第162話 バスティーユ解放
収容所の制圧と同時刻、施設の外では別動隊が動いていた。
MH-60Mが離脱し、上空援護に入るとほぼ同時に侵入してきた別のヘリ___UH-60MブラックホークとUH-1Nツインヒューイだ。
この2機に搭乗しているのは第1小隊の迫撃砲分隊と、機関銃分隊。囚人輸送のヘリが着陸出来るように確保するのが目的のこの部隊だが、本来これらの部隊の運用はこのように行うものではない。
迫撃砲分隊は軽迫撃砲の砲迫火力による歩兵部隊への火力支援が主な任務だし、機関銃分隊は大口径機関銃の弾幕や継続的な射撃による火力支援に特化している。
本来の用途ではない部隊を引っ張って来る程、この作戦を行うにあたっての人手が不足しているのだが、それでもこの小隊は特殊戦の小隊の為、全員が各種ヘリボーン降下技能を取得しているのが幸いだった。
「降下後の目的は分かっているな⁉」
「敵に向かって撃ちまくる!」
UH-1Nの機内の騒音の中で、ハリエント・ウェルストン少尉が張り上げた声にそう返すのは、クァラ・イ・ジャンギー要塞の城門での戦闘で「機関銃分隊の運用が間違っている」とぼやいていた隊員だ。
「その為に俺達とこいつが居る!そろそろ慣れて、分かってきましたよ!」
彼はハリエントにそう言うと、自分の獲物であるM240L汎用機関銃のカバーをパシッと閉じる。他の隊員達も良い目をしており、ハリエントの方を見ている、皆準備は出来ている様だ。
「その通り!広場の確保の為、邪魔な敵を撃ちまくる!装填!」
ハリエントが再び号令をかける。ホルスターからハンドガンを抜き、スライドを引いて初弾装填、薬室確認も手順通り行う。
6人編成の機関銃分隊は作戦に応じて機関銃の数を変える。
通常は1分隊に2人の機関銃射撃手、2挺の機関銃を配備しているが、今回の作戦では最大である4挺の機関銃で臨んでいる。
UH-1Nの機内でM240Lのコッキングレバーを引く金属音が微かに聞こえる、作戦開始の合図だ。
「降下地点まであと10秒」
「ロープ準備!」
暗視装置を下ろすと、暗い視界が明瞭になり、白色の増幅管が僅かな光を増幅させて、モノクロだが輪郭のはっきりした視界を得る。
降下する分隊員が両側のドア近くで待機に入り、ハリエントはドアの近くにあったファストロープをフックに掛けて準備は完了。
UH-1Nがホバリングで機体を安定させると同時にロープを投下、10m程の高さからファストロープ降下して着地、収容所前の広場に展開した。
全員が降下するまでに10秒とかからない。暗視装置の視界の中でレーザーが真っ直ぐと伸びていった先は、広場の隅にある警備兵や看守たちの宿舎だった。
宿舎から警備兵が出てくる、ハリエントは彼らに向けてM4を構え、セレクターをセミオートに入れて引き金を引いた。
燃焼ガスによって5.56㎜NATO弾は銃口から音速の3倍以上の初速で発射され、運動エネルギーを保ったまま警備兵の身体を鎧ごと貫く。
広場確保班の戦闘開始の合図、彼の銃声を皮切りに、2個分隊計8挺のM240L汎用機関銃が火を噴いた。
5.56㎜NATO弾よりもはるかに威力のある7.62㎜NATO弾を凄まじい勢いで発射し、宿舎から出て来た警備兵を貫き体細胞を破壊していく。
「宿舎を包囲、敵を建物から出すな!」
「了解!」
フルオート射撃で固定されているM240L汎用機関銃は、引き金を引くたびに連続で弾丸を吐き出していく。
ハリエントとは別の分隊が射撃しつつ移動を開始、十字砲火を浴びせられるように宿舎の裏口をキルゾーン内に入れると、裏口から出てくる警備兵や看守も銃弾の雨の餌食となる。
機関銃の射撃は大胆に見えて実は繊細だ。
引き金を引けば断続的に弾が出る、そして弾が出れば高温の燃焼ガスや銃身を通る弾丸の摩擦熱により銃身は過熱し、最悪の場合破損する。
更にはフルオートでずっと撃ち続ければ反動で命中精度も下がり、弾を浪費する事になる。
その為、3発から5発で射撃を切る指切りバーストで射撃し、過熱を軽減させると共に命中精度を維持しているのだ。
ただ弾をばら撒くだけの機関銃射撃手は射手失格だ、特に特殊戦に重きを置くこの分隊では。
効率的に弾を送り込み、敵を排除していく。それが第1火器小隊機関銃セクションの戦い方だ。
「少尉!門の守備兵が!」
ハリエント少尉にそう言ったのは、分隊の中でも機関銃を持たない射撃補佐の隊員だ。
門の守備に就いている収容所の守備兵が出て来たのだ、こちらに向けて射撃体勢を取って来る。
「こちらモーター、任せろ」
ハリエントのヘッドセットから聞こえて来たのは女性の声、そしてその直後、ポンッという軽く気の抜けるような銃声と共に何かが彼の頭上を飛び越え、門の近くに命中。
派手に爆発すると、まとめて守備兵たちを吹き飛ばした。
撃ったのはタリア・ハンドラス少尉、火器小隊の迫撃砲セクションを束ねるリーダーだ。
彼女の部下たちが持っているのは、ダネルMGL-140、6連装リボルバー式のグレネードランチャーだ。
彼女らは更に2発、3発と撃ち込み、その度に40㎜高性能炸薬弾が炸裂、警備兵は弾殻の破片に切り刻まれ、爆炎に身体を焼かれていく。
「ナイスアシスト、助かった」
「後で奢ってもらうよ」
ヘッドセットからの声に苦笑するハリエント、因みに城門の守備兵は先程のグレネードの射撃で粗方片付き、全滅していた。
「目標、敵火点!集中射撃!」
タリアは号令と共にM4に乗ったATPIALのIRレーザーを宿舎の窓、警備兵がシャッフリル銃で銃撃してくるところに指し示す。
するとタリアの部下たちがそのレーザーの照準点に向けて、ダネルMGL-140で40㎜高性能炸薬弾を立て続けに撃ち込んだ。
火点が爆発、窓から覗かせた銃口が爆散して敵からの銃撃とクロスボウの射撃がピタリと止まる。さらに複数発撃ち込むと敵からの反撃は完全に沈黙した。
皆殺し、とまではいかないものの、殆どの敵が片付いたらしい。
「隊長!」
分隊の副官が叫ぶと同時に、ハリエントの頭に鈍い衝撃が走る。
「ぐっ!?」
「大丈夫ですか!?隊長!」
撃たれた、そう彼が自覚すると、被弾の衝撃からか軽い痛みが頭部に奔り、耳鳴りが起こる。
どうやら直撃ではなく掠っただけの様。それもそうだ、直撃などしていたら恐らく彼は立ち上がる事も出来まい。
何処からだと思って周囲を見回すと、再びこちら側の物ではない銃声がする。
上からだ、と思って見上げる。暗視装置越しの視界に、外壁の塔の上から射撃してくる警備兵が見えた。
「上だ!」
塔の上にM4を向けるが、IRレーザーを向けると同時に警備兵が倒れた。ハリエントが撃ったのではないし、外壁の塔に侵入している部隊がある訳では無い。
『こちらメリー1、上は任せて下に集中しろ』
通信が来たのは収容所施設屋上からだった、施設屋上には、狙撃小隊が展開している。
コールサインは“メリー”、デュラハン小隊直掩の狙撃小隊だ。
「はは、了解。助かるよ」
又も助けられたなと苦笑しつつ、宿舎の方に銃口を向け続けた。
屋上では、MH-60Mブラックホークから降下した狙撃小隊が、広場に降下した火器小隊の援護に入る。
「兄さん、2時の方向、塔の上」
「おう、任せろ」
「その手前のは私が」
ランディ・ヘイガートがL115A3を構え、引き金を引く。
ただでさえ長い銃身に減音器が付いてさらに長くなったライフルから.338Lapua Magが飛び出し、凄まじい精度で塔から身を乗り出して地上を銃撃する警備兵の頭を貫いて息の根を止める。
「窓から身を乗り出して撃つなよ、狙撃手失格だ」
ランディはボルトハンドルを動かして空薬莢を排出、ボルトハンドルを動かして次弾を薬室に送り込み、再びスコープを覗きこんで射撃姿勢を整える。
胸壁の凹んだ部分にバックパックを置きその上にバイポッドを立てて、ひたすらに敵の命を刈り取っていく。
塔までの距離は然程なく、約100mと言ったところだ。照準線の第1交点よりも更に近いので、照準を調整しつつ引き金を引く。
同じように隣で引き金を引くのは、PRSストックに換装し、シュミット&ベンダーのPMⅡスコープとCNVD暗視装置をタンデムしているSR-25を構える妹のクリスタだ。
彼女もまた狙撃手であり、7.62×51㎜NATO弾を正確に相手に送り込んでいく手数は兄のランディよりも速い、速射が得意な彼女なりの戦い方だ。
減音器が奏でる鞭を撃つような高い音と共に弾丸が撃ち出され、空薬莢が石造りの建物の屋上に落ちて澄んだ金属音を響かせる。
分隊の狙撃手だけでは無く、補佐と火力支援に入る隊員はMCXのレーザーを夜空に走らせ、.300AAC Blackoutの亜音速弾が引き金を引くたびに銃口から静音を保ったままレーザーの点の通りに敵に喰らい付く。
.300BLKの亜音速弾は減音器との相性が良く撃ち出される弾丸はかなり静かなままだが、十分なエネルギーを保って敵を殺傷することが出来る。森林や市街地で隠密行動が求められる狙撃部隊にぴったりの弾薬だ。
収容所の屋上、ランディ隊から少し離れたところで狙撃と監視に徹しているのは、狙撃小隊の小隊本部。バレットM107A1を構えるカーンズがスコープを覗きこんで各塔の上の公国兵士を監視している。
「左の塔から湧いてくる!」
Mk.12mod.1SPRを構えるバズがスコープを覗きながら叫ぶ、レーザーがその塔に指向されるとレーザーの命中点に射撃が集中する。
カーンズはスコープを覗きながら距離に応じて命中予測点を立て、調節しながら敵が顔を出す瞬間をじっと待つ、その甲斐あってか、2人の警備兵が同時に顔を覗かせる。
その瞬間、カーンズは引き金を引いていた。
ダガン!と自動小銃や拳銃などとは比べ物にならない銃声とマズルフラッシュがその場を支配する。
運良くと言うか運悪くと言うか、射線上に一直線に並んでしまった警備兵は12.7×99㎜弾の餌食となる。
この対物ライフルで使用する弾薬は10000Jを超える運動エネルギーを持ち、それは200m程度で減衰する程軽い弾頭ではない。
1発で2人の頭が消し飛び、血の花を咲かせるのは対物ライフルの持つ破壊力の高さの証明だ。
撃ち漏らしをバズが始末し、塔の上はクリアになる。
「塔の上クリア」
『こっちもクリア』
メリー2、アンナの分隊からの報告が入る、彼女らも反対側の塔の敵を片付けた様だ。
編成の都合上女性のみの分隊となっているが、元から4人の仲は良好で連携も上手く、効率的に敵を撃破していった。
「マッドドッグ及びモーター、塔の上の安全を確保した」
『了解、収容者の回収を要請する』
機関銃分隊、“マッドドッグ”分隊長のハリエントは副官の背中のユーティリティポーチからIRストロボを取り出し、スイッチオン。
IRのフラッシュが光り始め、それを広場の真ん中へと放り投げる。
『C2、こちらマッドドッグ、施設前広場の制圧完了。回収を要請する』
『C2、こちらメリー、屋上の安全確保完了、捕虜の回収を要請する』
『こちらC2、了解した。イエロー、タスカー、ゴンドラ、ジュピター各隊は、回収の準備を』
『C2了解、こちらイエロー31、広場に着陸する』
『ゴンドラ、イエローに続く』
『こちらタスカー01、屋上より回収を行う』
『こちらジュピター、待機中』
航空部隊、回収班からの通信が続々届く。
作戦第2段階、収容者たちの回収がスタートした。
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ヒロト視点
「檻を開けます!ドアから離れて!」
「開けますがまだ出ないでください!」
携行していたボルトカッターやブリーチングバー、フーリガンツールを駆使して収容所内の牢屋を開けまくる。鍵を強引に抉じ開け、牢を開放していくが、囚人はまだ中にとどめておく。
指示の無いまま開放してもパニックになるだけだ、まずはいつでも出せるようにしておき、順に開放していく手筈だ。
「合図が合ったら皆さんを開放します!落ち着いてついて来てください!それまではまだ牢からは出ない様に!」
声を掛けながら1階の全ての牢を開放、回収部隊の合図を待つ。
牢の開放は上層階と下層階で方法が異なる。
4階の囚人を1階まで下ろすのは時間がかかってしまう原因になる、その為3階及び4階の囚人は屋上からの脱出になる。そして屋上にヘリを誘導し、回収して帰投する。
一方、下層階と定めた1階及び2階は正面広場にヘリを呼び、2階の囚人から解放、回収する。
「どうだ?」
「Cブロックの牢の開放、完了しました」
収容所の“辺”をブロック分けし、Cブロックの開放に割り当てたブラックバーンとグライムズと合流、俺もAとBブロックの開放を終えたところだ。
エリスはDブロックの開放を担当しているが開放の方はどうなっているだろうか。
「エリス、どうだ?」
『Dブロックの開放完了、そっちは?』
「AからCまでのブロックは開放した」
『了解、1階は開放できるな』
「あぁ、他の階も確認する」
そういって設定していた別の周波数に切り替える、二人一組で動いている時は仲間が切り替えてくれるから良いが、複数部隊の行動の際には無線機も複数あった方がいいかもしれない。
「C2、こちらデュラハン1-1、1階の制圧及び開放を完了した」
『こちらC2、デュラハン1-1了解、現在マッドドッグが着陸誘導中、指示があるまで待機せよ』
「了解、アウト」
無線を分隊用周波数に切り替え、各自に通達する。
「合図があるまでは待機だそうだ、囚人の数を数え、管理を厳にせよ」
『了解』
『了解』
各員から返答、囚人の数を数えていく。まだ大人しく入っててくれるのはありがたい。
鉄格子の牢屋に建物の1辺に25人、それが四辺で1フロアに最低でも100人が収容されている。誤差はあるだろうが、施設全体で420人、ほぼ情報通りの人数が収容されていると見ても良い。
このフロアも情報通り100人が収容されていた、他の階も同じ構造なら、1フロアの囚人は2機のチヌークで輸送できる。
CH-47の定員はセンターシート仕様で55名、フォークランド紛争ではイギリス空軍のHC.1チヌークが空挺大隊の輸送に81人の兵員を機体にすし詰め状態にして輸送したというが、弱っているであろう囚人をこれ以上の高ストレス状態に置くというのは些か忍びないので、1機のチヌークに50人を割り当てた。
『こちらC2、2階及び3階の囚人の脱出が始まった』
「了解、終わったら知らせてくれ」
『了解』
「エリス、1ブロックに2人送って囚人を掌握、牢屋から出して脱出の準備を」
『了解、地下の女囚の脱出はどうする?』
そう、こちらにはエリス達の班が管理している女囚が地下に居るが、恐らく脱出は最後になるだろう。そうなった場合、他の分隊と同じように人員を振り分けられない。
俺は考え、PTTスイッチを押す。
「……第2分隊に支援を要請する。エリスは地下を頼む」
『分かった、終わったら知らせを』
「了解」
チャンネルを切り替えて第2分隊と交信する。
「デュラハン1-2、デュラハン1-2、こちらデュラハン1-1、聞こえるか?」
『こちらデュラハン1-2、1-1へ、良く聞こえてます』
ヘッドセットからは1-2の分隊長、ガレント・シュライク少尉の声が聞こえてくる。マイクが音を拾っているのか、捕虜を回収中と思しきヘリの羽音も混じって聞こえる。
「回収中か、回収が終わったら、1階の捕虜搬出を手伝って貰いたい」
『えぇ、良いですが、何か問題が?』
「1-1Bを女囚棟の回収に当ててるから手が足りてない、女囚棟での待遇を考えるに……男性の介入はほぼ不可能と見ていいだろう」
『なるほど、了解しました、何人必要です?』
「4人だ」
『了解、今囚人の確認作業中です、終わり次第向かいます。』
「助かる、デュラハン1-1、アウト」
これで囚人搬出の手筈は整った。C2からの報告を聞くと、3階の囚人は開放完了、MH-47Gの第1便が飛び立った様だ。
どうせナイトストーカーズの事だ、今回もキャビンに繋がるランプドアとか、MH-47Gの後輪を屋上の縁に乗せてホバリングしながらの回収とか言う曲芸じみた事をやっているに違いない。
そんな事を考えてる内に、デュラハン1-2の回収作業が終わったらしい。カミングイン、のコールにこちらもカムインと返し、彼らを出迎える。
「俺達はどこを担当すれば?」
SAI GRYの12インチSBRを携えたガレント達と合流する、第2分隊も1班が来てくれたようだ。
「AとBブロックを、囚人を檻から出して先導して欲しい。このフロアの退去が終わったら女囚棟から女囚を連れ出す」
「了解」
俺はCブロックまで戻り、ヒューバートと合流する。
「準備は」
「いつでも」
ヒューバートの同意で、俺は牢屋に向かって声を張り上げる。
「こっちを先頭に列を作れ!全員牢屋から出ろ!」
ざわめきと共に囚人が次々と牢屋から出て来て列を作る、事前に囚人たちに伝えておいたので、大きな混乱はなく25人が列を作る。
出口に近い俺達に向かい、困惑の表情を浮かべるものもいるが、大半は強い目をしている。
ようやくここから出られるという希望に満ちた目だ。
牢屋の中を確認、残った者は居ない様だ。
『こちらデュラハン1-2、デュラハン1-1へ、囚人たちを連れ出します』
「了解、後に続く」
ガレントの班も搬出を開始、隣接するBブロックからはざわめきが聞こえてくる。ヘリの方へ向かっている様だ。
「行くぞ!行け!行け!行けっ!」
俺は囚人の前を走り、ヒューバートは囚人の列の殿に入る、囚人が走る間に脱落しそうになったり、はぐれない様にサポートする。
無人になったBブロックを通過し、普段は見張りの目が厳しく、今は無人となった正面入り口から堂々の脱出。囚人達もまさか、絶望と共に入ったこの収容所のこの入り口から、希望を持って出ることが出来るとは思わなかっただろう。
正面入り口から脱出防止という本来の機能を失った跳ね橋を渡り、広場で待つチヌークへと走る。
「囚人たちを頼むぞ!」
「了解!お任せを!」
CH-47F、イエロー3-1のアンネ・アルセリアに囚人を任せる。
1階の囚人で最後に脱出してきたDブロックの囚人を率い、ブラックバーンとグライムズが出てくる。彼らも囚人をイエロー3-1に乗せると、俺達はヘリから離れる。
程なくして、50人ずつの囚人を乗せた2機のCH-47Fが離陸。先に戻った6機のCH-47Fと2機のMH-47G、合わせて400人の囚人の開放に成功した。
残りは地下の女囚棟、チヌークと入れ替わりで砂埃を舞い上げ、着陸してきたMV-22に回収させる。
「地上回収班各位、道を作って背中を向けろ、合図があるまで振り向いてはならん」
『了解』
『了解』
入り口からオスプレイまでの道を作った俺達は、一斉に背中を向ける。ブラックバーンもグライムズもヒューバートもガレントも、全員道に背を向けていた。
「デュラハン1-1B、女囚の回収準備が整った」
『了解、これから出る』
無線から聞こえて来たのはエリスの声、女囚の回収班の1-1Bが動き出した。
俺達が背中を向けたのはもちろん、女囚達への精神的な配慮だ。あんな目にあった後の女囚達だ、自分たちの姿を見られるのも嫌だろう。
だからこそ、彼女たちには安心して貰わなければならない。
『カミングアウト』
「カムアウト」
入口からMV-22まで俺らが作った道を、1-1Bが女囚を連れて歩く、彼女達のペースに合わせているのだろう、背中に感じる気配はゆっくりに思える。
その時間はさほど長くは無かった気がする、オスプレイのエンジン出力が上昇していく音が聞こえる、もう大丈夫だろう。
振り返るとエリス達が、カーゴハッチを閉じて離陸していくオスプレイを見送っているところだった。これで420人全ての囚人を救出、回収したことになる。
「これで全員だな」
オスプレイを見送ったエリスがそういう、空はそろそろ白み始めていた。
上空待機の戦闘ヘリは燃料限界が近づき帰投した、戦闘機と偵察も先程帰投したとC2から連絡が入っていた、同じように汎用ヘリもそろそろ限界だろう。
「C2、こちらデュラハン1-1、囚人の搬送が完了した、部隊の回収準備を」
『C2了解、マッドドッグ及びモーターから回収する、着陸の準備を』
「了解、ストロボで着陸地点を示す」
俺はエリスに背中のユーティリティポーチからMS2000Mストロボを取ってもらい、IRカバーを付けてスイッチを入れ、着陸地点付近に投げる。
空は白み始めているとはいえ、まだまだ暗視装置が必要な暗さだ。
『こちらメリー1、これから下に行きます』
『メリー2、降下』
狙撃小隊からの通信、施設の方を見ると、スーパー61と62に乗ってきたメリー1と2がラぺリングで降下してくる、彼らとも合流し、元の降下班が揃った。
「よくやった、これから帰投になる、まだ敵が残ってる可能性があるから気を抜くなよ」
「塔の上のは殆ど片付けました、が引き籠ってる奴が撃って来ないとも限りませんしね」
「全員警戒を厳に、帰るまでが作戦だ」
「了解」
「了解」
周囲を警戒しつつ、回収のヘリを出迎える、機関銃分隊と迫撃砲分隊を回収するのはそれぞれ2機のUH-1NとUH-60Mだ。
砂煙を上げて着陸すると、M240L汎用機関銃を携えた機関銃分隊と、ダネルMGL-140で収容所の兵舎を半壊させた迫撃砲分隊分隊が乗り込んでいく。
「基地で会おう!」
「えぇ、お気をつけて!」
「お先に失礼します!」
機関銃分隊を束ねるハリエント少尉とタリア少尉と言葉を交わし、回収ヘリの着陸地点確保に尽力してくれたそれぞれの分隊を乗せたヘリが離陸する。
『こちらスーパー61、到着まで30秒、回収の準備を』
「了解」
火器小隊の回収を終えたら今度は俺達だ、白管の暗視装置の視界の中で真っ黒なMH-60Mが近づいてくる。屋上と地上に2機ずつ、屋上のはデュラハン1-3と1-4を回収するためだ。
着陸したヘリに駆け寄り、両側のキャビンドアから乗り込む。俺も役目を終えたIRストロボを回収し、ヘリに乗り込んだ。
「忘れ物と積み残しは無いか?」
「無し!」
ヘリの騒音の中、部隊の人数を数える。俺の分隊が8人、狙撃分隊が4人の全部で12人。全員乗っているのを確認した。
「忘れても取りに戻れないからな!よし、出発!」
『了解、スーパー61、離陸する』
『スーパー62、離陸、離脱する』
屋上の回収が終わったスーパー64と65に続き、スーパー62、61の順に離陸した。
地面に乗っている感覚が消え、機体が浮上して高度を上げていく。ゆっくりと上昇しながら旋回し、バスティーユ強制収容所が遠ざかっていく。
バスティーユ市の夜景が昇り始めた朝日の薄明かりに照らされて遠ざかる、暗視ゴーグルを跳ね上げ、その束の間の口径を美しいと感じている間に、ヘリは市外へと抜けていた。
これで一安心、そう思った瞬間。
ヘリを茶色い煙が包み込んだ。