第165話 砂嵐の中の正義と悪
エリスには東側を任せ、俺達は西側から敵の背後へと回り込む。日が昇ってきた為日陰を目立たない様に、訓練通り足音を消して敵に迫る。
敵の位置情報は戦術端末で確認出来る分こちらにアドバンテージがあるが、敵が2階建てや屋根の薄い建物に入られてしまうと赤外線でも追えなくなってしまう。
戦術端末を再度確認する、端末を確認する間は無防備になるので、援護してもらいつつすばやく確認する。
赤の輝点は二つ先の建物の西の路地にある、位置を変える為に戦術端末をポケットに仕舞い、M4を構えなおす。
ハンドサインで移動を指示する、素早く移動し、通りを渡って目標の路地の入り口に到達した直後にリーパーから通信が入る。
『デュラハン1-1へ、悪い知らせだ、西の敵2名の反応消失、3軒目の建物に入った様だ』
「3軒目の建物、了解」
カッティングパイして路地に入り、3軒目の前で止まる。握った指を下向きに開き“フラグ用意”。
ヒューバートがドアの前に移動してドアノブに手を掛ける。俺はM4を構え、俺の後ろに居るブラックバーンとグライムズがM67破砕手榴弾を持ち、ピンを抜いて俺の視界に居れる。俺が頷くとタイミングを合わせてヒューバートがドアを開けてブラックバーンがまずは1発目を投げ込む。
遅延火薬で数秒遅れた後、炸薬である184gのコンポジションBが炸裂。窓ガラスが割れて吹き飛び破片が屋内を縦横無尽に飛び回る。
爆発が収まると、遅れてグライムズが2発目を投擲、床をゴロゴロと転がり、同じように炸薬が爆発。爆発によって生み出された数百の破片が飛散し、部屋を面で制圧する。
爆発が収まると部屋の中に突入し、ライトを照らして室内を捜索する。
めちゃくちゃに荒れ、爆風で埃が舞う部屋から次の部屋へと渡ろうとしたとき、俺の目の前を影が横切る。
「コンタクトフロント!」
接敵をコールすると後を追う、俺の後ろにグライムズが続き、ブラックバーンとヒューバートが援護する。
然程広くない廊下を曲がると、突然M4を弾かれるような衝撃があった。
「フンッ!」
「うおっ!?」
敵が潜んで居たらしく、目の前で刃物がぎらつく。
敵の構えるニルトン・シャッフリル銃の銃剣を突き付けられ、そのまま突き刺そうとしてくるのを全力で押さえる。
反射的に発砲されない様に銃口を逸らすが、そのまま押されそうになるのを堪えた。
「クッソ……!」
このままだと俺が盾になってしまっている、その為俺の後ろに居るグライムズがこいつを撃てない。
俺の背後でヘッドセット越しにフルオートの射撃音が聞こえる、恐らくヒューバートがもう1人を殺ったのだろう。「1ダウン!」と声が聞こえた。
「へぇ、いい男じゃん」
敵が俺に話しかけてくる、声が高い……?よく見ると女だった。
「アンタ、殺すのは少し惜しいねッ、アンタの銃で後ろのを殺したら逃がしてやってもいいよ」
クソが
頭に血が上るというのを久しぶりに体感した気がする、俺は即座にホルスターからP226を抜き、女の腹に押し当てて数回引き金を引いた。
パンパンパンとライフルよりも軽い銃声、ぐふぅっ、と女兵士が腹を押さえて力も緩むとそのまま足を掛けて押し込み、大外刈りの要領で転ばせる。
「そのいい男に殺される気分は?」
女兵士が何かを言う前に頭に2発、9㎜パラベラム弾は女兵士の脳髄を掻き回して滅茶苦茶にし、そいつは何も考えられない肉塊へと変貌を遂げる。
「大丈夫ですか!?」
「あぁ、大丈夫だ……ムカつくなこの女」
P226をホルスターに戻し、ライフルに持ち替える。もう2~3発撃ち込んでやろうかと思ったが、弾がもったいないので止めた。
「クリアだ、そっちは?」
「クリアです、これで敵は全部ですかね」
「あぁ……とっとと合流して広場を目指そう」
部屋から出て班を集める、町に入った敵は全滅させた様だ。
残り1人が町の外か……伝令が増援を呼んでここに来る前に、何としてでも残りの1人を片付けなければならないが、多分こいつ、かなりの手練れだ。
「……まずはエリス達と合流しよう」
「了解」
埃臭い建物から外に出る、路地に差し込む朝日の眩しさに思わず目を細めた。
戦術端末の位置情報を頼りにエリス達と合流、路地を抜けて通りへと出る。北へ向かう通りで、ここを真っ直ぐ行くと町の北端である広場まで繋がっていて、すぐそこに見えている。
『1-1Aへ、こちら1-1Bだ。合流する、撃つなよ、カミングアウト』
北へ移動しているとヘッドセット越しにエリスの声が聞こえてくる、俺もPTTスイッチを押し、無線で返す。
「1-1A、了解、カムアウト」
すぐ近く、俺達から見て右手側からエリス達4人が出てくる、誤射されることなく合流し、周辺を警戒しつつ再び戦術端末を取り出す。
「広場はすぐそこだが、どうする」
エリスは問いかけてくる、このどうするは「罠臭いが、このまま広場に突入するか?」の意味だろう。
確かにこのまま行ってもいいが、何かしらの仕掛けがある可能性も捨てきれない。だが、戦術端末を見るに、最後の1人は北上中、そして移動速度から考えるに恐らく馬じゃなくて徒歩だ。
こいつが仕掛けをするのは難しいだろう、さっきまでの奴らが仕掛けたのも、俺達の移動速度を考えるにそんな余裕はなさそうだ。
「……警戒しつつ、広場に入って待ち伏せる。簡単な仕掛けから魔術トラップまで、敵の罠には十分な警戒を」
「あぁ、分かった。互いに援護できるようにしておこう」
戦術端末を仕舞い、分隊で移動を開始、広場の手前で一旦停止し、ワイヤートラップや魔術トラップの有無を確認する。
エリスの方を見ると、エリスは頷いてサムズアップ、トラップの類は無い様だ。
「広場を囲む建物沿いに展開、遮蔽物を伝って広場を包囲だ」
「了解」
「了解」
班に分かれ、更に2人1組になる、俺に着くのはグライムズだ。建物内にもトラップがある事を想定し慎重に進む。
開けられたドアの奥に陣取り、棚や机を重ねて遮蔽物にする。
『ミラージュ2-1より全部隊、最後の1人が広場の北から入って来る。到着まで1分』
すぐそこだ、PTTスイッチを押して各部隊へと確認を取る。
「1-1A、ヒロトだ、準備は良いか」
『1-1A、ヒューバート、準備良し』
『1-1B、エリスだ、準備良し』
『1-1B、エイミー、準備出来ました』
『メリー1、狙撃位置に付きました、広場正面、見えてます』
「了解、攻撃のタイミングを合わせるぞ」
そう言って通信を終える、1対多、こちらが圧倒的有利な筈なのに逃げ出すことが無いという事は、相当腕に自信があるのか、あるいはただの馬鹿なのか……恐らくは前者だ。それに市街地で戦った敵の戦い方、敵は銃の戦い方を知っているだろう。そして恐らく、こちらの銃の性能・威力も知っている筈。
じりじりと太陽が石造りの建物を照らす暑さと緊張で汗が流れる、時刻は06:37、先程までの砂漠の夜の肌寒さはどこへ行ってしまったのか。
そして___そいつが現れた。
砂漠の熱さをしのぐゆったりとした服装、ニッカボッカに緩いシャツ、マントとターバン、いかにも砂漠地帯の民族らしい服装だが、その白いマントには公国の紋章である“剣を咥えたカラス”が刻まれている。
よく見ればターバンにもその紋章があり、どこからどう見ても公国兵だ。
「射撃用意」
PTTスイッチを押して呟く様にそう言うと、M4を構えてホロサイトの照準をピタリと据える。距離を置いてグライムズも同じようにM4を構えており、そのまま引き金を引けば1秒も経たずに5.56㎜NATO弾が奴の心臓と脳を破壊するだろう。
引き金に指を掛けた瞬間、奴の声が広場に響いた。
「居るのは分かってんいるんだ!出て来るといい!」
引き金に掛けた指に入りかけた力を少し抜き、照準を合わせたまま敵の動きを視線で追う。
「分からんか、私の目の前に姿を見せろ!」
……どうやら、隠れているのはバレているらしい。
『ヒロト、出るのか?罠かもしれない』
エリスからの通信だ、どうやら隠れているのは完全にバレている様だ。奇襲のタイミングを完全に外された以上次の手を打つしかないが、緊張で働かない頭を必死に回す。
出て行かなければ範囲攻撃の可能性がある、そうすれば全滅は免れないだろう。
出て行けば俺がやられる可能性があるが、仲間は被害を免れるだろう。
「……あぁ、だが出て行かなくても敵が魔術師なら範囲攻撃でやられる可能性がある。……まだ死ぬつもりは無いからな、援護してくれ」
『また無茶をして……基地に帰ったら覚えておけ』
「あぁ、帰ったらな」
そう言って通信を終え、今度は狙撃分隊へと通信を繋ぐ。
「メリー1へ、聞こえるか?」
『聞こえます、援護可能です。距離は……650m』
「了解、頼む。グライムズ、ヒューバートと合流しろ」
「了解」
「ヒューバート、グライムズがそっちに行く、撃つなよ」
『了解』
狙撃部隊の援護を取りつけ、グライムズが行ったのをヒューバートに連絡する、俺はゆっくりと立ち上がりながら戦術端末であるアプリを起動してポケットに仕舞い、正面のドアを蹴破って外へ出た。
埃っぽい空気が流れ、外の空気と混じり合う。朝の陽射しの中、そいつは立っていた。
俺は距離を取ったままそいつの正面へ、俺の背後はさっき俺達が広場に入って来た通りだ。奴との距離は、目測で15m、奴がいかに剣術が強かろうと、この距離ならまだ銃の方が早い。M4のストックを肩に当てたまま、銃口を少し下げる。
「……俺を名指しか?」
発言の主導権を握る為に先にこちらから呼びかける。奴は顔を上げて俺を見た、俺も奴の初撃に対応出来るように目を逸らさない。
「いや、名指しという訳じゃなかったんだが……お前がリーダーか?」
男の声、低い声だがしっかり此処まで届く。
「だとしたらどうする?俺を殺すか?」
「いや、お前を殺しても、どうせ俺は、お前の仲間に撃たれて死ぬだろう、銃でな」
銃、という単語に俺は反応する、こいつ、銃の存在を知っているのか。
「3つ、質問がある」
俺はそう口を開く、奴は「ほう」と言って黙り込んで、俺の話を聞く姿勢になった様だ。
しっかり答えてもらえるようにM4の構えを解いてスリングで下げ、しかし奴の動きから目を逸らさず、質問を続けた。
「お前は“神に選ばれし者”本人か?」
「そうだ」
これで分かった、こいつも俺と同じ転生者だ。そして恐らくは、転生して来たときのあの部屋で能力を貰ったのだろう。
「2つ目、お前ら公国は“人種族だけの国を作る”のが目的だそうだな、お前が公国に協力している理由は?」
「俺が公国に協力する理由?人種族だけじゃなく、亜人も受け入れなければならないと?」
「そうじゃねぇよ、公国が人種族だけの国を作るというのは大いに結構、好きにすりゃいい」
「なら__」
「俺が言ってんのは、ソヴィボルやバスティーユでの捕虜虐待、虐殺、強制収容の事だ」
「あぁ、そんな事か。亜人は滅して然るべきだろう?お前には分からないだろうが……亜人の暴力性や卑怯さは、万死に値する。隔離しなければ、この世界で最も人口の多い人種族に危険が及ぶ」
「あ?」
「もっと端的にわかりやすく言おうか、亜人が嫌いだからだ」
亜人排除の為の強硬手段の理由がそれか……呆れ返る。
今ここでは言わなかった様々な理由は他にもあるのだろうが、嫌いだからという理不尽な理由で排除された方はたまったものではない。
そして、奴らにとっては裏切者であるレジスタンス達も、亜人を匿ったり協力した結果、その強硬手段に巻き込まれ、命を落としていったのか。
「やり方がまずいな」
「何がまずい?目標の為には手段を選ばない、当たり前のことだ。お前もそうだろう?」
正論だ、奴らにとって、亜人の隔離や虐殺は、手っ取り早く亜人を減らすことが出来る沿い高効率の手段なのだろう。
「俺達にとってこれは正義だ、お前達から見れば悪だろうが、俺達は俺達の正義を執行しているにすぎない」
まったくもってその通りだ、完全な正義、完全な悪は存在しない。
誰かから見た正義は誰かから見た悪であり、誰かから見た悪もまた誰かにとっての正義なのだ。
正義と悪は視点によって簡単に変わる、奴らから見れば俺達の方が「人種族だけの国を作るという目標を邪魔する悪」になる。
気が合うな、声に出さずに呟く。
「最後の質問だ、お前の名前は?」
「俺は大原、大原克也。お前は?」
「高岡大翔だ」
「日本人か」
「そっちもな、お前も“神に選ばれし者”なんだから、公国に加わらないのか?」
勧誘か、生憎俺は、公国が勃興しようが滅亡しようが、心からどうでもいい。
「残念ながら、人種族の為に他種族を虐殺する危険思想には興味は無いんでね」
交渉決裂、この克也と名乗った奴は、ここで殺す。
「そうか……いい朝だ、コーヒーでも飲みたいよ」
「あぁ……遺憾ながらな」
一瞬の静寂、実際の時間は2秒ほどだっただろうが、俺にはもっと長く感じられた。
ライフルを構えるより早い、ホルスターからP226を抜き、引き金を連続で引く、トリプルタップの要領だ。
9×19㎜パラベラム弾の弾頭が15mの距離を飛翔し____命中する事は無かった。
命中する寸前、克也の周りの砂が奴の身体を半球体に包み込み、弾丸を弾く。
拳銃じゃ足りないか、さっきはライフル弾が防がれていたが、この距離ならどうだ……
P226をホルスターに収めてM4を構え、セミオートで速射する。
拳銃弾とは比較にならないエネルギーの弾丸だが……これも乾いた音と共に砂の壁に弾かれる。
この砂の魔術、思った以上に厄介だ……!
「どうした、もう終わりか?まさか攻撃手段がそれしか無いなんて言わないよな?」
ザァッと砂の乾いた音を立てて砂の防御が解け、今度は形を変えて槍のような形状になる。
手持ちの弾薬はあまりない、攻撃に備えて距離を取る。
「ならこっちから行かせてもらおうか!」
高速で飛翔するのは砂の槍、寸でのところでこれを避け、広場を走って逃げる。
「ははは!逃げても無駄だぞ!」
何か策を……思い浮かべた瞬間、俺の目の前に砂の槍が刺さる。
「うぉっ!?」
一瞬俺の動きが止まった瞬間、頭に強い衝撃が走った。頭に砂の槍が命中した、と思ったのも束の間、俺は地面に転がった。
「クソッ!」
ライフルを抱える様に転がり込み、立つより先に不自然なスパインの射撃姿勢で反撃する。
セミオートで数回射撃、弾丸は奴に吸い込まれ___拳銃の時と同じように弾かれる。
クソ、ダメか……吐き捨てて立ち上がろうとした時、奴が愕然とした表情をしているのが見えた。
「お前……!なんだその防具!」
砂の槍がこちらに伸びる、立ち上がって走り出すより前に、俺の胸に複数の槍が命中した。そのまま俺は背後の建物に叩きつけられ、槍は砂へと帰り肺からは強制的に空気が吐き出される。
「いってぇなクソ!」
返す刀でまた奴に撃ち込む。凄いな、流石ドラゴンの鱗から作った防具だ、何ともない。
運良くマガジンが収められてないところに命中した、歪んでいるマガジンも無く、大丈夫そうだ。
弾丸は空しく明後日の方向に弾かれる、ダメか……と思って立ち上がり、再び走り出す。
俺が走った後ろに砂の槍がどんどん突き刺さる、正直言って恐ろしい。
走りながら胸元のPTTスイッチを押す、エリスとだ。
「エリス!攻撃を引き付ける!奴の後ろから攻撃しろ!」
『分かった!』
俺はそう言うとその辺の建物に入り、石造りの建物に入り、窓から奴に向けて射撃を続けた。
奴が攻撃と防御を切り替えているなら、攻撃している間は防御出来ないかもしれない。
そろそろ弾薬が無くなってきた、けどこの砂の攻撃の中じゃ弾薬を節約しようにも無理だ。何発かを適当に撃って弾薬を消費、空になったマガジンを捨て、マグポーチからP-MAGを引き抜いてマグウェルに差し込みボルトストップを押し再装填。
再び奴に向けて射撃するが、やはり弾丸は奴の砂の鞭に弾かれる。考えてみれば5.56×45㎜NATO弾の初速は音速の3倍以上だぞ、どうやって防いでんだ?
俺の射撃とは別の銃声が聞こえる、恐らくはエリスの射撃だろう。セミオートの速射が奴を襲う、エリスの射撃もかなり正確だ、近距離であればほぼ外すことは無い。
だが、それも弾かれた。砂の鞭に叩き落され、攻撃が通用しない。
クソ、こいつマジか。
攻撃に気付いた克也は向きを変え、纏う砂は形を変えて槍になり、奴の背後の建物を攻撃していく。
恐らく、エリス達を攻撃しているのだろう。砂埃が舞い上がり、建物の外壁が1部崩壊してしまう。
「エリス!大丈夫か!?」
俺の通信に、少し時間を置いて、ヘッドセットの向こうからノイズ交じりに聞こえた。
『大丈夫だ、アイリーンも無事だ……すまない、撃破出来なかった……今建物の奥に移動している』
声を聴いてホッとする、間一髪で避けたようだった。俺は射撃を続けながら再びPTTスイッチを押す。
「無事でよかった、攻撃と防御の切り替えのタイミングで隙が生まれると思ったんだが……」
『あぁ、私もだ……何か策はあるか?』
俺は少し考える、ランディの狙撃は恐らくあの砂に阻まれて無理だろう、半球体にされては敵がどこにいるかも分からず、命中も望めない。
「俺は最後の手段だと思うんだが……空爆を要請しよう、俺が呼んでる間全力射撃で注意を引いてくれ」
『分かった、エイミー、全力射撃だ』
『了解』
「ヒューバート、そっちの班も全力射撃だ、移動しつつ撃て」
『了解』
通信を切った後、次第に銃声が増えていく、セミオートが5、フルオートが2、火線も様々な窓から飛び交い、建物の中で移動を続けているのか火点は位階の射撃毎に移動し、克也がそこを攻撃する頃にはもう居ない。
俺は無線をリーパーに繋ぎ、航空支援を要請する。
「ミラージュ2-1、近接航空支援を要請する、北側の広場の砂だらけの奴が見えるか?」
『こちらミラージュ2-1、確認した、何だありゃ』
「あいつが敵だ、俺達はその周りの建物に居る、あいつにミサイル攻撃を頼む」
『了解、誤爆しない様に味方を引っ込ませろ、10秒後に攻撃を開始する。着弾まで30秒』
「了解、感謝する」
近接航空支援を取りつけた、次は味方に繋ぐ。
「全部隊へ、奴をミサイル攻撃する。攻撃は30秒後!5秒前に建物の奥へ隠れろ!」
『了解!』
『了解』
俺は味方に警告すると、腕時計をチラ見しながら奴への射撃を再開した。
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「トンでもねぇ奴だな、あれ」
「マジで異世界なんだな、ここ……」
オペレータールームで2人のUAVオペレーターが呟く、2人の目には砂の槍や柱で銃弾を防ぐ敵の姿がリーパーの高性能カメラで撮影された画面越しにリアルタイムで映っていた。
「航空支援要請、目標敵兵員」
「了解」
オペレーターの攻撃担当官がFCSをチェック、操縦担当官が操縦桿を操って機体を旋回させる。
「最後のミサイルだ、スタンバイ」
「了解」
「ミラージュ2-1、ライフル」
オペレータールームから遥か離れた上空7000m、MQ-9リーパーが2発のAGM-114Mヘルファイアを発射した。
ロケットモーターに点火され、ランチャーレールを滑り出したヘルファイアがまず1発、AGM-114Mは爆破破砕・焼夷弾頭、墜落したMH-60Mを“処分”したものと同じだった。
「ライフル」
時間を置いてもう1発、7000mの高度から地獄の業火が舞い降りる。2発のミサイルはリーパーのレーザーに従って向きを変え、目標に向かって狂い無く飛翔する。
「ミラージュ2-1、残弾ゼロ」
「デュラハン1-1、現場上空のリーパーは弾切れだ、監視しかできない。次のリーパーの出撃まで時間がかかる」
もう支援できることは上空からの監視しかない、残弾ゼロのリーパーは監視高度に上昇しながら、オペレーター達は地上部隊に支援できない事を伝えて最後のミサイルを見送った。