第163話 We got a Blackhawk down
「ぉわっ!」
「うわぁ!」
ヘリの機体が大きく揺れる、ブラウンの煙は機体を包んだままMH-60Mを揺らし続け、パイロットのウォルコットと副パイロットのエイルがコックピットで必死に機体を制御している。
「掴まれ!落ちるなよ!」
ウォルコットが上面コンソールの何かを操作しながら操縦桿を握る、小刻みに揺れる機体のキャビンの中で俺はランヤードを掛けて転落防止する、ヘリから落ちて死ぬなんて御免こうむりたい。
「こちら61、視界ゼロ!砂嵐の模様!」
「ローターはメイン、テール共に損傷無し!」
ウォルコットは通信で状況をC2に報告し、エイルは正面パネルの計器やディスプレイを見ながら機体の損傷を確認、揺れは続いているが、機体は水平を保ったまま飛行を続けている。
しばらくすると、茶色の煙も消え、揺れは収まって安定した飛行へと戻っていく。
『スーパー61、大丈夫か?』
『こちら61、砂嵐に巻き込まれた模様。計器に異常は見られない、そちらも大丈夫か?』
『こちらは異常はない、砂煙は61だけが巻き込まれていた模様』
『なんだと……?』
俺のヘッドセットも通信が拾われている、砂嵐に巻き込まれたのはスーパー61だけだったらしい、となると砂嵐は狙って発生させられた可能性がある。
俺が通信を入れようと思う前にC2から指示が飛んだ。
『ここは異世界だ、新手の魔術攻撃という可能性もある。61、機体の調子を万全に保ち警戒を厳にせよ』
『了解、エイル、計器から目を離すな』
ヘリの具合は俺には分からないが、砂嵐の中をヘリが飛ぶと不調が起こると言うくらいは分かる。
そして、その予感はすぐに的中した。
『エンジンの出力が低下してます!』
副パイロットのエイルが計器を見ながら叫ぶ、その叫びは俺達のヘッドセットにも届いていた。
改めてランヤードを確認して落下防止、全員がランヤードを掛けてるのを確認した。
『揚力の維持が……!』
『エンジンに砂が入ったみたいです!』
ウォルコットとエイルの声が聞こえてくる、重ねてC2からの通信が入った。
『61、こちらC2、非常事態か?』
『砂を吸い込んだらしくエンジン出力低下、揚力の維持が出来ない』
ヘリの不具合を告げた直後、キャビンドアから外を覗いていたランディが通信に割り込んで叫ぶ。
『6時の方向より騎馬兵多数接近!』
ヘリの不調、接近する騎馬兵の集団。何らかの攻撃を受け、ヘリの揚力が落ちたのは明らかだ。
『全部隊、61の救援に』
『待て!』
C2の救援の提案をウォルコットは止める、俺は止めた理由を何となく察していた。
次に口を開いたウォルコットは、俺が思っていたのとほぼ同じ事をより上手く伝えていた。
『各機燃料が少なくて援護には回れないはずだ、こっちは任せて各機はFOBへと戻れ!不時着した後位置を送るから回収班と機密処理班、それから上空のリーパーで追跡と航空支援を頼む』
事実上、スーパー61を見捨てて先に戻れという命令だった。
このヘリに乗ってる限り、この機の指揮官はパイロットであるウォルコットだ。俺がこのヘリの動向を決めるにはこの機の指揮権が俺に移ったと明言しなければならないが、今の指揮権はウォルコットにある。
何しろ俺はヘリに関してはよく分からない、安全の為に俺達はウォルコットに命を預けるしかないのだ。
『61、正気か?』
『正気だ、不時着したら偵察機経由で位置を送る!』
『しかし危険過ぎるぞ』
『こっちゃガーディアンで一番強い部隊積んでんだ、心配は無い』
『……』
『どうしたC2、迷ってる暇は無いぞ』
C2の迷いも最もだ、一時的にとは言え味方を置き去りにするのだから。
しかし、迷ってる間にも燃料は消費され、不具合が起きたスーパー61が飛行可能な時間はどんどん短くなっていくのに加え、騎馬兵の集団との距離も詰まっていく。
『……スーパー61、分かった、我々は先に帰投する。戦力を整え燃料を補給し、回収班として再出撃する』
『了解、待ってるぜ。61アウト』
その言葉を最後に通信を終え、61は緩やかに右旋回していく。
『という事で、勝手ながら付き合ってもらいます。快適な空の旅は中断という事で』
「わかった、不調なら仕方ないな。安全な場所に降ろしてくれ」
『了解、ガンナーはヒロトさんの指示に従え』
『了解』
ウォルコットはエイルと協力しながら安全な場所を探し始める。
朝の薄明かりの空を旋回していくヘリを、騎馬兵の集団が追いかけてくる。
「ランディ、そのライフルで敵集団の観察を続けろ。パトリック、ミニガンで牽制しろ」
『了解、騎馬集団、明らかにこちらを狙って追って来ます』
『喰らえ!』
右舷側のミニガンのガンナー、ジョシュがミニガンで牽制射撃を行う。
数秒の射撃で数100発の7.62×51mmNATO弾が振りまかれ、延びていく曳光弾の数倍の弾丸が騎馬集団に襲いかかる。
着弾と同時に砂煙が起こり、撃破未確認。だが射撃の目的は撃破ではないので構わない。
『ヒロトさん、目標ロスト。着弾の砂埃で見えなくなりました』
「了解、ウォルコット、なるべく奴らと距離を取ってくれ」
『了解、町が見える……!保ってくれよ……!』
高度は下げつつ進路は町から遠ざかる様に取る、住人を戦闘に巻き込まない為に町から遠い所へ、と言うところだろう。
だが、町から遠ざかろうとしたその時、コックピットから警報音が鳴り響く。
『くそッ、とうとうか……!墜落に備えろ!』
『総員!対ショック姿勢!』
ここまで頑張ってくれたヘリのエンジンがとうとう悲鳴を上げ、黒煙を吹き始めた。
エイルがキャビンに向けて叫ぶと同時に、キャビンの中の全員が対ショック姿勢を取る。
『メーデー!メーデー!メーデー!スーパー61墜落する!61、墜落する!』
首を守り屈む、エリスやランディも同じ姿勢をとり、不時着の衝撃に備える。
どうやらテールローターは停止していないらしく、機体が反トルクによって振り回される事は無いが、機速が落ちていき……ズシン、と普段のウォルコットならしない様な着地の衝撃が伝わった。
『接地!エンジンカット!姿勢そのまま!』
『エンジンカット!』
『ブラックホークが墜落した!ブラックホークが墜落した!』
コックピットでウォルコットとエイルがエンジンをカットしていく、俺はキャビンの中で全員の無事を確認した。
「全員大丈夫か!?」
「生きてます!」
誰かが大声で叫ぶ、エンジンを切ったとは言え、まだキャビンの中には騒音が響き、誰が叫んだか分からない。
「エリス!ランディ!無事だな!?」
「あぁ、身体は何ともない!」
「大丈夫です!」
デュラハン1-1B班長のエリスとメリー1分隊長ランディに叫ぶ、エリスは転倒しかけた身体を支え、ランディは狙撃銃を抱えたまま床に座っていた。
「班員を掌握しろ!出来たら報告を!」
エリスとランディに部下を掌握させている間に自分も班員を確認する、グライムズ、ヒューバート、ブラックバーン。3人とも無事のようで、俺もピンピンしてる。
「デュラハン1-1B各員、無事だ!」
「メリー1、全員確認!生きてます!」
どうやら誰も怪我をしていないらしい、その事にまずホッとする。
第160特殊作戦航空連隊ナイトストーカーズ、ヘリの操縦は世界一の技量を持つというが、墜落までヘリを制御しきるとは恐れ入った。これも訓練の賜物だろう。
程無くしてヘリのメインローターがゆっくり停止、エンジン音が完全に落ちる。
「ウォルコット、ナイスランディング。再度離陸は出来そうか?」
俺のコックピットへの問いに対して、ウォルコットは首を横に振る。
「エンジンがダメです、回せるとは思いますが飛行は無理でしょう。バイエライドFOBまでは戻れませんよ、電力も落としましたので、ミニガンの射撃も出来ません」
ミニガンはヘリのエンジンから電力を供給しているため、ヘリの動力を落とすと使えなくなる。弾薬だけ回収するしかないか……しかし良くここまで持ちこたえてくれた。
取り敢えず、無事で良かった。だが、ここで終わりではない。
「聞け、ここに向けて公国の騎馬集団が接近中だ。それまでにやるべき事をやるぞ」
「了解」
全員が頷く、これからまた、追ってきた騎馬集団と十中八九戦闘になるだろう。それまでにやらなければならない事はある。
「エリス、作戦本部と連絡を、繋がったら全員の無事とヘリを爆破する旨を伝えてくれ。上空に無人機を呼んでくれ。その他の者は弾薬の再配分を。ランディとガンナーは協力してミニガンの弾薬を抜いてクリスタへ渡せ。ウォルコットとエイル、ヘリを放棄する。機密処理の準備を」
「あぁ、試してみる」
「了解」
ランヤードを外し、ナイトビジョンをしたままヘリの外へ。
使ってない弾倉を、消費の激しい隊員へと渡して部隊の弾薬所有数を一定にする。
M4に差し込まれている物を含めて5本、1人が大体150発持っている事になる。
ガーディアンで使用する弾倉を統一する利点はここだ、補給や再分配が容易になる。
砂漠の真ん中で少し傾いたままメインローターから煙を上げて着陸しているMH-60Mを眺めた、良くここまで持ったものだ。
周囲を見回す、まだ薄暗く、夜明けまでは後1時間程あるだろう。
ヘリを眺める俺達の背後、500m程の所に市街地がある、灯が消えており、住人達はまだ就寝中だろうか。騒がせて申し訳ないな……
「弾薬の再分配終わりました」
「こっちもOKだ」
「狙撃分隊も終了、移動可能です」
俺達8人と、狙撃分隊、それから戦闘要員では無いヘリクルー4人がヘリから降りてくる。
「よし、ランディはヘリクルーと一緒に市街地に潜伏、ヘリクルーは何としても合図があるまで隠れてろ。狙撃分隊は監視できる所を探して監視を、ウォルコット、エイル、ヘリを爆破する。爆破資材を」
「了解」
「ヘリを失うのは惜しいですが、致し方ないです」
「後で召喚してやる」
ウォルコットとエイルから計8発のTH3サーメートを受け取る、こういった場合に機密処理で爆破するための焼夷手榴弾だ。
「では行くぞ」
「あぁ、頼む」
ランディは7.62×51mmNATO弾のベルトを肩から掛け、ウォルコット達ヘリクルーは生存装備が入っている5.11ベイルアウトバッグと自衛用のMP7A1を持って共にヘリから離れていく。
「ヒロト!」
司令部と通信を居ていたエリスが声を掛けてくる、通信が成功したようだ。
「作戦本部と繋がって無事を伝えた!航空支援が来る!到着は5分後!リーパーが頭上に来る!」
「分かった、ヘリを爆破して後退するぞ」
「それからもう1つ、敵部隊到着まで推定15分!」
エリスからもたらされた情報に、俺は作業の手を急がせた。
「了解助かる、これ持て」
「あぁ、ヘリの爆破だな?」
エリス、エイミー、ブラックバーン、クレイ、グライムズにTH3を1発ずつ預ける。
「両方のミニガンとコックピット、エンジンをやるぞ。投げたらすぐ離れろよ」
皆の手のTH3がピンを抜かれたことを確認すると、6人で一斉に投げ込んだ。
「爆発するぞ!」
そう叫んでヘリから遠ざかる、俺は全員を連れて市街地へと走った。
コックピットの椅子の上や足下、ミニガンのすぐ下、両方のエンジンにTH3が転がり込むと、2秒の間をおいて爆発。
明るい炎と共に発生した2000℃の高温が残った計器やミニガンの銃身、エンジンの駆動部などをドロドロに溶かして破壊し、敵に渡って欲しくない物は全て処分された。
「全部隊へ、一方送信する。スーパー61爆破、繰り返す、スーパー61爆破」
無線のPTTスイッチを押しながら一方送信、この通信が届いていてもいなくても、誰かが聞いていることに希望を託す。
俺は走りながら、敵との距離と位置、敵が到着するまでにどの対抗策が取れるかを考える。
敵は早ければあと10分で到着する、恐らく爆破したヘリの煙を目印に来るだろう。だが俺達の目的は敵をFOBに向かわせないことだ。
バイエライドFOBには警備部隊の他に実戦部隊はまだ無く、レジスタンスはいまだに訓練中、敵が本気で来たなら十分な抵抗が出来ず、壊滅してしまう恐れもある。
だからと言ってこちらに敵を引き寄せて、何もしないというのは当然ない。何らかの対抗手段を取らなければこちらがやられてしまう。
「魔術で塹壕を掘れ!人が入れる深さ!長さ20m!」
「了解!」
「我が呼び声に応え、その姿を変えよ!地形変動!」
エリス、クレイ、グライムズの3人が即座に魔術を展開し、市街地のすぐ手前に塹壕を掘る。それにしても、現用タクティカルギアに身を包んだ一見地球の軍人のような見た目をしている者が魔術を展開するのは、地球を知っている俺から言わせれば中々シュールだ。
塹壕の中に滑り込む、砂漠の砂は崩れやすいと思ったが、塹壕の壁は崩れては来ない。
「これも魔術か?」
「狩りやトラップの応用だ」
俺の呟きの様な疑問にエリスが答えた、彼女は俺が持っていた残りのTH3焼夷手榴弾を指さし、俺がそれを彼女に手渡すと背中のユーティリティポーチに入れてくれながらこう言う。
「砂漠の砂は崩れやすい、だから魔術で内側を固めるんだ。任意で解除出来るからこうやって崩すことも出来る」
仕舞い終えたエリスが塹壕に足を掛けると、そこがさらさらと崩れていく。
「凄いな……」
まだ魔術に関しては知らないことも多い、彼女たちから学ぶことも多くあるだろう。
敵が来るまでに攻撃位置と開始のタイミングを決めておく、塹壕内に簡単に自分たちの位置や相手の予想位置を書き込んで配置に着く。
「攻撃の主役はヒューバートとエイミーだ、突撃破砕線は矢の射程外に、400mくらいか。敵の足を止めたらグライムズとアイリーンがグレネードを撃ち込め、次弾はスモークで相手の視界を奪い、その隙に市街地に逃げ込むぞ。攻撃開始の合図は航空支援だ」
「リーパーが爆撃してくれる、そうしたら撃ちまくれ」
エリスが俺の説明を補足する、航空部隊と連携して足を止め、市街地に引き込んで皆殺しにする。
「いいか、各員配置に着け!IRストロボを点けてUAVに場所を指示しろ!」
「了解!」
「了解」
ヒューバートとエイミーはそれぞれ塹壕の端へ、グライムズとアイリーンがその援護に着く。ヘルメットの後頭部側に貼り付けておいたIRストロボを起動、暗視装置越しに味方のストロボが届いているのも確認する。
俺も塹壕内の足場に足を掛け、外を覗く。双眼鏡を持ってくるべきだったな、と思いながら双眼鏡役を務めるランディ達と連絡を取るべく通信を開いた。
「ランディ、どうだ?」
『射撃位置につきました、そちらの位置を捉えています。敵の立てる砂埃を視認、いつでも撃てます』
まだ明けきらない空の元、彼のスコープ越しには敵を捉えている様だ。
「了解、IRストロボを点けておけ、空爆と同時にこちらも射撃する。援護頼む」
『了解、それから報告します。この町、どうやら無人の様です』
何だと……?
ランディの報告に、町の方に耳を澄ます。
……静かすぎる、ヘリの騒音を聞いて起きて来た雰囲気もない、町に魔術を使える者が居れば塹壕を掘った時の魔力の流れに反応して気付くはずだ。
『警衛も居ませんでした、文字通り人っ子一人いません』
「……了解、息を潜めている可能性もある、誤射に気を付けろ」
『了解』
「パイロットクルー達、聞こえるか?IRストロボを焚いておけ、到着する味方UAVに自分の場所を知らせるんだ」
『了解』
通信可能な全部隊に必要事項を通達、彼らも上手く隠れている様だ。
それにしても……俺は少しだけ考える。
町が無人……?無人だとしたら戦闘に一般市民を巻き込む心配も少なく、自由に戦えるが、無人になった原因を戦闘後に調べる必要があるかもしれない。
いや、それは今はいい。今は目の前の敵に集中するべきだ。
『ミラージュ2-1、現場空域に到達、攻撃位置についた。敵の観測を始める』
頭上にMQ-9リーパーが到着したようだ、ここからだと見えない高度を飛んでいる。彼らの“目”には俺達には直接見えない敵を見てもらっている。
「ミラージュ2-1、敵が確認できるか?」
『確認した、15騎程の騎馬の集団を確認、町に接近している』
「突撃破砕線を爆破したヘリの近くに設定した、敵がヘリの近くに到達したら攻撃してくれ」
『了解、攻撃待機に入る。敵がポイントに到着するまで推定4分』
町が砂漠より少し小高くなっている為、暗視装置越しの視界でも奴らが小さく見え始める、しかしまだ射程外だ。
相手は今ちょうど目の前で燃えているMH-60Mの炎と、俺達の背後から昇り始める薄明の明かりを頼りに、遮蔽物の極端に少ない砂漠をほぼ直線で向かってくる。
対してこちらには暗視装置がある、モノクロの視界の中、敵の輪郭がはっきりと見える。
この塹壕からヘリの残骸までの距離は約500m、敵がヘリに到達するまで大体あと2分。攻撃のタイミングは確実に近づいている。
『メリー1からデュラハン1-1、敵がヘリの向こう側にいる』
『ミラージュ2-1、敵が攻撃位置に到達、指示待ちだ』
塹壕から顔を出して窺う、ブラックホークの陰に隠れた敵が見えたが、観察していると敵がヘリの中に入り、何かを漁っている様に見える。戦利品があるか探しているのか、それとも不時着したヘリ自体を誇っているのか。
俺は暗視装置を跳ね上げ、皆にも跳ね上げる様に指示。そして無線のPTTスイッチを押す。
「ミラージュ2-1、勝った気でいる奴に戦争を教えてやれ」
『了解、ライフル、ライフル』
コールがあってから約20秒、MQ-9リーパーから発射された2発のAGM-114Mヘルファイア対戦車ミサイルが、放棄したヘリに着弾した。
掩蔽壕や軽車輌を目標とするこのミサイルは爆破破砕・焼夷弾頭を搭載している為、軟目標への攻撃に適している。
弾頭が炸裂し、スーパー61の機体が吹き飛んで派手な爆発と共に砂埃が舞い上がる。
暗視装置をしたままなら眩しい炎が更に増幅されて一時的に視力を失っていただろう、跳ね上げる様に言っておいてよかった。
これで終わりじゃないぞ。
「撃て!」
射撃用意をしていたヒューバートとエイミーがM249MINIMIを爆発炎上しているヘリに向けて撃つ、激しい銃声と共に3発から4発の指切りバーストで射撃を継続させ、5.56㎜NATO弾の弾幕を浴びせる。
敵の戦力が15人、ヘリを制御不能に追い込んだ魔術師があの中に居るとなると、1度の攻撃で安心する事は出来ない。市街地に入るまでに一人でも多く減らし、戦闘を優位に進める必要がある。
「弾切れだ!」
「こちらももうすぐ弾が切れます!」
「町に後退!」
了解!という声と共にヒューバートと、ちょうど弾切れになったエイミーも塹壕から抜けて町へと後退、リロードを行う。
2人が抜けた場所にはグライムズとアイリーンが入り、GL-06を射撃、M441高性能炸薬弾が爆炎を起こし、砂煙を撒き散らす。グレネードを再装填まで今度は俺達が撃ちまくる。
射撃はセミオート、敵が居そうなところに撃ち込んでいきながら、俺は違和感を覚えた。
砂煙が収まらない……?それどころか新たに砂煙が発生し、蠢いている……?
「魔術師か……!」
「その可能性が高いな、強くはないがあそこから魔術の流れを感じる」
俺の呟きにエリスが反応する、どうやらあれが魔術であることは間違いないらしい。ヘリを覆ったのも砂嵐だったから、恐らくは土系魔術か。
「スモークを撃て!俺達も後退する!」
「了解!」
「行きます!」
射撃していたM4からGL-06に持ち替え、M680発煙弾を発射、敵の砂煙の近くに落ちて白いスモークとなる。
「ヒューバート、カミングイン!」
『了解、カムイン』
「行け、行け!」
塹壕から出て町に入る、入り口はエイミーとヒューバートが固めていた。
2人と合流して町の中に入ると再び暗視装置を付け、警戒しながら進んでいくが、ランディの言う通り人の気配が全くない。
ヘリの音、ミサイルの着弾音、銃声、爆発音、魔力の流れ……あれだけの戦闘の気配を垂れ流しておいて、起きていない筈がない。
「無人みたいだな」
「何軒か調べてみよう、避難しているかもしてない」
「分かった、エリスは右を。Aはこっちに」
「あぁ」
今居る道の両側の民家を調べてみる、ゆっくり扉を開け、IRライトで照らして室内を確認。部屋の中は無人、キッチンや階段、2階の部屋まで捜索したが、全く誰も、報告通り人っ子一人居なかった。
建物を出てその隣の家屋へと移動する、ドアはトラップが無いことを確認してブリーチングツールで抉じ開けた。
「Aは2軒目に移動する」
『Bも2軒目に入る』
玄関から入りトラップの可能性も視野に入れつつ、リビング、キッチン、そして各部屋と隈なく探して回る。やはり無人で、人が生活していた痕跡こそあったものの、積もった埃がそれを上から掻き消そうとしていた。
「こちらA、探索終了。表の通りで合流する」
『了解、2軒とも無人だった。合流する、カミングアウト』
カムアウト、と返すと、通りの建物のドアが開き出て来たB班と合流、班の指揮を執るエリスも不思議そうな表情を浮かべていた。
「どうなってるんだ……」
「分からんが、住人が居ない町なら遠慮もすることは無いか」
周辺を警戒しつつ、今後の行動方針を決める。町が無人なら住人を巻き込む事も無い、むしろ好都合だ。
戦術端末の地図で町の全景を確認、町の北に広場がある様で、俺達が今居る位置から4ブロック程離れているが、碁盤の目の様に整備された都市という訳では無く、直線距離にしておよそ700mだ。
「……広場で敵を待ち伏せる、俺達が誘導しつつ、狙撃分隊が始末する」
「分かった」
「分隊のまま移動する、無駄に撃つな、弾薬は節約しろ。場合によっては白兵戦になるだろうな」
「こいつを使うときがまた来るとはな……」
エリスがプレートキャリアの背面に水平に取り付けたククリナイフのグリップを確かめる、俺は刃物を持ってないから、近づかれる前に阻止射撃だな……
PTTスイッチを押し、狙撃分隊に援護を要請する。
「デュラハン1-1よりメリー1へ、聞こえるか」
『こちらメリー1、聞こえます』
「北の広場へ移動する、監視と援護が出来る場所に移動してくれ」
『了解、それから敵がスモークを超えました、町に入るまで後1分』
「了解した、援護頼む、アウト」
超過勤務を早く終わらせて寝よう、そう思いながら薄明の闇が包む街を進み出した。
日の出まで、後30分。