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第168話 王女視察団

3日後 10:00


ついに、とアレクシアは思っていた。

国王陛下の命を受けて来たガーディアンの視察、西の砂漠まで彼らを追い、追った先で公国軍と交戦して同志を喪った。


観閲願う前に彼らに助けを求め、彼女はしばし森に逃げて隠れるという苦い経験をした上でようやく視察の機会を得たが、作戦がある為にベルム街へ戻って待っていて欲しいと、彼女からしてみたら焦らされた様な感じになる。


彼女からしてみればまたとない機会だ、噂のガーディアンの戦闘能力を適切に見極め、国王陛下に報告しなければならない。


「殿下、ガーディアンの迎えが到着します」


カイ・ライノルトがそう言って道の向こうを見る、彼らは宿泊場所のレムラス伯爵の屋敷の前に迎えに来ると言っており、事前計画に従って王女と護衛のカイの他に2人、侍女と文官の4人までと決められていて、今表に出ているのはその4人だ。


見てみると、案の定馬の無い幌張の馬車だ、それが2台、ガーディアンはこう言った馬の無い馬車を幾つも持っている。

その機動力を生かし、西の砂漠では公国を撃破、要塞と城塞都市を奪還して勝利した。


その荷車___M998 HMMWV(ハンヴィー)には、ガーディアンの兵士が乗っていた。


「お待たせしました、ガーディアン歩兵隊第1小隊第3分隊分隊長、ストルッカ・スミスです」


「グライディア王国第3王女、アレクシア・ルフス・グライディアだ。迎えを感謝する、これが噂の……」


「はい、我々の移動手段です」


アレクシアや侍女、文官は驚き半分、興味半分と言った風な視線でM998HMMWV(ハンヴィー)を見つめている。これから乗る物が初めての物なのだから、興味が尽きないのだろう。


「基地に行けばもっと眺められますし、説明もあります。それにもっと大きなものも」


「……これでも十分大きいと思うのだが……もっと大きいのが?」


「えぇ、基地で団長がお待ちです、事前計画通りにどうぞ後ろへ」


1号車の後部ドアが開けられる、幌張のHMMWV(ハンヴィー)の後部がベンチシートになっていて、そこに王女を案内する。


……鉄か、荷台を踏んだ王女は靴底から伝う感覚にそう判断して乗り込む。鉄の荷台と言うのは丈夫だが重くなる為、馬が引けなくなってしまうのであまり好まれない。

しかもこのHMMWV(荷台)は馬無しで走り、馬よりも遥かに早い。どんな仕掛けで動いているかアレクシアには分からないが、魔術で動いている気配がしないから恐らくは“技術”だろうと推測する、丁度水や風が流れれば回る水車や風車の様に。


全員が乗り込み、ベンチシートに着席する。


「それでは発進します、着席後、ベルトをお願いします。エーリカ、確認を」


「了解、では安全の為の説明を致します」


第3分隊の擲弾手、エーリカ・グース軍曹が後ろのキャビンに乗り込み、シートベルトの説明をする。安全の為にベルトをしてもらい、運転中は決して外さない様にと注意喚起。


「それでは基地まで向かいます、すぐに到着しますが、万が一気分が悪くなった場合はお申し付けください」


そう言ってエーリカは後部キャビンのドアを閉め、自分も後部座席に乗り込む。


「では、出発します」


エンジンをかけて、ゆっくりと走り出す。

一行は一路、ベルム街南の丘の上にあるガーディアンの本部基地へと向かった。


馬車よりも速く走る自動車に、王女殿下や侍女たちは大層驚かれたという。


============================================


ヒロト視点


10:15


今日は王女殿下が視察に来る日だ、正直に言うとこういった公的な視察を受けたことが無いので、朝から緊張している。視察という事もあり、迷彩服では無く紺をベースに黒いラインの入った制服に身を包んだのは久しぶりだ。

宿舎と司令部施設の間の通称“中央通り”には、部隊が並び始めている。俺はそれを見ながら、エリスと共にVIP(王女殿下)の到着を待っていた。


『迎賓部隊は総員配置に着け、繰り返す、迎賓部隊は総員配置に着け』


腰に着けている無線機から声が流れてきている、孝道の声だ。

王女殿下からしたら残念だろうが、今回は式典の様な催しは無い。“ガーディアンの普段の活動を見せる”というのが今回のコンセプトなので、出迎えの部隊は儀仗隊ではなく俺と同じく制服を身に纏って各々のM4を持った第1小隊(ナイトフォース)と第2小隊だ。


儀仗隊はまだ召喚しておらず、第1小隊(ナイトフォース)はその任務の特性上、ほぼ全員が目出し帽(バラクラバ)を被っている。


夏用とは言えあれは暑いだろうなぁ……

無線から声が流れて来たのと、迎賓部隊の整列が完了したのはほぼ同時だった。


『VIPが到着しました、門を開けます』


「了解、開けろ」


門の方を見ると、門前に2台のHMMWV(ハンヴィー)が停まっているのが見える。

無線のPTTスイッチを押しながら応え、エリスに目配せすると、エリスも頷いた。


「じゃ……殿下をお迎えに上がろうか」


「ふふ、そう緊張するな。要人を迎える機会は今後増えてくるし、王女殿下もそんなに器量の狭い人間ではないさ」


俺の表情が緊張しているように見えたのか、そう言って励ましてくれるエリス。実際緊張しているのだがそれを聞いて少し肩の力を抜く。


俺とエリスがHMMWV(ハンヴィー)に近づくと、第3分隊のエーリカが後部ドアを開ける。


「では、足元にお気を付けください」


「ありがとう」


エーリカに手伝われてHMMWV(ハンヴィー)を下りて来た王女殿下は、一緒に連れて来た護衛や侍女達と共に並んだ。


「グライディア王国第3王女、アレクシア・ルフス・グライディアだ、本日は忙しい中、感謝する」


「改めまして、ガーディアン団長、高岡大翔です、本日はよろしくお願い致します」


「今日一緒に来てもらったのはこの3人だ、カイは……改めて紹介する必要は無いだろう」


「存じ上げております、お久しぶりです」


カイと呼ばれる近衛兵団の男が苦笑しながら頷く。


「覚えていて下さって嬉しい限りです、本日はよろしくお願いします」


カイはそう言って自分の胸に手を当てる、敬意を表するときの仕草だ。


「それから、彼女は私の侍女だ」


王女はそう言うと、侍女が手を胸に当てて礼をする。その振る舞いは、エリスのメイド長をしているエイミーに勝るとも劣らない。


「クリス・フレッカーです、アレクシア殿下の侍女を務めさせて頂いております」


金色の髪をセミロングにしたメイドの挨拶、それを見ていた30代くらいの物腰柔らかそうな白髪の男性が今度は紹介される。


「彼はイアン・ブロイド、文官として今回の視察に同行する」


「イアンです、以後、お見知りおきを」


彼も同じように挨拶すると、こちらも挨拶を返す。


「ガーディアン団長の高岡大翔です、本日はどうぞよろしくお願い致します」


見様見真似で挨拶を返す、一応この世界の礼儀作法についてはおさらいした、大丈夫な筈だ。


「副官、エリス・クロイスです、案内を担当致します」


「よろしく、クロイス家のご令嬢についてはカイから聞いている、他言無用だったな?」


「えぇ、それでよろしくお願いいたします」


「分かった、冒険と言うのはなかなか大変だな」


エリスと王女が談笑している、クロイス家の方に情報が万が一漏れると面倒なので、事前に他言無用をお願いしておいた、クリスとイアンも納得した表情を浮かべている。


「早速で申し訳ございませんが、武器の方をお預かりします」


「うむ、打ち合わせにもあったな。心得ている」


王女殿下と護衛のカイからサーベルを預かる、隊員や装備、施設の安全の為に、武器は預かっておくと最初に伝えておいた。

もちろん預かった武器は正門守衛所で丁重に保管し、基地から出る時に返却する手筈になっている。

第3分隊にサーベルを預けると、視察団は丸腰となった。こうしていても怯える様子などは見られない、よほどこちらを信用しているのか、それとも魔術や体術に自信があるのか。


「では参りましょう、こちらです」


「うむ、出迎えの兵にも挨拶をせねばな」


中央通りを迎賓部隊の方に向けて歩く、通りかかると、エリスが声を張り上げた。


「捧げー!(つつ)!」


ジャッ!と音が揃うようにM4を縦にして保持しする、栄誉礼、“捧げ(つつ)”だ。


「さ、簡易的ではありますが、閲兵を」


「あぁ」


アレクシア殿下が捧げ(つつ)をする兵の前をゆっくりと歩いていく、じっと見ているのは隊員の表情か、それとも銃を見ているのか。


第1小隊ナイトフォースの前から第2小隊の前に来たとき、王女殿下の表情が変わった。恐らく部隊の覆面の有無について疑問を抱いたのだろう、知らない人からしてみれば疑問を浮かべるのは当然か。


歩兵部隊だけで構成された迎賓部隊の前をゆっくりと歩き、司令部の前に辿り着くと、エリスが休めの号令を掛ける。


「休め―っ!」


号令と共に全員が“控え(つつ)”の姿勢になり、待機に入る。


「では、まずは我々ガーディアンを知って頂くために講義室に案内致します、どうぞこちらへ」


「うむ」


「エリスは手筈通りに」


「了解」


エリスはその場に留まり、王女殿下を司令部塔の2階、小講義室1へと案内する、収容人数20人程の小さな講義室だ。

部屋に入って着席を促す、既にプロジェクターの準備は出来ていて、資料も出来上がっていた。


「ヒロト殿、少し質問が」


王女殿下が質問を投げてくる、閲兵の件だろうと思って「どうぞ」と促した。


「先程の閲兵の時、覆面を付けた兵士と付けてない兵士が居たが、あれはなぜ覆面を?覆面を付けた兵士と付けていない兵士との違いは?」


やっぱり来たか、閲兵の時に表情が変わったから聞かれると思った。


「覆面を付けた部隊は特殊な任務を行う部隊です、人質の救出や敵対する重要人物の捕縛、破壊工作など。その際に顔が割れて個人の身元が特定され、思わぬ報復を招く可能性があるので、それを防ぐ為です」


「……確かに麻薬カルテルなどに身元が割れるとかなり厄介だからな……そういった危険な任務を行う部隊、という事でいいか?」


「その通りです、ガーディアンの任務はどれも危険なものが多いですが、その中でも特殊な部隊、と考えて下さい。親衛隊や近衛兵の様な立ち位置です」


なるほど、と納得した様子で王女殿下が頷く。地球のどこの特殊部隊も大体そうだが、部隊の写真は出回るが現役の隊員の顔にはモザイクが掛けられている事が多い。説明したように、身バレ防止の為だ。家族を人質の取られたり、弱みを握られて交渉させられたりと、報復は色々考えられる、それを防止するために第1小隊(ナイトフォース)は覆面をしていた。


「お待たせ致しました」


エリスが講義室に入る、後ろにはエイミーがお茶を持って続いていた。


「それでは、資料を配布します。お茶もどうぞお召し上がりください」


エリスとエイミーがお茶と資料を配っていく、渉外科が作ってくれた資料だ。


「偉く白い紙だな」「相当高級品なのだと思います」と言う声が聞こえてくる、こちらの世界では未だに羊皮紙が主流で、植物から作る紙は製法も難しくあまり出回っていない。


俺もパソコンを準備し、プロジェクターでスクリーンに映す。緊張で乾く喉を紅茶で潤し、資料が行き渡ったの確認して咳払いした。


「……それでは始めます」


エリスが照明を落とし、部屋を暗くする。スクリーンにはスライドショーが映し出されると、何となく卒研発表や学会発表のような雰囲気になった。


「おぉ……」「これは……」


プロジェクターに反応する面々、初めて見る者だから仕方ない。本当はそれじゃなくて内容に集中して欲しいのだが……


「えー、本日のスケジュールは、午前中は組織や事業に関する紹介と施設に関する紹介。昼食を挟んで、食休みを兼ねて隊員との交流会、射撃訓練の見学と装備品展示となります」


レジュメ1ページ目に今日のスケジュールが記入されている、夕方までには終了する見込みだ。

スライドを送って、本題に入る、目的はガーディアンと言う組織を知って貰うためだ。


「まず第1に、我々の理念は“自衛”となります。我々の能力、武器、戦術は自らや仲間の身を守る為であり、その目的の為に設立した戦闘ギルド、傭兵隊です。元来は迫害されていた屋敷の騎士団を中心に設立した組織だったのですが、こちらに移り住んでから、ありがたいことに理念に共感する同志も増え、今に至ります」


配布資料の次のページを捲るように促してスライドを次に送り、今度は任務、業務内容の説明に入る。


「自衛の為の力を少し貸す形で行う我々の任務は、商隊護衛、魔物討伐、施設警備や要人警護、治安維持、人質救出など、軍事作戦における任務の広きに渡ります。報酬はそれなりですが、納得いただけるサービスを提供出来ます」


ガーディアンは依頼を受け、軍事的な行動を起こす、自ら動く事は少ない。今までの殆どの経歴が“乞われて戦った”事だ、戦歴表を見た王女殿下や文官、侍女、護衛も頷きながら資料とスクリーンを交互に見ている。


「ここで先日、バイエライドのレジスタンスに依頼されて(おこな)った収容所に対する救出作戦の一部をご覧頂きます」


俺はパソコンを操作し、動画を再生する。この動画はバスティーユ強制収容所での開放作戦で、第2分隊のヘルメットに取りつけていたCONTOUR(コンツアー)ヘルメットカメラで撮影した映像である。


『伏せて!伏せて!』


『牢の奥へ!』


『コンタクトフロント!』


出て来た敵に発砲し、激しい銃声と発砲炎(マズルフラッシュ)が発生、何が起こったのか分からないほどに素早く敵が制圧される。


その映像を見た王女殿下は絶句、他の従者達も同じ様子であった。

暫くすると落ち着きを取り戻したのか、あれは何なんだとか話し始める。交戦した公国の部隊より洗練された銃、そしてそれを素早く取り回す技術に、驚いている様子だ。


しかし、これはあくまで一場面にしか過ぎない。こちらに意識を戻してもらい、再び説明を始める。


「また、タイヤ販売も行っております、馬車の足回りを交換すると、乗り心地が更に快適になり、貴族の方々や商会の方々、運送ギルドにもご好評いただいております」


「そのタイヤと言うのは、どこで売っているのだ?」


「基地の外れに工房があります、そちらで販売しておりますが、案内いたしますので、そこでまた紹介いたします」


販売しているタイヤについてはまた別で説明の機会を設ける、ここではガーディアンがやっている事を知って貰うのが目的だ。


喉を紅茶で潤し、スライドを次へ送る。


「さて、次はガーディアンの内部組織についてお話します」


次のスライドは、我々の内部組織に関するものだ。


「ガーディアンでは大きく分けて、歩兵、機甲、砲兵、航空、後方支援の5つの兵科があります。歩兵はご存じの通り、生身の人間の兵士、しかし使っている武器は少し違います」


スライドには後方様に撮影した歩兵の写真の他に、銃の写真もいくつか乗せている。


「我々は剣や弓矢、クロスボウや魔術を主力とはせず、火器と呼ばれる兵器を使います」


映し出されているのは、ガーディアンの主力小銃として配備されているM4A1だ。


「これは我々の火器、銃です。これを主力に配備しており、1人2挺は持っています」


「これを……1人2挺……」


兵器に驚いている様だが、まだまだ驚いてもらう事がある。

スライドを1枚送ると、今度は組織の相関図が出て来る。


「そしてこれらを装備した兵士を、組織的な戦闘部隊に組み込みます。現在の規模は1個中隊、その中の1個小隊は構想中ですが、2個小隊は編成完結しています」


中隊を分割したイラストの内、1つに“構想中”と表示があり、残りの2つの小隊は編成が完結している。俺達第1小隊(ナイトフォース)と第2分隊だ。


「その他にも様々な装備を所有していますが、また後程解説いたします。次は“機甲”についてです」


機甲、と聞かれて戦車部隊と分かる者はこの世界の人間に居ないだろう。そしてこの世界の戦車と言えば“チャリオット”の方であり、“タンク”ではない。


「機甲部隊は戦車を保有する部隊で、ガーディアンでは1個中隊。またそれに随伴する偵察隊も重要な役割を担っています」


「センシャ……ふむ……戦車(チャリオット)部隊か」


「正確には少し違いますが。これも午後の装備品展示の際にまた紹介いたします」


「午後の楽しみがまた大きくなるな」


王女殿下の言葉に文官が「ですな」と笑い、侍女が頷く。護衛兼武官のカイも笑いながら頷いていた。


「続きまして、砲兵、これは皆様における大型弩砲(バリスタ)投石機(カタパルト)の様な兵器を装備しています。遠距離から敵を攻撃する曲射兵器を有する部隊で、現在1個大隊を装備しています」


砲兵の役割は異世界であっても然程変わらない、主力兵器の射程外から強力な攻撃を叩き込む。それだけに彼らの理解も速かった。


大型弩砲(バリスタ)か……ガーディアンでは何門あるんだ?」


「正確な数は申し上げられませんが、それなりの数を、30門には届きませんが」


大型弩砲(バリスタ)30門か、大丈夫か?」


カイも心配そうな声を上げる、それもそうだ。中隊を抱える戦闘部隊なら機動させたり予備だったりで30門以上は持っている筈。30門以下の火力は、中隊からすれば心許ない。


「しかし、我々にはそれを補って余りある支援戦力があります。次をご覧ください」


レジュメを次に送ると、おおっ、と歓声が上がった。


「我々は強力な支援戦力として、航空兵力、つまり翼竜(ワイバーン)部隊を多数保有しています」


翼竜(ワイバーン)を保有している戦闘ギルドは驚くほど少ない、ドラゴンナイツは竜人族の調教師と、公都の防空を担う莫大な資金力があるからこそ翼竜(ワイバーン)の竜騎兵部隊を保有することが可能であり、本来なら出来る様な事ではない。


砲兵(バリスタ部隊)が少ないと思われる方も多いかもしれませんが、我々はそれを竜騎兵部隊で補っております。最も一般に想像される翼竜(ワイバーン)とは違います」


「噂に聞いた“空飛ぶ風車”とやらか、これも午後に見る機会を設けて頂けるのか」


王女殿下の質問に俺は頷く、恐らく今頃、それぞれの部隊が多目的広場で準備をしてくれている筈だ。


「ええ、もちろん。本日紹介する“この基地に居る”部隊の装備品は全てお見せしましょう」


「それは楽しみだ」


王女殿下は本当にこの視察を楽しみにしていた様で、いちいち反応してくれるからこちらも説明が捗るというものだ。


「以上が戦闘部隊になります、これに加えて輸送や伝令、衛生、補給、整備などの部隊を加えて“戦闘団”としています。これが我々が掲げる“集団戦闘主義”です」


軍隊と言うのはおおよそどこも集団戦闘を是としている、それは異世界の軍隊でも変わりは無い。

しかし、ガーディアンではそれを徹底して合理的に行っている。戦闘に魔術が組み込まれる余地は無く、主に後方支援でのみ使われる。


大規模な攻撃魔術は戦闘では目立つし、強力な魔術程詠唱の時間が長くなり即応性が下がる。個人単位の火力は上がるだろうが、才能に左右されるところを組織が頼るというのは(まず)い。


その点、兵器は才能に左右される幅が魔術や剣術に比べると極端に小さい、全員が同じ武器ならば、全員が同じ威力の攻撃を行える。練習すれば命中精度だって上がるし、より高位の存在を殺し得る。実際に差悪の戦闘では、俺達より明らかに高位である転生者の魔術師を相手に戦い、これを制した。


敵の強さが10であるなら、こっちから10をぶつける必要はない。

1から9までを集めて連携させれば、20にも30にも、100にもなる。それがガーディアンの掲げる集団戦闘主義だ。


「以上です、ガーディアンの組織、戦術について、少しでも知って頂けたなら幸いです」


集団戦闘主義について語った後は、質疑応答に時間に入る。明確な数や威力、射程距離に関しては機密に触れる為回答を控えたが、それ以外は大体に回答し、その度に視察団の一行は驚いたり感心したりしていた。


「君達が武力を行使する時は、一体どんな時だ」


文官のイアンがそう質問する、文官である以上、気になるところであろう。

だからガーディアンが設立以来、ずっと思っている事を彼の質問の答えとしてぶつけた。


「我々は自らの身が危うくなった時、まずこれが一番です。そして依頼を受けた際に我々の正義に則り、その依頼が我々が武力行使するに足る理由か、報酬は適切であるか。これが我々が武力行使する時です」


ガーディアンの色々な装備、任務、編成を知った彼らは情報を持ち帰り、恐らく……と言うか確実にこの視察団の情報は王都に届くだろう。

それを知った王都はどんな対応をするだろうか、脅威と感じて排除に乗り出すか、味方に付けた方が良いと考えるか、はたまた静観を決め込むだろうか……王都の対応次第では、こちらも対応を考える必要があるかもしれない。


「質問は以上でよろしいでしょうか」


「あぁ……驚かされてばかりだ、次に行かねば質問だけで日が暮れてしまう」


王女殿下はそう言うと苦笑し、釣られて文官のイアンや侍女のクリス、武官のカイも笑う。


「さて……お次は施設の案内としましょう。こちらへ」


次は施設の案内だ、ガーディアンの生活や任務に必要不可欠な設備を見てもらおう。


王女殿下一行は俺の案内の下、小講義室を後にした。


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