡くなった隊員の数だけ、忘れない様にこの壁に星を刻みます。……ここには、我々の仲間が眠っている」


不謹慎な言い方になるが、ガーディアンの創設から今までの死者は、幸いにもノエル1人。

正確に言えば戦死ではないが、ここは戦死者だけではなく、事件や事故に巻き込まれ、命を落とした者も刻まれる事になっている。

ここへ来ると、自然と背筋が伸びる。そんな気がする。



「そうか……案内に、時間はあるだろうか」


「ええ、まだ余裕はあります」


「祈らせて欲しい、君らの同胞の魂の安寧の為に」


この異世界では身体は魂の入れ物であるとする概念がある、火葬した身体から魂は墓標に移り、そこが魂の住処となる。


王女殿下とカイ、イアン、クリスが壁に向かって膝を着き、祈りの言葉を捧げる。


「戦いに散った戦死の魂よ、どうか安らかに……」


戦死した物へ送る言葉だ、ノエルは正確に言えば戦死ではないのだが、ガーディアンとアーケロンの武力衝突の中で、捕虜(人質)として命を落とした。

戦いの中で散った、と言っても(あなが)ち間違いではないだろう。


時間は1分程だろうか、祈りを終えると一行は立ち上がり、王女は胸に手を当てる。


「……君達の同胞の安らかな眠りと、これ以上ここに刻まれる名前が増えぬ事を祈ろう」


「ありがとうございます、殿下の祈りが届けば、ノエルも幸せでしょう」


エリスも嬉しそうだ、死んだノエルは元々エリスの騎士団だった子だ、この王国で3番目に地位の高い人物に祈られて光栄だろう。


「戦死者を見送るのはいつも辛い、先日も13人の戦士の1人を見送ったばかりだ」


「……心中、お察し申し上げます」


13人の戦士と言えば、王国の正規軍の中でも精鋭だ。恐らくは先の公国との戦闘による喪失だろうが、そんな精鋭を喪うというのは王国にとっては手痛い損失だろう。


「優秀な槍術士だったが……あぁ、失礼。君に話す様な事ではないな」


うん、やめよっか、この話。


「さて、ここまで来て驚きっぱなしだ、お次は何かな?」


「次は装備品展示になります、先程の交流会の際に話していた装備などを、広場に展示してあります」


「楽しみだ、ガーディアンはどんな装備を持っているのやら……」


格納庫を大きく回って広場に出ると、そこには準備を終えた兵器が並んでいた。

戦車、榴弾砲、装甲車、HMMWV(ハンヴィー)、対空装備、後方支援装備など、特徴のある物や代表的な物を事前にリストアップし、並べて紹介する形式になっている。


「おぉ……」


「こ、これは……」


王女殿下一行も、初めて見る巨大な戦車や自走砲、奇怪な形をした自走対空砲に驚いているが、そろそろ驚くハードルが上がって来そうだ。

驚いた様子を見て、先程の交流会にも来ていた池田末男少佐が得意げな笑みを浮かべている。


「い……イケダ少佐。こ、この象のように鼻の長い物は……」


「ハッ、これは90式戦車と言いまして、我々の主力戦車になります。重量は50.2t、最高時速は70km/h以上で走り、120㎜滑腔砲と機関銃を3挺装備しています」


ガーディアンの90式戦車は、車長用ハッチに銃架を取り付けて、その銃架にM2重機関銃を、砲手用ハッチに新たに銃架を取り付けてM240E6汎用機関銃を搭載しており、パワーパックも高出力かつコンパクトになったものに換装している。

より威力のある10式戦車砲の搭載とそれに適した自動装填装置への換装は、現在研究中である。


そんなことはどうでもよく、王女にとって驚異なのは目の前にある鋼鉄の塊、戦車そのものであるという事だ。


「カッコーホー……?」


「ええ、大きくて威力のある大型弩砲(バリスタ)のような物だと考えて下さい」


「君らが使う銃、の大きい物、みたいなものか」


「その通りです」


王女殿下、軍事に対しての知識が深いのか、理解が早くて助かる事が良くある。

武官のカイも、なかなか着眼点がいい。


「こちらの戦車に似たものは……」


「こちらは99式155㎜榴弾砲と言いまして、戦車と似ていますが少し違います」


「戦い方の違いでしょうか、鼻がセンシャに比べて長いですね」


「戦車は目の前の敵を撃つもの、対してこちらは遠くの敵を撃つものになりますので」


戦い方の違い、と言うのは非常に的を得ている。戦車と自走砲、メディアではよく一緒にされがちだが、そこに気付くとは……


「これは今朝方、私達が乗って来たものと似ていますね」


侍女のクリスはHMMWV(ハンヴィー)をまじまじと観察している、一行を迎えに行ったのはM998という幌張りのモデルだが、展示してあるものは軽装甲とウィンチが付いたM1044と呼ばれるモデルだ。

整備隊の女性隊員がクリスに答える。


「よくご覧になってますね、その通り、同系列の車両になります」


「目のところが可愛いです」


「ですよね!わかります!」


2人で盛り上がっているが、2人が言わんとしている事は何となく分かる気がする。HMMWV(ハンヴィー)ライト()が可愛い。


「この箱のような物は何かな?車輪がついているが、まさか動くのか?」


「えぇ、こちらはピラーニャと言いまして、中に兵士が乗り込んで移動する時に使われます。一応装甲車ですので、敵の攻撃もある程度は凌ぐことが出来ます」


イアンはピラーニャ装甲車に興味がある様だ、バリエーション車輌も含めて複数のLAV装甲車を展示しているが、同じ見た目の車両なのに任務によって細部が違う事が興味を引いたらしい。プラットフォームを共通化する事でそれにかかる予算も削減出来たりするのは、異世界の軍隊にも共通している事では無いだろうかと思う。


時間が経つにつれ、彼女らの興味も戦闘車輌から後方支援車輌へと移っていく。

先程目にした野外炊具だけでなく、縁の下の力持ち的役割を果たす各種トラックや重装輪回収車、指揮通信を担当する車輌、工兵車輌や架橋支援車輌など、その1つ1つに感心したり、驚いたりしている。今日1日で10年分驚いていそうだ、何しろ初めて見たものや触ったもののオンパレードなのだから。


そこで1時間程見ていただろうか、興味が尽きないのは結構な事だが、そろそろ時間になる、訓練展示の時間だ。


「王女殿下、そろそろ次の行程です」


「む、もうそんな時間か……もう少し見ていたかったが、仕方ないか」


カイ達にも声を掛け、次の行程へ。装備品展示は楽しんでもらえたようだ、地上装備の数を絞ってもこれであるから、恐らくすべて展示したら1日で回り切れないかもしれない。


「次は何かな?もう多少の事では驚かない気がしてきたぞ」


王女はそう言ってついてくる、最年長のイアンなどは驚き疲れたような顔をしているし、クリスはわくわくするみたいに目を輝かせている。


「次は訓練展示です、射撃訓練の様子をご覧頂けます」


管理棟に入り、地下へ向かう。射撃場は地下2階にあり、新兵の射撃訓練等はここで行う事になっている。

重厚な扉の前には、エイミーが待っていた。エイミーはトレーを持ち、トレーの上には人数分の耳栓が準備されている。


「ここに入る前に前に耳栓を、中では大きな音がしますので着けてください。着けたら自分が手を叩きますので、聞こえ難くなったら大丈夫です」


俺が耳栓を着けると、王女殿下達も真似て付け始める。

全員が付け終わったのを確認すると、一度手をパンと叩く。聞こえない様なので大丈夫だろう。

これなら良し、行きます、とハンドサインをして扉を開ける。ここの扉は二重の防音扉になっており、中に入ると射撃スペースが広がっていた。


射撃用のレンジは10人が並んで射撃出来る広さの物が2つ、左側の1つは600mで小銃用、右側のもう1つは950mの狙撃用レンジである。


丁度今、射撃準備をしているのは西部方面隊の幹部候補生、ロンメル指揮官もここに含まれており、元レジスタンスの兵士たちが正式にガーディアンとなり、士官教育を受けている。

彼らが手にしているのはIWI CTAR-21、西部方面隊の正式アサルトライフルであり、射撃訓練も始めたばかりの為、アタッチメントも付けていない。照準も備え付けのアイアンサイトだけだ。


「あれは?」


「西部方面隊の隊員達です、彼らは西の砂漠地帯などの防衛の為に配備される部隊なので、環境に適した銃を配備しています」


「出迎えの兵と違う銃を持っているなと思ったらそういう事か」


「射撃用ー意!」


訓練教官が号令をかける、これから射撃が始まる合図だ。西部方面隊の士官候補生がCTAR-21のストックを肩に当て、300m先の標的に銃口を向けて安全装置を解除する。


「撃て!」


命令と同時に引き金が引かれると、射撃場を銃声が包み込んだ。


ダン!


突然の銃声は腹にも響き、それを耳栓越しに聞いた王女達はビクリと肩を震わせる。

耳栓をしていても伝わる音、王女は命中弾を出す標的の向こう側に、一体何を見ているのか。


右側の狙撃用レンジでは、第2小隊に随伴する第2狙撃小隊が狙撃銃の調節の為か、伏射(プローン)での射撃を実施していた。


狙撃小隊の編成は4人1個分隊と第1小隊と同じで、狙撃兵と言う少人数の部隊が攻撃を受けた際に、反撃できる火力を上げて生存性を高めるためだ。


レミントンM24A2狙撃銃を装備する狙撃手兼分隊長。

SR-25を装備する選抜射手(マークスマン)観測手(スポッター)、彼は補助的な狙撃も担当する。

そして分隊火力を担当する擲弾手(グレネーダー)と、通信を担当するライフルマン兼通信手。

今訓練を行っているのは第2狙撃小隊の第1分隊、狙撃手とマークスマンの2人が標的を500mに設定しての狙撃を、擲弾手と通信手が25mに設定した標的に対してM4を射撃しており、擲弾手のM4にはM203A2が取り付けられている。


狙撃銃はこの異世界の兵器ではありえない長距離を正解に射貫き、M4の射手は複数の的にダブルタップで5.56㎜NATO弾を撃ち込んでいく。連射を得意とする弓兵でもこんなに早く30発を、それもこんなに正確に撃つことは不可能だ。


「これが……銃……」


「我々が交戦した部隊の銃に似てはいますが、魔力の流れを感じませんね」


「道具、という事ですか……」


「これだけの質の道具を、これだけの数……」


三者三様ならぬ、4者4様の感想が彼らの口から出る。西の戦場でニルトンシャッフリル銃を装備した公国軍と交戦しているとはいえ、このように射撃の様子をじっくり見るのは初めての様だ。


これも含め、俺達は王国にどのように報告されるのか……



=======================================



「これにて本日のスケジュールは以上になります」


17:15、全ての行程を終えた俺達は、最初に預かった武器を彼らに返却し、中央通りに出て送迎のHMMWV(ハンヴィー)を待っていた。ここからレムラス伯爵の屋敷まで、HMMWV(ハンヴィー)で送っていく事になっている。


いかがでしたか、そういう前に興奮気味に王女殿下が口を開く。


「凄かったな……戦闘魔術と白兵、騎士に頼らない戦闘……君達が西の砂漠で活躍していたのも納得だ」


「飯も美味いし、すれ違う兵士の表情は皆豊かだった……良い部隊である証拠だ」


「ありがとうございます」


そのタイミングでHMMWV(ハンヴィー)が来る、最初に迎えに行った第3分隊だ。エーリカが荷台から降りて来て後部ドアを開ける。


「今日は楽しく、有意義な1日だった、ありがとう。次も機会があれば、またこの組織を見せて欲しい」


「こちらこそありがとうございました、国王陛下にもよろしくお伝えください。それでは、お気をつけて」


王女殿下一行がHMMWV(ハンヴィー)に乗り込むと、エーリカはドアを閉める。ベルム街へと向かう、一行を乗せたHMMWV(ハンヴィー)を見送った。



=======================================



「彼らをどう見る?」


屋敷に帰った王女殿下は部下に質問を投げかけた。


「……兵器と兵士の質、性能、戦術。全て我々とは桁違いです」


まるで別の世界から来た軍隊みたいだ、そう付け足す様に呟くのか、護衛として同行した武官のカイだ。彼は武官らしく、彼らの武力を見ていた様だった。


「あれだけの兵器、相当金をかけて開発されていると見ました。タイヤ販売と彼らの経済規模は隊商護衛任務と合わせても、現状を維持するのが丁度な規模だと思われます」


文官のイアンは経済規模から組織の規模を推測、兵器と兵士の質と量から、資金力としては組織の維持が精一杯と判断したようだ。


「しかし、今後の事業展開では、彼らが更に資金力を得て組織を拡大する事もあるでしょう。彼らが王国の味方であれば心強いですが、彼らは戦闘ギルド、傭兵です」


ガーディアンは傭兵、その前提を思い出す様にイアンがそう答える。

傭兵は請われて戦い、依頼料(ギャラ)を貰う仕事だ。依頼料(ギャラ)次第では敵にも味方にも着く。


「ガーディアンをこちらの陣営に留めて置くように工作する必要があるかと……」


「そうだな……」


あれが王国に敵対する組織に渡り敵に回ったら、どれだけ王国に被害が出るか……

王女は国王陛下にどう報告するか、頭を悩ませていた。





「彼らをどう見る?」


視察団が帰り、視察の片づけを終えて執務室に戻ったエリスからそんな質問が投げかけられる。


「どうって……敵情偵察、戦力によっては、王国側の勢力に引き込もうって腹積もりじゃないかね」


「やっぱりそう見えたか」


エリスにもそう見えたらしい、友好的ではあったが、どこか探りを入れるような様子も見られた。王国側もどんなスタンスでいればいいか決めかねているところだろう、これだけの戦力、戦場を変える銃と言う兵器、高度に組織化された戦闘、伝令も無く長距離の意思疎通が可能な通信……公国との戦いに王国が俺達の戦力やこれらの技術を欲しがるのは目に見えている、まぁ渡す気はさらさら無いが。


「王国が俺達を取り込もうとするか、協力関係を結ぼうとしているか……それとも」


「排除しようとしているか……か」


「排除、ねぇ……」


排除、というエリスの言葉を聞いて、あまり考えたくはないがその可能性も捨てきれない。

技術力だけでいえばこちらが上、補給も俺が召喚出来るから無尽蔵ではあるが、数と立場がそれは拙いと訴えかける。


「何にせよ、王国の出方待ちだな、どう出て来ても対応できるように対策しておく必要はある」


「確かにな、それから今回みたいな要人訪問の見学ルートについても、一度考え直すいい機会になったな」


今回の王女訪問、色々な意味で次への糧になりそうだ。

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