第164話 死神の鉄槌を下す罠
銃撃が止み、忌々しい煙幕が晴れても、敵の姿は見えなかった。
卑怯者だ、暗闇に紛れて手の届かないところから攻撃してきて、文字通り煙に巻いて逃げる。この世界の戦闘に全くそぐわないやり方だ、逆に言えば、この世界には存在しない、全く新しい戦い方。
この世界にも我々の陣営が開発した“銃”がある、もしこのまま銃が普及してこの世界の戦術や戦略が変わっていけば、ああいった戦術も生み出されていく事になるだろう。今はまだ公国の上層部は銃を使った戦術や戦略も研究中だと言える。
原理的に我々の銃は本物の銃ではなく、活性化した魔石の魔力を圧縮して球体の弾丸を飛ばす“魔銃”と呼ぶべき代物だが、それでも弓矢やクロスボウよりも強力で射程も長く、銃剣を装着すれば槍にもなる。この世界の戦術を一変してしまう程強力な兵器だ。
しかしこの目の前の燃えるヘリと先程の銃撃、敵は我々より更に強力な兵器を備えているに違いない。
それに先程味方を失った攻撃、風切り音がしたからミサイルの類か……軍事に疎い俺でもその程度の事は分かる。
「どうしますか」
部下の1人が問いかけてくる、見たことのない敵の攻撃に恐れているのか、全員がこちらを見ている。
見たことのない兵器の威力に直面したその恐れは、俺が持ってしまったら瞬く間に伝播する。俺が“それ”を持ってはいけない、それに俺はこの兵器たちについて、この世界の奴らよりも多少は知っている。
「伝令」
「ハッ」
伝令が1歩前へ出る、この状況を打開するのに必要な計画を実行するために、本部と連絡を取らなければならない。
「増援を呼んで来い、この様子だと敵は15人は居ないだろう。武器がいくら優れていようと矢が尽きれば敵は手を出せなくなる、残った馬を連れて行け」
「ハッ」
先程の攻撃から辛うじて生き残った馬に跨り、砂漠を駆け出す。
伝令が1人抜け、残りは俺を覗いて12人で市街地へと入った敵を追い立てる。市街地では基本的に森林と同じく、騎兵よりも歩兵の方が有利だ。
「市街地へ向かう、4人で1チームを作れ。この暗い中だが奴らは見えていると仮定して進んだほうがいい、必ず複数人で対応しろ。奴らは強いが、俺達は彼らを必ず超えられる。何故なら俺達は、神に選ばれし者だ!」
「ハッ!」
「リーダーはモルト、エーミール、カーヤだ、他はリーダーについていけ」
「行くぞ!我ら神に選ばれし者!!」
モルト、エーミール、カーヤの3人を各分隊の分隊長として、彼らが銃剣付きのニルトン・シャッフリル銃を掲げる。我らの新装備、新兵器だ。
行け、俺の軍隊。俺達に対する悪を撃滅せよ。
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ヒロト視点
狙撃分隊からの報告によると、町に入ったのは12人、1人は町の手前で待機し、もう1人は伝令として砂漠の向こう側へ去っていったらしい。
町に入ったのはほぼ全員が銃剣付きのシャッフリル銃、他はクロスボウという遠距離特化型の部隊だった。恐らくこちらの戦術を研究しているか、銃を使った戦術を研究している部隊だろう、“分かってる”敵だ。
異世界の銃とは言え威力は人馬を殺傷するのに十分、身に着けているプレートが12.7㎜までの防護性能があるとはいえ、至近距離で喰らえばかなり痛そう。
市街地は遮蔽物が多く、隠れられる場所も多い。どこから奇襲されるか分からないのでかなり神経を使う。恐らくこれほど神経をすり減らす戦場も無いだろう。
だが俺達はその戦場で最も効率的に、素早く敵を殺すことが可能な戦術を学び、訓練を繰り返している。
この辺りの家は石を積み上げた上から泥や砂を塗っている為、銃弾は貫通しない。気を配るのは殆どドアか窓、曲がり角だ。
しかし……俺はここまで来た街並みを思い出しながら警戒し、進んでいく。
綺麗な街並みだ、人が住んでいてもおかしくない。ここまでに数軒の家を調べたがやはり無人だった。争った形跡もない。
「……いい街だ」
「本当だ、ここに生きる人々の暮らしは豊かだったのだろう」
俺の呟きを拾うように、どうして誰も……と言いたげな声色で路地の反対の壁沿いに歩くエリスが言う。
町の規模は然程大きくは無く、人口は1000人も居ないだろう。その全員が居なくなった……と考えると、移住を強いられたか、あまり考えたくない事態が起こったか……
ただ、屋内の家具や生活用品から見るにごく最近まで人々が生活していた痕跡がある。恐らく何かの事態が起こったとすればここ数日……2、3日の事だろう。
そんな事を考えながら進む、そろそろ日が昇った頃だ、建物の陰などはまだ暗いが、もう暗視装置は必要ない。
ハンドサインで全周警戒、拳を握って停止のサインを出す。路地の前後を見張りつつ、PVS-15の電源を切って跳ね上げる。十分とは言えないが、これから時間と共に明るくなっていくので、もう大丈夫だ。同時にEOTech553ホロサイトのNVモードを解除して通常モードにする。
皆が暗視装置を跳ね上げている間に、上空のUAVと交信、自分の位置と敵の位置を知る為だ。
「こちらデュラハン1-1、ミラージュ2-1、聞こえるか?敵の現在位置を確認してくれ」
『こちらミラージュ2-1、確認した。敵は3つのグループに分かれて進行中、一番近いグループは次のブロックから出てくる4人、全員が銃で武装している』
次のブロックの曲がり角まで100m、前進して停止する。カッティングパイの要領で薄く顔を覗かせる。
合流する道は日の指す方向より陰になっていない、その道を4人の公国兵が歩いてきている、距離は然程ない。遠くて良く見えないが、恐らく構え方からしてニルトン・シャッフリル銃を装備した4人。軽装に見えるのは銃の戦闘を考慮し、防御より機動力にステータスを振り分ける為か。
目算で距離は約80m、敵の銃でも十分反撃と、致命傷を負わせることが可能な距離だ。
4本指を立て、親指を下に向ける。事前に決めていた人数を伝えるのと、敵と言うサインだ。
「カウント3で射撃しながら渡るぞ」
大きな声を立てない様に無線のPTTスイッチを押しながら言う、全員の同意を確認し、指でカウントを取る。3、2、1……
GOサイン、ハイローテクニックで俺とエリスが角から援護射撃、俺が立ち上がり、エリスがニーリングするイスラエル式のハイローテクニックで射撃。
ホロサイトの照準通りに、セミオートで射撃された5.56×45㎜NATO弾が公国の銃兵がこちらに気付く前に戦闘の銃兵に突き刺さり、前に倒れこみかけた公国兵の頭をもう1発の弾丸が貫く。
銃声に気付き、自らの敵に反撃しようとしたもう1人の銃兵もライフル弾に首を貫かれて死体が2つ出来上がる。
俺とエリスが射撃している間にグライムズとアイリーンが反対側に渡り、敵の応射の弾丸が壁に弾けて欠片を散らし、跳弾の音を奏でる。
ヒューバートとエイミーも渡っていく時、上で見張っているMQ-9リーパーから連絡が入る。
『デュラハン1-1、注意しろ、隠れた敵の残り2名が路地を伝って回り込もうとしている』
反応したのは俺でもエリスでも無く、先に渡ったグライムズとアイリーンだ。2人が先行し、路地の出口に回り込むと先制攻撃、丁度出て来た公国兵を射殺した。
「2名ダウン!」
「よくやった!」
俺とエリス、残っていたブラックバーンとクレイも道を渡って先へ進む。
やはり、手慣れている。敵は市街地の戦闘経験がある部隊の可能性が高い……気がする。
「残弾は」
全周警戒の態勢を整えながら残弾を確認、P-MAGの残弾確認窓を見ると、残り1/3以下か。プレートキャリアからマガジンを抜いて交換、交換した残弾の少ないマガジンはプレートキャリアのポーチに戻しておく。
「弾は足りてるか?」
「一応は、さっきのと合わせてまだ4マグ程」
「こっちもです」
「ベルトは今あるのと残り1本、それにマガジンが3本。それで最後です」
「私も満タンのがあと3本だ、少なくなってきた」
各々の残弾数を知らせる、多く見積もって120発未満か……俺は分隊内の残弾をざっと計算し、再配分する。
「ヒューバート、1本マガジンくれ。エイミーもエリスに1本渡せ。一応これで均一になるはずだ……」
俺はヒューバートからエリスはエイミーからSTANAGマガジンを1本受け取り、残弾を補充する。十分とは言い難いが、全員がほぼ同じ弾数を持っている事になる。全体の保有弾薬の数が限られるので、節約と再配分を行い慎重に発砲する必要がある。
「今の銃声で位置がバレたな」
エリスがマガジンをFASTマグポーチに収めながらそう呟く、それには俺も同感だった。
「あぁ、多分な。奴ら銃声を頼りにこっちに来るぞ」
「急ぎましょう、奴らが来る前に」
クレイが後方を警戒しながら言う、確かに急いだほうがいい、俺は上空のリーパーから情報を得るために無線を_____
上空にリーパーが居る、そしてそのリーパーはまだ兵装を残している。
その事を思い出した俺は、頭の中で新たに作戦を立てた。
「……可能な限り少ない弾数で、敵を葬り去れればいい」
「何か思いついたみたいだな」
「あぁ、敵を皆殺しに出来ればいい。そして都合のいいことにこの町は無人だ」
「聞こう」
周辺を警戒しつつ、俺は思いついた案を全員に話す。
「なるほど、それなら……!」
「行けそうですね」
「リーパーとの連携が鍵になりそうですが、問題ないかと」
「よし、じゃあこれで行こう」
「「「了解」」」
すぐに位置を変え、待ち伏せに有利になりそうな地形、建物を選ぶ。運よくその場所はすぐに見つかり、敵が見つけやすい交差点の角の建物を選んで中に入り慎重にクリアリングする。
「家の中を徹底的に調べろ、いないとは思うが、念の為中に人がいないか確認するんだ。エイミーとヒューバート、屋上に上がってストロボを設置。ブラックバーンとクレイは2階、アイリーンとグライムズはあればだが地下への入り口を探せ。エリス、俺と一緒に来い」
「了解」
「了解」
6人がそれぞれ支持された場所に向かっていく、家の鍵を閉め、外からは開かない様に軽く細工をした。
「私達はどうする?」
「奴らをおびき寄せる、フラッシュバンとパラコードを取ってくれ」
エリスに背中を向け、ユーティリティポーチからパラコードと、その上のポーチからフラッシュバンを1発取ってもらう。あと必要なのは……
「……あとはキッチンかな、蝋燭があればいい。これで簡易的な時限装置を作る」
「……なるほど、フラッシュバンの音で敵をおびき出すのか、仕掛けを作って待っててくれ、蝋燭を持ってくる」
エリスはそう言うと蝋燭を取りに台所へ、俺は二階に移動し、パラコードにパラコードを絡ませ3又にする。一方を持ってきた椅子に、もう一方を床から15㎝くらいの高さで低く這わせる。
「ヒロトさん、それは?」
2階の確認が終わったのか、ブラックバーンに声を掛けられる。クレイも何をしているのかと不思議そうに俺の手元を見ていた。
「フラッシュバンを使って音で敵をこの建物におびき出す仕掛け」
ブラックバーンにそう答えると、エリスが蝋燭を見つけて2階に上がってきた。
「ヒロト、あったぞ」
「お、ありがとう」
エリスから蝋燭を受け取る、これで必要なものは全部そろった。
「ブラックバーンとクレイ、1階に降りて全てのドアを警戒しろ、敵が入って来ない様に。グライムズ達にも伝えてくれ」
「分かりました」
「了解」
クレイとブラックバーンは1階に降り、警戒に入る。重り用の椅子に細工をしていると、屋上からヒューバートとエイミーが戻ってきた。
「リーパーの攻撃準備完了、赤外線でここを確認し、いつでも攻撃出来るとの事です」
「敵部隊の1つは3ブロックのところまで接近しています」
ヒューバートとエイミーはリーパーからの通信を俺に伝達、どうやら誘導は上手くいってくれた様だ。
「了解、俺も丁度仕掛けが終わったところだ、先に下に降りてろ、エリスもだ」
「あぁ」
「了解」
細工が終わったのでエリスとエイミー、ヒューバートを下に下ろし、最後の仕上げをする。
パラコードが結ばれた同じくらいの大きさの椅子が2つ、3又のパラコードのもう一方は柱に向かって伸びており、床から15㎝程の高さにしたロープの下に蝋燭を立てる。
椅子を倒し、背もたれと床の間にピンを抜いたフラッシュバンを挟む。
もう1つの椅子を階段の下へゆっくりと下ろし、手を離すとロープがピンと張ってパラコードに椅子がぶら下がる、これで完成だ。
「皆、準備が出来た、玄関前に集合、出口を警戒して脱出準備だ。俺もすぐに行く」
『了解』
『了解』
階下で移動する音が聞こえる、脱出経路の確保だろう。
俺はその辺の布切れを拾うとポケットに入っていたマグネシウムファイアスターターで火を点け、蝋燭にその火を移して布の方は消化する。
「よし、カミングダウン」
『カムダウン!』
蝋燭をパラコードの下に置くと、ぶら下がった椅子に触らない様に階段を駆け下りた。
仕掛けは簡単だ、柱に結んだパラコードがストッパーの役割をしており、階段から椅子を吊り下げる役割をしている。
吊り下げた椅子とフラッシュバンを押さえている椅子は繋がっており、ストッパー役のパラコードを蝋燭が焼き切ってしまえば吊り下げられている椅子は下へ落ち、フラッシュバンが開放される簡易的な時限装置だ。
下へ降りると玄関は既に開け放たれ、脱出の準備は出来ていた。
「地下室はありませんでした、地上階だけの様です」
地下への入り口を探していたグライムズ達の報告を受ける。それならよかった、地下へ入られては効果が薄れてしまう。
「分かった。誰か、中に1発フラッシュバンを投げ込め」
「自分が」
返事をしたのはヒューバートだ、彼は背中のポーチからエイミーにフラッシュバンを取ってもらうと、フラッシュアウト!と叫んで投げ込んだ。
「行くぞ!」
フラッシュバンが炸裂すると、建物を出て通りを渡って路地へ、俺達は広場を目指す。敵を直接攻撃するための仕掛けではない、本命と連絡するため、移動しながら俺はリーパーとの通信を開いた。
「ミラージュ2-1、無人の建物の屋上で発光するIRストロボが見えるか?」
『確認した、さっき君たちが出て来たところだな?注文通り、敵が入ったら爆撃する』
「頼むぞ」
『1グループは建物から1ブロックのところまで接近中、もう1グルーブは西回りで君達より北に居るぞ』
回り込まれたか、恐らく待ち伏せようとしているのだろう。
考えている内に、既に2ブロック程離れた建物の方からフラッシュバンが鳴る音がした
そろそろか。
「爆撃が始まる、少しペースアップしよう、行けるか?」
「行ける、皆は?」
エリスの声に行けますと皆は答える、爆撃に巻き込まれない範囲まで……3ブロックも行けば大丈夫だろう。
「爆撃開始までに3ブロック先へ全力退避する、敵と接触した場合は排除、その後建物に入って爆撃をやり過ごし、再度北の広場を目指す」
まずは味方の爆撃をやり過ごす、皆がそれに賛同すると、俺達は周囲を警戒したまま可能な限り全速で北へと退避を開始した。
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『戦闘要員の退避を確認』
『敵兵員、目標建物に到達』
『ストロボを確認、攻撃開始』
上空25000ft、この異世界では何者も到達できない高度を、顔の無い死神が幽遊と飛んでいる。
死神の名前は、MQ-9“リーパー”。
MQ-1プレデターを更新する目的で配備されたこの機体は、前任の捕食者の倍以上のペイロードを持つこの機体は、墜落したブラックホークをミサイルで破壊したがまだ兵装を残していた。
『ミラージュ2-1、“Pave”way』
リーパーの一番内側のハードポイントから、GBU-16ペイブウェイⅡレーザー誘導爆弾が投下され、リーパー自身の照射したレーザーに向けて爆弾の誘導翼が動く。
その頃、丁度公国の銃兵は物音を聞きつけ、建物に入っていった。丁度屋上で赤外線ストロボが光り、死神のレーザーが向けられている建物に。
今頃、中は大騒ぎだろう。音がした建物なのに、誰もいないのだから。
その瞬間、死神の鎌が振り下ろされる。
1000ポンドの爆弾が2発、建物に直撃して炸裂。その建物は入っていった公国兵ごと燃える瓦礫の山へと変貌し、大きな爆発と共に早朝の空を焦がした。
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「……ふぅ……」
「いやはや、航空攻撃と言うのは凄まじいな……」
「近接航空支援ってこんな近くに爆弾落ちるんすね……」
「そりゃ“近接”だからな」
家の中に退避した俺達は、爆弾が着弾するまで伏せていた。3ブロック離れたここまで届いた爆風は窓ガラスを悉く粉砕し、溜まった埃を舞い上がらせて家を揺らした。爆心地と言うと大げさだが、着弾点付近では倒壊した建物もありそうだ。
『目標に命中、効果あり』というリーパーの通信に「了解」と返しながら起き上がる、埃がすごくて咳き込んでしまう。
「1000ポンド爆弾と言ったか、凄まじい威力だな」
「あんな凄いの、レベル5の炎魔術師が出せるかどうかですよ」
エリスの声にエイミーが賛同し、ブラックバーンも頷く。魔術は個人で扱うものであり、魔力は生命力を変換した物でもある。一個人での魔力量はどうしても限界があり、それを超える魔術を発動させるのはよほどレベルの高い魔術師でないと難しい。
「周囲を警戒、ここからまた移動するぞ」
「敵が回り込んで来ているらしいが、二手に分かれて包囲殲滅と行くか」
エリスが分隊をいつもの様に2分割、北に回り込んだ敵部隊を包囲して殲滅。
「……よし、それで行こう。B班はエリスに着け、敵の位置と味方の位置をリーパーから戦術端末に出してもらう」
MQ-9リーパーに通信を入れ、各自に配布している戦術端末に位置情報がリンクされる。敵は赤い点、味方は青い点で示され、敵は4人、またその4人が2人ずつに分かれて俺達を探している様だ。
少数で行動できる部隊は強いが、その少数を分割するのもまた大胆な作戦だ、それが躊躇なくできる部隊は、かなり勇気がある指揮官を持っていると見える。
「恐らくは銃を装備している。気を抜くなよ」
端末をポケットに仕舞いながらそう言うと、ライフルを構えなおして立ち上がる。
「じゃ、後で合流しよう」
「あぁ、気を付けろよ」
俺とエリスは軽く拳をぶつけて二手に分かれる、俺達は西側、エリス達は東側から敵の待ち伏せを逆に包囲する。
西に向かう路地を進み、曲がり角はカッティングパイで慎重に曲がる向こう側を確認する。そろそろ明るくなってきた空に照らされた路地を、俺達は進み出した。
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エリス視点
ヒロトと分かれた私は、路地を東に向かう。戦術端末に映されたリーパーからの位置情報によると、敵部隊は北で待ち伏せている様で、大通りから路地に入る入り口で待ち伏せている様だ。
そっちが少数で待ち伏せするなら、こちらへ誘い出そう。ステージに上がりたがらないなら、こちらのステージに引き込んでしまえばいい。
エイミーとアイリーンにハンドサインで指示、2人を大通りにあえて回り込ませ、派手に敵に攻撃する。
私とクレイは周囲を警戒しつつ、敵の背後の路地へと回り込んだ。
手を下向きに握って開く、“フラグ用意”の合図だ。
私はクレイの背中のフラグポーチから、クレイは私のカマーバンド後方のフラグポーチからM67破砕手榴弾を手に取り、ピンに指を掛ける。
『エイミーです、位置につきました』
「了解、カウントで攻撃開始だ」
『了解、3・2・1……』
表の通りでM249のけたたましいフルオートの銃声が聞こえてくる、歩兵12人分の火力を持つ分隊支援火器は5.56㎜NATO弾で敵を制圧し、頭をあげさせない。
私はクイックピークで敵の姿を一瞬だけ確認すると、敵は2人共表からのエイミーとアイリーンの攻撃に対して応戦しているように見えた。
その一瞬で敵が気付いたとしても関係ない、クレイと共にM67手榴弾のピンを抜き、タイミングを合わせて2人同時に投げ込んだ。
ゴロゴロと地面を転がった手榴弾に敵が気付いた時はもう遅く、内蔵された炸薬が炸裂。仕込まれた硬質鉄線が弾殻を無数の破片へと変貌させ、爆風と共に敵の肉体を切り刻んだ。
念の為撃破確認、爆発の収まった路地へと突入して、M4に装着しているライトを点灯させ捜索する。
敵は手榴弾の爆発によって腕が引き千切られて首が曲がってはいけない方向に曲がっていたり、破片によって建物の壁に縫い付けられて腕は力なくだらりと垂れ下がっていたが、念の為、死体の頭に1発。クレイも淡々とトドメを刺していく。
路地の外に向けて何度かライトを点灯させると、カミングイン、とエイミーの声。
「カムイン」
「お見事です、エリス様」
M249MINIMIparaを携えるエイミーと、M4の他にB&T GL-06を携行しているアイリーンと合流。再び弾薬を再配分する。
「ヒロト達と合流するぞ、早く北を目指そう」
そう言った直後、西の方から銃声がした。セミオートの銃声、恐らく路地を挟んだ反対の建物だろう。
「えぇ、急ぎましょう」
エイミーを始め、クレイとアイリーンが頷く。私は再びM4を構え、ヒロト達の元へと急いだ。